期待のネット新技術
PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現しつつ到達距離を延長する「800G Pluggable MSA」
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年5月18日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
「400GBASE-SR4」の50mでは到達距離が不足、800GではPSM4とCWDM4を用意
前回の最後で解説した通り、「400GBASE-SR4」は到達距離を30~50mに絞った上で100G×8で行くこととなったわけだが、前回のデータセンター向けシナリオでいう「Scenario 2(TOR⇔Leaf)」は100~500m、「Scenario 3(Leaf⇔Spine)」は2kmほどの到達距離が必要で、50mでは全然足りない。
400Gの時代は、Scenario 2を「400GBASE-DR4」で、Scenario 3を「200GBASE-FR4」×2でカバーするかたちで構成されていた[*1]らしいが、これを800Gで置き換える必要がある。
[*1]……CTTLかBaiduあたりがあやしいが、どこのデータセンターをもとにした構成例かは謎だ
これに対して「800G Pluggable MSA」では、以下のようにPSM4とCWDM4の2種類を用意した。PCSが400G×2という構成になのは800G SRの場合と同じだ。
大きな違いはPMDで、MSAでは200G PAM-4、つまりクロック信号112Gに対してPAM-4変調を掛けるかたちでの実装を決めたとしている。光ファイバーが4本ならPSM4となるし、WDMを利用して4波長を1本のファイバーに押し込めばとCWDM4になるわけだ。
つまり、あとはどちらの方式を選ぶかということだけで、技術面というより利用のされ方次第だ。そして、レーンあたり200G×4という構成とした理由について、ホワイトペーパーでは「将来の1.6Tb/secへの拡張を見据えたもの」とされている。
トータル16本のPSM4に対し、CWDM4なら4本で1.6Tb/secを実現
800G SRの方は、片側あたり8レーンでファイバー16本だから、これを1.6Tb/secに引き上げるとファイバーが32本になってしまい、現実的ではない。ところが800Gを4レーン8本で実現できれば、そのまま2つ並べて1.6Tb/secにしてもPSM4の方式でトータル16本、CWDM4なら4本で済み、はるかに現実味が増す。
特にCWDM4の方については、もしCWDM8が現実的になるのなら、ファイバー2本のまま1.6Tb/secが実現できる可能性もあるわけで、そうした展開を想定してということのようだ。
もっともホワイトペーパーでは、「これを実現するためには、業界でより広帯域なトランシーバー用のコンポーネントを開発する必要があり、ここにはADC(Analog/Digital Converter)やDAC(Digital/Analog Converter)が含まれる。また、モジュールの消費電力をパワーエンベロープ内に収めるために、より微細化されたプロセスで製造され、省電力で稼働するDSPが必要」との但し書きが入っている。
加えて言えば、そのDSPを利用することによって、省電力のまま実現可能な信号補正アルゴリズムや新しいFECの開発までが含まれている。何というか、実現には時間が掛かりそうな話である。もう1つ書いておけば、このホワイトペーパーが公開された2019~2020年は、すでに7nmプロセスは量産に入っている状況で、5nmですらデザインインしている(さすがにテープアウトはまだしていない)時期である。
この時期にあえて「the DSP chips will be designed in CMOS process with lower nm node」という言い方をするのは、7nmプロセスでは消費電力が大きすぎて無理で、5nm(TSMC N5/N5P)ですら怪しいため、MSAではその先、TSMCなら4nmのN4、あるいは3nmのN3あたりを想定しているように読める。
Broadcomは、5nm(TSMC N5)を利用した112G SerDesを含むASIC向けポートフォリオを2020年11月に発表したが、224G SerDesだと5nmでも厳しそうなので、やはり本命は3nmあたりと考えられる。だとすると、サンプル出荷が2022年、量産開始は2023年といったスケジュールになりそうだ。なので、2022年中にこれに対応できるサンプルが登場するかどうか、というあたりではないかと思う。
データレート倍増で3dBほど悪化するSNRをFECで補う
話を戻すと、そうした実装をどのように行うか以前に、そもそも200G PAM-4で技術的に伝達が可能なのか? という議論がある。まず、Power Budgetに関して言えば、IEEEで提供されているモデルに従い、以下の図のように計算されるとした上で、受信器の経年変化や結合損失などを加味すると、受信側の感度は-5dBmが必要とされる。
また、データレートが100Gから倍増すると、SNRはおおむね3dBほど悪化すると考えられるため、これをFECで補う必要がある。FECは従来、「100GBASE-KP4」のもの、つまりRS(544,514)を利用してきたが、この上位へ、つまりRS(544,514)をラップするかたちで、別のFECをもう1つ追加することで、エラーレートを引き下げることが検討された。
シミュレーションと実験による検証が実際に行われ、以下のような結果となった。FECを追加してBERを「2.0E-3(2.0×10^-3)」から「2.0E-4」までに改善しても受信ができることが確認できたとしている。ちなみに、図中の「Simu」がシミュレーション、「Exp」が実験結果での結果を表している。
また、「FFE」は「Feed Forward Equalizer」の略で、シンボル間干渉を防ぐためのMLSE(Maximum Likelihood Sequence Estimation)を併用した場合としない場合を比較したものだ。併用しないと2.0E-3止まりのBERが、MLSEを利用することで受信感度が-5dBmでもほぼ2.0E-4、0dBmだと1.0E-4に近いところまで下げられる目途が立ったわけだ。
MSAによれば、このFFEとMLSEの処理はDSP内部のロジックで対応可能なものなので、(DSPが実現可能なら)200Gでの通信は現実的、としている。
モジュールの内部構造はノイズ除去性能に優れたMCM構成を推奨
次にホワイトペーパーで言及されていたのが、モジュール内部の構造(以下左)である。従来(以下のSolution A)は、DSPの出力からドライバーまで、基板上でかなり長く信号を引き回すことになる。これに対してMSA(以下のSolution B)では、DSPの基板の上にドライバーまで載せてしまう、いわゆる「MCM(Multi-Chip Module)」構成を推奨している。
そして右のグラフが、この2つのパッケージに対し、S21 simulation(Sパラメータと呼ばれる、信号反射の度合いを示す値を利用する電気回路シミュレーション)を行った結果だ。なお、S21では、左図で赤く示された配線で、DSPの出力からDRVの入力に正しくわたる電力の比率をシミュレーションする。
グラフの横軸は周波数、縦軸は減衰率(dB)で、Solution A、つまりモジュールのパッケージ上を長く信号を引っ張りまわした場合、60GHz付近で結構激しく減衰している(45GHz付近もやや落ち込んでいるが)ことが分かる。これはナイキスト周波数(ある信号のサンプリング周波数の1/2。今回で言えば112Gの信号が通るので、その1/2の56G付近)を超えると「Aliasing」と呼ばれる、信号が折り返される現象が発生し、これがノイズ源になるためだ。
通常は、Anti-Aliasing Filterを挟むことで、これを除去するわけだが、回路を見直して除去なり軽減ができるなら、その方が効率はいい。MSAでは、モジュールを構成する場合は、DSPと同じパッケージにドライバーまでを統合することで、より効率的な実装ができると提言しているわけだ。
新しいFEC、およびFRとDRの使い分けについての検討も進む
新しいFECについての検討もある。以下の図は、800G対応PMAの間だけを新しいFECにする案(Terminated)と、そもそもPMDの間を全部新しいFEC(KP4)でカバーする案(Concatenated)を比較したものだ。
Terminatedでは、PMDの段階で一度KP4 FECを復号し、そののちに新しいFECでエンコードし直して送信、受信側でこれを復号してから改めてKP4 FECでエンコードし直すというやり方だ。
一方のConcatenatedは、KP4 FECでエンコードされたデータに対し、PMD内でさらに新しいFECを用いてエンコード、受信側は受け取ったデータをまず新しいFECでデコードし、その結果をPCSに返す(ので、ここではKP4 FECでエンコードされたかたちとなる)という仕組みだ。この両方を検討した結果、MSAはConcatenatedの方がレイテンシーと消費電力の両面で有利、という結論を出している。
ちなみにホワイトペーパーでは、新しいFECをどうするかは、まだ決めていないとしつつ、候補としては単一誤り訂正を持つ「ハミング符号」と、二重誤り訂正を持つ「BCD符号」の2つがあり、どちらもオーバーヘッドは6%程度なので、「2.0E-3」以上のBER閾値を確保できる、としている。レイテンシーとしては10Kbit相当で、時間で言えば50nsほどなので十分に許容範囲というのが、MSAの見解である。
最後にFRとDR、というかPSM4とCWDM4の使い分けについて。MSAによれば、500mの距離ではやはりファイバーのコストが問題になるので、当初はCWDM4を使った、いわば800G-FRの構成が先に出てくると見ている。
冒頭のサーバー向けで言えばScenario 3にあたる。ただ、100m程度の範囲で収まるScenario 2では、ファイバーのコストが相対的にそれほど厳しくない。ここではPSM4の方が一番安く、かつ低消費電力(WDMのMux/Demuxを挟む必要がない)ので、市場が熟してくれば「800G-DR4」として立ち上がる可能性があるだろう、としている。
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