清水理史の「イニシャルB」

「2Gbpsの帯域をフルに活用して欲しい」
So-net担当者に聞く、世界最速「NURO光」

 So-netの「NURO 光」は下り最大2Gbps、上り最大1Gbpsとなる世界最速の光ファイバーサービスだ。今なぜ固定回線なのか? 世界最速となる「2Gbps」をどのような技術で実現しているのか? 利用者は帯域をフルに活用できるのか? 2Gbpsサービスに関する疑問をSo-net担当者に聞いてみた。

左から、ソネット株式会社 ネットワーク基盤事業部門 ネットワーク部 ネットワーク課 上根義昭氏、サービス企画部 プロダクト企画課 鈴木めぐみ氏、営業推進部 マーケティング企画課 吉田健作氏

“光”を選ぶ時代

 「“光”にしたら“アガリ”」。家庭向けのインターネット接続環境として光ファイバーが登場した当初は、上下100Mbpsというその高い速度から、双六に例えて、よくこんなふうに言われたものだ。

 しかし、現在の状況を考えてみると、光なら”どんな回線でも”アガリなのかという点に疑問符を付けたくなる。

 光ファイバーの通信速度は、登場当初から徐々に進化を遂げ、下りで200Mbps、1Gbpsと速度を向上させ、2013年4月にSo-netがサービスの提供を開始した「NURO 光」によって、ついに2Gbpsにまで到達した。

So-net「NURO 光」ホームページ
http://www.nuro.jp/service/hikari/

 一方、周囲の状況に目を向けてみると、スマートフォンやタブレット、テレビ、ゲーム機など、インターネットを利用するデバイスは身の回りに溢れかえり、そこから24時間365日、とどまることなく通信が発生し、映画やゲームなどGB(ギガバイト)クラスのデータをダウンロードすることが、もはや当たり前、という現在の状況が広がっている。

 スマートフォンやタブレットだけでも、もはやモバイルブロードバンド回線のみで支えきれる状況ではなくなりつつあり、家庭内にあるあらゆる端末の共通インフラとして、もっと高い速度、もっと高い品質を備えた固定回線が求められつつある中、これまでに無かった2Gbpsという超高速の光ファイバーサービス「NURO 光」が登場したことになる。

 つまり、これまでアガリとされていた“光”にも選択の幅が広がり、その品質をユーザーが選ぶ時代が到来したことになる。

 とはいえ、回線は速いに越したことはないが、2Gbpsといってもフルに帯域を使えるのか、固定回線コストが上がるのは避けたい――などの疑問や懸念を持つユーザーも少なくないだろう。そこで、ソネット株式会社 ネットワーク基盤事業部門 サービス企画部 プロダクト企画課 鈴木めぐみ氏(以下、鈴木氏)、同ネットワーク部 ネットワーク課 上根義昭氏(以下、上根氏)、同営業推進部 マーケティング企画課 吉田健作氏(以下、吉田氏)に、実際のサービス内容について聞いてみた。

新たな価値を創造する場としての新インフラ

サービス企画を担当する鈴木氏

 前述したように、現在のようなデバイスとサービスが溢れかえる時代に、より高速なブロードバンド環境が求められるのは自然な流れだが、それにしても、固定よりもモバイルに注目が集まる今、この時期に、新たな固定回線サービスを開始するというのは、勇気が要る決断と言える。

 なぜ今なのか。

 サービス企画を担当する鈴木氏は、新たな価値を提供し続けてきたソネットの新しい提案だと説明する。「現在、光ファイバーサービスは一部のサービスが1Gbpsを提供していますが、ギガクラスのサービスの活性化はこれからという状況です。私たちは、ISPとして、さまざまな方法でお客様に『新たな価値』を提供することを続けて参りましたが、今回、技術的に2Gbpsのサービスを提供できる目処が立ったことで、光ファイバーサービス市場の活性化を目指して、サービスの提供を開始することになりました。」

 確かに、So-netは、ISPとしてこれまでにも数々の「新たな価値」を創造してきた企業だ。そのSo-netが2Gbpsのサービスで創造しようとしている「新たな価値」とは何なのだろうか?

 鈴木氏は、この点について、「今、私たちが手にすることができるコンテンツは、どんどんリッチ化しています。まずは、このコンテンツを手にするユーザーにとって、インフラがボトルネックにならない環境を提供することができると考えています」と語った。

 さらに鈴木氏はコンテンツを提供する側のメリットについても言及。「2Gbpsという高速なインフラが整ってきたということを、コンテンツを作る側のクリエイターの方に認識していただければ、よりリッチなコンテンツを作ろうという刺激になると考えています」という。

 もちろん、ゲームや映像など、現在存在するギガバイトクラスのファイルを快適にダウンロードできるようになるという短期的なメリットがあることは明らかだ。しかし、単にそれだけではなく、「高速な回線を活かしたいユーザー、そこで提供できるコンテンツの可能性を探るクリエイターとの良い連鎖(鈴木氏)」を狙って、今回、NURO 光の提供を開始したということになる。

 ユーザーとクリエイターの新たな場をISPとして提供する試みと言えるだろう。将来的に4Kテレビの普及も視野に入れ、リッチ化するコンテンツに先んじてインフラを整えようと一歩を踏み出した勇気は高く評価したいところだ。

GPONで2Gbpsを実現

 続いて、技術的な面に迫っていこう。今回のNURO 光の最大の特徴は下り最大2Gbpsという通信速度にある。現状、他のサービスが200Mbps、もしくは1Gbpsとなる中、どのように2Gbpsという速度を実現しているのだろうか?

 ネットワークを担当する上根氏によると、ポイントはGPONの採用にあるという。「NURO 光では光ネットワークのインフラとして国際標準規格のGPONを採用しています。このGPONと、これまで国内の光ファイバーサービスで一般的に採用されていたGE-PONとの最大の違いは、下りの伝送速度にあります。GE-PONは1.25Gbpsなのに対して、NURO 光のGPONは2.488Gbpsとほぼ倍の速度を実現しています」とのことだ。

So-net NURO 光サービスの提供イメージ。GPONの採用がポイントだ

 GE-PONとGPONの主な違いは、伝送するフレームの方式にある。GE-PONは“Gigabit Ethernet-Passive Optical Network”の略で、その名の通り、イーサネットフレームをそのまま光ファイバー伝送路でやり取りする方式となる。一方、GPONはGTCフレームと呼ばれる固定長のフレームをやり取りする。GE-PONの方が構成はシンプルだが、GPONの方が伝送効率が良く、最大速度も2.488Gbpsと高くなっている。

 もちろん、2.488Gbpsの回線を占有するわけではない。ユーザー宅までの足回りには、NTT東の「シェアドアクセス」と呼ばれる加入者系光ファイバーを利用しており、2.488Gbpsの帯域を何名かの加入者で共有する形となる。

 共有する加入者数については公表していないが、マーケティングを担当する吉田氏によると、「一般的なGE-PONの場合、シェアドアクセスで他のユーザーと共有する帯域が1.25Gbpsですが、NURO 光のGPONでは、この帯域自体も2.488Gbps確保できるため、共有の影響を受けにくいのも特徴となります」とのことだ。

 実際の工事については、別の機会にレポートする予定だが、上述の通り、NURO 光で利用する光ファイバーは、So-netが自前で敷設するものではなく、NTT東が敷設する光ファイバーを利用している。回線の品質や工事に関する懸念は不要だろう。

 ただし、提供エリアは現在、関東1都6県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、群馬県、栃木県、茨城県。一部エリアを除く)に限られる。また、一戸建て、および2階建て以下の集合住宅が対象となっており、3階建て以上のマンションなどは対象外となる。2階建てまでというのは、居住しているのがたとえ1階または2階でも、建造物が3階建て以上であれば対象外という意味なので、この点には注意が必要だ。

 なお、法人向けには、オフィスビルなどでも導入できる「NURO Biz」をソネットビジネスアソシエイツ株式会社が提供している。個人向けの「NURO 光」とはプランや料金が異なるため、オフィスでの導入を考える場合は、「NURO Biz」のサイトを参照してほしい。

1Gbpsの端末で2Gbpsをどう活用するか?

ネットワークを担当する上根氏

 さて、ここで多くのユーザーが疑問に思う点について質問してみた。この2Gbpsという帯域を端末側でどのように活かすことができるのか、という点だ。

 上根氏によると、「一般的な光ファイバーサービスのように、ONUとブロードバンドルーターの2つの機器を使い分ける方式では、どうしても、この間を接続するギガビットイーサネットの1Gbpsという速度の制約を受ける形になります。また、そもそも2つの機器を接続するという点で設置などの手間も必要でした。これに対して、弊社のNURO 光では、これを一体化したオリジナル端末をメーカーと共同開発しました。これにより、光の終端装置とレイヤ3のルーター部分を同一筐体として提供するため、別筐体で提供する場合のギガビットイーサの制限を受けることなく、2Gbpsを実現することが可能となっています」という。

 もちろん、LAN側については、終端装置と無線LANルータを兼ねる装置背面のLANポートは1000BASE-T準拠で、PC側も一般的に1000BASE-T準拠であるため、PCなどの端末で体験できる通信速度の上限は1Gbpsとなる。ただし、前述の通り、ルーターのWAN側までは2Gbpsで通信できるため、2Gbpsの帯域を1Gbpsの複数端末でシェアできるということになる。

 一般的な1Gbpsのサービスでは、1Gbpsの回線を1Gbpsの端末でシェアするため、複数端末で同時に通信すれば、端末で1Gbpsのフルスピードを実現することはできなくなってしまう。しかしNURO 光では、2Gbpsの帯域をシェアするため、複数端末の同時利用でも端末側のフルスピードを実現することが可能となるわけだ。

