期待のネット新技術
IEEE 802.3baのブラッシュアップを目論んだ「P802.3bm」、100Gbpsで到達距離100mを目指す
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年7月14日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
12レーンで120Gbpsの「CXP」、「100GBASE-SR10」でサポート
前回までの通りCFPの標準化も終わり、これを利用した例えばFSのCISCO CFP-100G LR4互換のモジュールなどが世の中に出回るようになったが、いかんせん「デカい」という不満はあり、それもあってCFP MSAではより小型のモジュールの標準化にも着手し、「CFP2」や「CFP4」といった規格が策定された。
だが、これは「IEEE 802.3ba」以降の規格の対応も含んだ話なので、もうちょっと後で触れることとしたい。ただCFPが唯一の100G Ethernetモジュール規格ではなく、ほかにもある。
まずは「CXP(100G eXtended capability Pluggable)」という規格だ。これは実はInfiniBand方面からのもので、InfiniBand QDRでは1レーンあたり10Gbps、InfiniBand x12構成では12レーンで120Gbpsとなる。
120Gbpsのモジュールは、SFF-8617のコネクタを利用し、前々回に説明したMPO光コネクタをここに組み合わせるかたちで実装された。
実際にはこのコネクタ内部に、850nm帯を使う10Gbpsの光トランシーバーが12対収まっている格好だ。InfiniBandではこれを用いて、120Gbpsでの接続(以下左)や、3×40Gbpsでの接続(以下右)などが可能になっている。
これはInfiniBand QDRのケースだが、「100GBASE-SR10」の場合もやはり850nmを利用した10対の接続となる。なので、12対のうち10対だけを利用することで、100GBASE-SR10の利用が可能になるわけだ。ちなみに、このCXPの仕様は、「InifniBand Architecture Specification Volume 2 Release 1.2.1」のAnnex A6に「120 Gb/s 12x Small Form-factor Pluggable(CXP)」として定義されている。
ただ、特にMellanoxのイーサーネット機器などでは、両対応の製品も少なくないこともあり、それなりに広く利用された。何よりCFPと比べてかなり小さい上にInfiniBand QDR 12xケーブルと共用なので、それなりに量産効果が期待できる(正確には100GBASE-SR10との共用でInfiniBand QDR 12xケーブルの価格低下が期待できるというべきか)というわけだ。
CXPの欠点は、100GBASE-SR10(と銅配線の場合は「100GBASE-CR10」)“しか”サポートしないことだ。これはInfiniBand QDR 12xと親和性のある規格が、100GBASE-SR10と100GBASE-CR10しかない以上はどうしようもない。また、モジュールのサイズが小さいので、ギアボックスを内蔵する余地もなく、高速化や他規格への展開という話は全くない。
もう1つがCPAKモジュールで、こちらはCiscoの独自規格だ。サイズ(幅×奥行×高さ)は、CFP(82×144.8×13.6mm)とCXP(24×62×16.2mm)の中間にあたる34.8×101.2×11.6mmとなる。こちらはCisco独自ということで、ある意味特定ベンダー向けではあるのだが、何しろCiscoが広く普及しているだけに、それなりに広く利用されていた。
バックプレーン向けCopper接続の「P802.3bj」、4×25Gで100Gbpsを実現
このようにモジュール規格が一通り出そろったことで、40Gと100GのEthernetはそれなりに普及を始めたが、確かにコストは4×10Gあるいは10×10Gより下がっているものの、まだ高いという意見が付いて回った。
これは当たり前の話で、100Gであればケーブルが10本、トランシーバーが10対となり、10倍とはならなくてもそれなりに原価が上がる。いくら量産効果といっても、そうそう価格が下がるものではない。もう少し抜本的にコストを削減できる規格が欲しい、という声は高かった。
まず最初に立ち上がったのは「P802.3bj」である。これはバックプレーン向けのCopperでの接続である。やはり100GBASE-CR10や「100GBASE-KR10」での10×10Gという構成は配線数が多すぎて使いにくいし、「40GBASE-CR4/40GBASE-KR4」の4×10Gでは帯域が足りないということで、40GBASE-CR4/40GBASE-KR4と同じ4対の配線で100Gを実現したい(つまり4×25G)というニーズに対応したものである。
こちらは2010年11月にStudy Groupが結成され、2011年7月にPARが出て、9月にTask Forceが結成されている。こちらも若干紆余曲折はあったものの、2014年にはDraft 3.2が承認され、これをベースに「IEEE 802.3bj-2014」として標準化が完了した。ただ、これは銅配線の話なので、今回はおいておこう。
このP802.3bjに続いて発足したのが「P802.3bm」である。そのObjectiveが右のスライドで、要するにIEEE 802.3baで10×10Gだったものを、全部4×25Gに置き換えよう、というのが趣旨である。40Gについては、結論から言えば最大40kmの「40GBASE-ER4」が追加されたのが唯一の違いとなっている。
ただ、こうなるまでにはいろいろな紆余曲折というか、なかなか楽しい議論があったようだ。以下のスライドは2012年11月に行われたTask Forceの第2回の会合で出されたものだが、まず「100GBASE-LR4」については「CAUI-4」が登場すると、トランシーバーとの配線が4対に減り(以下左)、長期的には2対になるとしている(以下右)。
これは100GBASE-SR10も同じで、今はCAUIベースで接続されているが、やがてはCAUI-4に切り替わることが予定されており、その場合はトランシーバー側にもGearboxが必要になるとしている(以下左)。これはインターフェースがそう変わってしまえば仕方のない話だろう。その先は「CAUI-2」へ移行(以下右)される予定だ。FECに関しては、100GBASE-LR4についての右上のスライドと同じだ。
到達距離100mの「100GBASE-SR4」ではFECが必須に
さて、今回追加予定の「100GBASE-SR4」は、まず100mの到達距離のものについてはFECが(相手との通信のために)必要であり、しかも当初は既存の100GBASE-SR10のMACとの互換性を保つためにCAUIでの接続になり、これが後でCAUI-4に切り替わるという見通しを述べた。
100GBASE-SR10では、100mでもFECは必要ないが、4×25Gにするとエラーレートが上がるため、FECなしでは無理と判断したようだ。長期的には、これを「CPPI-4」にしたり、更にCAUI-2を採用したり、ということも考慮されている。
一方、到達距離20mの100GBASE-SR4に関しては、CAUI-4を使う限りFECなしでも問題ないと判断したようだ。もっともCPPI-4を使う場合、ひょっとするとFECが要るかもという、やや迷いを含んだ図となっていて、こちらではFECを含まない例も出てきている。また、将来的にはCAUI-2への移行も当然睨んだものとなっている。
またこの議論が行われていた時点ではまだPAM4(4値変調)を利用する予定はないが、もし必要であれば使える、というのが以下左のスライドだ。FECが要るかどうかははPAM4の作りにも依存するので、とりあえず入れてみたものの必要かどうかは不明とされる。これも長期的には、CAUI-2に移行すると言うわけだ。
この議論はやや先走った感もあるが、P802.3bmでは、単に4対のMMFで100Gbpsを100m通せるようにすること以上に、AUIの変更まで含めた、いわばIEEE 802.11baのブラッシュアップを目論んでいたことが、こうした議論からも読み取れるかと思う。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー