期待のネット新技術

2.488Gbpsのアクセス回線向け規格「G-PON」、ITUが「G.984.1/2/3/4」として標準化

【アクセス回線10Gbpsへの道】(第4回)

 NTT東が、光ファイバーを用いたインターネット接続サービス「Bフレッツ」の提供を2001年に開始して以来、そのスピードは、当初の10M/100Mbpsから高速化を続け、2015年にソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供を開始した「NURO 光」の新プランで、ついに10Gbpsに達した。2017年には、「NURO 光 10G」の対象地域が拡大するなど、多くの地域で10Gbpsのインターネット接続サービスが利用可能になっている。今回は、ITUが「G.984.1/2/3/4」として標準化した2.488Gbpsのアクセス回線向け規格「G-PON」について解説する。(編集部)

 「E-PON」や「GE-PON」(ちなみにIEEEでは正確には「G-EPON」と表記する)は、IEEEによって仕様が策定されたが、ITUではこれと並行して別の規格を制定していた。それが「G-PON」である。

B-PONの後継規格「G.984.1/2/3/4」としてITUが策定

 G-PONは、「ITU-U(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)」(国際電気通信連合電気通信標準化部門)が2001年から策定を始めていた「B-PON」の後継規格である。B-PONは、1回目に紹介した通り、ITUの「G.983.1」~「G.983.4」として標準化が行われている。

 G.983.4は2001年12月に標準化案が承認されたが、そこから本格的にG-PONの標準化へと作業が移った形になる。最初のドラフトは2002年5月に発行され、2003年に「G.984.1」と「G.984.2」が、2004年に「G.984.3」と「G.984.4」がそれぞれ承認されて、標準化に至っている。

ITUの「G.984.1 : Gigabit-capable passive optical networks (GPON): General characteristics」

B-PONから速度と収容ONU数を4倍、到達距離を3倍に、プロトコルやフレームも最適化

 G-PONの特徴は、B-PONの約4倍となった速度と収容ONU数、3倍の到達距離などが挙げられる。

  • 速度:1.244Gbps/2.488Gbps(双方向)と、上り(ONU→OLT)のみ155Mbps/622Mbpsをサポート。B-PONは622Mbpsまでだったので、4倍以上高速に
  • 収容ONU数:最大254台。B-PONだと最大64台、GE-PONだと16台以上(32台という例もある)
  • 到達距離:最大60kmまでカバー。B-PONやGE-PONは最大20kmまで

 プロトコルには、新たに制定された「GTCフレーム」が採用された。B-PONはATMフレーム、GE-PONはEthernetフレームを利用するという話は前回までに紹介した通りだが、G-PONは、基本的にB-PONの流れを汲むATMベースの固定長フレームでの通信となる。

 ただし、フレーム長が短いATMフレームでは、フレーム数が無駄に増えるのが欠点であった。そこでG-PONでは、EthernetフレームをそのままATMフレームに入れ込むのではなく、ITU-Tの「G.7041/Y.1303」で定められた汎用フレームをベースにした「GEM(G-PON Encapsulation Method)フレーム」に一度変換し、これを「GTC(G-PON Transmission Convergence)フレーム」と呼ばれる固定長フレームで送信するという方式に切り替えた。

 GTCのフレーム長は、サイズではなく時間で規定され、125μsとされている。つまり、2.488Gbpsの場合だと、1つのGTCフレームのサイズは312,500bitで、約38KBになる。これは1500Bytesが最大長のEthernetフレームを複数格納するのに十分なサイズだ。

 実際、GTCのフレームの中には、複数のGEMフレームとATMフレーム(Ethernet以外の通信のためか、ATMフレームを利用することも可能)を格納できるようになっている。OLT側はこのGTCフレームの単位でやり取りをする関係で、B-PONに比べて処理のオーバーヘッドが大幅に減っている。

 利用波長は、上りは1260~1360nm、下り(OLT→ONU)は1480~1500nmが割り当てられている。B-PONでは下りは1480~1580nmとなっていたが、1550~1560nmに映像配信用の帯域を重畳することを考慮して、1500nmまでとしている。

 また、伝達距離が20kmを超える場合には、「FEC(Forward Error Correction)」と呼ばれるエラー訂正符号を付加することになった。全体には、Ethernetの時代に考慮しつつ、固定長フレームを送るという技術にこだわった仕様と言えるだろうか。

 ちなみにG-PONでも、GE-PONと同様に「DBA(Dynamic Bandwidth Assignment)」の利用が考慮されている。ただGE-PONと異なり、「T-CONT(Transmission Container)」を利用して個々のONUに対する送信のタイミングやデータ量を制御する形となっている。

国内外におけるG-PONの普及状況

 このようにG-PONは、技術的にはB-PONのネガティブな要素を潰しつつ、しかもGE-PONより帯域を広く取ることができるようになっていた。日本国内では速度が優先されるためか、あまりメリットとして挙げられていないが、海外ではFTTHでも数Mbps程度のサービスが少なくないため、最大254台というONUの収容数や、最長60kmという到達距離は業者側のコスト低減に効果的というわけで、特に北米などでは好評だった。

 では日本では採用例がないか? というとそういうわけでもない。当時のSo-net(現ソニーネットワークコミュニケーションズ)が2013年からG-PONを利用した下り2Gbps/上り1Gbpsのサービス「NURO光」を展開している。これについては、こちらにインタビュー記事があるので、これを読めば、「なぜSo-netは当時G-PONを選んだのか」を理解できるだろう。

「NURO Biz」で2013年当時に提供された終端装置(右)。法人向けにブリッジ機能のみのモデル(左)もラインアップされた

 ただ国内では、追従してG-PONを採用するプロバイダーはほかになく、So-net自身もこの後は「XG-PON」に移行している。もっとも上に述べた通り、国外では広く使われている規格ということもあり、ONUやOLT向けの機材も海外では多数存在することもあって、コスト面での不利も特になかったようだ。

 今回は、ITUにより「G.983.1/2/3/4」として標準化された1Gbpsの光ファイバーを用いたアクセス回線規格「G-PON」について解説しました。次回は、「IEEE 802.3av」として標準化された10Gbpsのアクセス回線向け光ファイバー規格「10G-EPON」について解説します。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/