期待のネット新技術

NTT東西の「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」

【アクセス回線10Gbpsへの道】(第2回)

 NTT東が、光ファイバーを用いたインターネット接続サービス「Bフレッツ」の提供を2001年に開始して以来、そのスピードは、当初の10M/100Mbpsから高速化を続け、2015年にソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供を開始した「NURO 光」の新プランでついに10Gbpsに達した。2017年には、「NURO 光 10G」の対象地域が拡大するなど、多くの地域で10Gbpsのインターネット接続サービスが利用可能になっている。今回は、こうしたインターネット接続回線の下流にあたるアクセス回線向けの光ファイバー規格「PON(Passive Optical Network)」の成り立ちについて解説する。(編集部)

 前回解説した「B-PON」は、NTT東西が「Bフレッツ」としてまず採用を決めたことで普及した。しかし、厄介だったのは、NTT自身が光ファイバーのアクセス回線全てをB-PONでまかなわなかったことだ。

伝送速度16MbpsのNTT独自方式「STM-PON」が1997年から利用

 実はNTTでは、独自のPON規格である「STM-PON」を、B-PONより前の1997年から利用していた。STMは「Synchronous Transfer Mode」(同期転送モード)の略なのだが、伝送速度はわずか16Mbpsだった。

 このSTM-PONはもともと、光接続のケーブルテレビ回線にイーサネットの信号を流すという規格で、映像信号の方が波長1.5μmを利用していた関係で、イーサネットの方は波長1.3μmを利用している。伝送方式は「STM-PDS(Synchronous Transfer Mode-Passive Double Star)」である。

CATVの映像/音声信号に、“ついでに”インターネットアクセス機能を付けたかたち。出典はNTTサクセスサービスシステム研究所の年表(http://www.ansl.ntt.co.jp/history/access/ac0106.html)

 このPDSはパッシブ伝送で、伝送路の途中にカプラ(B-PONで言うところの光スプリッター)を設け、ここで分岐することを意味する。ちなみに映像信号の配信は局から加入者への一方向で済むが、インターネット接続には双方向が必要である。そこで1本の伝送路で送受信を交互に切り替える“ピンポン通信”の方式を採っている。

 つまり、OLT→ONUもONU→OLTも、伝送速度そのものは32Mbpsであるが、半分の時間しか回線を占有できないので、平均すると送受信とも16Mbpsになるという仕組みだ。

 2000年頃であればこれでも十分だったが、さすがにすぐ帯域が足りなくなり、またCATVを引かない加入者には割と無駄が多い構成ということもあって、STM-PONからB-PONに切り替わったかたちだ。

NTTはSTM-PONからB-PON、さらにE-PONへ以降

 厳密に言えば、STM-PONはまずCATV向けのものが提供され、次にΠシステムに対応したSTM-PON、その後にシェアードアクセス向けSTM-PONが提供されたが、2001年のBフレッツからはB-PONに切り替わった。

 さらに言えば、Bフレッツで当初提供された「ベーシックタイプ」と「ビジネスタイプ」では、OLTとONUが直結され、間に光スプリッターやカプラを挟まない「Single Star」で構成されていたりした。こうなるとPONと言いつつも、複数ユーザーへの配慮は必要なくなるので、光と電気信号の相互変換を行うメディアコンバーターを両端に置くだけで済んでいた。

 さて、2002年にNTTは、Bフレッツ「ニューファミリータイプ」の提供を始めるが、ここに採用されたのが、今回ご紹介する「E-PON」である。ただ当初、E-PONの提供が間に合わない一部地域には、メディアコンバーターを使ったSingle Star(つまりBフレッツのニューファミリー/ビジネスと同じ方式)を提供するなど、混乱が見られた。

 また利用者数の増加に伴って帯域が不足したため、後述する「GE-PON」を利用したBフレッツの「ハイパーファミリータイプ」(NTT東日本)や「光プレミアム」(NTT西日本)にサービスを切り替えていった。

