期待のネット新技術
XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年6月9日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
現実問題として、10GBASEで使われているトランシーバーモジュールの規格は、利用された順で言えばXENPAK→X2→XFP→SFP+となる。
4波長をサポ―ト、70ピン独自コネクタ採用の「XENPAK」
2001年3月、XENPAK MSAの形成が発表された。MSAはMultiSource Agreementの略で、業界団体にすらなっていなかった。
発表文にもあるように、Agere System(旧Lucent TechnologiesのMicroelectronics Groupがスピンアウトした企業)とAgilent Technologiesの2社が共同の覚書を交わしたというレベルではあるのだが、とにかくこの2社が中心となって、10G Ethernet向けにトランシーバーモジュール規格の標準案を出したかたちだ。
その発表文によれば、850nmシリアル、1310nmシリアル、1310nm WWDMと1550nmシリアルという4つの波長をサポートし、モジュール寸法は38×121×17.4mmにおさえたものだ。コネクタは70ピンの独自規格(Tyco Electronicsが提供)を利用する。
ホスト側との接続はXAUI(以下左)なので、前回にも掲載した以下右にある構成を利用するかたちだ。制御機能側は割と充実しており、動作状況のモニタリングとかも可能となっている。
電源としては、850nm/1310nm光源のモジュールの場合は最大6W、1550nm光源の場合は最大10Wが供給可能とされている。もっとも電力供給そのものには大きな問題はないが、これによるモジュールの発熱の方が問題視されており、Specificationの中にはそのための記述もある。
このXENPAKは当初、「ほかの規格がない」ということで利用されていた。ただ、SFPなどに比べて何しろ「デカい」ため、X2が出てくると押されるように衰退していった。XENPAK MSA自身も、2002年に9月にRev 3.0のSpecificationを出した後はほとんど動きがなくなっており、ウェブサイトも2008年までは存在したが、その後アクセス不能になっている。
実質的にはXENPAK後継の「X2」、70ピンコネクタ採用で4波長をサポート
2002年7月、今度は「X2 MSA」が形成された。メンバーはAgere Systems、Agilent Technologies、JDS Uniphase、三菱電機、NEC、OpNext、Optillion及びTyco Electronicsだ。ここにXENPAK MSAのAgere SystemsとAgilent Technologies、それにコネクタを提供していたTyco Electronicsの名前があることからも分かるように、実質的にはXENPAKの後継規格ということになる。
最初のSpecificationである「Revision 1.0」は2003年2月に発表された。このときには、メンバー企業としてIgnis Optics、Molex Incorporated、Multiplex Inc、NTT、Pine Photonics、TriQuint Optoelectronicsが加わり、XENPAK MSAよりも活発だったことが伺える。
さて、そのX2であるが、仕様自体はXENPAKにかなり近い。まずコネクタそのものはXENPAKと同じTycoの70ピンのものが利用される。電気的仕様に関して言えば、XENPAKの一部のレジスタの値が異なる(D.8032というレジスタの値が"00-80-BE"から"00-0C-64"に、D.8012というレジスタの値が"01"から"02"になった)だけで、それ以外は完全に一緒である。
つまり、XAUIを利用した接続である点、850nmシリアル/1310nmシリアル/1310nm WWDM/1550nmシリアルの4波長をサポートする点に違いはない。
一方で異なっているのは機械的形状である。全体的により小型化(おおまかに言って体積はXENPAKの半分程度)となったほか、レールによる着脱(右)、さらにPCIカード向けの対応(右下)など、より広範に利用するための工夫というか、きちんとした仕様化がなされたものだ。
あるいは、コネクタ部の追加シールドの方法なども記述されたほか、放熱能力を強化する方法も論じられている。
コストという意味では、ZENPAKとX2の間に大きな差はなかったようだが、多少なりとも体積が減り、機械的な面も見直されて使いやすくなったことで、ZENPAKを置き換えるように、2004年あたりからX2が利用されるようになった。
10Gbpsのシリアル通信規格「XFI」を前提とした「XFP」、9種の媒体をサポート
3つ目の規格である「XFP」もまた、「XFP MSA」が2002年5月に結成された。
ほとんどX2と変わらないタイミングだが、製品化はX2から少し遅れた。結成メンバーはBroadcom Corporation、Brocade、Emulex Corporation、Finisar、JDS Uniphase、Maxim Integrated Products、ONI Systems、ICS(住友電工子会社)、Tyco ElectronicsおよびVelioの10社で、コネクタメーカーのTycoと光コネクタのJDS Uniphase以外は、XENPAK/X2とは全く異なる。
ただし、こちらはその後さらに多くのメンバー企業が参画していて、XFP Revision 3.1のContributorsを見ると、実に75社の名前が挙がっている。その中にはAgere SystemsやAgilent Technologies、三菱電機、NEC、NTTなどX2のメンバーがほぼ加わっており、その意味ではX2のメンバー企業が、XFPをX2の後継規格と考えていたと言えるようにも思う。
XFPは「XFI」を前提とした規格だ。XFIは前回の最後で触れたが、10Gbpsのシリアル通信規格だ。前回も掲載したスライドの一番下にある、PMAとPMDを繋ぐ間のインターフェースがそれだ。
そしてスライドにもある通り、「IEEE 802.3ae」とは無関係の独自規格となる。それもあってか、XFPではこのあたりを丁寧に定義している。基本的にXFIは以下の図のように、2線式でホスト側のPMAと繋がる構造だ。
信号速度は、10G Ethernet以外にSONETや10G FiberChannel、あるいはG.709などを考慮し、データレートは9.95Gbps~11.09Gbpsまでの複数をサポートする。
ちなみに、エンコードは64b/66b以外に、8b/10b、SONET Scrambled、NRZ、RZの各方式をサポートしているが、10G Ethernetでは64b/66bエンコードが利用される。以下のスライドでは、IEEE 802.3aeだと10.31Gbps(正確には10.3125Gbps)という微妙な数字なのは、64b/66bエンコードを通すことを前提にしているためで、データレートそのものは10Gbpsとなる。
また、媒体もさまざまなものをサポートしており、850nm VCSEL/1310nm VCSEL/1550nm VCSEL/1310 FP/1310nm DFB/1550nm DFB/1310nm EML/1550nm EML/Coppers or Othersと9種類にも及ぶ。VCSELは垂直共振器型面発光レーザー、FPLはFPレーザー、DFBは分布帰還型レーザー、EMLは電気吸収変調器レーザーの意味で、それぞれに一長一短あるが、ここではその違いまでは論じない。
Copperに至っては、それに耐えられる製品はあるのか?と思ったが、調べてみると例えば「XFP Twinax Cable」」といった製品があって、最長10mまで到達可能なあたりは、例えばラック内配線などに活用されているのかもしれない。
話を戻すと、これだけ多数の波長およびレーザー方式に対応しているため、IEEE 802.3aeで定義された「10GBASE-R」や「10GBASE-X」への利用は、問題なく可能となっている。
XENPAK/X2と比べると厳しい点が電源供給である。XFPの場合、Power Level 1~4の4種類のモジュールが定義されているが
- Power Level 1:1.5W以下
- Power Level 2:2.5W以下
- Power Level 3:3.5W以下
- Power Level 4:3.5W以上
ただ、そもそも供給される電源が+1.8V/1.8W、+3.3V/2.5W、+5V/2.5Wとなっており、Power Level 4を定義した場合でも、利用できる限界は6.8Wであり、10Wが可能だったXENPAK/X2には及ばない。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
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- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
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