期待のネット新技術
最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年4月14日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
「IEEE 802.3u-1995」として定義された「100BASE-TX」「100BASE-FX」
前回は光ファイバーの話で終始したが、再び光Ethernetに戻そう。10Mbpsの普及に伴い、より高速なネットワークへの要望が高まるのは、当然のことだろう。
IEEEは1992年11月、「HSSG(High Speed Study Group)」という名称で、まず100Mbps Ethernetの検討を開始。翌1993年9月に、これはIEEE P802.3u 100Mb/s Ethernet Task Forceへと昇格し、1994年5月にDraft 1.0が完成した。
ここからTask Force Review、Working Group ballot、Sponsor ballotを経て、1995年6月に「IEEE 802.3u-1995」として標準化が完了した。ここで定義されたのが、以下の2種類である。
- 100BASE-TX(CAT5ケーブルを利用し、4対のツイストペア全部を利用する通信方式)
- 100BASE-FX(光ファイバー2本と波長1310nmの光源を組み合わせ、100Mbpsの双方向通信を行う。最長到達距離は2km)
もっとも、IEEE 802.3uが決まるまでも一筋縄ではいかなかった。Study Groupの時点で存在した競合規格は、FDDI/FDDI II/FiberChannel/HIPPI/TCNS/ISO-Ethernetなどさまざまあったが、いずれも難ありということで候補から落ちていった。だが、Task Forceでやや揉めたのが、「100VG-AnyLAN」を推す声があったことだ。これは当時、HPとAT&Tの半導体部門が共同で策定したもので、以下のような特徴があった。
- Demand Priorityベースの送信制御
- CDMA/CDではなくToken Passing方式の排他制御
- 配線そのものはCAT3で利用できる(ただし4対の信号線が必要なので、1,2pinと3,6pinのみ配線されている2対の10BASE-T用ケーブルは使えない)
ただ、そもそもCDMA/CDではない時点でEthernetなのか?という議論もあり、最終的にTask Forceでは100VG-AnyLAN推進派に対し、これをFast Ethernetではなく、別の規格として標準化を進めるように勧告。これを受け、最終的に「IEEE 802.12-1995」として標準化されたが、Statusが“Inactive-Withdrawn”となっていることからも分かるように、普及には程遠い状況で終わってしまっている。
1310nmのレーザー光源で全二重のリングを構成する「100BASE-FX」
「100BASE-FX」の方は、これに比べてまだ順調だったと言える。競合にあたる規格はほとんどなく、10BASE-Fの延長というかたちで仕様策定が完了している。
ただ、レーザー光源は850nmから1310nmに切り替わった。この理由としては、当時の半導体レーザーでは、850nmだと100Mbpsの速度を出すのが難しかった(レーザーの送信側は間に合ったらしいが、受信側が結構大変だったという話を聞いたことがある)。
一方、先ほどもちらっと出てきたFDDIでは、既に100Mbpsの速度を1310nmのレーザー光源で実現していた。これをそのまま転用すれば確実に実現できる、という目途が立ったことが、採用の大きな理由だったそうだ。
ちなみにFDDIというのはFiber Distributed Data Interfaceの略で、ANSIのX3-T9が標準化を主導した。構成としては、トークンリングと同じリングバスの形式で、以下の図のように、全二重を実現するために信号の向きを逆転させたファイバー同士でリングを構成する。
ちなみにFDDIと言いつつ、実際には同軸ケーブルでの構成も可能で、その場合は厳密にはCDDI(Cable Distributed Data Interface)という名称であるが、現場ではFDDIで通っていた。
850nmのレーザー光源とマルチモードファイバーを組み合わせた「100BASE-SX」
