期待のネット新技術

ようやく10GBASE-Tが主役に? チップの低価格化と省電力化進む

【10GBASE-T、ついに普及?】(第6回)

 1000BASE-Tの10倍速、という高速な有線LAN規格「10GBASE-T」が、いよいよ身近になりつつある。

 LANカードは既に100ドル以下のモデル2万円台のモデルが登場、ハブについても8ポート8万円の製品が国内で発売済み。10GBASE-T標準搭載のiMac Proも12月に発売されるなど、価格・製品バリエーションの両方で徐々に環境が整ってきた。

 長らく望まれてきた10GBASE-Tの低価格化だが、技術的には1000BASE-Tから変更された点も多く、設定や活用上のノウハウも新たなものが必要になる。そこで、規格の詳細や現状、そしてその活用方法を、大原雄介氏に執筆していただいた。今回のテーマは「10GBASE-T普及の状況と問題点について」。今後、集中連載として、毎週火・木曜日に掲載していく。(編集部)

2010年から“10GSFP+CU”の普及進むも、1000BASE-Tとは共存

 そんなわけで2010年頃から「SFP+」を搭載したコントローラー側の製品が多く登場し、価格面の問題を別にすると、次第にSFP+が普及を始めていた。ただ、多くの製品はSFP+に加えてRJ45コネクタが搭載され、ここに1000BASE-Tを使って繋ぐことも可能といった、複数種類のEthernetポートを搭載するソリューションとなっており、SFP+で全面刷新とまでには至らなかった。これはやはりコスト面の問題と、配線の自由度の問題が解決しなかったためだ。

 RJ45とUTP(Unshielded Twisted Pair)あるいはSTP(Shielded Twisted Pair)の組み合わせは圧倒的に安く、またパッチボードを利用しての繋ぎ換えが可能といったメリットもあった。1000BASE-Tの1Gbpsという速度の遅さについても、IEEE 802.3adとして標準化されたリンクアグリゲーション(複数のEthernetを組み合わせて仮想的に1本のEthernetと見なす技法。速度を上げることも、冗長構成にすることも可能)に対応したスイッチと組み合わせることで、2Gbpsとか3Gbpsのリンクを作ることが可能だから、多少は緩和された。そんなわけで2010年以降には、低コスト向けには1000BASE-T、高性能向けにはSFP+を利用した10GBASE-SRや10GBASE-CX4と、両方が共存する状態が続いた。

 実のところIntelでは、2010年頃には10GbEのもっと積極的な普及を予測していた。IntelがIDF 2010の際にDell'Oro Groupの予測として示した10GbEの普及動向によれば、まず2011年にブレードサーバーに200万個ほど10GbEコントローラーが搭載され、2012年にはこれが300万個に、さらにマザーボード上にも200万個ほど搭載され、そこから急速に普及すると予測していた。

IntelがIDF 2010で示した10GbEの普及動向。LOMは"LAN on Motherboard"で、マザーボード上に10Gbit Ethernet Controllerが搭載されることを意味する

ようやく10GBASE-Tが主役に

 この場合の主役は? というと、言うまでもなく10GBASE-Tになる予定で、普及へ向けてIntelは10GBASE-T MAC/PHY統合チップの開発を急いでいた。実のところ10GBASE-TのMACに関しては、既にIntelは実績のあるチップ(Intel 82598)を持っており、とりあえずはこれにPHYを外付けにした形の製品を出荷し、2011年からはMACとPHYを統合、合計でも5Wという消費電力を実現した製品をLOM(LAN on Motherboard)向けに出荷する予定だった。

初代のIntel 82598+Gen1 PHYの製品がポートあたり$999、第2世代のIntel 82598+Gen2 PHYがポートあたり$599、第3世代のX520がポートあたり$399という価格になっていた

 予定だった、というか一応Intelはちゃんと出荷をした。“Twinville”というコードネームで知られた「Intel X540-AT2」は、やや遅れて2012年第1四半期にリリースされたが、2ポートの10GBASE-Tコントローラーで消費電力は12.5W、コントローラー単体価格は$149.79なので、一応ポート単価は$100を切ったし、消費電力も5W未満は実現できなかったが、6W少々だからそう悪い数字ではない。

