期待のネット新技術
最大100Gbpsで到達距離100mの「100GBASE-SR4」と40Gbpsで40kmの「40GBASE-ER4」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年7月21日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
「100GBASE-SR4」と「40GBASE-ER4」、オプションで「CAUI-4」を定義した「IEEE 802.3bm-2015」
前回までのように、「P802.3bm」ではAUIの変更まで含む、IEEE 802.11baのブラッシュアップを目論まれていたが、そうした思惑はともかく、議論そのものは比較的順当に進み、2013年5月にはDraft 1.0がリリースされる。
このDraft 1.0では「100GBASE-SR4」と「40GBASE-ER4」、それと「CAUI-4」が主なトピックで、これらを標準化するために必要なもろもろが追加された、というかたちだ。CAUI-2やCAUI-1に関しては、少なくともP802.3bmでは先送り(というか議論の対象外)となった。
それでもまだ2013年7月のミーティングでは、100GBASE-PAM8に関する提案のアップデートが提出されたりはしたが、Draftには含まれていない。2004年1月の時点では、おおむね2015年3月に標準化完了との予定が立てられ、実際もこれに沿って2015年3月に「IEEE 802.3bm-2015」の標準化が完了した。
そのIEEE 802.3bm-2015で定義されたのは、上に書いた通り100GBASE-SR4と40GBASE-ER4の2つとなる。加えてCAUI-4が、Annex 83DとAnnex 83EにOptionalとして定義が追加されている。
最大100Gbpsで到達距離100mの「100GBASE-SR4」、「FEC」を利用
100GBASE-SR4は、850nm(840nm~860nm)の光源を使い、OM3で70m、OM4で100mの到達距離を実現。1本あたり25.78125Gbpsで、4本で103.125Gbpsという速度となる(64B66Bエンコードを使うので、実質的なデータ転送速度は100Gbps)。
100GBASE-SR4が100GBASE-SR10と異なるのは、「FEC」が利用されていることだ。以下が100GBASE-SR4における物理層の構成となるが、「PCS」と「PMA」の間に「RS-FEC(Reed-Solomon Forward Error Correction)」が入っているのが分かるかと思う。
100GBASE-SR4は、FECがない場合のBERは5×10^-5と、恐ろしく高い。これは要するに5Mbitごとに1bitのエラーが入るというレベルだ。100Gbpsでの通信なので、50μsecごとに1bitエラーが出る、という方が分かりやすいかもしれない。
これをカバーするためにRS-FECを利用することで、「FLR(Frame Loss Ratio)」を6.2×10^-10未満に抑えるとしている。ここで言うFrameは64 Octet(=512bit)なので、実質的にBERはFECを利用することでほぼ10^-12に相当することになる。
これだとエラー頻度は10秒に1回程度となるので、十分許容範囲だろう。ちなみにこのRS-FECは100GBASE-SR4特有のものではなく、100GBASE-R向けに共通の仕様となっている。だが、100GBASE-LR4や100GBASE-ER4ではこれを必要としておらず、やはりマルチモードファイバーを使う関係から850nmの光源を使う点が、FECを必要とした理由と考えられる。
ちなみにこのRS-FECについては、使った場合と使わない場合のシミュレーション結果が2012年7月のMeetingで示されている。FECなしだと、OM3/OM4ともに到達限界が50mとなり、OM4で100m以上の到達距離を実現するためには、RS-RECが必須だったかたちとなる。
到達距離40kmで40Gbpsの「40GBASE-ER4」、「40GBASE-LR4」を拡張
一方、40GBASE-ER4の方は、基本的に40GBASE-LR4の拡張といったかたちとなっている。実際、利用する光源の波長も、利用する光ファイバーもOSxで同じだ。異なるのは細かなパラメーターで、送信側(以下左)はむしろ出力がやや下がっているが、受信側(以下右)の感度が大幅に引き上げられ、これで帳尻を合わせる格好だ。
ちなみに、100GBASE-ER4の到達距離は2~40kmということになっているが、OSxでサポートされるのは30kmまでだ。これを超える距離で利用する場合、光ファイバーの減衰値の仕様が、IEC 60793-2-50で定められるSingle Mode Fiberのtype B1.1/B1.3/B6_aの各仕様の最悪値を下回ることが要求されている。
