第232回:本格始動したテレビポータル
テレビポータルサービスの「アクトビラ」の使い心地を検証



 テレビポータルサービス株式会社が提供する家庭用テレビ向けのポータルサービス「アクトビラ(acTVila)」が、2月1日より開始された。これまでメーカーが個別に展開してきたテレビポータルを統合するサービスだ。その使い心地を検証してみた。





テレビポータルの本格稼動を目指して

 2月1日に開始されたアクトビラは、松下電器産業、ソネットエンタテインメント、ソニー、シャープ、東芝、日立製作所の6社によって設立されたテレビポータルサービス株式会社によって提供される、家庭用テレビ向けのポータルサービスだ。ブロードバンド環境を利用し、家庭用のテレビでさまざまなコンテンツを楽しむことができる。まさにインターネット上のポータルサイトのテレビ版だ。

 アクトビラでは、将来的に映像のストリーミング配信やダウンロード配信なども検討されているが、現状は静止画とテキストによるサービスが中心となっており、テレビ情報、ランキング情報、ニュースや天気などのサービスが提供されている。

 同様のサービスは、前述した松下のTナビなどでも提供されていたが、各社が個別に提供していたサービスを統合する形で今回のアクトビラが誕生したことになる。従来のサービスがテレビを利用したインターネットサービスの第1段階だとすれば、今回のアクトビラの開始は第2段階への進化と言ったところだろう。





番組情報、ランキング、ニュースなどをテレビで閲覧

 アクトビラに参加するメーカー各社のテレビは、今後発売する新製品でアクトビラに対応していく予定であり、対応の詳細は新製品の発表に合わせてアナウンスされる予定だが、すでに発売されているテレビでもサービスを利用することが可能だ。

 たとえば、Tナビに対応した松下の「VIERAシリーズ」やデジタルチューナー(CATV STB含む)、TVホームに対応したソニーの「BRAVIA」X1000シリーズなどでサービスの利用が可能だ。筆者宅には、Tナビサービスが開始された当初に発売された32形のブラウン管テレビがあるが、これでも問題なくサービスを利用することが可能だった。背面のLAN端子(筆者宅の製品は10BASE-T対応)とルータをケーブルで接続し、リモコンの「Tナビ」ボタンを押せば、アクトビラのトップページが画面上に表示される。


筆者宅のTナビ対応テレビ。32形のブラウン管で少々古い機種だ、アクトビラのサービスを利用可能。ただし、最新のテレビと比べると、LAN端子が10BASE-Tのために表示速度などがかなり遅い

 利用可能なサービスは現状約60で、「番組情報」「エンタメ、」「噂の逸品」「ニュース」「天気」「株価」「地図/交通」「メニュー」という8つのジャンルに分類されている。たとえば番組情報では、本日のテレビ番組として、注目の番組がテキストと静止画で紹介されるようになっている。今日、何か面白い番組がないかな? とテレビ番組を探すのに向いているだろう。


アクトビラのトップページ。上部に8つのジャンル、左側にサブメニュー、右側に広告、そして中央にコンテンツが表示されるという構成になっている

番組情報が提供され、その日にどのような番組が放送されるのかをチェック可能。EPGのように放送スケジュールを横断的に確認することはできず、あくまでも番組の紹介となる。また、気になる芸能人の情報なども検索可能だ

 このほか「噂の逸品」では、グルメ情報なども提供される。表示できる情報量が限られるため、写真と噴出しコメントを使った漫画的な見せ方になっているのが特徴だ。テレビの場合、じっくり読むという方向性のコンテンツは馴染まないため、直感的に内容を理解できるような工夫がなされている。


番組情報が提供され、その日にどのような番組が放送されるのかをチェック可能。EPGのように放送スケジュールを横断的に確認することはできず、あくまでも番組の紹介となる。また、気になる芸能人の情報なども検索可能だ

 個人的に便利だと感じたのは交通情報だろうか。首都高速の渋滞情報をリアルタイムでチェックすることができるため、クルマで出かける前に見ておくとルートを選択しやすい。ただし、たとえば乗り換え案内サービスでも、「乗り換え案内onTV」、「駅すぱあと」、「NAVITIME」と同じようなサービスが複数存在しており、はじめて使う場合にどれを選べばいいか迷うところだ。

 このほか、天気などもあらかじめ郵便番号を登録しておくことで、自分の住んでいる地域の情報が自動的に表示されるようになっている。Wiiのように地球儀が回る面白い演出もなければ、Windows Media Centerのように動画や衛星写真を見られるわけでもないが、実用性としては十分だろう。


