第231回:「実効速度ではまだ向上する余地はある」
開発者に聞くHD-PLCの現状と今後の展開
2006年12月9日に発売され、大きな話題となった松下電器産業のHD-PLCアダプタ「BL-PA100」。発売から約2カ月が経過した現状と、今後の展開について製品開発者に話を伺った。
●予想を大幅に上回る販売台数
BL-PA100が2台セットになった「BL-PA100KT」 |
発売から約2カ月が経過した松下電器産業のHD-PLCアダプタ「BL-PA100」。その詳細については以前に本コラムでもレポートしたが、国内では初の高速PLC製品ということもあり、そもそもの規格についての賛否両論もあれば、環境によるパフォーマンスのばらつきも大きく、さまざまな疑問を持っている読者も多いことだろう。そこで、今回はHD-PLCの現状と今後の展開について、パナソニックコミュニケーションズ株式会社にお話を伺った。
まず、発売からこれまでの販売台数については、パナソニックコミュニケーションズ株式会社広報グループ参事の中川氏によれば、12月末までで約2万台と、当初の月間予想である3,000台を大幅に上回る販売台数になったという。この2万台というのは、セットモデルに含まれる2台も1台ずつと数えた場合の数だが、あくまでもパナソニックブランドで販売した台数のみとなっている。同同製品はアイ・オー・データ機器にOEM供給されている模様であり、さらにKDDI、NTT東日本、電力系などの通信事業者でレンタル提供などもされているため、実質的な販売台数としてはさらに多いことが予想できる。
実際、1月時点の大手家電量販店店頭などでは完売で入荷待ちという状況もちらほら見られるようになっており、その好調さが伺える。なお、すでに量産体制が整えられたため、品薄の状態は、もうしばらくすれば解消される見込みだとのことだ。
この好調さの原因について、同社では、やはり「手軽さ」がユーザーに受け入れられたのではないかと分析している。無線LANなどの通信技術に興味を持ったいわゆるハイエンドユーザーの利用も少なくないそうだが、「主なユーザー層は40~50台の男性で、無線LANは難しいというイメージを持っているユーザーや実際に無線LANでつながらないなどの経験をしたユーザーが多い」と、同社開発グループグループマネージャーの大島氏は現状を語ってくれた。
HD-PLCの開発意図としては、「HD」の名を冠する通り、そもそもは映像伝送などの帯域を要する通信を快適に行なうという点があったようだが、実際は映像よりインターネット接続での利用が多く、速度よりも「つなぐだけ」という手軽さがユーザーから高く評価されているとのことだ。
●「つながらない」「遅くなる」ケースが徐々に明らかに
好調な販売の一方で、HD-PLCに関しては環境による速度の違いが話題になることも少なくない。実際、筆者宅で行ったテストでも接続するコンセントによって大きく速度が変動し、稼働させる家電製品の影響も少なからず見られた。
同社では、発売後にユーザーから寄せられた問い合わせなどを元に、これらの状況を詳しく調査してきたとのことだ。これによって、つながらないケースや遅くなるケースが徐々に明らかになってきたと言う。実際、同社のホームページで公開されている「宅内配線と電器製品の影響についての詳細なレポート」などを見ると、どういったケースで速度が落ちるのかがよくわかる。
また、大島氏によると「最近ではインバーターエアコンによる電源の変動の影響も多く見られる」と言う。携帯電話の充電器などの影響が大きいことはさまざまな場所で紹介されているが、エアコン、さらには調光機能付きの照明などの影響も大きいようだ。このような場合、エアコンの利用を控えるのは難しいため、同社ではノイズフィルター付きのタップをエアコン側に装着してもらうことで、いくつかのトラブルを実際に解決しているという。
●実効速度の向上は期待できる
開発グループマネージャーの大島氏 |
このような速度の低下を引き起こす原因の究明は、今後、HD-PLCの速度をさらに向上させるために役立ちそうだ。ADSLなどでは、モデムが起動時に回線状況を調べて、どれくらいの速度で通信するかを決めるが、HD-PLCの場合も起動時に伝送路の状況を調べ、どの周波数にどれくらいデータを乗せるかを調整する。影響を受けやすいノイズの正体が明らかになれば、この最適化でノイズの影響を最小限に抑えることも不可能ではないだろう(もちろんある程度の速度低下は避けられない)。
では、今後、HD-PLCはどれくらい速度が向上する可能性があるのだろうか? 大島氏によると、現状の190Mbpsという理論上の速度を大幅に向上させるのは難しいものの、「実効速度の向上は期待できる」と言う。
現状の高速PLCは、2~30MHzと利用できる周波数帯が限られており、他の通信機器への影響も考慮しなければならないため、利用周波数を広げたり、出力を高くするといった方向で速度を向上させることはできない。しかしながら、現状、TCPで55Mbps、UDPで80Mbpsという実効速度に関しては、内部的な処理を効率化することで可能になるとのことだ。
もちろん、本格的な対策にはハードウェアの改良が欠かせないため、具体的にどれくらいまで高速化されるか、いつごろ可能かはわからない。個人的には1年後ぐらいに次の世代のチップが登場し、そこで速度が向上するようになることを期待したいところだ。
また、今後は関連製品の開発にも力を入れていくという。たとえば、高速PLCに最適化されたフィルタ、無線LANのリピータと同じようなPLCの通信を中継するリピータなどが考えられるという。可能かどうかはわからないが、現状PLCの速度低下の大きな原因となるL1、L2の異相を中継するリピータなどが登場すれば、劇的に状況が改善されそうだ。
●他の規格との共存を目指す
最後にもっとも気になる他の規格との相互接続性について話を伺った。現在のところ、PLCのアライアンス「CEPCA」によって相互接続の検討を進めている最中とのことだが、「少なくとも共存できるようになることを目指している」(大島氏)ようだ。
HD-PLC、HomePlug、UPAと、それぞれの方式を擁する会社ごとに標準規格を目指しているため、他の方式との相互接続を実現することはかなり難しいだろう。しかし、集合住宅の他の部屋で別の規格が存在する場合に、他の規格が通信中は少し待ってから信号を送信するなど、調停しながらうまく共存していくための仕組みは検討されている模様だ。このあたりは、今後の動向が注目されるところだ。
以上、パナソニックコミュニケーションズにHD-PLCの現状と今後について伺ったが、現状の好調さ、今後、さらに性能が向上する可能性を考えると、なかなか将来が楽しみなところだ。特に、速度の底上げという意味で、ノイズ耐性、実効速度の向上が図られれば、現状うまくPLCが利用できなかったり、速度が思うように出ないケースでも安定した利用が可能になることが期待できる。
また、現状はアダプタの形態で販売されているHD-PLCだが、発表会でも紹介されたとおり、すでにモジュールタイプの製品も開発済みとなっており、家電製品への搭載も現実に検討されつつあるようだ。テレビなどの機器をコンセントにつなぐだけで、何も意識せずにネットワークを利用できる、そんな状況も、この1~2年ほどで現実のものとなりそうだ。
関連情報
2007/2/6 11:02
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