期待のネット新技術

同軸ベースの「10GBASE-CX4」、SFP採用の「10GSFP+CU」が先んじて普及

【10GBASE-T、ついに普及?】(第5回)

 1000BASE-Tの10倍速、という高速な有線LAN規格「10GBASE-T」が、いよいよ身近になりつつある。

 LANカードは既に100ドル以下のモデル2万円台のモデルが登場、ハブについても8ポート8万円の製品が国内で発売済み。10GBASE-T標準搭載のiMac Proも12月に発売されるなど、価格・製品バリエーションの両方で徐々に環境が整ってきた。

 長らく望まれてきた10GBASE-Tの低価格化だが、技術的には1000BASE-Tから変更された点も多く、設定や活用上のノウハウも新たなものが必要になる。そこで、規格の詳細や現状、そしてその活用方法を、大原雄介氏に執筆していただいた。今回のテーマは「先行して普及の始まった小型モジュール『SFP』について」。今後、集中連載として、毎週火・木曜日に掲載していく。(編集部)

まず同軸ケーブルベースの「10GBASE-CX4」が普及

 消費電力の問題で普及の進まない「10GBASE-T」に代わって、サーバー内のキャビネット、あるいは小規模なHPCでは、同軸ケーブルベースの「10GBASE-CX4」が利用されることが多かった。ケーブル長は最大15mで、あまり遠くには利用できないが、ラック内あるいは隣接ラック間の接続程度にはこれで十分だし、10GBASE-CX4のPHYの消費電力はポートあたり1W程度だったから、電気代という意味でも賢明な選択である。また、もっと大規模なサイトではEthernetの代わりにInfinibandを使う、という動きも出てきた。特にHPC向けではInfinibandの普及率が非常に高まったのがこの時期である。

小型モジュール「SFP」を採用した「10GSFP+CU」

 ただ、10GBASE-CX4は「SFF-8470」という大きめのコネクタを利用していた。ケーブルのイメージは、例えば、エイム電子の製品ページなどを見ていただければ分かるかと思う。このSFF-8470は、ほかにInfinibandの4xやSASなどでも利用されているので、そちらを見たことがある方もいるだろう。「10GBASE-SX」などに使われる「XFP Transceiver」というモジュールに比べて3倍ほどのサイズがあり、高密度の実装ができない。そこで、これを高密度化するとともに低価格化できないか? ということで登場したのが「SFF-8431」というコネクタである。

 コネクタそのものの仕様策定は、旧SFF Committee、元SNIA(Storage Networking Industry Association)のTA(Technology Affiliates)が行っており、最新版の仕様書はこちらから入手できる。このSFF-8431とは、8.5Gbpsおよび10GbpsのEthernetを、もっと小型のモジュールで利用するための規格。電気的特性は基本的には従来の10GbEに順ずる(異なる部分がSFF-8431に定義されている)ものだ。

2010年IDFの資料

 この小型モジュールは「SFP/SFP+」と呼ばれ、現在では広く利用されているが、そのSFF-8431のAppendix Eに「SFP+ DIRECT ATTACH CABLE SPECIFICATIONS "10GSFP+CU"」として定義されたのが、10GBASE-CXをベースに小型化したモジュールである。基本的には10GBASE-CXと同等だが、小型化に伴う若干の電気的変更などもあり、伝達距離がやや短くなっているのが欠点だ。しかし、その分小型化と低価格化が図れるほか、(いくつかのベンダーに聞いた話では)省電力化も実現できたとしている。

 根本的な配線数などは減らないから、長期的に見れば10GBASE-Tよりも割高になるのだが、当時はまだCAT7ケーブルも高価だったので価格差はあまり問題にならず、むしろ当時の10GBASE-Tよりも割安にシステムを構築できる、ということで「つなぎ」と割り切れば魅力的なものであった。

同じく2010年IDFの資料。一番左が「SFP+ Direct Attach」

ベンダー各社がSFP/SFP+対応製品を標準でラインアップ

 実は2008年の終わりから2009年に掛けて、いくつかのベンダーは10GBASE-T対応製品を中止あるいは凍結し、代わりに10GSFP+CUでの製品提供をアナウンスし始めた。2009年10月にはニューハンプシャー大学にて、10GSFP+CUのPlugfest(相互接続性テスト)が行われており、PHYベンダーとしてAMCC/Broadcom/ClariPhy/Cortina System/Intel/Vitesseが、ケーブルベンダーとしてAmphenol/FCI/Molex/Panduit/Tyco Electronics/Volexの各社が参加していた。

 このPlugfestの主催はEthernet Allianceで、その意味では、ある業界団体が勝手に策定した仕様について、別の業界団体が相互接続性の確認を行ったというだけでしかない。だが、実際問題として、こうした業界団体に加盟する企業が製品を販売している以上、10GSFP+CUが(10GBASE-Tはもとより10GBASE-CX4をも差し置いて)標準になりつつあったのは、火を見るより明らかである。

 実際、主要なネットワーク機器ベンダーは、10GBASE-xRの標準構成に加えて、SFF-8431で定義されたSFP/SFP+対応製品を標準ラインアップで用意し始めており、この頃は明らかに10GBASE-Tよりも10GSFP+CUの方に勢いがあった。

 余談ながら、“10GSFP+CU”という名称はやはり長すぎたようで、例えばCiscoの10GBASE SFP+モジュールのページを見ると、“10GBASE-CU SFP+”という謎の表現になっていたりする。実のところSFP+を使う限り、その先の物理的な配線が同軸ケーブルなのか、10GBASE-SRベースの光ケーブルなのかは、スイッチの側からは関係ない(同等に扱える)ため、“SFP+”のくくりになっているわけだ。

 今回は、先行して普及の始まった小型モジュール「SFP」について解説しました。次回11月2日更新分では、仕様策定から11年を経た10GBASE-Tの普及状況について解説します。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/