 このメリットは、すでに実際の利用シーンでも、十分に享受することができるという。たとえば、「PS3のゲームやビデオコンテンツは、4GBを超えるようなものがたくさんあります。こういったコンテンツをダウンロードしながらでも、他のことができます(上根氏)」という。また、「これまではコンテンツのダウンロードが朝まで経っても終わらないという声を聞くこともありましたが、NURO 光であれば回線の占有時間を短くすることができます(鈴木氏)」という。

 このほか、マーケティング担当の吉田氏によると、「マルチユーザーで2Gbpsをみんなで快適に使えるのが一番のメリットとなりますが、一方で、個人で導入されているヘビーユーザーの方からも、アップロードで1Gbps使えることから、オンラインストレージなどを快適に使えるという声もあります。また、子会社が「NURO Biz」という法人向けのサービスも提供していますので、得意先と容量の大きいデータファイルを受け渡しする企業にも適しています」とのことだ。

 話題は少し逸れるが、先日、マイクロソフトからPreview版の提供が開始されたWindows 8.1では、オンラインストレージのSkyDriveがOSにインテグレートされており、標準のデータの保存先としてSkyDriveを指定することが可能となった。

 先日、筆者も11GBほどあった「ドキュメント」内のデータをSkyDriveに同期させたが、実際のアップロードはバックグラウンドで徐々に行われるわけだが、NURO 光を利用すると、大容量データを転送中であることがまったく気にならずにネットサービスなどが利用でき、いつの間にか同期を完了させることができた。

 おそらく今後は、シームレスにクラウドを活用するシーンが増えてくるはずだ。数GBの映像をダウンロードしつつ、クラウド上のストレージにデータを自動同期し、スマートフォンやタブレットではYouTubeを観たりLINEで音声通話するなど、帯域を必要とする要素はいくらでも存在する。そういった使い方をした時にも快適に利用できるかどうか。とくに引越しなど回線の見直しの機会がある、あるいはADSLから光回線への乗り換えを考えているユーザーなら、改めて考えるタイミングと言えるだろう。

ソネットでは、一般顧客がNURO 光を導入したのと同様の環境を再現。複数端末で同時に速度測定した際の写真から、それぞれが900Mbps以上同時に出ていることがわかる

 なお、ここで気になるのが帯域制限だ。多くのISPでは直近数日の使用量などに応じて帯域を制限する場合がある。こういった制限については、NURO 光では、他のユーザーに迷惑がかかるような使い方があれば、今後個別に制限する可能性はあるが、現時点では制限をかけた例はまだないという。

 「基本的には2Gbpsの帯域をフルに活用してもらうことを想定しています(鈴木氏)」ということなので、思う存分快適な通信を楽しめると考えてよさそうだ。プロトコル制限についても、現状では考えていないという。

 なお、IPv6に関しては、現状は対応していないが、今年(2013年)9月にサービスを提供する予定とのことだ(上根氏)。

すべてコミコミで5000円以下

 サービス面での特徴としては、価格的なメリットも大きい。回線とISPを両方ともSo-netが提供するシンプルでわかりやすいサービスとなっており、回線利用料やプロバイダー接続料、機器利用料などがすべてコミコミで、月額4980円(NURO 光 G2 Vコース)で利用可能となっている。

 初期費用として契約事務手数料の840円と基本工事費の31500円がかかり、NURO 光 G2 Vコースは2年間の継続契約が条件となるが(契約解除料9975円)、世界最速の2Gbpsのサービスを5000円以下で利用できるのは魅力だ。

 しかも、終端装置にはIEEE802.11n/a/b/g(最大450Mbps)対応の無線LANルータ機能が内蔵されているため、別途無線LANルータを購入する必要もない。マカフィー製のセキュリティ対策サービスも標準で付いており、Windows、Mac、Androidなど、最大5台まで追加料金なしで利用可能となっている。通常のSo-netのサービスであれば、同内容の「マカフィー マルチ デバイス セキュリティ」は月額525円のオプションサービスとなっているため、お得感は高い。

 鈴木氏によると、「最大2Gbpsというスピードが特徴のサービスですが、良いサービスでも、みなさまに使っていただけないと意味がないと考えています。そのため、もはや、あって当たり前のWi-Fi、接続する端末ごとに対策するのが普通のセキュリティ対策という点を考慮してサービス設計をしました」という。単にスピードだけを追求したわけではないところは高く評価したいところだ。

 以上、So-netの「NURO 光」について、同社に話を聞いたが、2Gbpsというスピードはもちろんだが、サービス内容や価格など、全体として、他にはないサービスを実現しようという強い意志が感じられるサービスと言える。クラウド時代だからこそ家庭の固定回線を見直す時期が到来したと言えるが、そんな光ファイバーサービスの新しい基準を示したことは非常に大きい。今後の発展が期待できるサービスと言えるだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。