 だが、残念ながらこれを搭載した製品はそう多くなく、結果として市場はこの時点では立ち上がらなかった。OEM筋からは「まだいらない」と拒否されたらしい。要するにスイッチを含めたトータルソリューションがそろわなければ、無駄に10GBASE-Tのポートを搭載してもメンテナンスコストが増えるだけでメリットがない、と判断されたらしい。要するにまだ時期尚早と判断されたわけだ。

仕様策定から11年、やっと10GBASE-Tがユーザーの手に届くところに

 ではその後どうなったか? というと、2015年あたりから、ようやく市場が立ち上がり始めた。同じくDell'Oroの、ただし2013年における予測では、2014年から明確にコントローラーチップの出荷が増え始め、2015年以降は急速に伸びるとしており、実際マーケットもこれに近い状態になってきた。Ethernet AllianceのFAQによれば、2015年には10GBASE-Tの出荷ポート数はSFP+を抜く(http://ethernetalliance.org/subcommittees/10gbase-t/faqs/)とされ、やっとエンタープライズやデータセンター向けに普及が始まった形だ。

Dell'Oroによる2013年における10GBASE-T市場予測。出典は"A Roadmap of Ethernet Optics"

 Intelもここに向け、2015年には“Coppervale”というコードネームの10GBASE-T PHYである「X557」を出荷している。X557は28nmプロセスで製造されており、1ポートの「X557-AT」は消費電力3.4W、チップ価格が$37.34と、かなりリーズナブルになってきた。また、PHYに加えてMACも統合したSergevilleシリーズの「X550」もやはり2015年から投入が始まっており、例えば「X550-AT」の場合は消費電力8W、チップ価格も$60.00まで抑えられることになった。このSergevilleはLOM向けで、これもあって2016年あたりから、サーバー向けマザーボードを中心に、少しづつ10GBASE-Tポートの搭載が始まっていた。2017年に入り、ついにコンシューマー向けマザーボード(といってもハイエンドだが)への搭載が発表されたりもしている。

 低価格製品は、Intel以外も積極的に取り組んでおり、特にスイッチの価格低下が最近とみに激しい。例えば、NETGEARがSOHO向けに2016年に投入した「XS708E」は、8ポートの10/100/1000/10GBASE-Tと1ポートの10GbE SFP+を持つ製品。フルマネージドではないものの、アンマネージドスイッチよりは機能がある(VLANとQoS、Link Aggregationの機能を搭載)ということで、同社は"ProSAFE Plus Switch"(日本語ではアンマネージプラス・スイッチ)と称している。ちなみに本国ではバージョンアップした「XS708E v2」が、既に出荷されている。

 さてこのXS708E、日本における定価は14万400円(税込)だが、Amazon.co.jpの価格は7万8700円(10/27調べ、税込)、Amazon.comでの価格は660.99ドル(10/27調べ、税・送料別)といった具合で、ポート単価が実売価格で100ドルを切る状況になった。

 これはコントローラーの側も同じである。先のIntelのX550-ATはあくまでLOMなので、これをカードに搭載したネットワークカードそのものはずっと高価だった。例えばStarTech.comのST10000SPEXはX550-ATを搭載しているが、米国価格が306.99ドル、Amazon.co.jpでの価格が3万2584円(10/27調べ、税込)と、結構なお値段だった。ところが最近はASUSTeKの「XG-C100C」のように、ついにAmazon.comで99.99ドル(10/27調べ、税・送料別)を実現した製品まで登場した。

 ちなみにこのXG-C100Cでは、カードの上にはXilinxの「Kintex-7 FPGA」が搭載されているだけである。Xilinxは既にKintex向けに10GBASE-TのPHYやMACのIPを提供しており、またPCI Expressも利用可能である。これを組み合わせれば、10GBASE-Tのコントローラーは容易に構築できるというわけだ。まだ国内では流通していないが、それほど時間はかからずに流通が始まりそうな勢いである。

 そんなわけで仕様策定から11年を経て、やっと10GBASE-Tがユーザーの手に届くところに落ちてきた、というのが現状である。

 今回は、10GBASE-Tの普及までの状況について解説しました。次回11月2日更新分では、実用編として、10GBASE-T環境におけるPCIe帯域幅とストレージの性能について解説します。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/