第359回:小型&バッテリも長持ち、しかも賢い!

NTTBPのモバイルルータ「Personal Wireless Router」


 NTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)がフィールドトライアルを実施している「Personal Wireless Router」は、名刺サイズのコンパクトな筐体で、バッテリーで動作するモバイルルータだ。HSDPAや公衆無線LAN、有線LANと複数のWAN回線をサポートしており、回線を自動的に切り替えることができる。その実力を検証してみた。

これが本当のモバイルルータ

 圧倒的に小さく、そして軽い。NTTBPの「Personal Wireless Router」は、まさに「モバイル」と呼ぶのにふさわしい非常にコンパクトで、高性能なモバイルルータだ。


NTTBPの「Personal Wireless Router」。NTTドコモのHSDPAサービスに対応するモバイル無線LANルータだ。無線LANはIEEE 802.11b/gに準拠するiPod touchとの比較。幅はほぼ同じ。厚さはあるが、高さは小さい

 本体サイズは60×17.4×95mm(幅×奥行×高)と、ほぼ名刺サイズとなっており、手元にあるiPod touchと比べても、幅はほぼ一緒で高さが若干低い。厚みは若干あるものの、持った感覚は折りたたみ式の携帯電話とほぼ同じで、重量に至っては筆者が普段利用しているauの「W62CA(133g)」より軽い約120gとなっている。

 現状、市販されているモバイルルータの中には重量こそ同程度の製品も存在するが、サイズに関しては、この「Personal Wireless Router」が一回り以上も小さい。その上、本体には液晶ディスプレイが搭載され、HSDPA(フィールドトライアルではNTTドコモのデータ通信サービス)の通信モジュールも内蔵しているのだから感心するほかない。

 もちろん、通信モジュール内蔵ということは、多様な通信事業者のアダプタを接続できる自由度がないということでもある。しかし、内蔵するメリットは恐らくバッテリー駆動時間にも大きく影響を与えており、長時間耐久バッテリーの採用と合わせて、本製品のカタログ上の連続通信時間は6時間と長時間駆動を実現している。

 一般的なモバイルルータの連続通信時間が2~3時間程度ということを考えると、これはもはや驚異的と言って良い値だ。スペックを単純に比較すれば、現状では最強のモバイルルータと言っても過言ではない製品となっている。

 ただし、現状は抽選で選ばれた500名のユーザーによるフィールドトライアルでの提供のみとなっている。製品化は2009年内を予定しており、その際の料金などのサービス詳細は明らかになっていない。

 性能的には相当にインパクトの強い製品であるだけに、仮に本体が2万円台、可能なら2万円台前半で提供されるようであれば、ここ最近注目を集めている小型のインターネット機器やiPod touch、そしてゲーム機などのモバイル通信環境が劇的に変化する可能性もありそうだ。

クレードル充電で持ち出しもスマートに

 それでは早速、製品をチェックしていこう。フィールドトライアルではホワイトとブラックの2色が用意されているが、今回NTTBPからお借りしたのはホワイトモデルになる。本体は角を丸く取った柔らかみのあるデザインで、シンプルなホワイトのボディにライトグリーンのサイドラインがアクセントとなっている。個人的には子供向けの携帯電話や現代版ポケベルといった印象を受けたが、質感としては安っぽさもなく、なかなか悪くないデザインだ。

 本体前面には、小型の液晶ディスプレイが搭載されており、WAN側の接続方式、バッテリー残量(充電状況)、電波強度、接続クライアント数などが表示される。スイッチ類は必要最低限のものが側面に用意されているだけで、電源ボタンとWPSでのプッシュ設定用のボタンが用意されるのみとなっている。このほか、上部にはLEDとリセット用のボタンがある。


正面には小型の液晶ディスプレイを搭載側面。厚さはわずか95mmとなっている

 インターフェイスは、底面に携帯電話のコネクタに似た専用の端子と、ミニUSBポートが用意されるが、いずれも基本的には充電用となる。専用コネクタは付属のイーサネットアダプタを利用して有線LAN接続する場合のほか、付属のクレードルやPCなどのUSBから充電する際にも利用する。

 このクレードルを利用して充電するというのも、モバイルルータとしては斬新な発想だ。付属のクレードルには、ACアダプタの接続端子と10BASE-T/100BASE-TX対応のLANポートが用意されており、本体をクレードルにセットすれば、WAN回線に有線LANを利用したAC給電の無線LANルータとして利用できる。

