期待のネット新技術

1Gbpsのアクセス回線規格「GE-PON」、IEEE 802.3ahとして標準化

【アクセス回線10Gbpsへの道】(第3回)

 NTT東が、光ファイバーを用いたインターネット接続サービス「Bフレッツ」の提供を2001年に開始して以来、そのスピードは、当初の10M/100Mbpsから高速化を続け、2015年にソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供を開始した「NURO 光」の新プランで、ついに10Gbpsに達した。2017年には、「NURO 光 10G」の対象地域が拡大するなど、多くの地域で10Gbpsのインターネット接続サービスが利用可能になっている。今回は、「IEEE 802.3ah」として標準化された1Gbpsの光ファイバーを用いたアクセス回線規格「GE-PON」について解説する。(編集部)

 前回解説した「E-PON」は、結局のところ標準規格にならなかった。「IEEE 802.3ah」では、100Mbpsはスキップして1Gbpsをターゲットにしたという話は説明した通りである。最終的に制定された規格は、あまりこの名称は使われないが「1000BASE-PX」となった。

IEEE 802 LAN/MAN Standards Committeeが2004年9月に発行した「IEEE Standard 802.3ah」

「1000BASE-PX」はIEEE 802.3ahとほぼ同義

 この1000BASE-PXは、正確には4種類が存在する。要するに距離(10kmまたは20km)と上り下り(OLT→ONU/ONU→OLT)で、異なる名称が割り当てられているが、基本は同じである。

名称到達距離波長用途
1000BASE-PX10-D10Km1.49μm帯OLT→ONU
1000BASE-PX10-U10Km1.31μm帯ONU→OLT
1000BASE-PX20-D20Km1.49μm帯OLT→ONU
1000BASE-PX20-U20Km1.31μm帯ONU→OLT

 いずれも1芯の光ファイバーで接続し、さらに光スプリッターで分岐する「ダブルスター方式」をサポートしている。波長に関しては、1.55μm付近で映像信号と多重化することを念頭に、これと干渉しない波長が選ばれた。

 厳密に言うと、IEEE 802.3ahでは、ほかに2芯の光ファイバーを使った「1000BASE-LX10」や「1000BASE-LX10」、1芯の光ファイバーを使った「100BASE-BX10」や「1000BASE-BX10」、さらには同軸ケーブルを使った「10BASE-TS」(10Mbps/750m)と「2BASE-TL」(2Mbps/2700m)までが、PONの「PMD(Physical Medium Dependent:物理媒体)」として定義されている。

 しかし、1000BASE-PX以外は、ほとんど使われていないし、そもそも何故100/1000BASE-LXや100/1000BASE-BXがPMDとして採択されたのかも調べたのだが、理由は判明しなかった。このため、ここでは割愛したい。以下、GE-PONという単語は、IEEE 802.3ahのうち1000BASE-PX10/20を指すものとして説明する。

1000BASE-PXのブロックダイアグラム(IEEE 802 LAN/MAN Standards Committeeが2004年9月に発行した「IEEE Standard 802.3ah」より転載)

「GE-PON」に追加された2つの新技術「P2MP Discovery」と「DBA」

 GE-PONでは、イーサネットのフレームを概ねそのまま利用しているので、フレームサイズは可変長になっている。違いはヘッダー部のプリアンプルの部分で、8バイトのプリアンプルのうち2バイトを「LLID(Logical Link ID)」に割り当てている。

 GE-PONでも、送受信の原理は前回解説した「B-PON」と同じで、OLT→ONU方向は、OLTが送り出す全てのフレームを全部のONUが受信することになる。このため、ONUはLLIDを見て、自分宛ではないフレームを破棄し、自分宛のフレームのみを受け取るかたちである。

 GE-PONでは、B-PONから2つの技術が新たに追加されている。うち1つが「P2MP Discovery」だ。これは新しいONUがPONに接続された場合、OLTがそのONUを自動的に発見し、LLIDを付加してリンクを確立するという仕組みである。この際にOLTはONUとの「RTT(Round Trip Time)」を測定してタイミングの補正を図るとともに、時刻の同期を行う仕組みも搭載された。

 もう1つは、上り(つまりONU→OLT方向)の帯域制御だ。基本的にONU→OLTの通信では、複数のONUが一斉に送信した信号が、光スプリッターの先でぶつかってしまう“信号の衝突”を防ぐため、「GATE」という制御フレームを利用して、あらかじめOLTからそれぞれのONUに対してに許された送信開始時間と送信データ量を通知している。各々のONUはGATEで通知されたタイミングと送信データ量を守ることで、データの衝突もなく全てのONU→OLTの通信が行えるかたちになる。

 ところでここで問題なのは、複数のONUでどう帯域を分け合うかである。B-PONでも2001年12月に制定された「G.983.4」で「DBA(Dynamic Bandwidth Assignment)」の機能が追加されているが、GE-PONにもやはりDBAが採用された。

IEEE 802.3ah Ethernet in the First Mile Task Forceの「DBA Overview」より転載

 この機能は、GATEフレームと対になって利用される「REPORT」フレームを利用して行われる。GATEフレームで各々のONUに対して開始時間と転送可能データ量を割り当てると、各々のONUはその開始時間にあわせてデータを送り始める。データ送信が終わると、最後にONUはOLTに対してREPORTという制御フレームを送り出す。これは送信完了の通知でもあるが、同時に「送信完了時にそのONUがどれだけ未送信データを抱えているか」をOLTに通知するものでもある。

 このためOLTの側では、ONUへ送信帯域を割り当てる一連の動作が終わった後に、それぞれのONUがどれだけの未送信データを抱えているかが判断できる。そこで次のシーケンスでは、未送信データの多いONUには転送量を多めに、未送信データが少ないONUには少なく、未送信データがないものには転送なし、と割り振ることで、PONの帯域を有効に活用できる仕組みだ。

 実はこのOLT側のアルゴリズムそのものは、IEEE 802.3ahでは規定されていない。このため、1Gbpsを機械的に最大32のONUに対して均等に割っても構わないし、プレミア契約を結んでいるユーザー宅のONUにオプションで多めに割り当てるといった、一種のQoS的な操作も可能である。

 こうした対応はあくまでOLT内部のアルゴリズム次第で、通信に関する限り、GATE/REPORTフレームが開始時間と転送量と完了の通知の枠内に収まっていれば、相互運用性も問題なく確保できることになる。

2004年に標準化されたGE-PONの国内普及状況

 こうした機能を備えたGE-PONは、最終的に2004年9月に「IEEE 802.3ah-2004」として標準化も完了し、広く利用されることになった。

 NTTの場合だと、NTT東日本が2004年に「Bフレッツハイパーファミリータイプ」として、NTT西日本が2005年に「フレッツ光プレミアム」として、それぞれGE-PONを利用したサービスの提供を開始している。

 またYahoo! BBも2004年10月からGE-PONを利用した接続サービスの提供を開始している。auの場合、もともとあった「TEPCOひかり」の時点での接続形態がハッキリしないのだが、2006年にこのTEPCOひかりをauが「ひかりone」として統合したときには、明確にGE-PONを利用すると発表されている。

 そんなわけで、2004~2006年あたりから、GE-PONが日本の光ファイバーによるPONの主流を占めたと言うことができるだろう。

 今回は、IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの光ファイバーを用いたアクセス回線規格「GE-PON」について解説しました。次回は、1Gbpsに対応するもう1つの光ファイバーを用いたアクセス回線規格「G-PON」について解説します。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/