第339回:NTTドコモ「BlackBerry Bold」
Googleとの連携でメールや予定をいつでも手元に



 PDAの独特の世界観に馴染めず、携帯電話での文字入力を断念した人にとって、NTTドコモの「BlackBerry Bold」は言わばモバイルの救世主となり得る存在だ。今回は、PC世代にとってBlackBerry Boldがどのような価値をもたらすのかを見ていこう。


モバイル環境を劇的に変化させる「BlackBerry Bold」

NTTドコモの「BlackBerry Bold」。プッシュ型のメール配信、Googleなどのインターネットサービスとの連携など、なかなか強力な機能を持ったスマートフォンだ

 電源を入れて持ち歩くだけ。たったこれだけで、ほぼリアルタイムにメールが届き、その場で返事を送ったり、普段の環境と完全に同期されたスケジュールを確認したり、新しい予定を入れたりできる。

 BlackBerry Boldを持ち歩くようになってから、メールとスケジュールの管理方法がすっかり変化し、もはやBlackBerry Boldなしでの外出が考えられないまでになってしまった。

 日常生活のほとんどをPCの前で過ごす筆者の場合、仕事に欠かせないメールチェックやスケジュール管理は主にPC、具体的にはOutlookを利用していた。

 もちろん、1年中、家にいるわけではないので、外出したときにもメールやスケジュールを確認できるようにしておく必要がある。そこで、これまでいろいろな試行錯誤をしてきた。

 かつてはUSBでPCとPDAを接続してデータを同期させていたこともあったし、GmailやGoogleカレンダーなどのオンラインサービスを利用し、PCのメールやスケジュールデータをオンラインと同期させてノートPCや携帯電話で見るという使い方もしてきた。

 しかし、オンラインと同期させたデータを参照するためには必要に応じて携帯電話からアクセスしなければならない上、携帯電話で育った世代ならいざ知らず、筆者のようにPCで育った世代にとって携帯電話の文字の入力にどうしてもスムーズにできないため、結局、ビューワーとして使うのが精一杯だった。

 要するに、以下の図のように、3つのプラットフォームでやり取りするデータのうち、外出先での環境がリアルタイムではなく、しかもその一部が片方向でしかなかったわけだ。


携帯電話はあくまでもビューワー。スケジュールやメールを確認するまでしか利用しなかった

 この環境を一変させたのがBlackBerry Boldだ。最後の外出先での環境において、独自の技術によってメールやスケジュールがリアルタイムに端末へと反映され、QWERTYキーボードによってメールの返信やスケジュールの登録も楽にできるようになった。つまり、以下のようにすべてのプラットフォームで双方向、かつほぼリアルタイムの関係が構築できるようになったわけだ。


BlackBerry Boldは、メールをリアルタイムに確認でき、返信やスケジュールの登録もその場でできる

当たり前のことを当たり前にできるスゴさ

BlackBerry Boldは何もかもが手軽にできるように工夫されている。例えば、メールの設定はアドレスとパスワードを入力するだけで良い

 もちろん、サイズなどに制限はあるもののメールを携帯電話に転送したり、Windows Mobile搭載のスマートフォンでも同様に「Google Sync」などを使って同期させれば、同じような環境を構築することは可能だ。

 しかし、BlackBerry Boldがスゴいのは、リアルタイムのメール配信やカレンダーの同期を、何の苦労もなく誰でも簡単に利用できる点だ。

 BlackBerry Boldでは、受信したいメールアドレスとパスワード、この2つの情報を本体に設定するだけで、メールをリアルタイムに受信できるようになる。GmailやYahoo!メールなどはもちろんのこと、一般的なプロバイダーのメールアドレス、レンタルサーバーの独自ドメインのメールアドレスなども、メールサーバーなどの面倒な設定をする必要はない上、POPで受信する場合でもメールをサーバーに残す設定なども必要ない。

 つまり、すべてではないが、どのメールサービスを使っている場合でも、メールサーバーの設定がわからなくても、一切かまわないのだ。

 ただ、どのようなメールでも設定できるとは言うものの、個人的にはGmailを利用することをおすすめしたい。ISPのメールなどをそのまま受信すると迷惑メールがひっきりなしにプッシュされてくるだけとなるからだ。いったん、Gmailへと転送して迷惑メールをフィルタしてから、BlackBerry BoldでGmailを受信するというのが便利だろう。

 カレンダーを同期させる場合もさほど手間はかからない。PC(Outlook)、オンライン、BlackBerry Boldの3環境で同じカレンダーを同期させたい場合、最初にPC側で「Google Calendar Sync」をインストールしてセットアップする必要はあるが、BlackBerry Bold側はGoogleのサイトからGoogle Syncをダウンロード後(無償で利用可能)、Googleアカウントを登録するだけで済む。


BlackBerry BoldのブラウザからGoogleのサイトにアクセスするとBlackBerry用のアプリケーションをダウンロード可能。何はなくともGoogle Syncは入れておきたいGoogle Syncを利用することでGoogleカレンダーの情報をBlackBerry Boldの予定と同期させることができる

ブラウザを利用してインターネット上のサイトも手軽に閲覧可能。RIMのサーバーを経由したアクセスとなるため、軽快という感じではないが、問題なくページを表示できる

 これまで、ノートPCにしろ、PDAやスマートフォンにしろ、メールやカレンダーを同期させたり、自分が使いやすいような環境を構築するには、さまざまな設定やアプリケーションを片っ端から試すなどといった試行錯誤が必要だった。

 まあ、ある意味、それも楽しみの1つでもあったわけだが、BlackBerry Boldは、このような試行錯誤は必要なく、プッシュ型のメールやカレンダーの同期、さらにブラウザを利用したWebアクセスなど、これまで苦労して構築してきた機能が、誰でも手軽に利用できるようになっている。当たり前のことを当たり前のようにできるのが、このBlackBerry Boldのスゴさというわけだ。

 なお、端末やサービスについての詳細は「ケータイWatch」にて、法林岳之氏が「ネットワークと連携するスマートフォン『BlackBerry Bold』(掲載URL)」として詳しく紹介しているので、こちらも参考にして欲しい。

 また、メールの設定やGoogleサービスとの連携など、BlackBerry Boldの詳しい使い方については筆者も執筆に参加した「できるポケット+BlackBerry Bold」で詳しく紹介している。4月17日に発売されたので、興味がある方は手に取ってご一読いただけると有り難いところだ。


手に馴染む使い心地

アプリケーションの切り替えで表示した起動中のアプリ(画面は12個中5個表示)。複数のアプリケーションが起動していても動作は快適。アプリを使いっぱなしのズボラな使い方にも十分応えてくれる

 このように、「BlackBerry Internet Service」の提供やGoogleのサービスとの連携によって、PC(ソフトウェア)+オンラインサービス+ハードウェア(端末)という統合的なソリューションが魅力のBlackBerry Boldだが、実際に使ってみると、もう1つ、感心する点がある。それは端末の操作感の良さだ。

 もちろん、QWERTYキーの完成度やトラックボールによる操作感の良さという点も含まれるのだが、何より感心するのはパフォーマンスの高さによるキビキビとした操作感だ。

 筆者が普段利用しているauの携帯電話やWindows Mobile搭載のスマートフォンが軽快感に欠けるため余計にそう感じるのかもしれないが、画面上のアイコンの選択、アプリケーションの起動、キーを押した後の反応などなど、どれをとっても非常に動作が軽い。

 しかも、これまでWindows Mobileなどでメモリ使用量を気にしながらこまめにアプリを終了させつつ使ってきた身からすると、不安になるぐらい多数のアプリケーションがバックグラウンドで同時に動作しており、それでも動作が遅くなるようなこともまずない。

 気がつくと、ブラウザやカレンダー、Windows Live Messenger、RSSリーダー、Google Mapが普通に起動しているし、ひどいときにはこれにゲームやワープロ「Word to Go」が起動していたりするが、それでも動作が気にならないほどだ。


コンパクトで独特の配列となりながらも、意外に打ちやすいキーボード。ショートカットキーなどを覚えると操作は劇的に快適になる

 また、ショートカットキーが多数用意されており、これらを使いこなすことで、意のままに受信したメールの1番上に移動したり、次のメールを読むなど、非常にスピーディな操作もできるようになっている。

 数字は「Alt」を押しながら入力するなど、独自の操作が必要なのも確かだが、これらの操作も意外にすぐに慣れる。PCの右クリックのような動作をするメニューキー、操作をキャンセルできるエスケープキーが用意されるなど、ルールを1度覚えてしまえば、PCと同じような感覚で操作できる点も、筆者のようなPCで育ってきた世代の感性に合っているのだろう。

 これは個人的な感想なので賛否両論あるとは思うが、操作体系や操作感に関しては筆者は「Windows Mobileは足りなすぎ」、「iPhoneはやりすぎ」と感じている。PC的すぎる上、しかも遅くてストレスが溜まる「Windows Mobile」、直感的かもしれないが、その直感を養うまでに慣れと学習が要求される「iPhone」。これらに対して、BlackBerry BoldはPCのテイストを残しながら、うまくPDAとしての操作性の良さを演出している印象で、ストレスを感じることなく自然に操作に慣れることができた。不思議と手に馴染む感覚が印象的な端末だ。


良くも悪くも「空気のような存在」

 このように、BlackBerry Boldをいったん使い始めると、PCで普段使っているメールとスケジュールがいつでも、しかも、ストレス無縁で利用できることが当たり前の世界になってくる。

 ポケットに入れたBlackBerry Boldがブルブルと揺れてメールの受信を知らせたら、それを見て、その場で返事を返す。外出するときでも事前の準備は一切不要で、BlackBerry Boldさえ持っていけば、いつ、どこで、何時に予定が入っているのかもいつでもわかる。


メールに添付されたPDFなどもチェックできる。筆者の場合、編集部に送った原稿の掲載イメージをPDFでチェックすることも多いが、BlackBerry Boldがあれば届いたPDFを電車の中でチェック。その場で返事を送ることもできる

無線LANの設定はWPSによるプッシュボタンにも対応。家では自動的に無線LANに切り替えてくれるので意識せずに利用できる

 また、ネットワークの切り替えも賢く、外出先では3G、家に帰れば無線LANと、自動的に切り替わるため、わざわざ接続を切り替えるような手間も必要ない。日常生活にすっかり溶け込んだ、まるで空気のような存在になるわけだ。

 しかし、人間とは欲張りなもので、便利さの一方で物足りなさも感じてくる。

 もちろん、「Google Talk」や「Windows Live Messenger」などのメッセンジャーアプリ、「Googleマップ」や「NAVITIME」などの地図アプリ、さらには「産経ニュース(ベータ版)」、RSSリーダーの「Viigo」、英語版だが天気予報や株価などのさまざまアプリケーションを利用することができる。「Opera」をインストールしてみたり、インターネットラジオのアプリを利用して、音楽プレーヤーとしてBlackBerry Boldを使うのも面白い。

 しかしながら、一通り、試して普段使うものが限られてくると、これらがあること、使えることが当たり前になり、ワクワク感はすぐに薄れてしまう。海外のサイトなどを巡れば、さまざまなアプリケーションを発掘することもできるが、実用的なものは限られる上、無償アプリも多くはない。

 先ほど、BlackBerry Boldを「空気のような存在」と例えたが、これは良くも悪くもという意味が含まれている。どちらかというと、ガジェット的な面白さは追求しにくい端末で、徹底的に道具として使い込むことが適している製品という印象だ。


Windows Live Messenger。外出先から電話する前に、ほかの人の在席状況をチェックするのに便利。QWERTYキーのおかげでチャットも楽RSSリーダーのViigo。Google Readerとの連携も可能で、これまたPCで追加したRSSをBlackBerry Boldに同期させることができるなど使い勝手が良い産経ニュース。最新のニュースを手軽にチェックできる。NTTドコモのサイトから無償でダウンロードできる

同じくNTTドコモのサイトからダウンロードできるNAVITIME。外出するときに欠かせないアプリの1つGoogleマップ。ストリートビューにも対応しているberrystore。アプリケーションのダウンロードツール。主に海外製だが、有償、無償のアプリを多数入手できる


BlackBerry Boldは買いか?

ホーム画面や壁紙のカスタマイズも可能。アイコンをたくさん並べてみた

 では最終的に、この製品をどう評価すれば良いのだろうか。

 個人的な感想を言わせてもらえば、メーラー、スケジューラー端末としては最強という印象で、PCでメールやスケジュールを管理している人、もしくはGoogleのサービスへの依存度の高い人にとっては非常に便利な端末と言える。

 特にGoogleとの連携は便利で、これからはこうしたインターネット上のサービスと通信機能を持った携帯端末との連携ができることが当たり前になることをあらためて実感させられたところだ。逆に言えば、これからのインターネット上のサービスは、単純な機能や目新しさを追求するだけでなく、PCや携帯端末、さらには家電などをつなぐ架け橋として、いかに”実用的な”ソリューションを提供できるかが生き残りの鍵になりそうだ。

 しかし、その一方で、携帯電話として見た場合に物足りない部分も多い。「おサイフケータイ」としても使えなければ、ワンセグを見ることもできない。iモードメールも、「iモード.net」からアクセスするWebメール形式でしか利用できない。カメラは付いているが、最新のカメラ機能をウリにした機種とは比べものにならないだろう。

 このため、既存の携帯電話から機種変更するというよりは、モバイル端末として新たに追加するという使い方が適した端末と言える。極端な話、BlackBerry Boldはモバイル用のミニノートとどちらを買おうか迷っても良いくらいの製品だろう。


関連情報

2009/4/21 11:03


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。