期待のネット新技術

25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局のバックボーン向けに

【アクセス回線10Gbpsへの道】(第8回)

 NTT東が、光ファイバーを用いたインターネット接続サービス「Bフレッツ」の提供を2001年に開始して以来、そのスピードは、当初の10M/100Mbpsから高速化を続け、2015年にソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供を開始した「NURO 光」の新プランで、ついに10Gbpsに達した。2017年には、「NURO 光 10G」の対象地域が拡大するなど、多くの地域で10Gbpsのインターネット接続サービスが利用可能になっている。今回は、4×10Gbpsの「NG-PON2」の詳細と、その後継規格としてITUが標準化を進めている25Gbpsの「NG-PON2+」の標準化策定状況について解説する。(編集部)

 前回は駆け足で「NG-PON2」の仕様についての概略を解説したが、もう少し補足をしておこう。まず仕様については、2015年10月にITU-T「G.989」として標準化が完了したと前回紹介したが、ITU-Tでは2017年までNG-PON2についての作業を行っていた。これは2017年8月に「G.989.2 Amendment 2」という形で完了している。これに続き、現在ITU-Tが作業を行っているのが「NG-PON2+」である。

「NG-PON2」での1波長あたり10Gbpsの壁を超える「IEEE 802.3bm」

 前回も若干触れたが、NG-PON2では光1波長あたり10Gbpsが1つの壁になった。単に10Gbps以上の速度で発振させるだけの規格であれば、すでにこの当時、25Gbpsでの発振が可能な「100GBASE-LR4」が存在していたが、問題はコストとサイズがPONにはとても適合しないことだった。

 同様にコストが重視される短距離用の100G Ethernetも、同じ理由で2007年の段階では1波長あたり10Gbpsにとどめられ、4本束ねたものが40GBASE-SR4、10本束ねたものが100GBASE-SR10として運用されていた。

 ただ、さすがに10本束ねるというのは使い勝手が悪く、配線の増加に伴ってコストも上がるため、もう少し何とかならないか、という議論は当然あった。

 そこで、IEEEは2012年に「P802.3bm(40Gb/s and 100Gb/s Fiber Optic Task Force)」というWorking Groupを発足。より高速化できる方法を探った。といってもWorking Groupにおける当初の議論を見ていると、100GBASE-LR4用のレーザーを少し変更すれば利用できるという案から、レーザーそのものは10Gbpsに据え置き、その代わりPAM4やPAM8といった変調方式を使って実効速度を引き上げるものまで、各種のアイディアが出揃っていた。

 ただ、このあたりから、25Gbpsで発振できるレーザーに低価格化のメドが付き始めたこともあり、実用性や技術的難易度、コストを勘案して、最終的に25Gbps×4本の「100GBASE-SR4」をはじめとする規格が「IEEE 802.3bm」として標準化された。この100GBASE-SR4の良い点は、既存の40GBASE-T用の光ファイバーを利用し、そのまま100Gbpsを通せることで、その意味では既存ユーザーのアップグレードに最適であった。

「NG-PON2+」では25Gbpsがターゲット、OLTあたりでは下り100Gbpsへ

 NG-PON2の仕様策定中に100GBASE-SR4の標準化が完了したのは、NG-PON2+への良いきっかけになった。もちろん、100GBASE-SR4そのものは波長850nmのレーザーを使っているので、これをそのままNG-PON2/NG-PON2+に使うことはできないが、ある程度の数が見込めるのであれば、25Gbpsでもコスト的に引き合うとのメドが立った模様だ。それもあってITU-Tでは、NG-PON2+のターゲットを25Gbpsに据えることになった。

 以下の資料は、2017年10月にラスベガスで行われた「Broadband Forum BASE(Broadband Access Summit Event)」におけるもの。基本的な考え方としては、現在のNG-PON2の仕組みはそのままに、速度だけを10Gbpsから25Gbpsに引き上げるというものだ。ちなみにダウンロード(OLT→ONU)は25Gbpsのみで10Gbpsのオプションはない模様だが、アップロード(ONU→OLT)は10Gbpsと25Gbpsの2種類が用意されるようだ。

 以下の図にも、ダウンロード側には「Tubanle λ-filter」が入ることから分かる通り、デフォルトで4波長、オプションで8波長をWDMで多重化することで、1つのONUあたりでは25Gbps、OLTあたりでは100Gbpsの帯域を下りで利用できる仕組みになっている。

出典は、NokiaのRonald Heron氏によるプレゼンテーション。さすがに信号速度を25Gbpsにすると、ドリフトのマージンが大幅に減るほか、エラーレートも上がり、消費電力も増えてしまうということで、まだ課題は多そうだ

