期待のネット新技術

10Gbpsのアクセス回線規格「XG-PON」、NURO光 10Gに採用、ITUにより「G.987」として標準化

【アクセス回線10Gbpsへの道】(第6回)

 NTT東が、光ファイバーを用いたインターネット接続サービス「Bフレッツ」の提供を2001年に開始して以来、そのスピードは、当初の10M/100Mbpsから高速化を続け、2015年にソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が提供を開始した「NURO 光」の新プランで、ついに10Gbpsに達した。2017年には、「NURO 光 10G」の対象地域が拡 大するなど、多くの地域で10Gbpsのインターネット接続サービスが利用可能になっている。今回は、そのNURO 光 10Gに採用された10Gbpsのアクセス回線向け光ファイバー規格で、ITUにより「G.987」として標準化された「XG-PON」について解説する。(編集部)

 IEEE 802.3avを後追いするかのごとく、ITU-Tも第4回で紹介した「G-PON」の後継規格の策定を2009年5月から開始する。目的は前回の「10G-EPON」とそれほど変わらず、加入者個々がより広い帯域を利用できることが主目的であるが、これに加え、もう少し別の用途も視野に入ってくることになった。

ITU-Uの10Gbps規格「XG-PON」、G-PONの約4倍に高速化

 その用途については後述するとして、このG-PON後継規格は当初「NG-PON(Next-Generation Passive Optical Network)」の名称で、その後「XG-PON」(Xはローマ数字の10)と改称されて策定が進んでゆく。実はこれは通称で、正式名称は「10G-PON」なのだが、先立つ10G-EPONとの混同を避けるためか、こちらの呼び方はなぜかあまり使われていない。基本的な考え方は、GE-PONに対する10G-EPONとよく似ており、以下の2点を実現することが重要とされた。

  • 下り(OLT→ONU)方向で10Gbpsの帯域の確保
  • 既存のG-PONとの互換性を保ち、混在を可能に

 まず下りで10Gbpsを実現するのは、それほど困難ではないとされた。というのは、既にG-PONで2.5Gbpsを実現しており、この速度を4倍にするだけでよいためだ。しかも、10G-EPONのおかげで、仕様策定開始時点で10Gbpsに対応したトランシーバー(というか、送信側のレーザー素子)が比較的廉価に入手できそうな目途が立っていた。このため、技術的な難易度は低かった。

 2点目に挙げた既存のG-PONとの混在についても、10Gbpsと2.5Gbpsで利用する波長を変えることで対応した。XG-PONの場合、下りは1575~1581nm、上りは1260~1280nmの波長を利用しており、G-PON(下りは1480~1500nm、上りは1290~1330nm)とは重複しない。このため、ONU側にWDMフィルターを挟み込んで不要な波長をカットすることで、10Gbpsと2.5Gbpsの両方を混在できる、というわけだ。

 ただし、10G-EPONと異なるのは、上りが2.5Gbpsのみとなっていることだ。上りの10Gbps化は見送られ、次のXG-PON2で実現するとされた。このため、10G-EPONにあった対称型に相当する構成はなく、G-PONか、XG-PONかという二択になる。

 以下の図は、このG-PONとXG-PON、更に映像配信が混在するケースでの模式図だ。右側が基地局で、XG-PONとG-PONのOLT、それと映像配信用のOLTとして、G-PONやGE-PON/10G-EPONなども共通する1550nm帯を割り当てている。これにWDMを利用して1本のファイバーに送り込むという構成である。

 ファイバーはその後スプリッター経由でそれぞれの加入者宅のONUに繋がるが、ここでWDM-X(XG-PON用フィルター)を通すとXG-PON(+映像)信号が、WDM-G(G-PON用フィルター)を通すとG-PON(+映像)信号がそれぞれ得られるかたちだ。既存のG-PON用のONUはそのままでは利用できず、WDM-Gフィルターを追加する必要があるが、これはONUの交換だけで済むから、それほど大きな支障にはならないというわけだ。

HUAWEIの資料"Next-Generation PON Evolution"より抜粋

伝送フレームは「XGEM」

 ちなみに伝送フレームそのものは、G-PONの「GEM」を拡張した「XGEM(XG-PON Encapsulation Method)」というフレームに切り替わっている。このため、GTCにはXGEMが格納されるかたちとなる。ちなみに、XGEMはペイロード(データの格納場所)のサイズが4Byteの倍数になるように変更された。

 また、第3回で解説した「DBA(Dynamic Bandwidth Assignment)」を、GE-PONやG-PONと同様に採用。「PLOAM(Physical Layer Operation, Administration and Maintenance)」といった管理機能や「DBRu(Dynamic Bandwidth Report)」や「bandwidth allocation」、「ranging functions」といったDBAの拡張機能も盛り込まれているなど、変更点は多い。

 1台のOLTが物理的に収納できるONUの数は64台(論理的には256台)、到達距離は最低20kmながらオプションで最大60kmで、このあたりの値は10G-EPONに近い。また10G-EPONと同様に「FEC」を採用してエラー率を下げることで、不必要にレーザー出力を上げないで済むため、コストの削減と消費電力の低減も実現している。

 このXG-PON、最終的にはITU-Tで2010年1月(G987.3のみ2010年10月)に標準化が完了している。仕様は4部構成で以下のようになっていたが、いずれも2012年に改定され、その際に「G.987.4」が追加されている。

勧告定義内容
G.987用語・略語等の定義
G.987.1全体的な要件の定義
G.987.2PMD層の規定
G.987.3TC層の規定
G.987.4距離延長(Range Extention)の規定

 また、標準化の作業中は「OMCI(ONU Management and Control Interface)」の規定をG.987.4にする見込みであったが、これは2010年10月にG.988として標準化されることになった。

携帯電話基地局との接続も視野に

 さて、冒頭で少し触れたが、XG-PONではFTTH/FTTB(Fiber To The Building)/FTTO(Fiber To The Office)だけでなく、「FTTCell」なるものが当初から検討されていた。これが何かと言えば、携帯電話基地局との接続である。

 都市部にせよ地方にせよ、ある程度の密度で基地局を建てないとカバレッジが下がるため、携帯電話キャリアが相当な数の基地局を建てているのはご存知の通りだ。当然この基地局は単体では意味がなく、最終的にキャリアのバックボーンに繋ぐ必要があり、基地局と各キャリアのバックボーンの間は当然何かしらで繋ぐ必要がある。

 従来は、ここをそのままB-PONなりG-PONなりGE-PONなりで繋いでいたのだが、XG-PONではもう少しここを最適化しよう、という話になったわけだ。ただ当時はまだC-RAN(Cloud RAN)の話は大きくは立ち上がっておらず、単に基地局向けを分けて考えましょう、というレベルだったようだ。この話はまた次回に解説しよう。

XG-PONの普及状況

 さて、そんなわけで標準化が完了したXG-PON、国内では2015年にNURO光が10Gbpsプランとしてこれを採用した。ただ今のところこれに続くキャリアは国内では見当たらない。

 海外では、XG-PONではなく次回紹介する「XGS-PON」を中国の3キャリアが採用を決めている。米国でも次のNG-PON2をターゲットにしており、XG-PONはスキップということになりそうだ。

 今回は、ITUにより「G.987」として標準化された10Gbpsのアクセス回線向け光ファイバー規格「XG-PON」について解説しました。次回は、XG-PONの後継となるアクセス回線向け光ファイバー規格「XGS-PON」と「NG-PON2」について解説します。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/