B-PONの元になったATMは伝送効率が問題に

 B-PONの元になったATMは、本来データ通信向けと言いつつも、音声サービスを念頭に置いたものだった。

 例えば日本国内の場合、512Kbpsの帯域に32chの音声データを流す用途にATMを利用していた。こうなると、遅延などの影響を最小限に抑えるため、パケット(ATM用語で言うところのフレーム)サイズを小さく抑えた方が確実に伝送できることになる。特に音声の場合、ジッター(遅延のゆらき)が音声品質に大きな影響を与えるので、これを抑えるためにはこまめにデータを送ったほうがいい。

 先の例で言えば、512Kbpsで32chだから、1chあたり16Kbpsとなる。ATMの場合、ペイロードは48KBytesだから、16Kbpsの通信なら24秒分、32chなら各々0.75秒分の音声データを1つのパケットで伝送できる。これは、音声通信にはちょうど手ごろなサイズと言える。

 ところがデータ通信向けの場合、これでは無駄にパケット数が増えることになる。例えばイーサネットの場合、最大1500Bytesのペイロード(データ)を格納できるが、これをATMで送った場合、最大で32パケットに分割されることになってしまうわけだ。

 このままで速度を上げようとすれば、多数のパケットを生成し、さらに復元する必要があるため、結果、OLTやONUの負荷が上がってしまう。伝送効率という観点からでも、データは53Bytes中48Bytesだから90%ほどで、10%ものオーバーヘッドを抱えることになる。

イーサネットパケットをそのまま利用する「E-PON」とは

 そこでデータ通信に特化した、もっと効率のよいPONの仕組みが模索されることになった。これを言い出したのはイーサネット関連の機器メーカーであり、IEEE 802.3もこのPONのために「IEEE 802.3 FEM Workgroup」を結成する。

 EFMは“Ethernet in the First Mile”の略である。以下は、2001年3月に行われたIEEE 802.3 EFM Working Groupにおける資料だが、すでにいくつかのメーカーはこの段階で独自規格のEthernet PONの提供を開始していた。

出典はONE PATH NetworkのEdward Beili氏による"Ethernet PON (EPON) Protocol"というスライド

 その実装はまちまちだが、独自規格のものや、100BASE-FXを流用したものなど数種類があった。流用といっても、100BASE-FXそのものが送受信で2本のファイバーを必要とする規格だったから、1本でまかなうPONにそのまま流用はできず、送受信で波長を変えてファイバーの数を1本に抑える工夫が必要で、このあたりが各社異なるソリューションになっていた。

 IEEE 802.3 FEMでは、ゴールとして上のスライドのように規格を標準化して、異なるベンダーの間での相互接続性を担保するとともに、コスト削減とより広帯域を実現しようとしたわけだ。

三菱電機が2003年に公開した「Ethernet PON」によるFTTHシステムにおけるスプリッターと加入者宅の終端装置

 さて結果としてどうなったか? というと、これは最終的にGE-PONとして標準化されてしまった。要するに、検討を重ねる中で、「今さら100Mbpsでは遅い」という話になったわけだ。そもそもB-PONですら622Mbpsの帯域がある中で100Mbpsでの標準化を行っても、誰も使わないものになるのが明白だ。そこでIEEE 802.3 FEMはターゲットの速度を1Gbpsに引き上げ、これをIEEE 802.3ahとして標準化された。これがGE-PONであり、次回に詳しく解説したい。

 ではE-PONは? というと、結局ベンダーの独自規格のままになってしまった。NTTが利用したE-PONは、波長に関してはB-PONと同様で、管理プロトコルも「G.983.3」のものを継承していた。しかしながらパケットサイズはイーサネットと同じく可変長であり、ペイロードが最大1500Bytesというものになっている。ただ説明した通り、これは2004年以降にGE-PONへ切り替わることになった。

 今回は、NTT東西のBフレッツでの採用をきっかけとしたB-PONの日本国内での普及状況と問題点について解説しました。次回は、IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの光ファイバーを用いたアクセス回線規格「GE-PON」について解説します。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/