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データセンター内などの通信に革新的技術、NICTが短距離光通信向け光コヒーレント伝送方式を開発し高速光信号伝送に成功

光コヒーレント伝送実験システム

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は10月31日、短距離光通信における簡易な装置構成による光コヒーレント伝送方式を開発し、毎秒400ギガビット(400Gbps)級の高速光信号伝送に成功したと発表した。今後、データセンター内のネットワークなどの大容量化に向けた革新的技術として期待されるという。

 光コヒーレント伝送方式とは、光の強さ(強度)と位相(波としてのずれ)の両方に情報を乗せる多値変調を利用し、効率的に大容量伝送を可能とする方式で、大容量・長距離向けの基幹系通信では実用化されている。なお、現在の一般的な光伝送は、光の強さのみを使用している。

 近年の急激な通信量の増加により、短距離光通信においても毎秒400ギガビット(400Gbps)を超える通信速度が要求されてきているという。現在の短距離光通信では「強度変調・直接検波方式」という方式が採用されているが、さらなる大容量化には、光コヒーレント伝送方式が有効とされる。しかし、光送受信器の複雑さやデジタル信号処理の負荷などによるコスト面や消費電力に課題があり、短距離光通信では実用化されていなかった。

NICTの技術により「自己ホモダイン検波方式」の光送受信機を開発

 NICTでは、今回の実験にあたり、これまで原理検証に留まっていた「自己ホモダイン検波方式」の光送受信器を開発した。「検波」とは受信した光から信号を検出すること。光コヒーレント伝送の検波方式には自己ホモダイン検波方式のほかに「光ヘテロダイン検波方式」「光ホモダイン検波方式」もあるが、自己ホモダイン方式は、光の送信側・受信側ともに、高精度な狭線幅レーザーなどの装置が必要になる。

 自己ホモダイン検波方式は、送信側・受信側ともに簡易な装置構成で実現できることが特徴。NICTはこれまでも同方式の送受信器の高度化の研究を進めており、特許登録していたという。

光コヒーレント伝送の検波方式の比較
実用化されている検波方式とNICTが提案する自己ホモダイン検波方式の構成比較

 実験で使用した自己ホモダイン検波方式の光送受信器のうち、光送信器は、短距離光通信で一般的な(狭線幅でなく、線幅が太い)レーザーと、100GBaud(ギガボー。Baudは信号変化の速度を表す指標)以上で動作する高速光変調器が用いられた。光受信器は、NICT独自の高速光検出器の機能的な組み合わせとデジタル信号処理を持ち、高速化と偏波無依存化を実現したという。

 伝送実験では、光送信器から「16QAM」という変調方式で360Gbps/90GBaudのコヒーレント信号と、パイロットキャリアを同時に送信。光受信器においてホモダイン検波することにより、高速光コヒーレント伝送を実証した。従来の自己ホモダイン検波方式の光受信器では、時間的に変化するパイロットキャリアの入射偏波状態により、受信信号品質が変化することが問題だったが、今回開発した偏波無依存型の光受信器では、安定した信号再生に成功した。また。一般的なレーザーでも受信信号品質が大きく変わらないことも確認できたとしている。

今回の実験装置の構成

 NICTでは今後、今回開発した高速光コヒーレント伝送方式と波長多重技術や空間多重技術を組み合わせることにより、毎秒10テラビットを超える短距離光通信技術を確立していきたいとしている。

 なお、同実験結果の論文は、光ファイバー通信関係最大の国際会議の1つである第48回欧州光通信国際会議(ECOC 2022)において、最優秀ホットトピック論文として採択され、現地時間9月22日に発表された。