ニュース

世界初・光ファイバー通信向け「面発光レーザー」の開発にNICTが成功

長距離通信における低消費電力化・低コスト化・小型化に貢献

面発光レーザの模式図と量子ドット

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(ソニー)と共同で、長距離の光ファイバー通信に使用できる「面発光レーザー」の開発に世界で初めて成功したと4月10日に発表した。光源の小型化や低消費電力化に加え、大量生産による低コスト化や集積化による高出力化も期待できるという。

 VCSEL(Vertical-Cavity Surface-Emitting Laser:垂直共振器面発光レーザー)とは、レーザー光を垂直方向に放射する半導体レーザーの一種で、1977年に東京工業大学の伊賀健一教授が発明した。コンパクトでエネルギー効率が高く、量産性に優れているのが特徴で、将来求められる大容量・低消費電力のデータ伝送を可能にする技術として期待されている。

 現在、VCSELは主にデータセンターなどの短距離の光ファイバー通信で、波長850nmや940nmの近赤外領域の光源として使用される。その一方で、既存の光ファイバー通信で使用される1550nmの長波長で動作するよう開発するには、材料や構造設計に関する技術的な課題があった。

 今回、「量子ドット」と呼ばれるナノスケールの半導体粒子を発光材料として利用し、1550nm帯用VCSELの電流駆動に世界で初めて成功した。この開発には、NICTによる化合物半導体結晶成長技術と、ソニーのデバイス設計およびデバイスプロセス技術という2つの要素技術が使われている。

(a)実際に作製した量子ドットVCSELの顕微鏡写真、(b)量子ドットVCSELの断面構造の模式図、(c)電流-光出力特性(赤)と電流-電圧特性(青)、(d)VCSELのレーザー発振スペクトル

 NICTが開発した要素技術は、結晶成長における材料の比率を厳密に制御することで、多層膜を精度よく結晶成長させるもの。VCSELには高反射率の半導体多層膜の結晶成長が必要だが、1500nm帯用では結晶成長できる材料の組み合わせが限られていたため、これが従来は難しいとされていた。NICTの要素技術により1550nm帯でも99%以上の高反射率を持つ半導体多層膜が実現でき、あわせて、量子ドット周りに発生する結晶の歪(材料内部に発生する歪)を正確に打ち消す歪補償技術をVCSEL作成に適用し、発光材料である量子ドットの密度を飛躍的に高まることに成功した。

 ソニーが手がけたのは、「トンネル接合」と呼ばれる構造を用いた高効率な電流注入を実現するデバイス設計とデバイスプロセス技術。トンネル接合とは、薄い不導体を2つの導体ではさむ接合構造で、ナノメートルオーダーまで薄い不導体を電子がすり抜けることを利用し、高速な電子の移動や高速な電子の移動を可能にする。従来のVCSELは半導体ウエハの上面に対して垂直に光が出射されるため、量子ドットが発光しても電極が光を遮ってしまい、外に取り出しにくかったが、トンネル接合の効果をうまく取り入れることにより、効率的な発行と光の取り出しを両立させる構造を開発した。

トンネル接合により、電流の流れる方向を変えることができるため、電極のないところに向かわせて発光させることで光が取り出しやすくなる

 これらの技術により、13mAという小さい電流でのVCSELのレーザー発振に成功。また、偏光のゆらぎがなくなり、出力が安定することも明らかになった。

 NICTでは今後、Beyond 5G時代の光ファイバー通信システムの更なる大容量化および低消費電力化を目指した技術検討を進めていくとしている。今回の事件結果の論文は、米国OPTICA Publishing Groupが出版する光技術全般に関する国際論文誌であるOptics Express誌(Vol.33 Issue 6)に採択された。