25Gbps×4の「CAUI-4」、等長配線あるいはRetimerの搭載が必須でコスト高に
あとはCAUI-4の話である。先でAnnex 83Dと83Eに仕様が追加されたと書いたが、Annex 83DはChip-to-Chip(以下左)、Annex 83EはChip-to-Module(以下右)の場合をそれぞれ想定したものなので、電気的に言えば違いはあるのだが、大枠で言えばそれほどの違いはない。
信号速度は1レーンあたり25.78125GbpsのDifferentialで、これが4対ということになる。従来のCAUI(CAUI-10)やXLAUIのように、1レーンあたり10Gbpsの信号速度であれば、PCI Express Gen3(8Gbps)より少し高速という程度なので相対的に難易度は低いが、CAUI-4は25Gbpsなので、PCI Express Gen4よりさらに高速となり、配線の取り回しなどにも注意する必要がある。
Specificationでは、実際にどの程度の距離を取り回せるといった数字は、基板や配線の材質などでも大きく変わるため出ていない。あくまでも挿入損失を7.3dB以内に抑えるように、という指示が出ているだけだ。
ちなみにCAUI-10の場合、全体で10.5dB以内であり、コネクタが0.5dB、モジュール内が2.1dBで、基板上の配線は7.9dBでしかない。なにより、CAUI-10では信号速度が5.15625GHzの場合の数字であり、それもあって難易度はかなり高くなっている。
なぜか、という話が以下左のスライドだ。例えば16ポートや32ポートのスイッチでは、スイッチ用ASICからそれぞれのモジュールのコネクタ部まで配線を引っ張る必要がある。そのとき等長配線である必要があって配線を直線的にするわけにはいかず、結構なルーティングが必要になる。
その等長配線の例が以下の右だ。赤枠部分が分かりやすいが、こうしたウネウネとした配線がほかにもあちこちで見られるかと思う。これは64bit分の信号がチップからソケットまで等しい距離になるよう、短く繋がりそうな配線で迂回を行って距離を稼ぐという仕組みだ。
CAUIの場合はDifferentialで、しかも1モジュールあたり4対(全二重なので実質16本)で済むので、64本のDIMMモジュール向け配線より楽と言えば楽かもしれないが、上のCAUI-4 Applicationsのスライドの左の例で、レイテンシーが中央のモジュールは低く、両端のモジュールは長いといったことになれば、商品構成上の問題が出かねない。このため、すべてのモジュールとスイッチ用ASICの間の配線は等距離となるよう配慮されるのが普通だ。
となると、配線長は案外長くなる。この例では250mmとされているが、おそらくはギリギリだろう。純粋に技術的な側面から言えば、1つのスイッチ用ASICから全モジュールへ配線するのが諸悪の根源であり、例えば1つのASICから引っ張り出すモジュールへの配線の数は4つまで、などとして、16ポートなら4つ、32ポートなら8つのASICを搭載し、相互に高速リンクで繋ぐというやり方がある。ただしこれは当然ながらコスト上昇に繋がるため、あまり好まれる方法ではない(というか、普通は嫌がられる)。
こうしたときの次善の策がRetimerの搭載だ。ReTimer、あるいはReDriverなどと呼ぶこともあるが、要するに信号波形を補正してくれるバッファーのことである。具体的には「CTLE(Continuous Time Linear Equalizer)」と呼ばれる、劣化した信号を改善する仕組みに加え、信号の高域成分が強めに出ているのを抑える仕組みであるDe-Emphasisなどを組み合わせて、長距離伝達で劣化した信号を、利用できるレベルへ補正するチップだ。
ReTimerとReDriverの違いは(業界的な定義で言えば)、「CDR(Clock Data Recovery)」の機能を持つか否かだ。CAUIの信号には、64B66Bエンコードによってクロック信号や制御信号が埋め込まれている。CDRは元々のデータと、クロック/制御信号を分離し、それぞれ補正を行った後に再び合成して出力してくれる。
逆にReDriverではこの分離を行わない。データと、クロック/制御信号が一体になった状態の信号を、そのまま補正するかたちとなる。どちらがいいか? と言われると、CAUIの場合にはReTimerの方が効果的である。ただ、これは要するにCAUI-4を使う場合には、CAUI-10では不要だったReTimerが必要になるという意味で、コスト上昇には繋がるため、その意味で難点となった格好だ。
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