第458回:国内販売を開始したソフト版「Pogoplug」
~Pogoplug Mobileなど今後の展開を聞く
9月8日、Cloud Engines社からソフトウェア版「Pogoplug」の国内提供が開始された。同日、来日した同社CEOダニエル・プッターマン(Daniel Putterman)氏、およびベンチャーキャピタルであるファウンドリー・グループのマネージングディレクターであり、Clud Engines社の取締役でもあるライアン・マッキンタイア(Ryan McIntyre)氏に、その狙いと今後の展望を聞いた。
●日本市場を重視
Cloud Engines社CEOダニエル・プッターマン氏 |
Cloud Engines社は、どうやら日本を同社の重要な市場の1つとして位置づけたようだ。
9月8日に、同社と国内でのパートナーであるソフトバンクBBから、ソフトウェア版Pogoplugの販売開始が発表されたが、それと同時に来日した同社CEOダニエル・プッターマン氏(以下プッターマン氏)は、今回の国内でのソフト版のリリースについて次のように語った。
「今回、ソフトウェア版の提供を開始した大きなコンセプトは、『Pogoplug』がどのようなものなのかを広く知ってもらいたいという点にあります。すでにハードウェア版のPogoplugが発売されていますが、ソフトウェア版はハードウェアは不要で単体で利用できます。もちろん、ハードウェア版との連携も可能で、組み合わせて利用するのも良い選択となります」。
ソフトウェア版のPogoplugは、すでに6月に米国でリリースされており、国内からもダウンロードして、日本語で利用可能だった製品だ。筆者もWindows Home Server 2011にインストールして利用しているが、無償版でも、ストリーミングを除く、ハードウェア版とほぼ同じ機能を利用可能となっているうえ、手元のPCにインストールして利用できるのは確かに便利だ。
Pogoplug Softwareホームページ http://jp.pogoplug.com/ 日本語版正式リリースにあたり、日本語版サイトを公開。無料版ダウンロードもここから | 有料版のプレミアムライセンスはVectorでも購入できる |
しかしながら、すでに国内でも使えていたものをあらためて正式リリースと言われても新鮮味がない。今回の国内販売のポイントはどこにあるのだろうか?
プッターマン氏は、「今回の日本でのソフトウェア版のリリースのポイントは3つあります。1つはPogoplugソフトウェア、iPhoneアプリ、ウェブサイトなど、すべてのUIを日本語化しています。2つ目のポイントはサポートです。日本語ができるスタッフによって、メールとチャットによって24時間無休のサポートを提供します。メールによる問い合わせは基本的に4時間以内の回答が可能です。最後のポイントはサーバーです。ソフトウェア版が接続されるサーバーを日本で稼働させました」とのことだ。
サーバーに関しては、今年2月、ハードウェア版が国内でリリースされた際に、すでに国内で運用されていたという認識であったが、プッターマン氏によると、「これまでのハードウェア版用のサーバーに加えて、今回、ソフトウェア版向けのサーバーを新たに日本で運用開始した。将来的に何百万人ものユーザーが使うことを想定してインフラを整備するつもりだ」とのことだ。
確かに、筆者宅で常時起動中のソフトウェア版が、いつのまにかログアウトしたままの状態になっていたり、プレミアム版だったライセンスがフリー版になっていたことがあったが、これらは日本版リリースのタイミングで接続サーバーが切り替わった影響かもしれない。
いずれにせよ、同社が、日本向け製品に対してここまで投資する理由は、今年2月に国内で販売を開始したハードウェア版の反響が大きかったことが要因とのことだ。もともと、海外から輸入して利用するユーザーもいるほど国内での注目が高かった製品だったが、いざ国内販売が開始されると、当のプッターマン氏ですら「サプライズで予想以上だった」と言うほど、量販店の店頭で品切れになるほどの人気であった。
海外展開の中でも特に日本で良いスタートを切れたことが、今回の重点的な投資につながったことは間違いないだろう。なお、国内での販売については、従来同様ソフトバンクBBがパートナーとなっており、有料のプレミアム版(2980円)については、同社のWebサイトからの購入に加え、ソフトウェアのダウンロード販売を手がける「ベクターPCショップ」からも購入可能となっている。
サーバーやサポート、販売ルートなど、製品そのものだけでなく、その周辺環境も整備しているあたりに、日本市場をいかに重視しているかがうかがえるところだ。
発売当初は人気のため品薄が続き、amazon.co.jpでプレミア価格までついたPogoplugハードウェア版 | 秋葉原のショップ店頭でも目立つところに置かれていた |
●ソフト版はハード版や他の製品と何が違うのか?
このように国内でのスタートを切ったソフトウェア版Pogoplugだが、具体的にハードウェア版と何が違うのだろうか?
まず、ソフトウェア版の特徴について、プッターマン氏は「ソフトウェア版は、無償で提供することで広く利用してもらうことが1つの目的となっていますが、そもそも、(ルータに直結したHDDではなく)PCで使った方が便利な場合もあるという側面もあります」と語る。
多くのユーザーが写真や音楽、ビデオなどのデータをPCに保存していることを考えると、これをそのまま、別の場所に保存し直すことなく、外出先のPCやスマートフォンから共有できようになるメリットは大きい。
また、同社の戦略的な側面もある。「ハードウェア、フリー版のソフトウェア、プレミアム版など、さまざまなプラットフォームを用意することで、ユーザーにいろいろな体験をしてもらうと同時に、必要に応じてステップアップしていく環境も用意する必要があります。このような展開により、今後は、ハードウェア、ソフトウェアに加えて、別のソースを追加する可能性もあります」とプッターマン氏は言う。
同社の理想としては、無料で、しかも使いやすいフリー版という足がかりを提供し、そこから有料版のプレミアムやハードウェア版へと移行していくというシナリオを描いているというわけだ。
それにしても、ソフトウェア版、ハードウェア版に加えて、「別のソースも用意する可能性がある」という点は非常に気にかかる。特に、先日、同社のブログで公開され、10月1日からの発売のプレオーダーが開始された「Pogoplug Mobile」への注目が高まっていることを考えると、これ、もしくはPogoplug Mobileに接続するスマートフォン自体が「別のソース」になり得るのだろうか?
米国で10月1日発売予定のPogoplug Mobileオフィシャルサイト |
プッターマン氏は、まだ詳細は決定していないとしながらも、その概要について語ってくれた。まず、日本での発売だが、これは時期は明らかではないものの「日本はクリティカルなマーケットととらえているので、予定はある」とのことだ。
続いて、そもそもどういった製品なのかについて聞いてみた。プッターマン氏によると、「Pogoplug Mobileは、ハードウェア版の次世代モデルで、特にモバイル機器を利用しているメインストリームユーザー向けの製品となります。従来よりもシンプルなハードウェアとより小型のプラットフォームを採用し、スマートフォンのエクスペリエンスを改善するための新しいソフトウェアを導入しています」とのことだ。
基本的な構成は従来製品と同じだが、モバイル向けの機能強化(ブログで公開されているスマートフォンのバックアップなど)が行なわれ、さらに小型化と低価格化によって、幅広いユーザーに向けてリリースする製品と言ったところだ。
詳細については語られなかったが、小型化なども行なわれることを考えると、ハードウェアの強化も当然のことながら行なわれているのではないかと推測できる。これについては入手する予定にしているので、タイミングを見てレビューしたいところだ。
●NASやクラウドサービスをどう見ているのか?
「多くのユーザーがデータをPCに保存しており、PCのデータにスマートフォンやタブレットから共有できるメリットは大きい」(プッターマン氏) |
このように今後さらなる広がりを見せそうなPogoplugだが、最近ではリモートアクセス機能を搭載したNAS、Googleの各種サービスやアップルのiCludなど、クラウド系のサービスが登場しつつある。同社は、これらをライバルとしてどのようにとらえているのだろうか?
まず、同社は米国でバッファローをパートナーとして、NASにもPogoplugの機能を提供しているが(CloudStoreと呼ばれる製品)、これについては、「製品の投入自体はバッファロー側の判断になるため、コメントできない」としながらも、「今後もバッファローの関係を強化していきたいと考えている(プッターマン氏)」とのことだ。
前述したように、同社は、ストレージのソースをさまざまな分野に拡大することに対して意欲的だ。それを考えると、他のプラットフォームへのソフトウェアやサービスの展開もさらに広がりそうだ。
一方、リモートアクセス機能を発展させた他のNASについては、どう考えているのだろうか?
