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NTTと北海道大学が世界初、1本の光ファイバーで従来の10倍以上の大容量を実現する新たな構造設計を考案し、実証

今回考案・実証されたコア間・モード間光結合型光ファイバーの概要

 日本電信電話株式会社(NTT)と国立大学法人北海道大学は12月13日、1本の通信用光ファイバーで従来の10倍以上の通信大容量化を実現する、新たな構造設計を用いた実証に成功したことを発表した。世界初だとしている。

「MMFと結合型MCFの融合」の課題を解決する設計構造を初めて考案

 NTTではIOWNの大容量光伝送基盤を実現する要素技術の1つとしてマルチコア光ファイバー(MCF)の研究開発を進めており、これまでに従来の光ファイバーと同じ細さで、4個の光の通り道を多重した4コアMCFの研究開発を行ってきた。しかし、光伝送路のさらなる大容量化を実現するには、光の多重度(4コアMCFの場合は4)を10以上に拡張する新たな技術が求められる。

 10以上の多重度を実現する選択肢としては、1つのコア内に複数の種類の光(モード)が伝搬するマルチモード光ファイバー(MMF)のほか、コア間の距離を小さくし、コア間で光信号が結合するように設計された結合型MCFが研究・報告されている。

 これらの光ファイバーでは、光信号間の伝搬遅延差が大きいと伝送特性が劣化するが、結合型MCFはMMFに比べ伝搬遅延差を低減しやすいことが知られており、MMFと結合型MCFを融合させて伝播遅延差をなくすことができれば、光ファイバーの細さを維持したまま、10以上あるいは数十以上の光の多重度が実現できると期待される。しかし、これまでは、1つのコアで複数のモードが伝搬する場合に隣接するコア間でモードの異なる光信号同士を結合させることができなかった。

 今回の研究では、隣接するコア間でモードの異なる光信号同士の結合を可能にするため、コア間・モード間の完全光結合を実現する構造設計を世界で初めて考案し、実証した。

隣接する2コア間における光結合のイメージと曲がり条件(曲げ半径)との関係と、隣接する3 コア間における光結合のイメージと曲がり条件(曲げ半径)との関係。左が従来の構造で、右が新たな設計構造

従来よりもゆるやかな曲がりで異なるモード間の結合が可能に

 今回考案・実証された「コア間・モード間結合型光ファイバー」の特徴は、次のように説明されている。

 コア間の同モードの光信号の結合は、コアの間隔を適切に設定することで実現でき、光ファイバーに加わる自然な曲がりやねじれによって、結合が加速される。

 実際の光ファイバーケーブルにおいても、実装された光ファイバーにはランダムな曲がりやねじれが加えられており、これを積極的に制御・活用することで、結合型MCFケーブルができる。

 ただし、各コアが複数の光信号を持つ場合、異なる光信号間の隣接コア間でも結合するには、光ファイバーに極端な(小さな半径の)曲がりを付与する必要があるのに、それでは光信号自身が光ファイバーの外部に漏れてしまい、通信できなくなることが問題となる。

 今回の研究では、光結合のモデルを隣接2コア間から隣接3コア間に拡張した新たな光ファイバー設計技術を開発し、結合特性の制御に必要な曲がり条件(曲がり半径)を大きく緩和した。これにより、光信号を外部に漏らさず、通信が可能となる。

曲げ半径50mmで、完全光結合を実証

 実証方法の一例として、1つあたり3つのモードの光信号を伝搬できるコアを、六方最密状(1本のコアの周囲を6本のコアが囲む状態)に7個配列した3モード7コア光ファイバーを試作し、7コア×3モード、合計21の光信号結合を設計。3モードの光信号の光1km伝搬後における到達時間を計測し、曲がり条件(曲げ半径をR)ごとに偏差を時間軸上で観察して、光結合特性と曲がり条件(曲げ半径)との関係を評価した。

試作光ファイバーにおいて 3 つのモードの光信号がコア間で結合する状態を観察した実験例。設計した曲げ条件(曲げ半径R=50mm)では3種類の光信号の遅延分布が時間軸上で一致、結合状態となった

 R=140mmの場合、青の信号と黄もしくは橙の信号の到達時間に大きな偏差が見られた。しかし、Rの縮小とともに到達時間の偏差も減少し、本設計例の最適条件としたR=50mmにおいて、3モードの光信号の到達時間分布が一致した(伝播遅延差がなくなり、結合状態となった)。これにより、全光信号の完全結合ができたことを確認し、全コア間・全光信号間の完全光結合を世界で初めて実証した。

 なお、IOWNでは現在の伝送容量の伝送容量の125倍を実現することを目的としており、本成果は、既存光ファイバーの10倍超の大容量化を可能とするMCFの設計に、新たな選択肢が加わったとしている。