 つまり、これが普段の自宅で利用する場合のスタイルであり、外出するときは、本体をサッとクレードルから取り外すだけで良いことになる。外出する際に、電源ケーブルを外して本体をカバンに入れ、WAN用のUSBアダプタも忘れないように一緒に持ち歩くなどいという従来の手間は必要ない。本当に本体をサッと取り上げてポケットに入れるだけ。実にスマートに持ち運べるというわけだ。


背面。クレードルにはACとLAN端子を搭載クレードルへは本体底面のコネクタを利用して装着する。本体底面には充電用のUSBポートも用意する

HSDPA、無線LAN、有線LANを自動切り替え

 使い方もさほど難しくない。本体にSSIDや初期設定の暗号キーが記載された設定シートが同梱されているので、これに従ってPCを無線LANで本製品に接続(WPSによる無線LAN設定も可能)。その後、ブラウザを利用して「http://setup.pwr」にアクセスすると設定画面にリダイレクトされて設定が可能となる。

 本来であれば、WAN側の回線設定でNTTドコモの定額データプランを利用するための設定が必要になると思われるが、今回試用した製品はフィールドトライアル向けに設定がプリセットされていたため作業は不要だった。ただ、設定と言っても、利用するプロバイダー(moperaUやその他ISP系サービス)を選び、IDとパスワードを設定するだけで良い。

 これでPCから本製品に接続して、HSDPA経由でインターネットにアクセスできるというわけだ。試しに、iPod touch、さらにBlack Berry Boldを接続してみたが、何の問題もなくインターネットにアクセスすることができた。


設定画面。シンプルだが、アイコンなどが多用されておりわかりやすい接続図をイメージした設定画面に感心させられた。どの設定をしたいかが直感的にわかる

WAN側の回線設定。mopera Uのほか、OCN、InfoSphere、ぷらら、Enjoy、IIJなども選択できるようだBlackberry Boldを接続。問題なく通信することができた

 このように持っているだけで手軽にインターネット接続が可能な「Personal Wireless Router」だが、感心するのはWAN側の自動切り替え機能が非常に賢く、スピーディな点だ。

 例えば、外出先から帰って、充電のためにクレードルに本体をセットしたとする。すると、即座にHSDPAでの通信が切断され、クレードルに接続した有線LANでの通信へと切り替わる。

 切り替えに要する時間は、実際に通信可能になるまでの時間も含めると10秒前後といったところで、もちろんこの間無線LANの接続は維持される。このため、仮にPCを起動したままの状態で、利用回線がHSDPAから有線LANへと切り替えたとしても、PC側ではほとんどWAN側が切り替わったことを意識せずに済む。


クレードル装着時は有線LANで接続ケーブルを外したり、クレードルから取り上げるとHSDPAに切り替わる(無線LANがある場合は無線LANを優先する)

 厳密に言えば接続ルートが切り替わるので、例えばファイルのダウンロード中や動画をストリーミング再生するなどのように連続した通信をしている最中にWAN側が切り替わると、セッションを新たに張り直さない限り、通信は切断されたままになるが、Webサイトの閲覧などの場合はほぼ意識することなく切り替わる。

 しかも、この切り替えの判断がなかなか的確で、例えばWAN側として、HSDPA、無線LAN(家庭の無線LANアクセスポイントもしくは公衆無線LAN)、有線LANの3種類を利用可能な状態にしておく。この状態の場合、クレードルに装着すれば有線LAN、取り外せば家庭内の無線LAN、家から離れればHSDPAと、シチュエーションに応じて最適なWAN環境を自動的に選び、シームレスに回線を切り替えてくれる。

 また、利用中にフレッツ・スポットのサービスエリアに入り、回線がHSDPAから切り替わったことも確認できた。シームレスに通信速度が速い回線を選んでくれるのは、やはり便利だ。

 NTTBPでは、本製品を「ポータブル・コグニティブ無線ルータ」というカテゴリに分類しているが、非常に優れた自動認識機能が搭載れており、家でも外でも、外出先の喫茶店でも、どこにいてもユーザーは本製品へ無線LANで接続していれば、WAN側の回線をまったく意識することなくインターネットを利用できるわけだ。

 また電源に関しても、無線LANの接続を検知して接続がなくなれば自動的に省電力機能が働いてスタンバイモードに切り替わり、接続が開始されれば復帰するという賢い電源管理機能が搭載されている。このため、電源のオン/オフさえも意識しなくて済むようになっている。

 ただ、残念ながら、連続通信すると本体がそれなりに熱を持つので、衣服のポケットに入れておくのはおすすめしないが(冬は重宝するかもしれない)、朝出かけるときにカバンに入れさえすれば、あとは1日中、どこに居るかをまったく気にすることなく、ゲーム機やiPod touch、PC、さらにはEye-Fiカードを装着したデジタルカメラなど、手元の機器から無線LAN経由でインターネットに接続できることになる。この快適さは、一度味わってしまうと、ちょっと離れられない印象だ。

