期待のネット新技術

上り10Gbpsの「XGS-PON」は「G.9807.1」、続く4×10Gbpsの「NG-PON2」は「G.989」として標準化

【アクセス回線10Gbpsへの道】(第7回)

 NTT東が、光ファイバーを用いたインターネット接続サービス「Bフレッツ」の提供を2001年に開始して以来、そのスピードは、当初の10M/100Mbpsから高速化を続け、2015年にソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供を開始した「NURO 光」の新プランで、ついに10Gbpsに達した。2017年には、「NURO 光 10G」の対象地域が拡 大するなど、多くの地域で10Gbpsのインターネット接続サービスが利用可能になっている。今回は、そのNURO 光 10Gに採用された「XG-PON」の後継としてITUにより「G.9807.1」として標準化された、上下とも10Gbpsのアクセス回線向け光ファイバー規格「XGS-PON」と、「G.989.3」として標準化された「NG-PON2」について解説する。(編集部)

 前回紹介した「XG-PON」の欠点は、上り(ONU→OLT)が2.5Gbpsだったことだ。ただし、技術的な制約があって2.5Gbpsに絞ったというより、多分にマーケティング的、あるいはコスト的な問題であり、技術的に上りを10Gbpsに増速することはそれほど難しくなかった。それもあってかITU-Tでは、XG-PONの標準化完了後に、次の「XGS-PON」の標準化を開始する。

「XGS-PON」標準化までの経緯

 実を言えば、これは当初からのプランであった。XG-PONは当初「NG-PON(Next-Generation PON)」という名前で仕様策定が開始されていたが、この段階で、G-PONとの互換性を保った上り2.5Gbpsのバージョンと、上りを10Gbpsに増速したバージョンの2つを用意することが規定路線であった。

 その後はそれぞれXG-PON1、XG-PON2との呼び方もされていたが、最終的に後者の上り10Gbpsのものが「XGS-PON」という名称になった。XGSは“10(X)G Symmetric”(10G対称型)の意味で、上り下りともに10Gbpsになったことを表している。

 XGS-PONの仕様は、やや面白いものになっている。ITU-Tでは、XG-PONの後でXGS-PONの標準化も開始しているわけだが、同時に次回に説明するNG-PON2の標準化も始めており、表現は悪いが、どちらかと言えばXGS-PONは、NG-PONの片手間で作業が進んだ感がある。

 さらに言えば当初は、NG-PON2の標準化が完了すればXGS-PONの代わりになる、という見通しもあったようだ。ただ実際にはそういうわけにも行かないことが見えてきたためか、XGS-PONの標準化が改めて行われた感がある。

 結果、ITU「G.9807.1」としての標準化が完了したのは2016年6月のことである。その後、記述ミスなどの訂正を行った「Erratum 1」が2017年3月に、若干の追加を行った「Amendam 1」が2017年10月にリリースされている。

XGS-PONの物理的な規格と採用事例

 XGS-PONの物理的な規格、つまりトランシーバーに関しては、XG-PONや10GE-PONと共通である。利用する波長も下り1575~1581nm、上り1260~1280nmで、ほぼXG-PONと変わらない。一方、プロトコル層に関しては、XG-PONに加え、ITU「G.989.3」として標準化された「NG-PON2」の仕様を一部取り込んだものとなっている。ただしONUの管理機能に関しては、XG-PONで出てきた「G.988」の「OMCI(ONU Management and Control Interface)」をそのまま利用するかたちだ。

 ちなみにXGS-PONもXG-PONと同じく、PMD層の規定やTC層の規定は別仕様となっており、NG-PON2用に制定された「G.989.2」や「G.989.3」がそのまま使われることになっている。むしろ、NG-PON2の仕様にXGS-PONの仕様が含まれるかたちになったと言うべきか。

 XGS-PONの仕様制定は2016年、Amendam 1のリリースが2017年10月と、“できたばかり”に近い仕様だけに、今のところ国内では採用事例がない、というか国内の事業者では、以下で解説するNG-PON2以降(特にNG-PON2+)の導入を検討しているようだ。これは単に「FTTH(Fiber To The Home)」だけでなく、5Gを視野に入れての話である。このあたりの詳細は次回に解説しよう。

 とはいえ海外を見ると、中国の3キャリアは当初からXGS-PONへのアップグレードを前提にXG-PONを導入している。今後の5G普及次第では、先進国はともかく途上国には、XGS-PONが5Gのインフラ向けとして導入される可能性もある。

4波長で下り40Gbpsをサポート、「NG-PON2」の仕様詳細

 さて、その次がNG-PON2である。こちらも次回もう少し細かく説明するが、端的に言えば、これまで10倍刻みで高速化してきた光ファイバー経由も、そろそろ速度の壁にぶち当たることになった。

 実際、2007年にいち早く「IEEE 802.3ba」として標準化を済ませた100G Ethernetにしても、光ファイバー1本では100Gbpsを達成できておらず、10Gbpsを4本束ねて40Gbps、10本束ねて100Gbps、というアプローチだった。その後、2014年にやっと「IEEE 802.3bm」が標準化されたが、それでも25Gbps×4構成で、最近ようやく50Gbps程度まで高速化された。

 要するに、2007年→2014年→2017年と約10年を費やして、レーザー出力素子や受光素子を10Gbpsから50Gbpsまで高速化できたわけだ。

 NG-PON2は前述の通り、XG-PONの仕様策定完了後にすぐ標準化作業が始められたため、当時の技術では10Gbps程度がほぼ上限だった。もちろん、価格を度外視すればもう少し高速な素子は存在したが、多少高価でも条件次第では許容される携帯電話基地局向けの「FTTCell」や、集合用途向けの「FTTB(Fiber To The Building)」ならともかく、家庭向けのFTTHや、法人向けの「FTTO( Fiber-To-The-Office)」向けには低価格なことが必須で、このため信号速度そのものは10Gbpsが事実上上限となった。

