期待のネット新技術
到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式の検討を求めるGoogle
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年9月21日 07:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
800Gで到達距離10kmの標準規格をどう実現するのか?
前回に引き続き、2021年7月のミーティングの話。そろそろ自由に提案できる期間も終わりに近づいてきたこともあり、あわててというわけでもないにせよ、いろいろと細かな提案が目立つようになってきた。
まずはGoogleのCedric F. Lam、Xiang Zhou、Hong Liuの3氏による"Coherent-Lite for beyond 400GbE"。800Gで到達距離10km、という仕様そのものは受け入れられているものの、その10kmをどう実現するか、がまだ検討されていないと指摘。
そしてGoogleは、自社のキャンパス内ネットワークのトラフィックがここ4年で10倍に膨れ上がり、オマケにキャンパス内のネットワークの距離が10kmに広がった、という指摘をしている。要するに、自社で使うために800Gで10km到達可能な標準規格をきちんと定めたい、というわけだ。
さて、10kmになると、CWDM4では難しいということは既に分かっている。Chromatic Dispersion Limit、あえて日本語に訳せば色分散限界となるが、要するにCWDMの場合、利用する4つの光の波長がかなり広がる。800G Pluggable MSAではCWDM4で500mのFR4を実現する予定、というのは『PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現しつつ到達距離を延長する「800G Pluggable MSA」』で紹介している。
だが、『25Gbps×4をSMF1本に集約し100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」と、10/20/40kmの「4WDM MSA」』で紹介した「CWDM4 MSA」はもう少し速度が遅く、1271/1291/1311/1331nmと20nm刻みの4波長でCWDM4を構成している。
このCWDM4 MSAだと、波長あたり25Gbpsで、それでも到達距離は2kmと堅いところを狙っている。10/20/40kmの長距離に関しては「4WDM MSA」が担うのだが、こちらは10kmのみCWDM4をそのまま流用したものの、20/40kmはDWDMを採用している。
『100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」』で説明したように、波長は1295.56~1309.14nmと、4.5nm前後へと刻み幅を減らしていて、これで波長の差による特性のばらつきを抑え込んだ格好だ。
同様の話は当然ここでも発生するわけで、100Gのままであれば5km近くまで行けるかもしれないが、200Gになれば1kmあたりが限界で、10kmなど夢のまた夢という話になる。
チャープ制御を適切に行えば到達距離は増えるが、今度は信号損失が大きくなり過ぎるため受信側が難しくなる。要するにCWDM4はあきらめよう、という話だ。ではDWDMか?というとそうではなく、Googleは「Coherent-Lite」を提案してきた。
Googleが提案する「Coherent-Lite」とは?
Coherentは以前『位相変調した光信号を復号するコヒーレント光と、波長分離多重「DWDM」を併用する「400ZR」』で紹介している。送信側からは、複数の信号を位相変調するかたちで送り出し、受信側で「LO(Local Oscillator)」と呼ばれる連続光を受信した光信号と干渉させ、そこから複素振幅を測定することでデータ列を復号するという技法だ。
Lite、と付くのはこの簡略版(というか、今回の条件では従来のCoherent方式よりいくつか簡単にできる部分があることで、Liteと付けたらしい。その骨子では、以下の点がメリットである、としている。
- CWDMで問題になるChromatic Dispersion Limitを無視できる(利用する光の数が減るため)
- より損失の低い波長帯(ここではC-Bandとしているが、1530~1565nmあたり)を利用できる。これはDWDM技術や光アンプの進化で可能となった
- CWDM方式よりも受信感度を上げられるので、より負荷の軽いFECを利用できる
- スケーラビリティに富む(例えば光ファイバー4本で3.2T Ethernetが実現できる)
- 光経路の反射やマルチパスに対して強い
実際の構成が以下の図だ。左が従来のCWDM4で、送信側は4つの波長に合わせて4つの光源(LD:Laser Diode)からそれぞれ出力を行い、これをWDM MUX経由で1本の光ファイバーに送り出す。受信側はまずWDM DEMUXで受けて4波長に分解後、受光器(PD:Photo Diode)でこれを受信するというもの。
これに対しCoherent-Liteの側は、1つのLDからの出力を4つに分け、それぞれ入力信号を基に変調。さらに4つのうち2つは位相を90°回転させる。これを最終的に合成することで1つの光として送り出される格好だ。
ちなみに、ここでPBSはPolarization Beam Splitter(偏波分離器)の略である。受信側は逆にまずPBSで受けたあとで2つに分波させ、それぞれ90°の光ハイブリッド(LOとの干渉を検出する装置)を経由して4波長に分離するという仕組みだ。Coherentの方には以下2つのコストアップ要因がある。
- DSPで行うべき処理が複雑になる
- 位相変調器や偏波分離器、LOが必要になるほか、PDは8つ必要になる
その一方で、以下のメリットもあるため、トータルコストではCWDM4とそれほど変わらずに実現できるのでないか、というわけだ。
- WDM MUX/DEMUXが不要
- LDは1つで済むため、コストや消費電力の面で有利
- PAM4変調がそもそも不要となる
- もし入力が200G×4であれば、Gearboxも不要に
この方式の実現可能性をまとめたのが以下右のスライドだ。200GbpsのElectrical Laneは『200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ』で触れたように既に検討済みだ。Coherent-Liteの方式そのものはOIF Forumで既に論文が出ているとされ、また、同じCoherentを使う400ZRに関しては2021年から量産が始まっており、十分に現実的、という話であった。
Coherent-Liteに要する消費電力をまとめたのが以下だ。Coherentは、ビットレートが低いときには通信に要する消費電力がかなり大きいことになるが、ビットレートが上がれば急速に効率が向上するとしている。800Gでは若干IM-DDより大きめではあるが、これは十分許容範囲との説明だ。
もちろん問題がないわけではない。そもそも400ZRは『アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」』でも触れたように80kmの"Short Reach"向けで、実際にはその400ZRで120kmの相互接続の実証実験が行われたり、120km伝達可能をうたった製品が出てきたりという規格なので、10kmが確保できればいい。
こちらに使うには、性能的にも価格的にも(おそらく消費電力的にも)Over killであり、手頃なところに性能を(ついでに価格や消費電力も)落とし込む必要がある。ただ、このあたりはStudy Groupの考慮する範疇からはやや外れる気はする。
以下は、実際に10kmで1.6Tb/secのレーンをIM-DDで実装した場合とCoherent-Liteで実装した場合の比較である。左のグラフは、FECを通した後のBERを1.0E-2とした場合に、振幅電圧(Vpi)とLink Loss Budgetの傾向を示したもので、IM-DD方式でPAMを利用すると、PAM4だと最大でも8dB、PAM6だと6dBあたりが取れる限界なのに対し、Coherentを使った場合は16QAMで最大12dB以上が確保できる。
ただ、その分Vpiそのものは大きくなるので、例えば1V付近で比較すると16QAMとPAM4がほぼ同等ということになるが、逆に言えば電圧をより挙げればLink Loss Budgetを大きく取れることになる。この結果として、右の表に示すように同じ構成だと送受信とも損失が少なくなり、確実に送信できることになる。
これを利用可能にできるか?というマーケット的な観点では、やや楽天的な文言が並ぶが、確かに10kmを確実に実現するのにIM-DDベースで無理やり実装するよりは、Coherentにする方が光ファイバーの本数も減らせるし、よりスケーラブルになるというのは分からなくもない。
ということで、結論として「800G-LR(10km)」に向けてCoherent-Lite方式を検討に入れるべし、というのがGoogleの提言であった。
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