期待のネット新技術

これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

これまで説明した光Ethernetの規格を振り返る

 前回までで、光Ethernetの規格は、ほぼ一通り紹介し終えたと思っていたが、何しろ今回で70回目、しかも話が飛び飛びになっている関係で、どこで何をご紹介したのかはっきりしない。

 そこで過去69回分から、光Ethernetそのものの規格名と、その説明を行った回へのリンク、各規格を仕様別にまとめたのが以下の表である。

標準(団体)名規格名速度
IEEE 802.3d-1987 (FOIRL)10M
IEEE 802.3j-1993 10BASE-F10M
IEEE 802.3u-1995 100BASE-FX100M
IEEE 802.3z-1998 1000BASE-LX1G
1000BASE-SX
IEEE 802.3ae-2002 10GBASE-ER10G
10GBASE-EW
10GBASE-LR
10GBASE-LW
10GBASE-SR
10GBASE-SW
IEEE 802.3ah-2004 100BASE-BX10100M
100BASE-LX10
1000BASE-BX101G
1000BASE-LX10
IEEE 802.3aq-2006 10GBASE-LRM10G
IEEE 802.3ba-2010 40GBASE-LR440G
40GBASE-SR4
100GBASE-ER4100G
100GBASE-LR4
100GBASE-SR10
IEEE 802.3bg-2011 40GBASE-FR*140G
IEEE 802.3bm-2015 40GBASE-ER440G
100GBASE-SR4100G
IEEE 802.3bs-2017 200GBASE-DR4200G
200GBASE-FR4
200GBASE-LR4
400GBASE-DR4400G
400GBASE-FR8
400GBASE-LR8
400GBASE-SR16
IEEE 802.3bv-2017 1000BASE-RH1G
IEEE 802.3by-2016 25GBASE-SR25G
IEEE 802.3cc-2017 25GBASE-ER25G
25GBASE-LR
IEEE 802.3cd-2018 50GBASE-FR50G
50GBASE-LR
50GBASE-SR
100GBASE-FR1100G
100GBASE-SR2
200GBASE-SR4200G
IEEE 802.3cm-2020 400GBASE-SR4.2400G
400GBASE-SR8
IEEE 802.3cn-2019 50GBASE-ER50G
200GBASE-ER4*2200G
400GBASE-ER8*2400G
IEEE 802.3ct-2021 100GBASE-ZR100G
IEEE 802.3cu-2021 100GBASE-LR1100G
400GBASE-FR4400G
400GBASE-LR4-6
400GBASE-LR4-10
IEEE P802.3cw 400GBASE-ZR*3400G
IEEE P802.3db 100GBASE-SR1100G
100GBASE-VR1
200GBASE-SR2200G
200GBASE-VR2
400GBASE-SR4400G
400GBASE-VR4
IEEE P802.3df200GBASE-LR1(*4200G
200GBASE-ER1(*4
400GBASE-LR2(*4400G
800GBASE-SR8(*4800G
800GBASE-FR8*4
800GBASE-LR8*4
800GBASE-FR4*4
800GBASE-LR4*4
800GBASE-ER4(*4
800GBASE-ER4.2(*4
800GBASE-ER10.1(*4
800GBASE-ER40.1(*4
1.6TBASE-LR8(*41.6T
1.6TBASE-ER8(*4
SWDM Alliance 40G-SWDM4-MSA40G
100G-SWDM4-MSA100G
100G PSM4 MSA 100G-PSM4100G
CWDM4 MSA CWDM4-100G100G
4WDM MSA 100G 4WDM-10100G
100G 4WDM-20/40
100G Lambda MSA 100G-FR/LR100G
100G LR1-20/ER1-30/ER1-40
400G-FR/LR400G
CWDM8 MSA CWDM8 2km/10km400G
400G BiDi MSA 400G-BD4.2400G
ETC 800G Specification800G
800G Pluggable MSA 800G SR4800G
800G CWDM4
OIF 400ZR400G
OCP 200G-FR4-OCP*5200G
400G-FR4-OCP*5400G
800G-FR4-OCP*4800G

 以上、我ながらよく書いたという話はともかく、以下4つの注記のように漏れが見つかった。

*1「40GBASE-FR」(IEEE 802.3bg):以前に10GBASE-Tの記事で触れているだけで、そもそも規格の説明を一切していない
*2「200GBASE-ER4/400GBASE-ER8」(IEEE 802.3cn-2019):そういう規格があることだけに触れている
*3「400GBASE-ZR」(IEEE P802.3cw):Task Forceが分割されたことしか説明していない
*4未策定や策定途中で正式な名称の決まっていない規格
*5「200G-FR4-OCP/400G-FR4-OCP/800G-FR4-OCP」:OCPでそういう規格があることだけを紹介している

