期待のネット新技術

「10倍高速」を実現するケーブル仕様とは?

【10GBASE-T、ついに普及?】(第1回)

 1000BASE-Tの10倍速、という高速な有線LAN規格「10GBASE-T」が、いよいよ身近になりつつある。

 LANカードは既に100ドル以下のモデル2万円台のモデルが登場、ハブについても8ポート8万円の製品が国内で発売済み。10GBASE-T標準搭載のiMac Proも12月に発売されるなど、価格・製品バリエーションの両方で徐々に環境が整ってきた。

 長らく望まれてきた10GBASE-Tの低価格化だが、技術的には1000BASE-Tから変更された点も多く、設定や活用上のノウハウも新たなものが必要になる。そこで、規格の詳細や現状、そしてその活用方法を、大原雄介氏に執筆していただいた。今回のテーマは「ケーブルについて」。今後、集中連載として、毎週火・木曜日に掲載していく。(編集部)

 7月某日、編集長様に呼ばれて神保町へ。そこで編集長様から熱く語られたのが「みんな10GBASE-Tのこと知らな過ぎ」であった。編集長様曰く、ウチのデザイナーさんとかが(10GBASE-Tにすれば)絶対にメリットあるのに! と力説されていた。

10GBASE-Tに対応するCAT6Aケーブル(撮影協力:愛三電気)

 話はそう単純ではなく、単純に10GBASE-Tにすると1000BASE-Tの10倍速くなると思ってませんか? という辺りは、しかし分かりにくいだろうな、というのは容易に想像が付くので、これはきちんと説明したほうが良さそうだと思った次第である。

 折りしも10GBASE-Tは2017年に入り、ついにスイッチの側もコントローラーの側も、ポート単価が100ドルを切った。実はこの“ポート単価100ドル”というのは、ネットワーク業界ではMagic Numberで、古くは10BASE-T、続く100BASE-TXのときも1000BASE-Tのときも、やはりポート単価が100ドルを切った辺りから急速に普及が始まっている。そんなことから、今年を10GBASE-T普及元年としても良さそうな気がする。

 そんなわけで、説明のタイミングにはちょうど良さそうな頃合いであろう、と担当者と相談した結果が、今回のテーマである。

光ケーブルを用いる初期の10GbEケーブル仕様策定までの歴史

 10GBASE-T、正式には「IEEE 802.3an-2006」は、2002年11月に標準化がスタートした。簡単に背景を書いておけば、この当時のデータセンター内、あるいはサーバールーム内におけるラック間接続は、とっくに1Gbpsの1000BASE-Tでは帯域的に賄えなくなっていた。こうした環境に向けて、10Gbps Ethernet(10GbE)の標準化が行われ、まず光ケーブルを利用した10GBASE-SR/LR/LX4と、10GBASE-SW/LW/EWの計6つが標準化されている。

規格LAN/WAN伝送速度伝送距離
10GBASE-SRLAN10GbE300/400m
10GBASE-LRLAN10GbE10000m
10GBASE-LX4LAN10GbE10000m
10GBASE-SWWAN10GbE300/400m
10GBASE-LWWAN10GbE10000m
10GBASE-EWWAN10GbE40000m

 10GBASE-SR/LR/LX4はLAN向け、10GBASE-SW/LW/EWはWAN向けという位置付けになる。そのLAN向けで一番到達距離が短い10GBASE-SRですら、300m(OM3)ないし400m(OM4)ということで、センター内の配線には、むしろオーバースペックなほどだった。そして、この当時だけでなく現在もそうだが、光ケーブルはどうしても高価になる。

 例えば、サンワサプライのOM3規格のケーブルは、こちらにラインナップがあるが、1mのモノが1万1200円(税別)、10mで2万2000円だ。この価格の理由は、ケーブルもさることながら、コネクタの機械的精度の問題が多くを占めている。アダプターの送受信部とケーブルの中心がきっちり一致するようにしないと、マトモに通信ができなくなくなるから、正確にこれを合わせるような精度の高いコネクタが必要になるため、どうしても値段が跳ね上がってしまうわけだ。

 そんなこともあり、通常の電線で接続できないか? という議論が当然出てくる。そして、同軸ケーブルを4対束ねた「10GBASE-CX4」という規格が、2004年に「IEEE 802.3ak」として標準化された。

10GbEで繰り返された100BASE-TX/1000BASE-Tケーブルの規格

 実は、ここまでの規格は、いずれも1Gbit Ethernet(GbE)やその前の100Mbit Ethernetの繰り返しだ。100Mbit Ethernet(英語ではFast Ethernet)の場合、100BASE-FX/SX(さらに長距離用の100BASE-BX10/LX10)といった光ケーブルの規格と、100BASE-T1/T2/T4/VGといったツイストペアを利用する規格の両方が立ち上がった。方やGbEでは、1000BASE-CX/KXという同軸配線、1000BASE-SX/LX/LX10/EX/ZX/BX10という光ケーブル配線、1000BASE-T/T1/TXというツイストペア配線の3種類が標準化されている。