5G基地局で分割されるBBUとRRHをNG-PON2+で接続

 なぜこんなに高速化を急いでいるかというと、FTTH/FTTB/FTTO用ではなく、FTTCell、もっと正確に言えば5G Networkの「RRH(Remote Radio Head)」をにらんでのものだ。5Gは2017年後半から急速に実証実験やフィールドテストが始まっているのはご存知の通りで、例えば、2017年11月にNTTドコモがファーウェイと共同で実証実験を実施している。

 こうした5Gには、「C-RAN(Cloud Radio Area Network)」という技術が必須要件として入ってくる。C-RANと言うと、最近は「高度化C-RAN」を指す場合もあって誤解を招きやすいが、ここで言うC-RANは高度化でない方だ。

 従来、「基地局」と言えば、「ベースバンド装置(BBU:Base Band Unit)+送受信ユニット(RRH:Remote Radio Head)」が一体化されており、アンテナの根元あたりに装置が置かれる場合がほとんどだった。BBUとEdge Routerの間は、基本的にはEthernetで接続されるかたちで、もちろん実体としては「GE-PON」が使われていたりはするので、間にほかの機材が挟まっていることもしばしば起こりえる。だが、基本は以下の左のような構図になる。

4G(左)と5G(右)のネットワーク構成図

 一方5Gでは、右の図のようにBBUとRRHが分離され、アンテナ側にはRRHのみが残る。BBUは光ファイバー経由で離れた場所に置かれ、BBUとRRHの間は「CPRI(Common Public Radio Interface)」という別のプロトコル経由で接続されることになる。なお、CPRI以外にも、「OBSAI(Open Base Station Architecture Initiative)」という規格もあるが、ここではおいておこう。

 5Gの基地局をこうした構造にする理由は、混んでいるアンテナと空いているアンテナがあるときに、従来の構造では均等な負荷になるようには帯域への負荷をうまく捌けないという問題があったためだ。このほかにも、基地局同士の干渉や、ハンドオーバーに時間を要する点も問題であった。

 これに対し、BBUを1カ所に集約させてアンテナとRRHを分散させて、負荷状況に応じて調整するほうが柔軟な構成が取れる、という話になってきたわけだ。このC-RANというアイディアそのものは、2010年の早い時期に出てきており、例えば、4G(つまりLTE)でこれを導入したChina Mobileなどのキャリアもある。しかし、標準化に時間を要したこともあり、本格的な導入は5Gからとなっている。

5G基地局の接続で必須、4G比で10倍の帯域と遅延短縮をNG-PON2+で実現

 さて話をNG-PON2+に戻す。なぜNG-PON2+で25Gbpsの帯域が必要とされたかというと、5GのFronthaul(BBUとRRHの間)の接続には、4G世代と比べて10倍以上の帯域と、遅延時間の短縮が必要とされるためだ。

 例えば、先のNTTドコモとファーウェイの屋外実験の場合、1ms以下の遅延が要求されている(これは低遅延のURLLCモードの話なので、すべての通信でこれが要求されるわけではないが)。また今でも、LTE Advancedで1Gbpsのダウンロード速度の実証実験などが行われているわけで、これが5Gになれば、さらに要求される帯域が増えることになる。

 10GbpsのNG-PON2のままでは、特に都市部などではこの要求の実現がかなり厳しいというのが基地局メーカーの意見で、それもあって可能ならば25Gbpsに引き上げたいというわけだ。もちろんこうした状況は当然、国や地域の事情によっても変わってくる。例えば、先進国の都市部ではNG-PON2+が必要だが、地方であればNG-PON2でも足りるし、途上国であればXGS-PONやXG-PONでもいいかもしれない。

 ただ、NG-PON2までは既に標準化は済んでおり、機器も揃いつつある。例えば国内だと、伊藤忠ケーブルシステムがNOKIAのNG-PON2向け機材を既に提供している。後は、これで足りない用途に向けて、NG-PON2+の策定を行えば、5Gのアクセス回線について一応の目処が立つ、ということらしい。

 そんなわけでNG-PON2+については、当面スプリッターを挟まず、ONUとOLTがPeer-to-Peerで接続される形態での利用が主になると思われる。もっともこのNG-PON2+、標準化の時期は2020年頃が想定されているので、現時点では、その利用形態についても多分に予想でしかないのだが。

 今回は、「NG-PON2」の仕様詳細と、その後継規格としてITUが標準化を進めている「NG-PON2+」について解説しました。次回は、次世代PONである「FOAS」と、IEEEの10G-EPON後継となる100Gbpsの「100G-EPON」標準化策定状況について解説する予定です。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/