ただし、ここからいろいろと問題が出てくる。FDDIはそもそもホスト向けというか、バックボーンのサーバー同士の接続に用いることが多かったので、ある意味コストは多少高くても問題なかった。しかし、100BASE-FXが普及を始めるにつれ、「そうは言っても高い」という声が次第に出始めた。大まかに言って、当時の1310nm関連機器は、850nm機器と比較して2倍(レーザー光源も受光素子に加えて、ファイバーもシングルモードだと当然高くなる)という話であった。
また、シングルモードファイバーは、到達距離は2kmほどで長距離接続には向いているが、逆にもっと短距離でいい場合にはむしろ不向きだ。そこで登場したのが、850nmのレーザー光源とマルチモードファイバーを組み合わせた「100BASE-SX」だ。
ただ、不幸だったのは、この短距離向け100Mbpsの規格策定がIEEEではなくTIA(Telecommunication Industries Association:米通信工業会)で行われたことだ。最終的に850nmの光源とマルチモード光ファイバーを組み合わせた100Mbpsの規格が「ANSI/TIA/EIA-785-2001」として2000年に標準化される。
実は規格として10BASE-FXへの後方互換性も維持されており、到達距離は最大で550m(300mという数値もあって条件が異なるようだ)を確保。ただ、安価な部品を採用できる分、コストは100BASE-FXの半分とは言わないまでも、それなり安くなる見込みだった。
本来ならこちらが先に出るべきだったのでは?という気もしなくはないのだが、IEEE 802.3には取り込まれることがなかった。それもあって結局広く普及したとは言い難く、現在では既に使われなくなっている。
「IEEE 802.3ah」として標準化された100BASE-LX10/BX10、ベンダー独自規格も……
この頃のIEEEにとっては、短距離向けの規格はあまり眼中になかった。というのは短距離はそれこそ100BASE-TXを使えばいいという立場で、むしろもっと長距離の伝送が可能な方法を模索していた。これが2004年に「IEEE 802.3ah」として標準化された、100BASE-LX10と100BASE-BX10である。
どちらも最長10kmの到達距離を実現するためのものだが、大きな違いは100BASE-LX10が送信と受信で2本の光ファイバーで1対になっているのに対し、100BASE-BX10では送信1310nm、受信1550nmというように利用する波長を変更し、以下の図2のように1本の光ファイバーで送受信とも可能にする仕組みだ。2種類の波長の光は、それぞれの波長を通す(それ以外は反射する)ハーフミラーを使って分解するかたちとなる。
この方式でも、特に長距離になればケーブル代も馬鹿にならない。ケーブル代自体はざっくり半分になる一方で、新たにハーフミラーが必要になることや、この当時は1310nmと比べてもさらに高価な1550nm対応の部品を必要とするといった欠点もあり、コスト面でどちらが有利かと言われると。ちょっと判断が難しいところがある。
さて、これ以外にも、「100BASE-LFX」や「100BASE-EX」、「1000BASE-ZX」といった規格も存在した。ただ、これらは100BASE-XXXの名前が付いてはいるものの、実際はIEEEもTIAも無関係な、ベンダーの独自規格である。
100BASE-LFXは、OM1(コア径62.5μm/クラッド径125μmで、850nmの波長で200MHz・kmの伝達特性)ないしOM2(コア50μm/クラッド径125μmで、850nmの波長で500MHz・kmの伝達特性)の光ファイバーで最長2kmであるが、これを4kmまで広げたものである。
一方、100BASE-EXは1310nmの光源とシングルモードファイバーで最長40km、100BASE-ZXは光源を1550nmに切り替えて、最長80kmまでの到達を実現するというものだ。どのみちこれらは、それこそデータセンター間の接続といった用途に向けたもので、配線の両側に同じベンダーの機器が入ることは珍しくない。
そうなると、ベンダー独自であってもそのベンダーがサポートする限り問題はないという考え方は確かにあり、多少リスクがあっても(40kmなり80kmなりで届かない場合、間にリピーターを挟む必要があるが、この電源をどう取るかといった問題を含め、当然リピーターの数が少ないほど)安く済むことになる。
リスクというのは、ベンダーを変更する必要が出たときに、配線のやり直しになる可能性が捨てられないところだ。こうした問題もあり、あまり広く使われたとは言い難い。
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