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最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

 400Gbpsに関しては前回まででほぼ網羅したので、次は800Gbpsである。

 もちろんインストールベースで言えば、400Gbpsの普及はまだこれからという段階であり、主要なエンドユーザーはまだ100Gbpsに留まっているのが現状ではあるが、この先の機材更新あるいは新規のデータセンター建設などでは、400Gbpsへの移行あるいは近い将来の移行を前提とした設備の導入などが普通になってきている。近い将来400Gbpsが全盛になるのは、まあ間違いない。

最大800Gbpsの100G PAM-4 PHYをBroadcom、Intel、Synopsys、Xilinxがサポート

 さて、その次の800Gbpsであるが、とりあえずコンポーネントベンダーは意欲的である。例えばBroadcomは7×100G PAM-4 PHYである「BCM87800/BCM87802」を7nmプロセスを利用して製造し、提供を開始したことを2020年12月に発表している。

 リリースにもあるが、BCM87800/BCM87802はQSFP-DD800およびOSFPトランシーバーモジュールに最適化された設計となっている。また800Gの8:8 Retimerである「BCM87360」も同時にリリースされている。

 この100G PAM-4 PHY、正確には112GbpsのPAM-4 PHYとなるが、各社とも当たり前のようにサポートし始めている。例えばIntelは、同社の10nmプロセスで製造した「Agilex」という新しいFPGAファミリーでこの112GbpsのPHYをサポートしていて、2018年には112G PHYの動作デモを行っていた。

 同様にSynopsysは2019年、TSMCのN7 Processを使った「DesignWave 112 Ethernet PHY IP」の動作デモを公開している。一方Xilinxも、現状ではハイエンドとなる「Versal Premiumシリーズ」で112G PHYを搭載している。

Synopsysが2019年に公開したTSMCのN7 Processを使った「DesignWave 112 Ethernet PHY IP」の動作デモ

最大100Gの受発光素子に関する規格策定へStudy Group立ち上げ

 PHYというかコントローラー側は、そんなわけで2018年~2019年頃から着々と準備が整い始めた。送受信素子の側に目を転ずると、2019年11月に開催されたIEEE 802 LMSC November 2019 Plenary meetingにおいて、CFI Consensus Presentationとして"Lower cost, short reach, optical PHYs using 100 Gb/s wavelengths"という提案が出ている。

 "CFI Consensus Presentation"、つまりCall for Interestを提案するための資料であって、まだStudy Groupが結成される以前の段階のものだが、2019年の段階では100Gの発光素子(VCSEL)はまだ開発途中との但し書きをした上で、50G向け(25G PAM-4)は順調であるとしていた(以下左)。実際2019年のOFCでFinisarが行ったデモでは、30m程度の到達距離は実現可能としている。

12.5GHz前後までSパラメーター(S1から入力した信号がS2から出るまでの損失)が0dBながら、以降で急速に劣化し、25GHzの損失は9dB。青い線のように損失を減らせれば実用的、という話だ
940nmが出てくる理由はまた後で。出典は"Lower cost, short reach, optical PHYs using 100 Gb/s wavelengths"

 実際、波長に850nmを利用した場合、それなりにEye Heightが取れることが示された。このままでは、いろいろ厳しいのはもちろん事実だが、さまざまな工夫で何とかなる、というのが、送信側の暫定的な結論だ。

まだEarly Prototypeでの話だから、あくまでも技術的な可能性があるかどうかの議論のレベル
ここでも940nmの議論が出てくる。出典は"Lower cost, short reach, optical PHYs using 100 Gb/s wavelengths"

 受信側については案外楽観的で、かなりの回路が既存の規格のものを再利用できるとしている(以下左)。そんなわけで、このプレゼンテーションの後で投票が行われた結果、65名の参加者に対して55名の賛成を得てStudy Groupの立ち上げが決まった(以下右)。

既に100Gで受信できる素子は現実問題として存在しており、あとはいかに低コストにするかの問題だから、こういう書き方になったのだろう
反対はさすがに0だった模様。出典は"Lower cost, short reach, optical PHYs using 100 Gb/s wavelengths"

 もっとも、100GのPAM-4という規格そのものは、『53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbpsを実現する「400GBASE-DR4」』でも紹介している「400GBASE-DR4」として既に存在している。

 もちろん、こちらは波長が1310nm帯でSMFを使う規格だから、MMFを使うことを前提とした場合は、そのままというわけには行かない。少なくと発光素子は全く異なるし、受光素子にも多少の変更は必要なのだが、まるっきり不可能ではない、という目途は立っていたようだ。

 このCall for Interestを受けて結成されたのが"IEEE 802.3 100 Gb/s Wavelength Short Reach PHYs Study Group"で、これは最終的に、2021年5月にDraft 1.0の完成に向けて現在作業中の"IEEE P802.3db 100 Gb/s, 200 Gb/s, and 400 Gb/s Short Reach Fiber Task Force"につながっている。

自動車の自動運転で広まった「LiDAR」が940nm普及のカギ800Gへ向けた各MSAの取り組みは?

 ただ、P802.3dbは、その名にもある通り100/200/400Gの規格で、800Gは枠外だ。そこで、こちらに向けた検討を行っているのがIEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet Study Groupである。

 こちらは2020年10月にCall for Interestが出され、これが承認を受けて2021年1月からStudy Groupの活動が始まったばかりだ。ただ、800G向けのMSAの活動を受けてという部分もあるため、まずはMSA側の動きを紹介したい。

ただ、歴史的に見ると「ほかの用途で大量に使われてるから安価」というものは、規格を詰める中で独自の要求などが出て転用できず、結局高価になったりすることも多い。出典は"Proposed objectives for 100 Gb/s Proposed objectives for 100 Gb/s short-reach PMDs"

 その前に1つ。940nmが出てくる理由の答えが右だ。ここで言う"3D sensing applications"は、最近自動車の自動運転に伴って広く利用されるようになった「LiDAR(Light Detection and Ranging)」である。

 これは要するに940nmのパルス状のレーザーを周囲に放射し、戻ってくるまでの時間を測定することで、物体までの距離や、そもそも物体があるかどうかを検知するセンサーだ。

 もちろん無指向に放射したら方角が分からないので、基本は1度に1方向の検知を行うかたちだが、モーターで回転する反射鏡と組み合わせることで、センサーの全周の物体検知とその距離を取得できるというものだ(最近は反射鏡を利用しないものが次第に増えてきたが)。

 細かい話はINTERNET Watchの範疇を外れるので説明しないが、自動運転のニーズが高級車のみから、一般車のやや高めのグレードを経て、大衆車向けののオプションにまで提供されるようになってくると、LiDARのニーズが増える一方でコストに対して非常に厳しくなる。

 結果、940nmのVCSELが猛烈に安く、しかも大量に入手できるようになってきたので、これを転用すれば安くなる、という見積もりだ。今後これがどうなるのかはまだ分からないが、そういう背景があっての動きと、ご理解いただきたい。

 というわけで、800GのMSAについて。800Gについての取り組みを行っている団体と、その発表内容には以下のようなものが挙げられる。次回はこれらをもう少し細かくご紹介したい。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/