第360回:11n対応や通信範囲性能にプラスしてエコ機能を持った
NECアクセステクニカの無線LANルータ「Aterm WR8150N」


 無線LAN製品を選ぶ際、どのような点に注意すれば良いのだろうか。高速な通信? 広い通信範囲? それも理想だか、もはやそれだけでは物足りない。24時間、365日動き続ける通信機器こそ「エコ」にも注目して製品を選んでみよう。

無線LANが買い時の3つの理由

Aterm WR8150N。直販サイト「Shop@Aterm」での価格は7980円

 これから無線LANを導入したいと考えている人はもちろんのこと、すでに無線LANを導入している人にとっても、今は無線LAN機器の購入、買い換えを検討するのに非常に良いタイミングだ。

 その理由は3つある。1つはIEEE 802.11nが正式承認されたこと、2つ目は通信範囲が広いのにデザイン性に優れた製品が登場してきたこと、そして3つ目が消費電力を節約できるエコな製品が選べるようになったことだ。

 これまでの無線LANは、どちらかというと性能のみを重視する製品が多かった。無線LANを使う以上、家庭内のどこからでも一定の速度で通信できないと意味がなかったからだ。

 しかし、最近では性能はもちろんのこと、リビングなどに設置しても違和感のないデザインを採用したり、現在のエコ時代を反映するような省電力機能を搭載した製品が登場しはじめている。つまり、性能だけでなくプラスアルファの付加価値が無線LAN製品にも求められるようになってきているわけだ。

 このようなプラスアルファの付加価値を備えた製品は、まだあまり多くないのだが、その1つが今回取り上げるのがNECアクセステクニカの無線LANルータ「Aterm WR8150N」だ。その特徴を具体的にチェックしていこう。

無線LAN規格「IEEE 802.11n」に正式対応

IEEE 802.11nに対応し最大300Mbpsの通信が可能となっている

 2009年9月11日、これまで長らく「ドラフト」として規格の策定が続けられていた「IEEE 802.11n」がようやく正式な規格として承認された。IEEE 802.11nは、これまでのIEEE 802.11a/b/gから発展した最新の無線LAN規格で、現在国内で販売されている製品では理論値で最大300Mbpsという高速な通信ができるのが特徴となっている。

 正式承認される前から「IEEE 802.11n ドラフト2.0」に対応した無線LAN製品が登場していたので、店頭などで見かけた人も多いだろう。仕様としては、ドラフト2.0と正式版の間で大きな変更があったわけではないため、基本的には従来製品から「ドラフト2.0」の表記がとれたと考えるとわかりやすい。

 NECアクセステクニカのAtermシリーズも、IEEE 802.11n ドラフト2.0の段階でWi-Fi Allianceによる相互接続認定プログラムに合格しており、これまでに発売した全12モデルが正式対応すると発表している。他社製品を含めて11nの仕様的には大きく変わらないのだが、やはり正式対応している点の安心感は大きいだろう。

 今回取り上げる「Aterm WR8150N」も、ドラフト2.0から正式なIEEE 802.11nへと対応した無線LANルータの1つだ。複数のアンテナを使って通信速度を高速化させる「MIMO」や、通信に利用する無線LANのチャネル(利用する周波数帯を複数に区切った1つあたりの単位)を、2チャネル同時に利用する「デュアルチャネル」といったIEEE 802.11nの技術の採用で、最大54MbpsのIEEE 802.11gと比べて約6倍となる理論値で最大300Mbpsの速度を実現している。

 新しい規格ということで、もしかすると従来製品との互換性を気にする人もいるかもしれない。しかし、IEEE 802.11nは、従来のIEEE 802.11b/gとの互換性も確保されており、PCやデジタル家電、ゲーム機など、既存の無線LAN対応製品とも問題なく接続できるようになっている。

 WR8150Nではまた、ボタン操作で無線LAN設定が可能なNECアクセステクニカ独自の「らくらく無線スタート」と、Wi-Fi Allianceが策定した「WPS」の無線LAN設定システムをサポートしている。これにより、PCやゲーム機との接続設定を、本体のボタン操作によって完了することが可能になっている。

 セキュリティ面では、1台の親機で一般的なPC用とゲーム機用の2つのSSIDを設定できる「マルチSSID」機能を搭載しており、高いセキュリティ機能が利用できるPCと、ニンテンドーDS/DS LiteのようなWEPにのみ対応した製品を、それぞれ別のセキュリティ設定で混在させられる。また、SSID同士の通信も分離することができる。


「らくらく無線スタート」と「WPS」に対応。本体のボタンを押すだけで設定できるマルチSSIDにより、PC用とゲーム機用の2つの異なるセキュリティ設定を使い分けられる

アンテナ内蔵ながら、通信範囲が広い「ロングレンジ設計」

正面。アンテナ内蔵のすっきりしたデザイン

 WR8150Nでは、無線LANの買い時として挙げた2つ目の理由、つまり「通信範囲が広いのにデザイン性に優れている製品」という点で考えても評価できる製品だ。

 無線LANの基本性能というと、前述した無線LAN規格の最大速度も1つが大きな指標となるが、これに加えて通信範囲の広さが重要なポイントとなる。せっかく無線LANを導入しても、PCを使用する部屋に電波が届かなかったり、通信できても極端に遅かったりしたのでは意味がないからだ。

 しかし、だからと言ってパワーを上げたり、大きなアンテナを利用すると、消費電力が高くなったり、本体のデザイン性が損なわれるといった可能性もある。この点に関してもWR8150Nではうまく解消されている。本体を見ればわかるが、製品には外部アンテナが存在せず、本体内部に内蔵されているのだ。


側面にはLANポート、WANポート、電源コネクタ、動作モード切替スイッチを搭載同社製のアンテナを搭載した従来機との比較。アンテナがないのでデザインの良さを損なわない

 このため、本製品は非常にすっきりとした印象のデザインになっている。もともと、直線と曲線がうまく組み合わせた落ち着きのあるデザインとホワイトをベースとしたシンプルなカラーが印象の製品だが、やはりアンテナがないので、通信機器ならではの無骨さというか、機械的な印象がない。

 それでは、デザインと相反する通信性能が低いのかというと、内蔵アンテナの位置や向きなどの特性、無線回路の送受信機能などを独自の技術で最適化した「ロングレンジ設計」が採用されており、200~300mほども離れた場所の通信でも30~50Mbpsの実効速度が実現できるという。

 つまり、回線の場所などを考えてリビングなどの人目の付くところに設置する場合でもデザインが気にならず、それでいて他の部屋などの離れた場所での通信速度も犠牲にならないというわけだ。これから無線LANを導入する場合はもちろんだが、現状、古い無線LANで電波がなかなか届かないなどと悩んでいる人は、買い換えも検討したいところだ。

これからの時代に欠かせない「エコ」

 最後の3つ目の理由である「エコ」に関してだ。最近では自動車やPC、家電製品などで資源の削減、CO2排出量削減、そして省電力機能が注目されるようになってきているが、通信機器もその例外ではない。

 特に通信機器は、これまで24時間365日、常に稼働させるだけに、わずかな電力の節約も積み重ねていくことで大きな効果を得られる可能性が高い。本製品の場合、本体前面に「ECO」というボタンが搭載されており、このボタンを押すと、無線LANが停止され、有線の通信速度も100Mbpsから10Mbpsに制限され、さらにPOWERランプを除いた本体のLEDを消灯することにより、消費電力を最大31%カットすることができる。


ECOモードスイッチ。これを押すと無線LANが停止し、LANが10Mbpsへの切り替わるECOモードはスケジュール設定も可能

 PCの利用中などにECOモードにすると無線LANの通信が切れてしまうので、外出時や夜間など使わないときに、部屋の電灯を切るのと同じような感覚で、ボタンを押してECOモードにすると良いだろう。この状態でも有線LANで接続された機器は通信可能なので、例えば、ネット接続に対応したHDDレコーダなどが番組表をダウンロードするといった用途などには影響がないわけだ。

 もちろん、逆に普段は常にECOモードにしておいてPCやゲーム機などを使うときだけ無線LANを有効にするという使い方もできる。また、本体の設定画面でスケジュールを登録すると、ECOモードの開始と終了を時間設定によって毎日自動的にモードのオンオフも可能だ。


ECOモードをオンにしたのち、再度オフにしたところ

 WR8150N自体の消費電力は、もともと最大で6Wとさほど大きくない。このため、ECOモードによる電力の削減で、電気代が節約できるなどの大きな効果は得られないかもしれないが、それでも常時起動している場合と比較して消費電力を抑えることは可能だろう。

通信速度と価格に加え、付加価値で製品をチェックしたい

 以上、NECアクセステクニカの「Aterm WR8150N」を見てきた。その特徴をまとめると以下のようになるだろう。

  • IEEE 802.11nに正式対応。11b/gとの互換性も確保
  • 通信範囲が広いのにアンテナ内蔵でデザイン性もある
  • ECOモード搭載で消費電力をカット

 恐らく、多くのユーザーは、無線LAN製品を購入する際に最大通信速度と価格の2つを判断基準として製品を選んでいるはずだ。もちろん、この2つの条件は重要だが、店頭で製品を選ぶ際は、実際に利用するシーンや設置場所、消費電力性能など、それ以外の付加価値部分もチェックしてほしい。

 なお、Atermシリーズの中には、IEEE 802.11nで紹介したテクノロジーのうち、MIMOは未使用で、デュアルチャネルのみを使用する「Aterm WR4100N」のように最大で150Mbpsの通信が可能なモデルも存在する。IEEE 802.11nに完全に準拠しているわけではないが、最大速度以外の機能や性能はWR8150Nとほぼ同じだ。むしろ、Aterm WR4100Nは本体サイズが小さく、価格も直販サイトの場合で5985円と手ごろなので、設置スペースを節約したり、投資を抑えたいという人に向いているだろう。

 Windows 7の登場も控え、PCの買い換えなどを考えても、一緒に家庭内の通信環境を見直すには非常に良いタイミングと言える。無線LANの買い時であることは間違いないので、この機会に、じっくりと製品を比較して選んでみると良いだろう。


関連情報

2009/9/18 11:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。