期待のネット新技術
100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年8月3日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/640GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
「800GBASE-R」や「1600GBASE-R」では、BERが5.0E-14~1.0E-14のエラーレートが妥当
主に光ファイバー周りのコンポーネントの話を紹介した前回に引き続き、IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet Study Group」の2021年3月のミーティングには、ほかにもさまざまな検討事項が含まれている。
まずは、Huaweiの発表した「BER Target」の話。例えば、こちらの記事で解説した「IEEE 802.3bs」の各規格では、BER(Bit Error Rate)は当初、1.0E-15が最小、可能なら1.0E-17に収めたいという猛烈なプロポーザルが出たようだが、最終的には1.0E-13に落ち着いたとの話が引用された上で、過去の推移からすると、「800GBASE-R」や「1600GBASE-R」に関しては、5.0E-14~1.0E-14あたりを狙うのが妥当ではないか? との見解が示された。
もちろんBERはあくまでエラーレートだから、通信路を確保するという観点では、低ければ低いほどいい。
ただし実際には、BERを確保するために、より強力なFECを使ったり、より効果の高いDFEを搭載したりという話になる。DFEの効果を高めるということは、(タップ数を増やすなど)より複雑なDFEが必要になるため、回路規模や消費電力の増大につながってしまう。
また、FECを強化すれば、それだけ冗長ビットが増え、実効転送レートの低下につながる。実効転送レートをターゲットであるレーンあたり200Gbに合わせるには、実際のデータレートを引き上げる必要がある。これは、再びの消費電力増大や、そのデータレートに対応する発光/受光素子の選定が難しくなるなど、阻害要因が増えていくだけだ。
そのあたりを考え、BERとそのほかの要因について、どこかでバランスを取るのかを決めなければならない。ただ、このBERを考える場合、どこの数値で見積もるのか、という議論がある。
エラーには複数の発生要因があるし、エラーを補正するにも複数の技術を組み合わせることで、トータルで1.0E-14なり5.0E-14なりを実現することを考えると、例えばBERが目標値に足りないときにどこを強化するのか、という議論につながってしまうわけだ。
BERの値を決めるには、さらなる情報が必要との意見が多数に
ここに出てくるのが、上でも言葉が出てきた「MTTFPA」である。Mean Time To False Packet Acceptanceの略で、要するに誤パケットの平均受信間隔だ。
Ethernet層でエラーを含んだまま転送が行われ、それが上位層で検知された場合、通常は再送されるかたちとなる。この際に、MTTFPAがあまりに短いと、非常に多くの再送が発生してしまい、これによって実効転送レートが低下してしまうので、MTTFPAはなるべく長めにしたいところである。
そして、先のスライドの赤字の部分がBERに影響を及ぼす箇所であり、このMTTFPAの計算の前提となっている。この後のプレゼンテーションでは、いくつかのシミュレーション結果が示されているが、そこは割愛した。Huaweiによる、とりあえずBERの目標を満たしそうな組み合わせの例が以下の右だ。
これは、あくまでも試算であるが、RS(544,514)でAUIのBERを1E-5程度に抑えられるなら、あとは途中のOpticalの経路でBCH FEC(BERは2.0E-3程度)を組み合わせることで実現ができる。だが、これが難しいようなら、AUIの側にもBCH FECをさらに追加して対応することができるとする。
そんなわけで、BERのターゲットは1.0E-14程度に設定しても実現できるというのが、Huaweiのプレゼンテーションであり、これそのものは受け入れられたようだ。そして全てのセッションが終わった後で行われた、BERの値をいくつに設定すべきかという投票の結果が以下だ。
1.0E-13 | 21票 |
1.0E-14 | 24票 |
1.0E-15 | 5票 |
1.0E-15より低い | 0票 |
もっと情報が必要 | 50票 |
棄権 | 16票 |
合計 | 116票 |
不参加も少なからずあったようだが、棄権を含む全投票116のうち半分近くの50票が「もっと情報を必要」との結果は、BERに関しては、まだ検討が必要であることが示されたと言えるだろう。
100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」をIEEEの仕様に追加へ
これとは別に、OFSのRobert Lingle, Jr氏とMabud Choudhury氏から出された興味ある提案が、"Proposed Objectives for Parallel PMDs"である。
こちらでは、まず現在のマーケット概略を紹介したのち、北米では、引き続き到達距離は50m以内でいいからVCSELベースの100G MMFソリューションを求めており、その一方で中国では4-pair MMFで100mの到達距離が要求され、さらに一部の大規模事業者には「400GBASE-SR4/SR4.2」が利用されていることが挙げられた。
これを踏まえ、仕様へ「800GBASE-VR8/SR8」を追加したい、というのがこちらのプレゼンテーションの提案だ。VR8の名称で分かるように、レーンあたりは100Gとなっている。
これだと辛うじてVCSELも利用できる可能性がある、というのは『1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」』で以前紹介している。「IEEE P802.3db」ではVCSELを利用する規格を「100/200/400GBASE-SR1/2/4」として策定している最中であり、これをそのまま×8レーンにすれば800Gになるというわけだ。
これは『800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現』で触れた、100Gレーン×8の構成に対する追加提案となる。
ちなみに、先のスライドには、中国では到達距離50mの需要がないように記されているが、実際にはそうでもないらしい。そうした事情もあり、IEEE P802.3dbで策定作業中の「Clause 167」の仕様を利用した800GBASE-VR8/SR8のニーズが確実にある、との主張がなされている。
ちなみに、800GBASE-VR8/SR8の通常の使い方は以下の左で、これはごく当たり前であるが、1:8のBreakout接続も念頭に入っており、この場合には接続数を増やせる分、200G×4より100G×8の方が有利となるのは理解できる。
ちなみにその先、つまり1.6Tに関して言えば、今のIEEE P802.3dbの仕様をベースにした「1600GBASE-VR8.2」、つまり送受信を1本のファイバーに多重化することで、トータルの本数は16本のままに抑えつつ、レーンあたり100Gで接続とすることは「技術的には可能」とはしているが、そもそもこれに対応するモジュール規格も存在せず、さすがにいろいろと無理があると考えているようだ。
また、「1600GBASE-VR16」については、ごく一部の用途であれば可能だろうが、一応書いてみましたというレベルで、あまり真剣に提案されているわけではなく、一般的な解にはならないとみている模様だ。
むしろ現状では、4-pair(8本)のMMF Cableが大量に敷設されていることを想定してか、「800GBASE-SR4.2」の検討が行われているのが興味深い。ここでは70~100mの距離が必要になるためか、「800GBASE-VR4.2」は検討の対象になっていないようだ。
800GBASE-VR8/SR8については、MPO-12を2対というのがさすがに論外という判断なようで、MPO-16の利用を考慮するとしている。
ということで、800GBASE-VR8/SR8の標準化を提案するとともに、MMFを利用したSR1.2/SR4.2タイプの仕様策定についても議論すべき、というのがプレゼンテーションの結論である。
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