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SWDMを用いた100/40Gbpsの光Ethernet規格「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年11月24日 07:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/640GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
SWDMを用いた光Ethernet規格の確立を目指す「SWDM Alliance」
ということで、今週からはIEEE非標準の光Ethernet規格を紹介していく。まず最初の「SWDM Alliance」は、2015年9月に結成された。創立メンバーはCommScope、Corning、Dell、Finisar、H3C、Huawei、Juniper Networks、Lumentum、OFSの9社だ。
ちなみに、2019年9月20日に買収されたFinisarの社名は現在、買収先であるII-VI Incorporateとなっている(それを言えばDellも今はDell EMCになったが)。その後、アンリツ、Hisense、Huber+SUHNER、inneos、Panduit、Prysmian Group、Superior Essex、駿河精機、YOFC(長飛光繊)が加わり、現在は18社のメンバー企業で構成されている。
SWDM Allianceの目的は名前の通り、「SWDM(Shortwave Wavelength Division Multiplexing)」を利用した光Ethernet規格の確立である。SWDMは、基本的にWDMの一種というか、異なる波長の光を重ね合わることで1本の光ファイバーへ複数波長を通すことで、結果的に広い帯域を容易に得られるようにする仕組みである。
ただ、そもそもWDMは主に長距離通信向けに開発されてきた歴史的経緯もあり、主に利用されるのは、SMF向けに1000nm以上の波長を持つ光源だった。
少し古い話だが、こちらの記事で紹介した「100BASE-BX10」が1310nmと1550nmの光源を利用するのに対し、SWDMは1000nm未満、具体的には波長846~953nmの光源を利用してWDMを構成しようという仕組みだ。ちなみに40Gbpsでは2~440m、100Gbpsでは2~150mの到達距離を見込んでいる。
これを利用することのメリットは、MFMが利用できることだ。データセンター内や、ラック内の配線としてSMFを使うのは、技術的には可能ながら価格の面が厳しい。そこで、安価なMMFを利用可能な40~100GbpsのEthernet規格を、という声に応えるべく、SWDMを利用したMMF対応規格の策定に向け、SWDM Allianceが結成されたわけだ。
100Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と40Gbpsの「40G-SWDM4-MSA」
ちなみに、SWDMの基本的な仕組みが以下だ。4つの光源を利用し、これをWDMでまとめることで通信速度を引き上げるという理屈である。面白いのは、SWDM Allianceでは「40G-SWDM4-MSA」と「100G-SWDM4-MSA」の2つの規格を定めているが、構造はどちらも同じとなっていることだ。
つまり、40Gbpsの場合は10Gbps×4、100Gbpsの場合は25Gbps×4となる。利用する波長は送受信とも以下であり、40Gの場合は10.3125GBd±100ppm、100Gの場合は25.78125GBd±100ppmとなる。
- L0:844~858nm
- L1:874~888nm
- L2:904~918nm
- L3:934~948nm
細かいパラメーターには微妙に異なる箇所は当然あるものの、おおむね変わりはない。妙な点は、100G-SWDM4-MSAではL0~L3のRMS spectral Widthが全て0.59nmとなっているが、40G-SWDM4-MSAはなぜかL0だけ0.53nm(L1~L3は0.59nm)に設定されていて、相違が見受けられる点だろうか。
ちなみに光ファイバーはOM3/4/5を利用することになるが、波長がこれだけ異なると、Bandwidthがレーンごとに異なるという、やや厄介なこととなっている。到達距離については、40G-SWDM4-MSAと100GBASE-SWDM4-MSAのどちらも、当然ながら最も条件が厳しいL3にあわせて定めることになる。
レーン | OM3 | OM4 | OM5 |
L0 | 2108 | 4606 | 4700 |
L1 | 1782 | 3294 | 3700 |
L2 | 1523 | 2480 | 2880 |
L3 | 1319 | 1981 | 2500 |
※(単位:MHz・Km)
また、Specificationによれば、以下の到達距離の確保が要求されている。ちなみに変調方式は「NRZ」で、特に凝ったことはしていない。
レーン | OM3 | OM4 | OM5 |
40G-SWDM4-MSA | 2~240m | 2~350m | 2~440m |
100G-SWDM4-MSA | 2~75m | 2~100m | 2~150m |
100G-SWDM4に最適なトランシーバーモジュール「QSFP28」
トランシーバーモジュールには「QSFP28」の利用が念頭にあったようで、ホワイトぺーパーにもQSFP28を利用した構造図やモジュールが実際に示されている。
QSFP28は、こちらの記事で紹介した通り、NRZで100G、PAM-4で200Gを狙ったモジュール規格となるため、100G-SWDM4には最適と言える。
一方の40G SWDM4であるが、Specificationには以下の英文があり、基本QSFP+のモジュールを利用することになっていた。
Different form factors for the transceivers are possible. Initial implementations are expected to use the QSFP+ module form factor. Other form factors are possible and are not precluded by this MSA.
(さまざまなフォームファクターを利用できるが、最初の実装では「QSFP+」の利用を想定しており、MSAはほかのフォームファクターのことは考慮しない)
ただ、現実問題として、40G SWDM4対応のQSFP+モジュールを探しても、II-VI(旧Finisar)のモジュールと、その後継製品くらいしか見付からなかった。
要するに40Gのモジュールはもう求められていなかった、ということなのかもしれない。Finisarは2017年9月に初代モジュールの出荷を開始しているが、そもそも40G-SWDM4の目的は、1対のMMF Fiberで40Gbpsに対応できるというものだから、可能性としては、既に導入されている「10GBASE-SR」あたりからの置き換えということになる。
ところが、もうバックボーンはとっくに10Gでは足りなくなっていた。それこそ「100GBASE-SR10」あるいは「100GBASE-SR4」を導入したり、といった頃だ。この時期に40Gのモジュールを出しても、今さら遅かった、というあたりではないかと思う。
ちなみにFinisarのモジュールのデータシートを読むと、冒頭に「Allows upgrades from 10GBASE-SR without changing fiber plant」と書かれており、基本的には10GBASE-SRからの置き換えを狙っていたようだが、あいにくそうした顧客はそれほどいなかった、ということだろう。
一方の100G-SWDMモジュールの方は、消費電力も3.5W未満と低く、既存のMMFも活用できる。
妙な話だが、100GBASE-SR10を導入すべく大量のMMFを敷設した顧客が、モジュールを変えるだけで利用帯域が10倍になる。要するに数にして10倍のモジュールを、ケーブルを変えずに利用できるわけだ。これもあって、既存のデータセンターの更新などの際に採用される事例が少なくなかったと聞いている。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
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