3.5~4時間の連続稼働を確認

付属のケース。キズをつけずに持ち運べるが、熱がこもるので2時間以上の連続通信時は使わない方が無難

 気になるバッテリーの駆動時間だが、試しにBlackBerry BoldとiPod touchを接続した状態で外出してみた。

 14時に自宅を出発後、電車で移動したり、発表会に参加したりしながら、BlackBerry Boldを常に通信状態にしておき、駅のホームや立ち寄り先でiPod touchを利用してメールやWebを利用するという使い方をしてみたところ、最終的にバッテリー切れで使えなくなったのは17時30分前後。つまり、3.5時間の連続稼働を確認できたことになる。

 同様に、自宅でPCからHSDPA経由でインターネット上のサイトにPINGを打ち続けた際のログを取り、時間を計測した。計測は21時12分に開始し、切断されたのが23時56分だったので、4時間弱の動作となった。通信状態にもよるが、やはり連続通信は3.5~4時間と考えて良さそうだ。

 外出時のテストでは、付属の布製ケースに入れて、これをカバンに入れて持ち歩いていたのだが、2時間ほどが経過した時点で、いったん通信が切断された。どうしたのかと本体をチェックすると、異常なほど熱を持っており、どうやら熱で動作が不安定になったようだ。

 前述したように、本体は熱を持ちやすい設計になっているので、なるべく他のモノと密着しないような場所に入れたり、メッシュ状のポケットなど通気性が良い場所に入れて持ち運ぶことをおすすめしたいところだ。

 このように、バッテリー駆動時間に関しては、カタログスペックの6時間には届かなかったものの、3.5時間前後となればかなり優秀だ。同様のテストでは、以前に本コラムで取り上げたウイルコムの「どこでもWi-Fi」は約3時間、ネットインデックスの「クティオ」は2.5時間だったので、これらを上回っている。

 実際の利用シーンでは、常に連続で通信することはあまりなく、PCなどから一定時間利用してはスタンバイに移行を繰り返すことになる上、USB給電も可能なため、会社や打ち合わせのときなどであれば、PCから充電しながら利用することもできる。通勤の往復や出張時の片道、半日程度の外出などであれば、さほどバッテリーを気にせず利用できそうだ。

もう少し大きくても良いかもしれない

 以上、NTTBPの「Personal Wireless Router」を利用してきたが、サイズや重量、バッテリーの持ち、ソフトウェアの賢さと、どの点を取っても非常に完成度の高いモバイルルータとなっている。フィールドトライアルでのHSPDA回線はNTTドコモに限られてはいるが、対応エリアが広いので非常に使い勝手が良い。

 実際に使ってみると、無線LANでどんな機器でも、どこでもインターネットにつながるというのは、実に快適でイー・モバイルやモバイルWiMAX、携帯電話など、複数の回線と契約を使い分け、さらにエリアを気にしながら使っている現在の状況が、いかに非効率的で、コスト的にも高くついていることを思い知らされる。

 欠点を挙げるとすれば、発熱の高さだろう。保管場所の温度や状況があまり良くなく、しかも連続通信するという過酷な状況では、動作が不安定になる可能性もあるだけに、利用には十分注意したいところだ。

 個人的には発熱対策にもつながるが、サイズをもう少し大きくしても構わないのではないかと感じた。もちろん、このサイズで、この動作時間という絶妙なバランスが「Personal Wireless Router」の魅力ではあるのだが、せっかく3.5時間バッテリーが持つのなら、多少大きくなってもかまわないので「もう一声」と言いたくなってしまう。

 場合によっては、厚さを倍くらいにして、バッテリー容量を増やした長時間駆動モデルがあっても良いかもしれない。実働で6時間の連続通信可能になれば、通勤時はゲーム機、会社ではPDA、外出時はPCなどと、1日を通して、複数の機器を連続的に使えるようになる。このあたりは今後の製品展開に期待したいところだ。

 モバイル系のインターネット通信環境は、現状、WiMAXのような「個別内蔵」とモバイルルータなどの「外部集約」という2つの方向性で進化しつつあるが、今回の「Personal Wireless Router」の登場で、外部集約型に関してはサイズやバッテリー駆動時間という課題が一歩克服された印象がある。インターネット接続を利用するゲームなども登場してきたので、そろそろモバイルルータの購入を検討しても良いのではないだろうか。


関連情報

2009/9/15 11:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。