 また、「IEEE 802.3cd-2018/IEEE 802.3cm-2020/IEEE 802.3cn-2019/IEEE 802.3ct-2021/IEEE 802.3cu-2021」あたりに関しては、原稿執筆時にはまだTask Forceの扱いで、最終的に標準化された作業が反映できなかった。そんなわけでこれから数回に渡って、これらの補足を行っていきたい。

到達距離2km、64B/66B Encodeを利用するPCS向きの「40GBASE-FR」

 ということで今回は「40GBASE-FR」について。この規格は2011年に「IEEE 802.3bg-2011」として標準化が行われた。IEEE 802.3にはClause 82/89として収められている。Clause 82は64B/66B Encodeを利用するPCS向きの仕様で、これを利用するのは「40GBASE-R」、「100GBASE-R」となっており、要するに「100GBASE-SR4」などと同じ仕様だ。

 異なるのは信号速度で、こちらはClause 89で定義されている。波長は1530~1565nmを利用し、送受信で1レーンずつを利用。信号速度は41.25GBdで、64B/66B Encodeを通すとデータ転送速度はちょうど40Gbpsとなる。

 到達距離は、FRということから分かるように、2m~2kmとなっている。当然SMFでの利用が前提だ。ちなみに中心波長は1550nmとなっている。検討初期段階では1310nmの利用も検討したようだが、これは早い段階で放棄されている。

 もともと40GBASE-FRの目的は、既に存在する40Gの規格を利用して、手早く低コストに40G Ethernetの規格を策定することだった。存在する40Gの規格とはOTU3/STM-256/OC-768/40G PCS(Packet over SONET)であり、この物理層をそのまま流用してEthernetにする、というものだ。厄介だったのは、そのOTU3/STM-256はITUのG.693及びG.959.1として仕様が定められていたのだが、G.693の中に以下2つの波長が挙げられており、どちらを利用するかで揉めたわけだ。

  • VSR2000-3R1 OTU3/STM-256 with 2 km reach at 1310nm
  • VSR2000-3R2 OTU3/STM-256 with 2 km reach at 1550nm

 ちなみに、この両者長所と短所をまとめると、以下のような話になっていた。

1310nmの長所:

  • 10kmの到達も可能で、2kmから10kmへと仕様を拡張してもコストは最小限の増加で済む
  • 分散制御が容易で低コストのTOSA(Transmitter Optical Sub-Assembly)を利用できる
  • 複数のEML(Electro-absorption Modulator integrated with DFB Laser)メーカーからモジュールが提供され、また非冷却型EMLやDML(Directly Modulated Laser)なども将来利用可能になりそう
  • QSFPに収められる、より小型トランシーバーモジュールがロードマップに示されている
  • 量産効果による価格低減が期待できる

1310nmの短所:

  • 市場の4分の1を占めるVSR2000-3R2トランシーバーと互換性がない
  • テスト機器を新規に開発の必要あり

1550nmの長所:

  • VSR2000-3R2トランシーバーと互換性がある
  • テスト機器は既にあるものを流用可能
  • 複数のEMLメーカーからモジュールが提供されている

1550nmの短所:

  • 到達距離は2kmに限られる
  • 分散制御がやや高コスト
  • より小型のフォームファクターに至るロードマップがない
  • 40G VSRの市場が小さいため、量産効果が期待できない
出典は住友電工デバイス・イノベーション株式会社のSerial 40Gb/s CFP Optical Transceiver Module SCF0420FR series

 こうしたこともあって、Task Force初回のミーティングには、1310nmを利用するというプロポーザルも出てきてきた。

 ただ、最終的には消費電力などの兼ね合いから1550nmが選択され、そのまま標準化に突き進んだ格好だ。Task Forceは2010年5月に最初のミーティングを行い、2011年3月に最後のミーティングを終了、2011年中に標準化を完了している。

 ほかの規格に比べると恐ろしく迅速に作業が進んだ感もあるが、広く使われたか?というとそうでもなかった。理由としては、規格として中途半端だったことが挙げられよう。

 1対の光ファイバーで40Gbps/2kmというのは、確かに当時ほかにないと言われればないのだが、短距離なら「40GBASE-SR4」、長距離なら「100GBASE-LR4」の標準化が既に終わっており、40Gでよければ「40GBASE-SR4/40GBASE-LR4」の製品が市場に出ており、今さらここで40GBASE-FRへ乗り換えるメリットはなかった。

 また、モジュールがQSFP+などではなく、CFPだということも、既にデメリットでしかなかった。今から思えば、先に「10GBASE-FR」という規格があり、このアップグレードを狙えればもう少し存在感を発揮できたのかもしれないが、そんなわけで40GBASE-FRはあまり使われないまま消えることになってしまった。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/