 またEthernetと異なり、既存のPONを採用したケーブル網との互換性もなくなってしまう。また、複数を束ねることでケーブルが増えれば、その分だけスプリッターが増えてしまうため、それだけでコストアップになってしまうことも、実際の導入を考えれば論外である。

 そこでNG-PONでは「WDM(Wavelength Division Multiplexing)」が採用されることになった。日本語だと波長分割多重方式と訳されるが、要するに複数波長の光を1本のファイバーに通すという、これまでのPONでも行ってきた方式の延長とも言えるものだ。この定義で言えば、これまでのPONはすべてWDMと言えなくもない。

 ただ、NG-PON2ではもう少し狭義のWDMが採用される。以下の図はG.989.2の資料からの抜粋で、利用される波長を示したものだ。NG-PONでは右下の"PtP WDM EXPANDED SPECTRUM"と書かれた部分(1525nm~1625nm)が新たに利用されるようになった。このうち、薄いオレンジの"TWDM U/S"がNG-PON2の上り(ONU→OLT)、濃いオレンジの"TWMD D/S"がNG-PONの下り(OTL→ONU)で利用される部分となる。

実際に利用される光は、波長ではなく周波数で100GHzずつ間を空けるということになる。例えばM0系列だと、195.900THz~196.600THzまで100GHz刻みに8波長が定義される。これを波長で言うと、1524.885nm~1530.334nmまでで、おおむね0.78nmごとに配置されることになる

 これまでは、例えばGPONの上り(1290~1330nm)とXG-PONの上り(1260~1280nm)は大きく波長が異なっていたが、NG-PON2では上り40nm、下り20nmの波長帯の中に複数の光を通すかたちになっている。NG-PON2の場合、この範囲に4波長(オプションで8波長)の光を通し、それぞれ最大10Gbpsでの転送を行うことで、トータルで40Gbpsの帯域を利用できるようにしている。

 ではONUの側は最大で40Gbpsを利用できるのかというと、最大でも10Gbpsとなる。以下はNTTの技術ジャーナルからの抜粋であるが、OLT側からは4種類の波長それぞれを最大10Gbpsずつで送り出し(TWDM λ1~λ4)、これをミキサーを使って1本のファイバーに送り出すわけだ。しかし、受ける側のTWDM ONUの方は、λ1~λ4のどれか1波長のみしか受信ができないため、最大でも10Gbpsになるというわけだ。もちろん技術的には4波長すべて受けるような仕組みは可能だが、コスト的に高く付くため、この世代では見送られた。

NTT技術ジャーナル 2017年8月号(PDF)より。FTTH/FTTB/FTTOについては時分割のWDMとなるので、「TWDM(Time divided WDM)」方式だが、FTTCellについては常時接続(λu5は常にデータを送っているのが分かる)となるPtP(Point-to-Point)のWDMである

 ちなみに最大10Gbpsではあるが、実際の転送レートは2.5Gbpsと10Gbpsのいずれかであり、また、ONU側は受ける波長を動的に変更することができる。実際の利用では、それぞれの波長を1つのONUが独占することは考えられず、それぞれの波長ごとに複数台(ONUは最大256台までなので、理論上は1波長あたり最大64台)のONUが共用することになる。

 すると、混んでいる波長と空いている波長が当然出てくることになるので、その場合は利用する波長を動的に切り替えることで、どの波長でも均等な混み具合になるよう調整するわけだ。

 ちなみにNG-PON2では、上り下りともに最大40Gbps(1波長あたり10Gbps)とされる。ただし実際の利用形態を考えると、上りはそこまで高速でなくてもいいというニーズが強かったためか、上り10Gbps(1波長あたり2.5Gbps)、下り40Gbpsの非対称構成もサポートされる。また到達距離はXG-PONの20kmから、40kmに倍増された。

 このNG-PON2であるが、2015年10月にITU-TによってG.989として標準化が完了している。XG-PONの時と構成は似ており、以下の4つで構成されている。

勧告定義内容
G.989用語・略語等の定義
G.989.1全体的な要件の定義(2013年3月:2015年8月にAdmendment 1が追加)
G.989.2PMD層の規定(2014年12月:2016年4月にAmendment 1、2017年8月にAmendment 2が追加)
G.989.3TC層の規定(2015年10月:2016年11月にAmendment 1が追加)

 さて仕様が決まったから広く使われるか……と言うと然にあらず。ONUの側からすると、速度そのものは10Gbpsで据え置きのままなので、XG-PON/XGS-PON/10G-EPONでもさして不自由はない。そして基地局、特に5Gでは10Gbpsでは足りないという話もある。加えてONUに動的な波長選択機能を入れたことで、確実にONUのコストも跳ね上がった。

 では普及しないのか? というとそういうわけでもなく、特に5Gでは安価なインフラを必要としていることもあり、NG-PON2+の仕様策定が現在急がれているという状況だ。

 今回は、ITUにより「G.9807.1」として標準化された上下とも10Gbpsのアクセス回線向け光ファイバー規格「XG-PON」と、「G.989」として標準化された「NG-PON2」について解説しました。次回は、「NG-PON2」の仕様詳細と、その後継規格としてITUが標準化を進めている「NG-PON2+」について解説する予定です。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/