プッターマン氏は「我々は、あくまでもサービスを提供する企業です。機器や端末のアプリケーションに対して価値を追加するサービスを提供しています。このため、我々のサービスをハードウェアそのものやアプリケーションそのものと直接比較することはあまり意味がありません」と言う。
「たとえば、Pogoplugでは、家にあるPogoplugハードウェア、会社のPCにインストールしたソフトウェア版、手元にあるMacBook Airなど、いろいろな場所にある機器をスマートフォンのアプリから参照できます。このとき、各場所の機器をユーザーがスマートフォン上で登録する必要はなく、自動的にリストアップされます。このように異なる場所にある機器を自動的にリストアップして接続できるようにすることは、インターネット上にある『サービス』がないと実現できません」。
「また、ファイアウォールを意識しなくて良いのも、我々の『サービス』ならではの特徴です。NASやルーターなどの機器に外部からアクセスするには、ポートフォワードなどの設定が必要です。設定の手間もかかるうえ、外部からアクセス可能なポートを開くリスクもあります。一方、Pogoplugでは、自宅や会社のファイアウォールは有効にしたまま利用できます(通信も暗号化される)。これも我々ならではの『サービス』があるからこそ実現できるわけです」とNASやルーターなどのリモートアクセス機能との根本的な違いを語った。
確かに、Pogoplugのメリットは、初期設定の手軽さ、異なる場所に複数存在する機器やメディアを意識せずに使えるシームレス感にある。これらをサービスで実現できている点によって、NASやルーターのリモートアクセス機能と差異化されているわけだ。
バッファローの海外向けNAS製品「CloudStore」は、Pogoplugの機能を標準搭載している |
では、クラウドのサービスとは、どのように差異化を図っているのだろうか? その例として、GoogleMusicとの違いをどう考えているかを聞いてみたところ、やはりデータのアップロードとコストがポイントとなった。
プッターマン氏によると、「我々のサービスの場合、音楽のデータはすでにPCにあります。通常、人々が音楽や写真を最初にポストするのはPCですよね。これをそのまま外出先などでも再生できるわけです。一方、GoogleMusicでは、音楽をアップロードしなければなりません。ここに違いがあります。また、Pogoplugは購入しさえすれば永遠に無料で使えますが、GoogleMusicの場合、本サービス開始後に容量の上限がどうなるのか、コストがどうなるのかはわかりません」と言う。
確かにアップロードの手間と時間は、ユーザーにかかる負担だけでなく、ISPや回線事業者、さらにはインターネット全体のトラフィックを考えると、非常に大きな問題になりかねない。また、日本では著作権の問題もあるため、果たしてGoogleMusicのようなサービスが利用可能になるかどうかも不透明な部分がある。そういった意味では、現状のPogoplugでもクラウドサービスに十分に対抗できるとも言えそうだ。
一方、iCloudについてはどうだろうか? プッターマン氏は、Pogoplug MobileのブログでPogoplugをiCloudの「コンパニオン」と表現しているが、この意図はどこにあるのだろうか?
プッターマン氏は、「まず、基本的な我々の哲学として、PogoplugをiCloudの競合と考えるつもりはありません」という。そして、「iCloudの基本的な機能はiPhoneとの同期だと言えます。メールやカレンダー、写真などを同期させるのが主な役割だと言えます。一方、Pogoplugの主な役割は、『シェアリング』と『ストリーミング』と言えます。良い例がビデオです。iCloudでビデオをバックアップするのも良いアイデアですが、単にバックアップするだけでなく、Pogoplugを使えば、いろいろなデバイスからビデオを試聴できます。しかも、クロスプラットフォームで、メディアの形式も自動的に変換できます。つまり、メディアを『使える』状態にできるわけです」。
また、ライアン・マッキンタイア氏(以下マッキンタイア氏)は、「ストレージの容量にリミットがなく、年間のコストもかからないいこともPogoplugの大きなメリットです」と付け加える。
つまり、ビデオのような大きなデータはPogoplugで利用するというように、iCloudとPogoplugを使い分けるというシナリオができるわけだ。これを「コンパニオン」と表現しているのだろう。
●クラウドとローカルストレージをつなぐ存在が「Pogoplug」
ベンチャーキャピタルであるファウンドリー・グループのマネージングディレクターであり、Cloud Engines社の取締役でもあるライアン・マッキンタイア(Ryan McIntyre)氏 |
最後に、そもそもの考え方として、クラウドではなく、ユーザーサイドとなるローカル側にデータを置くことに対する同社のコダワリについて聞いてみた。
プッターマン氏は、「Pogoplugは、ホームストレージをクラウドストレージのように扱えるようにするソリューションです。私の知る限り、ホームストレージをクラウドストレージのようにシームレスに使えるサービスは、Pogoplugしかありません。そして、実は、このシームレスに扱えるということは、Pogoplugをクラウドストレージに接続することを決して否定しているわけではないのです」と言う。
さらにマッキンタイア氏が補足する。「ただし、現状、ホームユーザーの利用環境を考えると、クラウドに保存できるデータの容量よりも、確実にホームストレージに保存できるデータの容量が多いの実情です。そして、一般的なユーザーの場合、データの99%はホームストレージ上に保存されています。つまり、我々が取り組んだ、最初の取り組みは、この99%のホームストレージのデータを、いかに『アンロック』するかということだったわけです」。
さらにマッキンタイア氏は続ける。「我々の長期的なビジョンとしては、何百万人ものユーザーが、どこからでも、どんなデバイスからでも、それはクラウド上のデータも含めてですが、すべてのデータに『1UI(ワンユーアイ:1つのユーザーインターフェイスの意)』でシームレスにアクセスできるようにすることです」。
これを受けてプッターマン氏も続ける。「つまり、この『1UI』という考え方を拡張していけば、データがホームストレージ上だけでなく、クラウド上にあってもかまわないのです」と。
つまり、現状、Pogoplugのソリューションは、ホームストレージを外出先から使えるようにする技術となっているが、これはあくまでも現状の姿でしかないということだ。彼らがホームストレージからスタートしたのは、そこに多くのデータがあり、コスト的にも有利だからとい理由であるだけで、同様にクラウド上にユーザーのデータが増え、そこにPogoplugが接続可能になることを否定しているわけではないことになる。
もちろん、ホームストレージのデータはクラウド上のデータと異なり、トラブルなどで失われてしまう可能性がある。しかし、ハードウェアの信頼性が高くなってきた現状を考慮して「本当にホームストレージのデータは失われやすいのか?」とプッターマン氏は疑問を呈する。また、「もしもデータを安全に保管したいなら、『アクティブコピー』の機能を利用して、自宅のPogoplugと会社のPogoplugとの間でデータをバックアップし合うことで安全性を高めることができる」ともプッターマン氏は言う。
よって、プッターマン氏も言うように「Pogoplugは、『クラウド vs ホームストレージ』という対決の図式ではありません。あらゆるストレージを『つなぐ』存在がPogoplug」というのが正しい認識ということになる。
プッターマン氏、マッキンタイア氏の両氏ともはっきりとは答えなかったが、このクラウドとの連携というのは、すでにアイデアとして存在しているのだろう。この点については、非常に言葉を選びながら、慎重かつ、熱心に答えてくれた。
以上、ソフトウェア版Pogoplugの国内販売、そして将来的な展望について同社に聞いてみたが、彼らの頭の中には、今後、さらに面白い世界観がすでに展開されているようで、今後が期待されるところだ。Androidタブレットへの対応なども予定されているとのことなので(Windows Phone 7.5への投資は予定されていないようだ)、しばらくは目を離せない状況となりそうだ。
●Pogoplug Softwareのプレミアム版コードを30名様にプレゼント!
Cloud Engines社のご厚意により、INTERNET Watchではプレミアム版(有料版、2980円)のライセンスコードを30名様にプレゼントします。ご応募は、「IW-present@impress.co.jp」(@を英半角文字にしてください)まで、件名は「Pogoplug Softwareプレミアムコード応募」としてメールをお送りください。コードはいただいたメールへの返信という形でお送りしますので、ご応募にあたり、住所氏名などの個人情報は必要ありません。ご応募のメールは本文なしでお送りいただくようお願いいたします。
締め切りは9月25日(日)正午12時まで。ご応募が当選数を上回った場合は、抽選とさせていただきます。ご応募いただいたメールアドレスあてにプレミアム版コードを送信することで発表に換えさせていただきます。ご応募お待ちしております!
関連情報
2011/9/20 06:00
-ページの先頭へ-