期待のネット新技術

ATMをベースにしたPON規格「ITU G.983.1」の仕様とは?

【アクセス回線10Gbpsへの道】(第1回)

 NTT東が、光ファイバーを用いたインターネット接続サービス「Bフレッツ」の提供を2001年に開始して以来、そのスピードは、当初の10M/100Mbpsから高速化を続け、2015年にソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供を開始した「NURO 光」の新プランでついに10Gbpsに達した。2017年には、「NURO 光 10G」の対象地域が拡大するなど、多くの地域で10Gbpsのインターネット接続サービスが利用可能になっている。今回は、こうしたインターネット接続回線の下流にあたるアクセス回線向けの光ファイバー規格「PON(Passive Optical Network)」の成り立ちについて解説する。(編集部)

 光ファイバーでのブロードバンド契約をすると、光ファイバーが自宅やオフィスまで敷設されることになる。この光ファイバーを用いたアクセス網全体のことを「PON(Passive Optical Network)」と呼ぶが、実はこのPONに使われる規格にもさまざまな変遷があり、今後のロードマップも示されている。今回はこのPONをご紹介したい。

日本のアクセス回線における光ファイバー接続のスタートは「B-PON」

 まずはPONの定義からスタートしたい。以下の図は、日本における一般的な光ファイバー接続の構成である。通常は電話局に「OLT(Optical Line Terminal)」が置かれ、ここでネットワークの信号が光化されて送り出される。送り出された信号は、電柱(最近は地下化されているところも増えてきた)を経由して加入者の近辺まで届けられるが、その手前で、光スプリッターを経て最大32分岐されてから、個々の加入者に繋がるかたちになる。各加入者のところには「ONU(Optical Network Unit)」が置かれ、これが光信号を電気信号に変換する作業を担う。

 この一連の接続の中で、OLTから光スプリッター経由でONUまで繋がる一連のケーブル、およびその上に通る信号プロトコルまでが総称してPONと称される。

日本の一般的な光ファイバー接続の構成図

 さて、このPONに関して、当初はイーサーネットとはまったく別の規格を利用していた。日本を例に取れば、当初は10Mbpsでの接続で、その後100Mbpsに増速されることになるが、ここで利用されていたのが「B-PON(Broadband Passive Optical Network)」という方式だ。

 B-PONは、「ITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)」(電気通信標準化部門)で「FSAN(Full Service Access Network)」として1995年から標準化作業が行われ、1998年に「ITU-T G.983」として標準化が完了した方式となる。

B-PONのベースは電話網交換機用プロトコル「ATM」イーサーネットベースではコストと距離に課題

 B-PONのベースとなったのは、ATM(Asynchronous Transfer Mode)という、電話網の交換機で利用されていたプロトコルとその機器である。何故イーサーネットではなくATMをベースとしたかというと、主にコストの問題である。

 イーサーネットでも、10Mbpsに対応した「10BASE-F」(IEEE 802.3j)は1993年に標準化されている。しかし、パッシブ式の「10BASE-FB」はノード間距離が1000mまでとなっており、前掲の図で言えば、OLTとONUの間は1kmまでしか届かないことになる。

 これでは電話局の周囲1km程度しか到達できず、しかもその速度はたった10Mbpsである。アクティブ型の「10BASE-FB」や「10BASE-FL」であっても最大で2kmなので、さすがにもう少し距離が欲しいところだ。さらに、これらの規格は、いずれもサーバールーム内などでの利用が念頭に置かれており、PONとして使うにはやや高価すぎる点も問題だった。

1993年に標準化された「IEEE 802.3j」(10BASE-F)。10Mbpsに対応

 1995年には、10kmの距離まで到達可能な「100BASE-LX10」や、20/40kmまでが可能な「100BASE-BX10」の標準化も終わったが、これらはさらに高価ということもあり、一般家庭に引き込むには無理があると考えられた。

 一方のATMは、もともとバックボーンや長距離で用いられていた方式として、すでに実績も豊富で、コストを低く抑えられるめども立っていた。このためITU-Tでは、「OC-3/OC-12」(622.08Mbps/155Mbpsの規格)をベースにB-PONの開発を進め(このため規格策定作業中にはATM-PONなどと呼ばれていた)、1998年10月に「ITU G.983.1」としてリリースされた。

ITU G.983.1の表紙

上りは4つに分割した周波数帯を8台で時分割下りでは不要なパケットを破棄

 G.983.1の仕様では、上り(ONU→OLT)に1260~1360μm、下り(OTL→ONU)に1480~1580μmの波長を割り当てることで、1本の光ファイバーで双方向の通信が可能となっている。

 加入者の通信は、上りは「TDMA(Time Division Multiple Access)」(時分割多元多重)で行う。TDMAでは、周波数帯をさらに細かく分割した上で、時分割で割り振る方式となっているため、複数の加入者でそれぞれ通信を行うことが可能となるわけだ。

 例えばONUが32台あった場合、周波数帯を4つに分割し、それぞれの周波数を8台のONUで時分割させることで、全てのONUからの上り方向の通信が(見かけ上)同時に行えることになる。

 また、通信方式自体はATMに準じており、5byteのヘッダーと48byteのペイロードからなる53byteの「セル」を単位として、送受信を行う。

 一方、下りは「TDM(Time Division Multiplexing)」(時分割多重)で、同様に32台のONUすべてにOLTからのパケットが届くかたちになる。ただしパケットには、行き先となるONUのアドレスが入っているので、すべてのONUがパケットのヘッダーを見て、自分に関係ないパケットを破棄することで、必要なパケットだけを受け取る仕組みとなっている。

 ITU G.983.1における信号速度は、上りが155.52Mbps、下りが622.08Mbpsとなる。ただこれは、全ONUとの通信での合計で、OLTから光スプリッターまでの信号速度の上限でもある。光スプリッターとONUの間の速度は、当然ながらさらに遅くなり、何台のONUが光スプリッターに繋がるかで決まるかたちだ。

 ちなみにこのG.983.1は、2001年に上りも下り同様の622.08Mbpsへと対応するように改定された。これとは別に、2000年4月にONUの管理方式である「OMCI(ONT Management Control Interface)」を定めた「G.983.2」、2001年3月に下り波長を1480μm~1500μmに減らし、その代わり放送型の通信帯域を新たに追加した「G.983.3」、2001年12月に上り方向で「DBA(Dynamic Bandwidth Assignment)」(動的帯域割当機能)を追加した「G.983.4」と、OMCIにDBAの機能を追加した「G.983.7」がそれぞれ制定されている。なお、G.983.1とG.983.2は、2005年にさらに改定されており、これが最新版となっている。

 今回は、アクセス回線向けの光ファイバー規格「PON」と、その規格「ITU G.983」について解説しました。次回は、NTT東西のBフレッツでの採用をきっかけとした、日本国内におけるB-PONの普及状況について解説します。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/