交通情報や天気情報、さらにはゲームなどのコンテンツも用意される。リビングで電源がオンになっている機会が多いテレビだけに、このような役立つ情報が手軽に参照できるのもメリットだ

 なお、CATVなどでは同様のポータルサービスで、住んでいる地域の休日夜間診療情報などが提供されることがある。この手のポータルサービスでは、広範囲にたくさんのサービスを集めるという方向性と、地域に密着した情報を提供するという方向性の2種類が存在する。アクトビラは今のところ前者だが、後者の地域密着型サービスが充実してくれることも望みたいところだ。





これからの時代に求められる楽しさの演出

 このように、アクトビラには豊富なサービスが用意されているが、これまでTナビサービスを使っていたユーザーからすると、提供されるサービスが従来のTナビとあまり変わらないため、新鮮さはあまり感じない。しかしながら、アクトビラによって刷新されたユーザーインターフェイスは、今後、家庭用テレビを利用した各種サービスの良いお手本になりそうな印象を受けた。

 これまでのTナビなどのサービスはトップページによく使うアイコンを並べるというPC的な発想のインターフェイスであった。これは「静的」なインターフェイスと言い換えても良いが、要するに利用者が能動的に何かアクションを起こすことを前提にしたインターフェイスだ。

 これに対して、アクトビラのユーザーインターフェイスは、同社の言葉を借りると「テレビ的」なインターフェイス、言い換えるなら「動的」なインターフェイスとなっている。と言っても、ユーザーインターフェイス自体はオーソドックスで、上部にジャンルのアイコンがタブのように並び、各ジャンル内のメニューが左側に表示され、中央にテキストと画像を中心としたコンテンツが配置されるようになっている。

 では、何が動的なのかというと、この中央のコンテンツ部分の動作だ。たとえば、Tナビボタンを押してトップページを表示すると、中央にお勧めコンテンツが自動的に表示され、これが一定間隔に自動的に切り替わる。そして、しばらくするとトップページからお勧めコンテンツが含まれる「エンタメ」のページへと自動的にジャンプするようになっている。


トップページを表示すると、スライドショーのようにオススメのコンテンツが一定時間おきに自動的に表示される(左)。さらに、しばらくするとオススメコンテンツの「エンタメ」へと自動的にジャンプする(右)

 これまでのいわゆるポータル的な作りのトップページの場合、ユーザーが何か動作をするまで、画面は待っている状態であった。しかし、アクトビラのユーザーインターフェイスでは積極的にユーザーに対してコンテンツの訴求が行われ、少しおせっかいかもしれないが、おすすめのコンテンツへの誘導も自動的に行われる。言うなれば、「情報が降って来る」というイメージに近い。

 これと同じような発想は、先日、発売が開始されたUSENの「ギャオプラス」(GyaOを視聴するためのSTB)でも採用されている。インターネット上のサイトもそうだが、ギャオプラスの端末でトップページにアクセスすると、プロモーション用の映像が自動的に再生されるようになっている。要するに、ユーザーが何かアクションを起こさなくても、自動的に情報が降ってくるわけだ。

 こういった発想は、これまでにはあまりなかった考え方だ。たとえば、オンデマンドTVではトップページにオススメコンテンツの映像が一定間隔置きに表示されるようになっていためまだ良いが、4th MEDIAなどはトップページは画像とテキストの静的なページがずっと表示され続けるだけとなっている。このため、ビデオ入力を切り替えてSTBの電源を入れるとリビングがしんっと静まり返る。個人的に毎回感じるのだが、この静けさは耐え難い。

 要するに楽しさの演出が足りないわけだ。ギャオプラスの演出に比べると、テキストと動画がメインで音も出ないアクトビラの演出もまだまだ物足りないが、それでも楽しさや手軽さを演出しようという努力が確実に感じられる。

 同様の工夫はトップページ右側に配置されている広告にも採用されており、広告をクリックすることでスライドショーのようにイメージ写真がいくつか切り替わるように表示され、対応テレビであれば音も再生される(テレビCMと同じ音を使って効果的な訴求ができる)。こういった演出は、家庭用テレビを利用したサービス、もしくはリビングでの利用を前提としたサービスにぜひ見習ってほしいところだ。


