期待のネット新技術
これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
2021年11月30日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
これまで説明した光Ethernetの規格を振り返る
前回までで、光Ethernetの規格は、ほぼ一通り紹介し終えたと思っていたが、何しろ今回で70回目、しかも話が飛び飛びになっている関係で、どこで何をご紹介したのかはっきりしない。
そこで過去69回分から、光Ethernetそのものの規格名と、その説明を行った回へのリンク、各規格を仕様別にまとめたのが以下の表である。
以上、我ながらよく書いたという話はともかく、以下4つの注記のように漏れが見つかった。
*1「40GBASE-FR」(IEEE 802.3bg):以前に10GBASE-Tの記事で触れているだけで、そもそも規格の説明を一切していない
*2「200GBASE-ER4/400GBASE-ER8」(IEEE 802.3cn-2019):そういう規格があることだけに触れている
*3「400GBASE-ZR」(IEEE P802.3cw):Task Forceが分割されたことしか説明していない
*4未策定や策定途中で正式な名称の決まっていない規格
*5「200G-FR4-OCP/400G-FR4-OCP/800G-FR4-OCP」:OCPでそういう規格があることだけを紹介している
また、「IEEE 802.3cd-2018/IEEE 802.3cm-2020/IEEE 802.3cn-2019/IEEE 802.3ct-2021/IEEE 802.3cu-2021」あたりに関しては、原稿執筆時にはまだTask Forceの扱いで、最終的に標準化された作業が反映できなかった。そんなわけでこれから数回に渡って、これらの補足を行っていきたい。
到達距離2km、64B/66B Encodeを利用するPCS向きの「40GBASE-FR」
ということで今回は「40GBASE-FR」について。この規格は2011年に「IEEE 802.3bg-2011」として標準化が行われた。IEEE 802.3にはClause 82/89として収められている。Clause 82は64B/66B Encodeを利用するPCS向きの仕様で、これを利用するのは「40GBASE-R」、「100GBASE-R」となっており、要するに「100GBASE-SR4」などと同じ仕様だ。
異なるのは信号速度で、こちらはClause 89で定義されている。波長は1530~1565nmを利用し、送受信で1レーンずつを利用。信号速度は41.25GBdで、64B/66B Encodeを通すとデータ転送速度はちょうど40Gbpsとなる。
到達距離は、FRということから分かるように、2m~2kmとなっている。当然SMFでの利用が前提だ。ちなみに中心波長は1550nmとなっている。検討初期段階では1310nmの利用も検討したようだが、これは早い段階で放棄されている。
もともと40GBASE-FRの目的は、既に存在する40Gの規格を利用して、手早く低コストに40G Ethernetの規格を策定することだった。存在する40Gの規格とはOTU3/STM-256/OC-768/40G PCS(Packet over SONET)であり、この物理層をそのまま流用してEthernetにする、というものだ。厄介だったのは、そのOTU3/STM-256はITUのG.693及びG.959.1として仕様が定められていたのだが、G.693の中に以下2つの波長が挙げられており、どちらを利用するかで揉めたわけだ。
- VSR2000-3R1 OTU3/STM-256 with 2 km reach at 1310nm
- VSR2000-3R2 OTU3/STM-256 with 2 km reach at 1550nm
ちなみに、この両者長所と短所をまとめると、以下のような話になっていた。
1310nmの長所:
- 10kmの到達も可能で、2kmから10kmへと仕様を拡張してもコストは最小限の増加で済む
- 分散制御が容易で低コストのTOSA(Transmitter Optical Sub-Assembly)を利用できる
- 複数のEML(Electro-absorption Modulator integrated with DFB Laser)メーカーからモジュールが提供され、また非冷却型EMLやDML(Directly Modulated Laser)なども将来利用可能になりそう
- QSFPに収められる、より小型トランシーバーモジュールがロードマップに示されている
- 量産効果による価格低減が期待できる
1310nmの短所:
- 市場の4分の1を占めるVSR2000-3R2トランシーバーと互換性がない
- テスト機器を新規に開発の必要あり
1550nmの長所:
- VSR2000-3R2トランシーバーと互換性がある
- テスト機器は既にあるものを流用可能
- 複数のEMLメーカーからモジュールが提供されている
1550nmの短所:
- 到達距離は2kmに限られる
- 分散制御がやや高コスト
- より小型のフォームファクターに至るロードマップがない
- 40G VSRの市場が小さいため、量産効果が期待できない
こうしたこともあって、Task Force初回のミーティングには、1310nmを利用するというプロポーザルも出てきてきた。
ただ、最終的には消費電力などの兼ね合いから1550nmが選択され、そのまま標準化に突き進んだ格好だ。Task Forceは2010年5月に最初のミーティングを行い、2011年3月に最後のミーティングを終了、2011年中に標準化を完了している。
ほかの規格に比べると恐ろしく迅速に作業が進んだ感もあるが、広く使われたか?というとそうでもなかった。理由としては、規格として中途半端だったことが挙げられよう。
1対の光ファイバーで40Gbps/2kmというのは、確かに当時ほかにないと言われればないのだが、短距離なら「40GBASE-SR4」、長距離なら「100GBASE-LR4」の標準化が既に終わっており、40Gでよければ「40GBASE-SR4/40GBASE-LR4」の製品が市場に出ており、今さらここで40GBASE-FRへ乗り換えるメリットはなかった。
また、モジュールがQSFP+などではなく、CFPだということも、既にデメリットでしかなかった。今から思えば、先に「10GBASE-FR」という規格があり、このアップグレードを狙えればもう少し存在感を発揮できたのかもしれないが、そんなわけで40GBASE-FRはあまり使われないまま消えることになってしまった。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー