期待のネット新技術
800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年7月13日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
2か月弱の間が空いてしまったが、久々に光Ethernetのこれからの話を続けていこう。「ETC」と「QSFP-DD800 MSA」、「800G Pluggable MSA」は3回をかけ、すでに紹介しているので、今回は残るOSFPの800Gの動向について簡単に説明していこう。
モジュール仕様を定めるOSFP MSA、Rev 4.0で800Gの規定が大幅増
OSFPそのものは、2020年9月掲載の『最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」』で紹介している。
OSFPは、あくまでモジュール規格の仕様を定めるMSAであり、要するにGAUIとのインターフェースと、電気/機械的特性を定めるのが主なところで、800Gをどう変調するのか、といった話には、当然ながらノータッチだ。
当初から800Gまでスケールさせることが想定されていたが、仕様として正式にサポートされたのは2021年5月28日にリリースされた"OSFP OCTAL SMALL FORM FACTOR PLUGGABLE MODULE Rev 4.0"からだ。
具体的には、Specificationの"Optical PMD Block Diagrams"へ800Gが追加された格好だ。この章で定義されているものは、一覧としては以下のように増加しており、Rev 1.12まではChapter 7までだった章番号も、Rev 2.0ではChapter 9へ、Rev 3.0~4.0ではChapter 10へと増えている。
Rev 1.0~2.0 | Rev 3.0 | Rev 4.0 | |
400G-PSM4 | 400G-DR4 | 400G-DR4 | 800G-DR8 |
400G-SR8 | 400G-SR8 | 400G-SR8 | 800G-BD4.2 |
400G-FR4 Duplex Fiber | 400G-SR4.2 | 400G-SR4.2 | 2x400G-2xFR4 |
400G-FR8/LR8 | 400G-FR4 | 400G-FR4 | 800G-FR4 |
2x200G-CWDM4 | 400G-FR8/LR8 | 400G-FR8/LR8 | 800G-FR8/LR8 |
2x100G-CWDM4 | 2x200G-2xFR4 | 2x200G-2xFR4 | 800G-SR8 |
2x200G-2xCWDM4 | 2x200G-2xCWDM4 | 2x400G-SWDM4 |
そして以下の各図がRev 4.0で追加された800G(ないし2x400G)の規定となる。
基本的は、スイッチ側とのインターフェースは「800GAUI-8」(つまり100Gレーン×8)で、あとは変調方式に応じてCDR(Clock Data Recovery:クロックとデータを分離/重畳)した後で、それぞれの変調方式に応じたトランシーバーをつなぐ、というだけの話となる。
ここに挙げられた規格は、標準化がすでに進んでいるようなものではなく、OSFPとして利用されそうな接続方法をあらかじめ列挙し、それを標準化した、というだけのようだ。Rev 3.0→Rev 4.0で追加・変更されたほかの項目には以下のようなものがある。
- フロントパネル部が大型化されたType 2/Type 3のモジュール形状を追加
- モジュールにおけるラッチ部分のリリースメカニズムを明確化
- コネクタの温度要件が追加
- Type 2/3モジュールのインピーダンス試験要件が追加
- モジュール格納用ケージの上に搭載されるヒートシンク「OSFP-RHS(Riding Heat Sink)」の位置を微調整
- Dual Mini-LC/Dual Duplex LC/Dual CS/Dual MPO/Dual MXC/8×MDC/8×SNの光ファイバーコネクタ利用規定を追加
- モジュールへの最大供給電力を10Aとし、最大33Wまで利用可能に(Rev 3.0は6.4Aで最大21.1W)
- 最大でも2Wまでの低電力モードを追加
このうちType 2/3は、8対16本の光ファイバーをMPO以外で接続する(Dual MPOの例や、8×MDCの例が分かりやすい)場合に、フロント側の面積が足りないことに配慮しての対応であろうし、供給電力を最大33Wまで広げたのは(800Gで必要とされると考えられる)30Wモジュールへの対応ということになる。
ただ、違いはその程度でしかない。個人的には、電源ピンの数が4本のままで10A(ということはピンあたり2.5A!)って大丈夫なのだろうか? というあたりがちょっと心配ではあるが、その程度である。
800G Ethernetに関係する2つのIEEE、問題はその先の光変調か?
さて、MSAの側の説明が終わったので、IEEEの動向について紹介しよう。IEEE 802.3 ETHERNET WORKING GROUPでは、現在もいくつかのTaskが走っているが、この中で800G Ethernetに関係しそうなのは以下の2つである。
- IEEE P802.3ck 100 Gb/s, 200 Gb/s, and 400 Gb/s Electrical Interfaces Task Force
- IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet Study Group
このうち前者は、『HDRは好スタート、InfiniBandのこの先は?』や、『ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に』で紹介していて、要するにPMDのSpecificationなのだが、タイトルからも分かるように、本来は100~400G向けである。
実際、Objectiveそのものには800Gとの文字は出てこないが、レーンあたり100Gの、しかも低コストの方式が確立できれば、それを8対にするだけで800Gになるわけで、現状はまだStudy Group段階の800G Ethernetの検討において、それこそ「800GBASE-SR8」などはこの400Gレーンを前提にするだろうことは明白である。
ちなみにこの「P802.3ck Task Force」、当初は2021年の3月に技術的な検討が終わり、これをDraft 1.5としたが、すぐにDraft 2.0に昇格。以後Working Group内での投票が行われている段階だ。
大まかな仕様の変更は2022年1月までに完了予定で、そのあとはIEEE SAによるスポンサー投票の段階を経て、2022年7月に標準化が完了の予定となっている。
もっとも、P802.3ckのうち800Gの光Ethernetで利用できる部分は、要するにPCSの部分だけであり、その先のPMAの部分に関しては、あまり役に立たない。
そもそもP802.3ckは、「100GBASE-KR1」や「100GBASE-CR1」がメインの規格である。ただ、上記の図のコメントへ書いたとおり、Optical Ethernet向けとして「100GAUI-1 C2M」の規格も内包される予定で、これを8つ並べれば「800GAUI-8」になる、というだけの話だ。問題はその先、つまり光変調をどうするか、という話になるわけだ。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー