期待のネット新技術
最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年1月26日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
100Gを2つ束ねて200Gbpsの各製品、IEEEの200G規格は4つのみ
今回からは400Gbpsの規格を紹介していく。「間の200Gbpsはないのか?」と聞かれそうなので探してみたものの、規格としては見つからなかった。
製品としては、例えば中国GigaLightが「200GE QSFP-DD PSM8 2km/10km」などというモジュールを出している。ただし、これは実際には『「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」』で紹介した「100G PSM4」の2回線分を1つのモジュールに収めただけのもので、結果として200G×1として使用できる製品だ。
100G×2としても意外に使える上、その名称から新規格のように見えるが、単にPSM4を2本束ねただけであって、これをPSM8と表現するのはどうかと思う。
ちなみにGigaLightでは、ほかにも以下の多彩な製品群をリリースしている。
- 200GE QSFP-DD SR8 100m
- 200GE QSFP-DD LR8 10km/20km
- 200GE QSFP56 SR4 100m
- 200GE QSFP56 DR4 500m
- 200GE QSFP56 FR4 2km
- 200GE QSFP56 EFR4 10km
- 200GE QSFP56 LR4 10km/20km
- 200GE QSFP56 ER4 40km
このうち最初の「200GE QSFP-DD SR8 100m」の中身が右の図だ。要するに『最大100Gbpsで到達距離100mの「100GBASE-SR4」と40Gbpsで40kmの「40GBASE-ER4」』でも紹介した100Gbps Ethernetの「100GBASE-SR4」を2対並べ、QSFP-DDのモジュールへ押し込んだだけのものだ。そして、ほかの製品も全て同様だ。
どうやらMSAにしても、100Gから200Gへの移行にはあまりインパクトがないようで、100Gの次は400Gというステップを踏んでいる。200Gbpsの規格は「IEEE 802.3cd-2018」で定まった「200GBASE-SR4」と、「200GBASE-FR4/LR4」、それと(詳細は説明しなかったが)「IEEE 802.3bs-2017」で策定された「200GBASE-DR4」あたりが主なもので、ほかにはそれこそ100Gレーンを2つ束ねた独自規格(というか、独自製品という方が正確かもしれない)がいくつかあるだけだ。
最大400Gbpsを2~10kmで実現する規格策定が目的の「CWDM8 MSA」
ということで次は400G。まずは「CWDM8 MSA」を紹介したい。ちなみになぜか直近ではサイトが落ちているが、2020年12月25日付のInternet Archiveを見ると、MSAがなくなったというわけではなさそうだ。
CWDM8 MSAの結成は2017年9月27日で、最初の創立メンバーはAccton、Barefoot Networks、Credo Semiconductor、Hisense、Innovium、Intel、MACOM、Mellanox、Neophotonics、Rockley Photonicsの10社であった。その後、AOI(Applied Optoelectronics, Inc.)、H3C、Keysight Technologies、NOKIAの4社が加盟して現在は14社となっている。
その目的は、"短中期における2~10kmといったデータセンター~キャンパスネットワーク向けに、400Gbpsの転送速度を実現する規格を策定する"ことだ。実はこのMSA、こちらの記事でも紹介しているように「IEEE 802.3bs-2017」として標準化された、「400GBASE-LR8」への対抗規格である。
400GBASE-LR8は8波長のWDMで、変調にはPAM-4を利用して1波長あたり50Gbps(つまり信号レートそのものは25Gで、PAM-4を使って50Gにする)という構成であるが、MSA立ち上げの際にIntelのRobert Blum氏(Director of Strategic Marketing & Business Development, Silicon Photonics Division)は「確かにIEEEの400GBASE-LR8モジュールは10kmの距離をCooled Laser Diodeを使って到達可能だ。しかしながらこの光学系は、QSFP-DDあるいはOSFPなどのフォームファクターに収めるのは難しい」と語っていた。
2017年6月に開催された「OFC 2017」の会場で、Oclaro(現Lumentum)が行った100Gbpsで2~40kmまでの到達距離を実現できる5製品のデモで、400GBASE-LR8のモジュールのデモも行われた。
ただ、このモジュールは巨大なCFP8で、供給電力も20Wと大きかった。これはレーザー出力もさることながら、50GでPAM-4を掛けるのはまだ消費電力の観点から時期尚早というのが、Blum氏の持論であった。
同じくBlum氏によれば、わざわざPAM-4を使わずNRZのままでも50Gは実現できるし、PAM-4を利用したときよりLink Budgetが6dB余分に稼げ、しかもNon-cooled Laserが利用できるため、消費電力は12W以下に抑えられ、QSFP-DDなどのモジュールで利用可能であるという。
実際Intelは、既にこのとき400Gモジュールのプロトタイプを製造していた。これは、8つのレーザー光源をワンチップで実現できるものだったらしい。片や50G PAM-4のモジュールを小型化するには、特に低消費電力の50G SerDesや、コンパクトなDSPが必要だが、Blum氏は当時、おそらく2018年末までにこれらは利用可能にはならないとの見通しを述べていた。
8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現する「CWDM8」
さて、Specificationそのものは2017年11月にリリースされていたが、2018年3月に開催された「OCP(Open Compute Project) U.S. Summit 2018」において、CWDM8 MSA Project ChairだったIntelのScott Schube氏(Senior Director of Strategic Marketing & Business Development, Data Center Products)が示したスライド「400G CWDM8 Data Center Optics」が、MSAの目的というか、志向しているものを分かりやすく説明しているので紹介したい。
まず「CWDM8」のメリットだが、ここまで説明してきた通り基本的なメリットはコストと消費電力であり、製品化も難しくない、という点も大きなポイントだ。ただ、以下左の最後にある"将来の800Gにつながる"という話については、難しい面はあろうが、400GBASE-DR4という前例もあるので不可能ではないことはある程度理解できる。実際にTest Bedでの信号波形を含むペナルティの算出結果が、以下右のスライドだ。
当たり前だが一番シンプルな分、8×50G NRZが一番ペナルティが少ない。つまり同じSNRなら長距離伝達が可能で、伝達距離が同じなら、より高いSNRを期待できることになる。この結果、Link Budgetも非常に少なく(わずか5dB)て済むことが、400G CWDM8の特徴となっている。
ちなみに、CWDM8 MSAは400Gだけでなく800Gも視野に入れている。ただ、さすがに100G NRZは難しいと判断しており、この世代では100G PAM-4×8の構成を模索中だ。どうせWDMなのだから50G NRZ×16という選択肢もありそうな気がするが、資料を調べた限り、こうした組み合わせは検討されなかったようだ。
インターフェースまで考慮すれば、どこかで8:16あるいは16:8のGearboxを入れないとマッチングしないということもあるのだろう。さすがに16波ともなると、CWDMでは光ファイバーでのロスが少ない範囲を超えてしまうことも関係しているのかもしれない。
既に2018年の時点で、Credoでは56G NRZと56G PAM-4のコンバーターのサンプル出荷を開始していた。また、AOIではCWDM8に対応したDML(Direct Modulated Laser)Driverの試作を行っており、さらにIntelは試作品まで発表していた。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー