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NTT、世界初となる10空間モード多重光ファイバーを用いた1300kmの光増幅中継伝送に成功

IOWN構想やBeyond 5G/6Gの基盤技術に

 日本電信電話株式会社(NTT)は、従来の光ファイバーと同じ直径を保ちながら伝送容量を10倍に拡張可能な「空間モード多重光ファイバー」による、世界最長となる1300kmの10空間モード多重信号の光増幅中継伝送に成功したと発表した。これにより、光ファイバーあたりの伝送容量の飛躍的な向上を見込めるとしている。

従来困難であった空間多重数&長距離の伝送を実現

 通信需要の増大が続き、従来の光通信システムの限界が見えている中、次世代の光通信システムの基盤技術として、光ファイバーの中における光の通り道(モード)を増やす空間分割多重技術が注目を集めているという。

 今回の研究に用いられた空間モード多重光ファイバーは、空間分割多重技術の一形態であり、従来のシングルモード光ファイバー(SMF)に対してマルチモード光ファイバー(MMF)と呼ばれる。

 MMFによる転送はSMFと同じ直径(標準クラッド径)のまま10以上の多重数へ容易に拡張できる。しかし、光信号の受信側で情報を取り出す際に、伝送途中に発生する異なる空間モードの光信号の混じり合い(空間モード結合)や、空間モード光信号ごとの受信器への到着時間のずれ(モード分散)によって生じる信号波形歪みを、受信機におけるMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)型デジタル信号処理によって取り除く必要がある。

 空間モードが増えるほど、距離が長くなるほどモード分散の影響が大きくなり、それに応じて要求されるMIMO信号処理の処理量がボトルネックとなることから、空間多重数の拡張と、光信号の長距離伝送を両立することは、これまで困難だった。

マルチモード光ファイバーを用いた長距離伝送の動向と、今回の研究の成果の位置付け

受信器内でのMIMO信号処理量を低負荷化することで、長距離伝送を可能に

 今回の研究では、空間モード多重中継増幅器に適用可能な拡張巡回モード群置換技術を研究開発し、空間チャネル間の伝送特性偏差を平準化。具体的には、これまで6つの空間モード多重伝送で検討してきた技術を拡張し、より多くの空間モードを持つ光伝送路向けに対応可能な、拡張巡回モード群置換技術を提案したという。

 同技術では、10以上の空間モード多重伝送を行う際に顕在化する各空間モードの光伝送特性差(光損失、伝搬遅延時間など)を平準化するために、光増幅中継器において、空間モード間での強制的な光信号の入れ替え(置換)を効率的に行う。その結果、モード置換に伴う信号損失劣化を低減しながら、伝送中に累積するモード分散を抑圧できるため、受信器内でのMIMO信号処理量を低負荷化でき、結果として長距離伝送が可能になるとしている。

 これによって、従来の記録の10倍以上の伝送距離に相当する、世界最長の1300kmにわたる10空間モード多重光伝送実験に成功した。

 そして、この技術により、これまでの光ファイバーと同じ直径のMMFにより、10以上の空間多重信号を長距離伝送できることを世界に先駆けて示したとしている。

研究で提案した拡張巡回モード群置換技術

 同研究の成果の技術詳細は、米国で開催される国際会議「OFC 2023」の伝送部門におけるトップスコア論文として、現地時間3月6日に発表された。

 NTTでは、今後、10空間モード多重級の光信号を効率よく処理可能なMIMO信号処理を用いたシステム実現技術の確立を目指すとしている。そして、増大するトラフィックを収容可能なペタビット級の超多重スケーラブル光ネットワークの実現に貢献するとともに、同社が提唱するIOWN構想や、Beyond 5G/6G時代の大容量光伝送基盤の実現を推進していくとしている。