期待のネット新技術
屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年4月7日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
光を通すコアやクラッドなどで構成される「光ファイバー」の構造
ちなみに前回、さらっと「マルチモード光ファイバー」と書いたが、光ファイバーには実際には何種類かあり、その断面図は以下の図1のようになっている。
- コア:光を通す中核部分
- クラッド:ここも光を通す部材だが、コアに比べて屈折率の高い材質で構成され、全反射という現象により、コアを通る光がクラッド側に逃げ出すことなくコアの中に封じ込められる。要するに光の封じ込めを行う層
- コーディング:一次被膜などとも呼ばれ、外部からの衝撃を和らげる衝撃吸収性のある部材を使うことが多い
- サポート:二次被膜とも呼ばれ、内部が破損しないように(コーディングに比べて)丈夫な素材で構成される
- ジャケット:要するに「皮」である
長距離向けのシングルモード、低コストのマルチモード、材質は石英ガラス
さて、今では非常に多くの種類がある光ファイバーだが、前回も紹介した「10BASE-F」が標準化された1993年当時は、大別して以下の2種類で、材質はいずれも石英ガラスだった。
- シングルモード光ファイバー
- マルチモード光ファイバー
この少し後には、材質としてプラスチックを利用するマルチモード光ファイバーが追加されて3種類となったものの、要するにシングルモードかマルチモードの違いであることは同じだ。その違いを示したのが以下の図2となる。
シングルモードの場合、コアの直径は10μm未満と大変に細く、ここを直進するかたちで光が伝わることになる。この経路を「伝搬モード」と呼ぶのだが、シングルモードとは要するにこれが1つ(直進のみ)という意味だ。
対してマルチモードの方は、コアの直径そのものは50μm以上(昨今だと1mm近いものもある)と、シングルモードに比べてずっと太く、光はここを反射しながら伝わることになる。当然入射角に応じて光が伝搬する経路というか伝搬モードは無数に考えられるわけで、複数のモードを持つことからマルチモードと呼ぶわけだ。
両者にはそれぞれメリット・デメリットがある。シングルモードの場合、最短距離で接続できる(マルチモードは当然、伝搬経路が長くなる)ので、特に長距離接続になった場合に、光の減衰を最小に抑えられるメリットがあり、長距離伝送用に広く利用されている。
その一方で、シングルモードはコアやクラッドの直径が非常に小さいため、機械的強度はマルチモードと比べてはるかに劣る。このため、コーディングやサポートを強固なものにすることで、コアやクラッドを保護する必要がある。
さらに、シングルモードではファイバーの中心に、断面に対して垂直(ファイバーに対して平行)の向きにきちんと光を入射させる必要がある。これを実現するため、コネクタやレセプタクルのメカニカルな機構(ファイバーの保持機能やレーザーソースの角度合わせ精度など)が高コストになる問題もある。
一方のマルチモードは、コアの直径が太いため機械的強度も高く、そもそも入射光がファイバーと並行でなくてもいいため、コネクタやレセプタクルを低コストで実現できる。ただし、シングルモードに比べると光の経路が長くなる関係で、減衰が激しくなりやすい。結果、長距離伝送には向かず、短距離のみとなる。
このマルチモード光ファイバーのコア/クラッドの材質を、石英ガラスからプラスチックに置き換えると、コストが下がることに加え、柔軟性も高くなるメリットがある(石英ガラスは曲げ強度が高いが、これは逆に言うと小さくは曲げられないという意味でもある)。
ただし、光の透過率は石英よりも劣るので、石英ガラスベースのマルチモード光ファイバーよりも、さらに到達距離が短くなる。
もっとも、10BASE-F策定当時の1993年は、まだ光ファイバーと言えば石英ガラスベースのものが主流で、プラスチック製のものはほとんどなかったと記憶している。
10BASE-Fの仕様としては信号の伝達特性が規定されているだけで、これを満たすことができれば、石英ガラスだろうがプラスチックだろうが構わない、という話である。
長波長での透過率を引き上げたフッ化物ガラスとカルコゲナイドガラスただし、光Ethernetは石英ガラスやプラスチックが依然主流に
ついでに、昨今の光ファイバーの材質や構造についても、少し紹介しておこう。ガラスベースのファイバー素材に関しては、その後フッ化物ガラスやカルコゲナイドガラスなどが追加されている。
石英ガラスの特徴は、非常に広い波長で一様に高い透過率を持つ(だいたい150~5000nmあたりで、90%以上)ことだが、これは理論上の話であって、実際には波長が長くなると透過率が落ちる(光が減衰しやすくなる)ことが多い。
そこで、ZrF4/BaF2/LaF3/AlF3/NaFなど、さまざまな添加物を加えて、長波長での透過率を引き上げたのがフッ化物ガラスであり、特に光Ethernetが帯域を広げるべく長波長の光を使い始めるようになったことで、これらが使われることも増えてきた。
一方のカルコゲナイドガラスはS/Se/TeとGe/As/Sbなどの化合物からなり、こちらも長波長での透過率がいい特性を示すため、やはり利用されるケースが増えている。もっともこちらは光Ethernet用というより赤外線レーザー向けという位置付けだし、フッ化物ガラスも光Ethernet用はごく一部で、それよりも、その途中に挿入される光アンプ向けとしての用途の方が多い。
光Ethernet向けとしては現在も、石英ガラスやプラスチックを利用するのが引き続き一般的だ。もちろん、そのプラスチックについても材質の見直しが進んでおり、より優れたプラスチック光ファイバーが登場してきている。
クラッドやコアの構造や屈折率が異なる「SI」「GI」「DCF」「PCF」
構造についてもいろいろ見直されている。例えばマルチモードについて、図2下側(と図3上側)の構造は「SI(Step Index)」型と呼ばれるもので、コアは屈折率が高く、クラッドは屈折率が低い構成となってはいるが、コア内部の屈折率としては一様である。
これに対して「GI(Graded Index)」型と呼ばれるものは、コア内部の屈折率が、中央は高く周辺部は低いという連続的な構成(図3下照)となっている。こうした構造になると、図3上側に示すように、光はSI型に比べてコアの比較的中心部を通るようになることで、SI型よりも光が伝搬する距離が短くなり、より長距離へと到達できるようになる。
また、図1の構造ではクラッドは1層であるが、クラッドを2層構成にした「DCF(Double Clad Fiber)」と呼ばれるものも登場した。こちらは光をコアと1層目のクラッドの両方に通せるので、例えば2本の光ファイバーが必要になるところを1本で済ませることが可能だ。
この理屈を応用すると、クラッドの数を増やせば、それだけ同時に多数の光信号を通せるようになりそうなものだが、そもそもクラッドの厚みはコアの直径よりも小さいため、クラッドに光信号を送り込み、クラッドから光信号を取り出すのはそれなりに大変で、現時点ではDCF以上にクラッド層を増やした構成を聞いたことはない。
このほかに、「PCF(Photonic Crystal Fiber)」と呼ばれるものもある。これは図4のように、コアの内部に微細な穴(ホール)を穿つ構造となる。
この穴には空気(屈折率≒1.0)が通されていて、一方でコアそのものの屈折率は、例えば石英ガラスなら1.46などとなるので、結果的にコアの中心部のすぐ外側にクラッドが置かれているのと同じ効果がある。ちなみに図4の配置は単なる例で、実際にはいろいろな構造が研究・実用化されている。
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