期待のネット新技術

10Gbpsのフレッツ光やauひかりで使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

 IEEEで標準化された光ファイバーを用いる10G Ethernetは、前回紹介した6つのほかにも「10GBASE-LRM」と「10GBASE-PR」がある。

「10GBASE-LR」から派生、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」

 10GBASE-LRMは、結果的に言えば「10GBASE-LR」の派生型であるが、10GBASE-LRとの最大の違いはマルチモードファイバーを使う点だ。最終的には「IEEE 802.3aq-2006」として標準化されたが、そもそも2004年に立ち上がった「802.3aq Study Group」の目的は、以下のように「10GBASE-R」を使いながら、FDDIなどで使われていた50μm/62.5μmのマルチモード光ファイバーを利用できるようにしたい、というものだった。

ここにあるように「既に500MHz・kmの光ファイバーが敷設されており、これを利用して何とか10Gbpsを通したい」というのが最大の動機と思える。出典は"10Gb/s on FDDI-grade MMF Cable Objectives"

 光ファイバーを再敷設するには、場合によっては建物自体を解体するか、既存の配線路を放棄して建物の外壁を沿うように敷き直し、壁に穴をあけて屋内に取り込むかのいずれかを選ばなければならないような状況もしばしばあり、時として猛烈なコストが掛かってしまう。

 このため敷設したファイバーを何とか再利用したいというのは分からなくもない。ただ、10GBASE-Rの場合、OM1~OM2で33~400m(10GBASE-SR)、OS2で10km(10GBASE-LR)となっている。それぞれの光ファイバーの特性については第4回の『実効1Gbpsに到達、「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」が1998年に策定で紹介した通りだ。

 上のスライドで示されている、50km・MHzのマルチモードファイバーに10Gbpsを通す場合、到達距離は本来なら50mくらいまでが限界になる。実際、同じ500MHz・kmの容量を持つOM2を利用する場合、「10GBASE-SR」の到達距離は最大82mでしかない。これを最低でも220mに伸ばしたいというのだから、なかなか難しい。

 10GBASE-LRMでは最終的には1300nm(仕様上は1260~1355nm)の光源を用いることで、最大220mの到達距離という目標を達成している。もっとも、光源を1300nmにすれば達成可能との検証(シミュレーションにより、さまざまなシナリオを相当数繰り返す)は、2004~2005年にかけて延々と行われていて、簡単に実現できたわけではなく、最終的には以下のようなかたちとなった。

50μmで400/400(850nmと1300nmでどちらも400MHz・km)という光ファイバーの規格もあったようだ。出典は「IEEE 802.3-2018」のTable 68-2

 50μmで400/400という規格については、既に敷設されたファイバーをなるべく生かすとの観点から、こうしたものも必要になったようだ。これが「10GBASE-SRM」ではなく10GBASE-LRMと命名されたのは、1300nmの光源を使う(10GBASE-SRは850nm光源)ためだろう。到達距離の観点から見れば、明らかにSRの範囲に収まっているからだ。

 この10GBASE-LRMは、現在も現行仕様として利用されている。市場はより高速な100G Ethernetへとシフトしつつあるが、もともと10GBASE-LRMの目的が、既存の「FDDI」などのケーブルの延命であり、100Gbpsはさすがに無理と理解されたのかどうか、今のところこれを100Gbps化するという話は出ていない模様だ。

「10GBASE-PR」はフレッツ光やauひかりの10Gbps回線で用いられる「10G-EPON」そのもの

 もう一方の「10GBASE-PR」は、第5回の『アクセス回線が10Gbpsに到達した「10G-EPON」、「IEEE 802.3av」として標準化』でも説明した「10G-EPON」のことだ。

 こちらは2009年9月、「IEEE 803.3av-2009」として標準化が完了し、現在まさに広く使われるようになり始めている。2018年には「auひかり ホーム 10ギガ」で採用され、2020年4月からサービスを開始した「フレッツ 光クロス」でも採用されている。

 世界的に見ても、まだ10GbpsのFTTHが提供されている国はそう多くない。逆に言えば今後、世界各国でラスト1マイルの回線が次第に高速化へ向かう(皮肉ではあるが、各国でロックダウンが行われたことも、この後押しとなるだろう)ことを考えると、10GBASE-PRはこれから本格的に普及が進み、おそらく2030年台を迎えても、まだ利用されているものと思われる。