現在提供されている広告の画像を一部抜粋。左から右へと写真が切り替わるようにして表示される。対応機器であれば音も再生される




操作性は工夫の余地あり、軽快感にもかける

ただし、演出は悪くないが、操作性という意味では、まだまだ改善の余地はある。

 基本的なユーザーインターフェイスの考え方は、マウスを利用するものに近く、画面上のアイコンをフォーカスして選択するタイプとなっている。こういったユーザーインターフェイスはわかりやすいというメリットはあるものの、操作が煩雑になりがちだ。たとえば、画面上部のジャンルを選んで、次に右のサブメニューを選んで、「次へ」ボタンを選んで表示されたコンテンツのページをめくるといったように、何度も方向ボタンと決定ボタンを押す必要がある。タブの選択を別のボタンに割り当てるとか、ページ送りは「早送り」で代用できるようにするとか、操作になれたユーザー向けの工夫がほしいところだ。

 また、操作の軽快感にも乏しい。筆者宅のテレビが古いことも原因の1つではあるのだが、画面上のボタンを押してから、実際に画面が表示されたり、切り替わるまでかなりの時間がかかる。また、方向ボタンを押しているうちに、目的のボタンを通りすぎてしまうと言った誤操作も起こりやすい。

 しかも、これはブラウザの仕様だと思われるが、画面中央部分の一部のコンテンツのページ送りをしたいだけでも、画面全体がリロードされるため、そのたびに表示が完了するまで待たされてしまう。

 このあたりは、既存の機器、しかも筆者宅にあるような古いテレビもサポートせざるを得ないため仕方がないと言えば仕方がないのだが、もう少し、小気味よく操作できるようになってくれることを望みたいところだ。

 また、アクトビラ自体は参加するメーカーで共通のインターフェイスとコンテンツだが、実はトップページ右上からメーカー独自のコンテンツにアクセスすることも可能となっており、この部分の仕様はメーカーによって異なる。たとえば、松下のテレビであれば、音声読み上げに対応したブログリーダーなどを利用できる。これはこれで歓迎すべきなのだが、このようなメーカーの独自機能が今後前面に押し出されるようになると、共通のインターフェイスやコンテンツが陳腐化してしまうのではないかという危惧もある。


松下のテレビの場合、同社独自のコンテンツにアクセス可能。ブログリーダーも利用可能で、対応機器ならコンテンツを音声で読み上げることもできるようになっている




テレビをいつ買えば良いかが難しい

 このように、アクトビラは単純にPCのネットサービスをテレビに落とし込むだけでなく、テレビとリモコンならではの使い勝手の良さや楽しさの演出を試みた斬新なサービスと言える。

 この分野のライバルには、ゲーム機、テレビ接続タイプのPCなど多数存在するが、やはりテレビというプラットフォーム自体を抑えているアクトビラは一歩リードした存在と言える。現状の安全や安心、そして手軽に使えるという路線を考えると、既存のインターネット上のサービスに抵抗を感じる高齢者層などの支持を集めやすそうだ。

 もちろん、現状のサービスは、既存のハードウェアを使う前提でインターフェイスやサービスを移行しただけなので、まだまだ完成度は高いとは言えないが、今後、アクトビラ対応テレビが登場すれば、操作性や表示速度なども改善されてくことが期待できる。コンテンツの数やジャンルは現状でも必要十分とも思えるので、このあたりの改善をまずは望みたいところだ。

 また、アクトビラによってテレビでインターネットを利用するという使い方が一般化すれば、インターネット上のサイトもテレビでの視聴を想定したデザインが登場してくる可能性もある。アクトビラが誰もが安心して使えるポータルを目指す以上、このようなサイトをアクトビラからアクセスできるようにする必要はないと考えるが、iモードの登場で携帯向けのサイトが多数登場したように、アクトビラがこのようなテレビ向けサイトの登場のきっかけになってくれることを望みたいところだ。

 このようにアクトビラがテレビで使えるようになったことは大いに歓迎すべきだが、このサービスがさらに魅力を発揮するのは、今後予定されているストリーミングやダウンロード配信サービスが開始されてからだろう。ただし、これら動画サービスに関しては、H.264やMPEG-2を再生できるスペックに加えて、ダウンロードの場合はストレージも不可欠となるため、現状のテレビでは対応できない可能性が高い。

 今後、ネットにつながるテレビとそうでないテレビで、できることに大きな違いが出ることを考えると、はたしてどのタイミングでテレビを購入すればいいのか、これは大きな悩みどころと言えそうだ。


関連情報

2007/2/13 11:15


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。