期待のネット新技術
なんと最大100Gbpsのアクセス回線? IEEE「100G-EPON」が2020年に標準化、次世代PON「FOAS」の具体化はまだ先
【アクセス回線10Gbpsへの道】(第9回)
2018年2月20日 06:00
NTT東が、光ファイバーを用いたインターネット接続サービス「Bフレッツ」の提供を2001年に開始して以来、そのスピードは、当初の10M/100Mbpsから高速化を続け、2015年にソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供を開始した「NURO 光」の新プランで、ついに10Gbpsに達した。2017年には、「NURO 光 10G」の対象地域が拡大するなど、多くの地域で10Gbpsのインターネット接続サービスが利用可能になっている。今回は、次世代PON「FOAS」と、IEEEの10G-EPON後継となる100Gbpsの「100G-EPON」標準化策定状況について解説する。(編集部)
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー
次世代PON「FOAS」、具体化はまだ先
「NG-PON2+」の次についても、もちろん仕様策定は始まっている。ちょっと順序が逆だが、「FSAN(Full Service Access Network)」という業界団体が、2016年11月に今後のPONと、その標準化に関するロードマップを示している。2020年には、「NG-PON2+」と並んで「XG(S)-PON+」という文言もあるが、これは要するに対称型(上り下りで同じ速度)のNG-PON2+と思われる。
ちなみに以前のロードマップは以下のようなかたちで、ここで示された内容はほぼ実現している。
最初のロードマップにある「FOAS(Future Optical Access System)」に関して言えば、直接的な議論ではないのだが、イタリアの携帯電話キャリアであるTIMのTommaso Muciaccia氏が執筆した論文では、NG-PON2世代では「TWDM(Time and Wavelength. Division Multiplexing)」(時間と波長多重)で済むが、NG-PON3世代があるとしたら「DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing)」(高密度の波長多重)が必要になり、さらにその先は「UDWDM(Ultra DWDM)」か「OCDM(Dense Wavelength Division Multiplexing)-DWDM」「OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)-DWDM」になるとしている。
OCDMとOFDMは、いずれも変調方式の手法で、単に0/1だけで信号を送るのではなく、1回の転送で複数bitを転送できるようにできるとする。要するに、これ以上ビットレートを上げるのは難しいため、波長を増やす(UDWDMの方向)か、1波長あたりの実効転送速度を上げる(OCDM-DWDM/OFDM-DWDM)か、という話になるわけだ。
いずれにしても、現在の技術では可能ではあるものの、非常に高価になってしまうため、PONで採用するのは難しいと考えられている。最初の図で、FOASに"Disruptive technologies, Innovative R&D"とあるのは、何か価格破壊が起き得るような革新的な技術を生み出すR&Dが必要、という意味であり、FOASの具体的な話は、まだ見えてきていない。
50Gbps×2で100Gbpsを実現する「100G-EPON」、2020年へ向け標準化
さて、これに先立ってもう少し現実的なプランの策定も始まった。IEEEは「10G-EPON」に続き、最大100Gbpsをサポートする「100G-EPON」の仕様策定に向け、2015年5月にStudy Group(SG)を立ち上げ、2016年1月に「IEEE P802.3ca TF(Task Force)」を構成。以後、このIEEE P802.3ca TFで審議が行われている。基本的なアイディアとしては、NG-PON2+同様に1波長あたり25Gbpsとなっている。前回も説明した通り、2015年にはIEEE 802.3bmが標準化を完了しており、1波長あたり25Gbpsは技術的に十分可能、という判断があったようだ。
IEEE P802.3caでは、速度として10Gbps/25Gbps/50Gbps/100Gbpsの4種類があり、実際には下りと上りのそれぞれで、以下7種類の組み合わせのONUをサポートする、というあたりから議論はスタートしている。
下り | 上り |
25G | 10G |
25G | 25G |
50G | 25G |
50G | 50G |
100G | 25G |
100G | 50G |
100G | 100G |
実際には、たとえ25Gbpsであっても問題が多く、その結果、標準化の時期はどんどん後ろにずれることになった。2016年1月におけるスケジュールでは、2018年7月にDraftが完成し、10月に標準化へこぎつける予定だったが、現在のスケジュールでは、標準化作業は2020年4月までとなっており、内容にもかなりの変更があった。それが記されている2018年1月の「P802.3ca Objectives[Proposed Revision]」(PDF)を見ていこう。
資料によれば、1本の「SMF(Single Mode Fiber)」を利用しての100Gbps転送は放棄。可能性があるとすると、2本のSMFそれぞれを50Gbpsづつ通す形とする。これは、4波長の送受信を行う「PMD(Physical Media Dependent)」(物理的なトランシーバー)の開発が非常に難しい、との判断がある。
この決断は、2017年11月のミーティングで行われた。ただ100Gbpsを完全に排除することには、「Removing the 100Gb/s objective completely is a shortsighted decision. Don't throw the baby out with the bathwater.(100Gbpsを排除するのは近視眼的な決断である。赤ん坊(=100Gbps)を風呂に投げ込むような真似はしない)」と述べられており、当面は50Gbps×2という構成を残すことにしたそうだ。
これは、実際にPONを利用する事業者の多くが、2本以上のファイバーを1カ所に引き込んでいるケースが多く、潜在的に可能性があるということらしい。ちなみに50Gbps×2については、単純に50Gbpsの波長多重を拡張したチャネル多重とし、物理層で同期を取るのではなく、その上の論理層でトランキングを掛ける仕組みを取るとしている。
信号速度そのものは、10/25Gbpsの2種類とし、50Gbpsは、25Gbpsを2波長多重化する。下りは25/50/100Gbps(50Gbps×2)、上りは10/25/50/100Gbpsをサポートする。
また、既存のPONとの互換性も“ある程度”維持する。実際には古い光ファイバーの中には、挿入ロスが許容範囲を超えるものがあり、そのため互換性を保てる光ファイバーの規格が厳密に決められている。さらに、既存の10G-EPONとXG-PON、XGS-PONと波長が重ならないようにすることで、従来のPONとの併用も可能としている。
今のところP802.3caの議論を見ている限り、50Gbpsまでは、容易とは言わないものの技術的な難易度はそう高くなく、比較的堅実に開発できそうなメドが立っているようだ。まだ電力周りで解決すべきさまざまな問題があり、波長に関しての議論もあるものの、一応2018年5月のDraft 1.0に向けて前進し始めた、というのが現状である。
この後は、何かとんでもない話が出てこない限り、2020年の標準化完了というスケジュールは揺るがないと思われる。その頃にはFSANが新しいロードマップを出してくるかもしれない。以前に比べると大分ペースは落ちたものの、PONは引き続き進化を続けてゆくことになる。
今回は、次世代PONの「FOAS」と、IEEEの10G-EPON後継となる100Gbpsの「100G-EPON」標準化策定状況について解説しました。次回は番外編として、いち早く10Gbpsのインターネット接続サービス「NURO 光 10G」を提供しているソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社へのインタビューをお届けする予定です。
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
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