 なお、昨今の「IEEE P802.3ca TG」のドキュメントを読んでいると、10G-EPONは2025年あたりまで使われ、その後100G-EPONへシフトするといった議論になっている。だが、個人的には100G-EPONの登場はもう少し後になるのではと考えている。あるいは、1G-EPONから10G-EPONをスキップして100G-EPONへ直接移行する場合もあるかもしれない。

「10GBASE-X」の物理層との接続に使われる「XGMII」

 ところで、「10GBASE-X」の話をもう少し続けよう。10Gbit Ethernet全体の構造は以下の図のようになっている。RS層までは規格によらず全て共通で、物理層のみが違う格好となっているわけだが、その物理層との接続は、10Gの「MII」ということで「XGMII」と名付けられている。

ここでいう10GBASE-Xは、10GBASE-CX4/KX4/LX4の3つを指している。出典は3comのDavid Law氏の"Overview of 10G Ethernet Family"

 ただ、XGMII以外にもインターフェースがあり、それが「XAUI」である。以下のスライドからも分かるように、XGMIIは156.25MHzのクロック信号で、データは倍速(DDR)の312.5Mbpsが、32レーン構成で送受信される。312.5×32=10000で、ちょうど10Gbpsになる計算だ。

XAUIはあくまでオプション扱いとなる

 ただし、送受信だけで64本の信号線(ほかに制御線4本とクロック)が必要だから、かなり大規模なインターフェースと言える。1枚の基板上でMACとPHYを繋ぐだけであれば、これでも困らないだろうが、前々回で紹介したようなSFPタイプのモジュールの接続には、あまりに信号線の数が多すぎる。

 一応言い訳を書いておけば、まだ2000年当時には、高速信号のハンドリングに関する知見がそれほど溜まっていなかった。もっと正確に言えば、技術的にはもちろん10Gbpsの信号を扱えるものの、まだかなり高価だったわけだ。その2000年といえば、ちょうどIntelやAMD製CPUの動作周波数が1GHzを超えたころのことだ。

 もちろん、CPUの内部では信号が1GHz以上の速度で転送されているが、外部インターフェースであるFSB(Front Side Bus)の速度は、まだ100MHzあるいは133MHzが最高速で、I/Oだって33MHzのPCIが全盛だったころだ。

 そののちの2003年に登場したPCI Express 1.0の信号速度は2.5GT/secだったが、当初はこの信号の取り回しにもずいぶん苦労した。幸い(?)だったのは、IntelがRambusからライセンスを取得した「DRDRAM(Direct RAMBUS DRAM)」を1999年あたりからメインメモリに採用し始めていたが、DRDRAMの信号速度は600MHz(PC600)ないし800MHz(PC800)と、それまで使われてきたSDRAMに比べてかなり高速であり、当初はこれを扱うために6層基板が必要とされた。

 ただ、基板材料の改善や、製造技術の発達(よりバラつきの少ない基板配線の製造など)により、2000年台後半には通常の4層基板でも1GHz程度の信号を扱えるようになった。そして3GHzの信号でも、以前より低価格で扱えるようになった。

 ビジネス的には大失敗だったDRDRAMだが、結果的には基板設計や製造技術の底上げがこの時期に実現されたきっかけとなり、ネットワーク向け製品の製造にも貢献した。

 ただ、2000年の時点では、こうした動きはまだ予見できなかった。ASICそのものは500MHzや1GHzでの動作が不可能ではなかったが、外部の配線の信号速度までをそこまで高くするのはかなり勇気が必要で、どうしても低く抑えざるを得なかった。

 それでも、156.25Mbps×64本は、流石に信号線が多すぎた(双方向だと128本にもなるため)。このあたりを勘案してぎりぎりのバランスを取ったのが、312.5Mbps×32本という構成だったのだろうと思われる。

 ただ、10GBASE-Xの場合は、4本の配線でトータル10Gbpsを実現するから、これを4対の信号に分解する必要があった。そこで2.5Gbpsの信号速度に8b10bエンコードを組み合わせて、3.125Gbps×4としたのが、XAUIとなるわけだ。

 先のスライドでは、XGMIIから直接8b10bエンコードが出力されているように見えるが、実際はRSの下にXGXSという変換層が入り、ここが8B10Bエンコードを行っているかたちだ。ただ、上にも書いた通り、これでSFPタイプのモジュールを接続するときに、XGMIIはそもそも論外で、XAUIでも少し本数が多いと判断された。そこで利用された非公式のインターフェースで、次回に詳しく解説する「XFI」となる。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/