 技術的な難易度という観点では、一番楽なのが光ケーブルを利用した配線である。なにしろ発光素子と受光素子さえ用意できれば、伝達路そのものは光ケーブルなので、速度的な制約は非常に少なく、到達距離は光の波長と出力、光ケーブルの材質の3つで決まる。例えば「1000BASE-ZX」は、シングルモードの光ファイバーと波長1550nmの光を利用することで、最大70kmまで伝達できるほどだ。もっと短い距離でよければ、それほど難しさはない。

 一方、同軸ケーブルを利用した配線では、到達距離を短く抑える(1000BASE-CXで25m、バックプレーン用の1000BASE-KXでは1m)ことで、高速伝送における信号劣化を許容範囲に押さえ込んでいる。

 これらに比べ、やはりツイストペアを利用した1000BASE-T系では、どうしても技術的な難易度が高い。例えば、1000BASE-CX4の場合、片方向あたり1本の同軸ケーブルを利用し(つまり送受信で実際は2本の同軸ケーブルが必要)、ここに1.25Gbpsの信号を通す形になる。ただし、データは「8b10bエンコード」(送信側から8bit分のデータを10bitに変換したシンボルを送る方式。受信側は10bitのシンボルから8bitのデータを取り出す)を利用しているので、実効転送速度は1Gbpsになる。

 これに対して1000BASE-Tでは、4対のツイストペアを利用する。ここで「8B1Q4」(8bitデータに1bitパリティ)を付加し、これを5値4対のシンボルに変換、この4対をそれぞれのツイストペアで送るというかなり面倒な処理になっている。また全二重通信を実現するため、Hybridと呼ばれる仕組みを導入しており、1本のツイストペアで全二重通信が可能になっている。ちなみに、信号周波数が125MHzにとどめられていることもあって、CAT5のツイストペアケーブルで最大100mまでの通信が可能になった。

 もっとも、この方式をひねり出すまでには、それなりの時間が掛かっている。それもあり、GbEの場合は、1000BASE-X(光ケーブルと同軸)の規格をまとめた「IEEE 802.3z」の仕様策定が、1996年6月開始されて1998年6月に完了したのに対し、1000BASE-Tの「IEEE 802.3ab」については、当初IEEE 802.3zと合わせて検討されていたのが途中で切り離されて別組織で検討を行うことになり、最終的には1年遅れの1999年6月に標準化を完了している。

10GbEの規格策定は1999年、仕様は2006年に固まったが……

 さて、話を10GbEに戻そう。10Gbitも最初は光ファイバー及び同軸ケーブルによる策定がスタートした。この開始は1999年3月で、実はまだ1000BASE-Tの策定が完了する前である。このうち光ファイバーに関しては、比較的早期に仕様がまとまり、2002年6月に「IEEE 802.3ae」として標準化されている。端的に言えば、1000BASE-Tの信号を10倍高速にするだけで、光ケーブルでは、これが相対的に容易だった。

 さすがに同軸ケーブルについては、1本の同軸ケーブルに12.5GHzの信号を通すというわけにはいかず、片方向あたり4対の同軸ケーブルに、それぞれ3.125GHzの信号を通す(ただし符号化は相変わらず8b10b)という形で10Gbpsを確保した。しかし、技術的な観点で詰めるべき所は多かったようで、最終的に「IEEE 802.3ak」として標準化されたのは2004年2月のことである。

 こうして、“価格の高さを厭わなければ”とりあえず10GbpsでのEthernetが確保できる準備が整った段階で、ツイストペアによる接続方式である10GBASE-Tの仕様策定作業が開始された。2002年11月にスタートしたこの策定作業は当初、1000BASE-Tと同様に3年程度で完了し、2005年には標準化が終わると思われていたが、最終的にはもう1年延び、2006年6月に仕様が承認され、同年9月に標準化作業が完了した。

 なぜ策定作業が難航したのかという話は後述するが、「Networld+Interop Tokyo 2004」のレポートをお読みいただくと分かるように、当時としては技術的な難易度が非常に高く、これに向けて多くの企業がさまざまな技術を持ち寄った関係で、その調整というか要素技術を決定するのにかなり時間が掛かったようだ。それでも2006年には仕様が固まり、2007年からはGet IEEE 802 Program経由での仕様の配布も始まっているので、ここからは次第に普及してゆくと思われた。が、実際にはむしろここからが、苦難の始まりとなった形だ。

 今回は、標準化された10GBASE-Tの概要とケーブルの仕様について解説しました。次回10月19日更新分では、10GBASE-Tの仕様に採用された技術について解説していきます。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/