第323回:無線LANはIEEE 802.11n対応のアンテナレス製品が主力に
バッファロー「WHR-G300N」に見る無線LANのトレンド
バッファローから、コンパクトな筐体を採用したIEEE 802.11nドラフト2.0準拠の無線LANルーターが発売された。同製品を検証しつつ、2008年の全体的な無線LAN製品のトレンドについても振り返ってみよう。
●アンテナレスでも高速化
2007年の無線LAN製品のトレンドが巨大アンテナだったとすれば、2008年から2009年にかけての無線LAN製品のトレンドは、その正反対となる「アンテナレス」と言えるだろう。
すでにほとんどのラインナップをアンテナレス化したNECアクセステクニカを筆頭に、コレガ、プラネックス、そして今回取り上げるバッファローと、主要なメーカーからアンテナレスの製品がすでに登場している。
無線LAN製品に求められる性能は、「速く」「遠くへ」という基本的な部分も重要だが、最大300MbpsのIEEE802.11nドラフト2.0のおかげで技術的には一段落しており、対応製品の低価格化と性能向上、そしてファームウェアや設計などのノウハウの蓄積によって、ある程度の速度と通信範囲が確保できるようになった。このおかげで、アンテナレスによるデザインの向上へと製品の方向性を転換できるようになってきている。
個人的には、いかにも電波が飛びそうな巨大アンテナも決して嫌いではないが、友人などから無線LAN導入の相談を受けた場合、アンテナレスモデルというのは、やはり評判が良い。
ゲーム機などをつなぐためにリビングに設置することを考えると、いかに裏方の通信機器と言えども、デザインが良いに越したことはないのだろう。
●1万円プラスアルファの価格帯がお買い得
一方、価格を考えると1万円というのが1つの判断基準になりそうだ。以下、家電量販店のオンラインショップから主要なメーカーから発売されているUSB子機セットのIEEE 802.11nドラフト2.0対応モデルの価格をリストアップしてみた(一部例外あり)。
| ※価格はyodobashi.comの2008年12月12日現在の価格からポイント分を引いて算出 ※yodobashi.comにて取扱がないモデルや発売前のモデルはメーカー参考価格を掲載しているため若干割高になっている |
ポイントが還元されるショップのため、還元率の違いも考慮するためにポイント還元分を差し引いた実質的な出費額で比較してみたのだが、まず目に付くのは1万円以下と以上に分かれる価格だろう。
1万円以下のモデルには、最近発売され始めた150Mbps対応モデルがラインナップされている。IEEE 802.11nドラフト2.0対応製品は、通信の待ち時間を短縮するなどの効率化、従来の2倍の帯域を使うデュアルチャネル、複数アンテナで空間中に異なる通信を多重化するMIMOという大きく3つの技術を採用することで300Mbpsという速度を実現している。150Mbps対応製品は、このうちのMIMOを使わない製品だ。
従来のIEEE 802.11b/gによる54Mbps対応製品に比べると、実効速度で50~60Mbpsでの通信も可能であり(環境に依存するが……)、通信範囲も広いので、価格重視なら良い選択だ。
しかしながら、IEEE 802.11nドラフト2.0の真骨頂は、やはり障害物に強いMIMOにある。このため、個人的には1万円にもう数千円プラスして、300Mbps対応製品をおすすめしたいところだ。
もちろん、本当に速度が必要なら、5GHz帯の利用が可能なハイエンド製品を選ぶべきだ。2.4GHz帯を使う場合、近隣からの干渉をどうしても避けることができず、機器本来の性能を発揮させることは難しい。しかしながら、さすがに通信機器に2万円近い出費となると、一般的には躊躇してしまうのも確かだ。それを考慮すると、アンテナレスの1万円プラスアルファの300Mbps対応機、これが今もっともお買い得と言える製品だろう。
●コンパクトでスタリッシュな「WHR-G300N/U」
WHR-G300N |
というわけで、前述の条件で考えると、今お買い得の製品としては、コレガ「CG-WLBARGNH-U」、NECアクセステクニカ「AtermWR8100N/NU」、プラネックス「MZK-W04G-PKU」、そしてバッファローの「WHR-G300N/U」あたりがその候補となる。
中でも、今回取り上げるバッファローのWHR-G300N/Uは、300Mbps対応のIEEE 802.11nドラフト2.0準拠無線LANルータの中では現時点で最薄となる25mmの奥行き(幅127×奥行き25×高さ140mm)という、非常にコンパクトな製品となっているのが特徴だ。
バッファローの「WHR-G300N/U」。2.4GHz対応のIEEE 802.11nドラフト2.0準拠無線LANルータ | 曲線をうまく使ったデザインと鏡面仕上げの表面がとても美しい |
薄さはわずか25mm。実際に手に取ってみてもそのコンパクトさに驚く | 背面にはWANポート×1、LANポート×4、動作モード切替スイッチを装備 |
●充実の機能、セキュリティも安心
機能的にも充実している。ルーター/ブリッジの自動切り替え機能(本体のスイッチでも切り替え可能)を搭載するだけでなく、インターネット接続設定をサポートする「インターネット@スタート」などを搭載。もちろん、ボタン設定によるAOSSおよびWPSによる設定もサポートしており、設定に迷うことはない。
AOSS、WPSによる設定をサポートし、はじめてでも設定に迷わない |
Macintosh用のAOSS設定ソフトウェア「AOSSアシスタント for Mac」も標準添付し、本体裏面に暗号化キーを記載することで家電製品などでの設定も手軽にできる。さらにiPhone 3G/iPod touchとの簡単接続機能も搭載している。
無線LAN製品の場合、もはや機能的な差を付けにくいため、使いやすさというレベルではどの製品もあまり大きな差はないのだが、そんな中でもバッファロー製品で特徴的なのは充実したセキュリティ機能だ。
無線LANのセキュリティに関しては、以前からWEPの脆弱性が指摘されていたが、その解読がより短時間にできることが報告され、事実上意味をなさないことが大きな話題になっている。その一方で、ゲーム機などを中心にWEPでしか接続できない機器も存在しており、ある意味、手軽さを採るか、安全を採るかというジレンマに陥っている。
今回のWHR-G300の場合、この対策がなかなか巧みに行なわれており、ゲーム機対策としてマルチセキュリティ(WPAとWEPのSSIDを個別に設定可能)に対応している一方、標準ではWEPのSSIDが無効に設定されている。これにより、不用意にWEPのSSIDを公開してしまうことを避けられるようになっている。
また、「隔離機能」を搭載しており、マルチセキュリティと併用することで、WEPで接続した機器と既存のLANや他の無線LANの通信を遮断し、インターネットへの通信のみを許可できるようになっている。このため、MACアドレスフィルタリングと併用することで、万全と言い切ることはできないまでも、他の製品よりも安心してPCとゲーム機を共存させることが可能だ。
マルチセキュリティによるWPAとWEPの混在、隔離機能によるWPA-WEP間通信の遮断とWEPとの混在という点では万全の対策が可能 |
来年以降の無線LAN製品全体のトレンドを考えた場合、マルチセキュリティ(マルチSSID)対応、標準WEP無効、WEP-WPA間(WEP-LAN間)の通信遮断は標準で備えるべきであり、さらに詐称防止まで考慮したMACアドレスフィルタリングの併用も考慮するといいだろう。
知らず知らずのうちにWEPを公開して悪用されるというのが最悪のシナリオとなるため、このあたりの対策がきちんとできた製品の購入をお勧めしたい。
●パフォーマンスも良好でお買い得
最後に、パフォーマンスについてだが、木造3階建ての筆者宅で計測した結果は以下の通りだ。
PUT | GET | |
1階 | 83.39Mbps | 62.22Mbps |
2階 | 50.25Mbps | 40.16Mbps |
3階 | 32.09Mbps | 26.61Mbps |
最大で80Mbps、1階に設置したアクセスポイントからもっとも離れた3階での計測でも30Mbps前後での通信が可能となった。アンテナの内蔵によって速度が低下するのではないかという懸念もあったが、あまり心配しなくても良さそうだ。
ただし、無線LANの速度については、環境によって大きく異なることは理解しておくべきだ。特に2.4GHz帯の電波を利用するIEEE 802.11b/g(n含む)の場合、近所で同じチャネルを利用した無線LANが存在すると、大きくパフォーマンスが低下する。
特に300MbpsのIEEE 802.11nドラフト2.0対応機では、デュアルチャネルによって2つ分のチャネルを占有しなければならない。今回のWHR-G300Nもそうで、標準ではシングルモードで動作しているものの、設定画面、およびクライアント側の倍速モード設定ツールを利用することで40MHzのデュアルチャネルで動作させることができる(逆に言うと設定しないと最大150Mbpsでしか通信できない)。
この2つ分のチャネル確保というのはもはや至難の業で、近隣との距離がよほど離れている環境でもない限り、無線LAN機器の性能をフルに発揮させることは難しい。
しかしながら、インターネット接続であれば20~30Mbpsの速度を安定的に確保できれば十分で、それ以上の速度は映像配信サービスなどの利用時に必要となる。
このため、来年以降の無線LANでは、やはり5GHz帯の有効利用というのがひとつのトレンドとなると考えられる。現状、IEEE 802.11a/b/g準拠のIEEE 802.11nドラフト2.0対応製品はハイエンドモデル向けとなるため、価格が高いのがネックだが、切り替え式にしろ同時利用にしろ、できれば前述した1万円プラスαのお買い得な価格レベルにまで落ちてくることを期待したいところだ。
関連情報
2008/12/16 11:00
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