期待のネット新技術
最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年3月16日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
400Gbpsに関しては前回まででほぼ網羅したので、次は800Gbpsである。
もちろんインストールベースで言えば、400Gbpsの普及はまだこれからという段階であり、主要なエンドユーザーはまだ100Gbpsに留まっているのが現状ではあるが、この先の機材更新あるいは新規のデータセンター建設などでは、400Gbpsへの移行あるいは近い将来の移行を前提とした設備の導入などが普通になってきている。近い将来400Gbpsが全盛になるのは、まあ間違いない。
最大800Gbpsの100G PAM-4 PHYをBroadcom、Intel、Synopsys、Xilinxがサポート
さて、その次の800Gbpsであるが、とりあえずコンポーネントベンダーは意欲的である。例えばBroadcomは7×100G PAM-4 PHYである「BCM87800/BCM87802」を7nmプロセスを利用して製造し、提供を開始したことを2020年12月に発表している。
リリースにもあるが、BCM87800/BCM87802はQSFP-DD800およびOSFPトランシーバーモジュールに最適化された設計となっている。また800Gの8:8 Retimerである「BCM87360」も同時にリリースされている。
この100G PAM-4 PHY、正確には112GbpsのPAM-4 PHYとなるが、各社とも当たり前のようにサポートし始めている。例えばIntelは、同社の10nmプロセスで製造した「Agilex」という新しいFPGAファミリーでこの112GbpsのPHYをサポートしていて、2018年には112G PHYの動作デモを行っていた。
同様にSynopsysは2019年、TSMCのN7 Processを使った「DesignWave 112 Ethernet PHY IP」の動作デモを公開している。一方Xilinxも、現状ではハイエンドとなる「Versal Premiumシリーズ」で112G PHYを搭載している。
最大100Gの受発光素子に関する規格策定へStudy Group立ち上げ
PHYというかコントローラー側は、そんなわけで2018年~2019年頃から着々と準備が整い始めた。送受信素子の側に目を転ずると、2019年11月に開催されたIEEE 802 LMSC November 2019 Plenary meetingにおいて、CFI Consensus Presentationとして"Lower cost, short reach, optical PHYs using 100 Gb/s wavelengths"という提案が出ている。
"CFI Consensus Presentation"、つまりCall for Interestを提案するための資料であって、まだStudy Groupが結成される以前の段階のものだが、2019年の段階では100Gの発光素子(VCSEL)はまだ開発途中との但し書きをした上で、50G向け(25G PAM-4)は順調であるとしていた(以下左)。実際2019年のOFCでFinisarが行ったデモでは、30m程度の到達距離は実現可能としている。
実際、波長に850nmを利用した場合、それなりにEye Heightが取れることが示された。このままでは、いろいろ厳しいのはもちろん事実だが、さまざまな工夫で何とかなる、というのが、送信側の暫定的な結論だ。
受信側については案外楽観的で、かなりの回路が既存の規格のものを再利用できるとしている(以下左)。そんなわけで、このプレゼンテーションの後で投票が行われた結果、65名の参加者に対して55名の賛成を得てStudy Groupの立ち上げが決まった(以下右)。
もっとも、100GのPAM-4という規格そのものは、『53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbpsを実現する「400GBASE-DR4」』でも紹介している「400GBASE-DR4」として既に存在している。
もちろん、こちらは波長が1310nm帯でSMFを使う規格だから、MMFを使うことを前提とした場合は、そのままというわけには行かない。少なくと発光素子は全く異なるし、受光素子にも多少の変更は必要なのだが、まるっきり不可能ではない、という目途は立っていたようだ。
このCall for Interestを受けて結成されたのが"IEEE 802.3 100 Gb/s Wavelength Short Reach PHYs Study Group"で、これは最終的に、2021年5月にDraft 1.0の完成に向けて現在作業中の"IEEE P802.3db 100 Gb/s, 200 Gb/s, and 400 Gb/s Short Reach Fiber Task Force"につながっている。
自動車の自動運転で広まった「LiDAR」が940nm普及のカギ800Gへ向けた各MSAの取り組みは?
ただ、P802.3dbは、その名にもある通り100/200/400Gの規格で、800Gは枠外だ。そこで、こちらに向けた検討を行っているのがIEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet Study Groupである。
こちらは2020年10月にCall for Interestが出され、これが承認を受けて2021年1月からStudy Groupの活動が始まったばかりだ。ただ、800G向けのMSAの活動を受けてという部分もあるため、まずはMSA側の動きを紹介したい。
その前に1つ。940nmが出てくる理由の答えが右だ。ここで言う"3D sensing applications"は、最近自動車の自動運転に伴って広く利用されるようになった「LiDAR(Light Detection and Ranging)」である。
これは要するに940nmのパルス状のレーザーを周囲に放射し、戻ってくるまでの時間を測定することで、物体までの距離や、そもそも物体があるかどうかを検知するセンサーだ。
もちろん無指向に放射したら方角が分からないので、基本は1度に1方向の検知を行うかたちだが、モーターで回転する反射鏡と組み合わせることで、センサーの全周の物体検知とその距離を取得できるというものだ(最近は反射鏡を利用しないものが次第に増えてきたが)。
細かい話はINTERNET Watchの範疇を外れるので説明しないが、自動運転のニーズが高級車のみから、一般車のやや高めのグレードを経て、大衆車向けののオプションにまで提供されるようになってくると、LiDARのニーズが増える一方でコストに対して非常に厳しくなる。
結果、940nmのVCSELが猛烈に安く、しかも大量に入手できるようになってきたので、これを転用すれば安くなる、という見積もりだ。今後これがどうなるのかはまだ分からないが、そういう背景があっての動きと、ご理解いただきたい。
というわけで、800GのMSAについて。800Gについての取り組みを行っている団体と、その発表内容には以下のようなものが挙げられる。次回はこれらをもう少し細かくご紹介したい。
- Ethernet Technology Consortium
"800G Specification"を2020年10月にリリース - QSFP-DD800 MSA
"QSFP‐DD specification for 800G operation"を2020年3月にリリース - OSFP
2017年リリースのForm Factor Specificationで既に800Gを考慮 - 800G Pluggable MSA
"800G-PSM8 Technical Specification Draft 1.0"を2020年8月にリリース
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー