期待のネット新技術

CAT5/CAT5eの利用を断念 CAT6/6A/6e/7のみサポート

【10GBASE-T、ついに普及?】(第3回)

 1000BASE-Tの10倍速、という高速な有線LAN規格「10GBASE-T」が、いよいよ身近になりつつある。

 LANカードは既に100ドル以下のモデル2万円台のモデルが登場、ハブについても8ポート8万円の製品が国内で発売済み。10GBASE-T標準搭載のiMac Proも12月に発売されるなど、価格・製品バリエーションの両方で徐々に環境が整ってきた。

 長らく望まれてきた10GBASE-Tの低価格化だが、技術的には1000BASE-Tから変更された点も多く、設定や活用上のノウハウも新たなものが必要になる。そこで、規格の詳細や現状、そしてその活用方法を、大原雄介氏に執筆していただいた。今回のテーマは「ケーブルの対応カテゴリーについて」。今後、集中連載として、毎週火・木曜日に掲載していく。(編集部)

CAT5、CAT5eケーブルは10GBASE-Tに非対応

 10GBASE-Tのケーブルに関しては、CAT5/CAT5eの利用を断念し、CAT6/6a/6e/7のみのサポートとしたのが大きなポイントである。当初、10GBASE-Tでは既存の1000BASE-Tとの互換性を考えてCAT5ケーブルの利用を可能にしようとしていた。CAT5、正式には「ANSI/TIA/EIA-568-A」に加えて「TSB-95」で明確化されたCategory 5ケーブルであるが、「UTP(Unshielded Twisted Pair:シールドされていない撚り対線)」方式で、通せる信号周波数の上限は100MHzとされている。

 冒頭で説明した通り、1000BASE-Tでは信号周波数が125MHzなので、厳密に言えばオーバースペックでの運用になっている。このこともあり、短距離(数mのオーダー)だと問題はないが、1000BASE-Tの最大到達距離である100mまでで利用しようとすると、CAT5では性能的に怪しくなる。これもあって、CAT5eあるいはCAT6の利用が推奨されている。ただ、10GBASE-Tでは、信号周波数が200MHzとさらに高くなることもあって、CAT5では1m未満でも性能的に怪しいという話になり、わりと早い時期にCAT5の利用が断念された。

 このCAT5の改良版がenhanced Category 5(CAT5e)である。こちらも信号周波数は100MHzまでだが、内部の配線を太くして伝達特性を改良したもので、1000BASE-Tでは100mまで利用可能となっている。しかし、こちらを使っても10GBASE-Tではやはり性能的に厳しいことがシミュレーションで早期に判明し、やはりサポートから落ちている。

 さて、その代わりにサポートされたのが、Categoly 6(CAT6)である。CAT6では内部の4対の配線が偏らないように十字型のスペーサーが内蔵されている。撚り対線も変更され、250MHzまでの信号周波数に対応している。10GBASE-TではこのCAT6を利用した場合、最大37m(後述するエイリアンクロストークがなければ55m)までの通信が可能とされた。

 このCAT6の改良版が、Enhanced Category 6(CAT6e)である。実はこれ、TIAやANSIでは策定されていないケーブルメーカーの独自規格である。違いは、4対の撚り対線に加えて、スペーサー全体を薄いアルミのシールドで覆う形になっていること。建前上はシールドなので、UTPではなくSTP(Shielded Twisted Pair)に分類されることになるはずなのだが、実際はこれがUTPとして扱われるのは、このアルミのシールドがアースされていないためだ。現実問題としては、シールドの性能が不十分である。これもあり、10GBASE-T的にはCAT6ケーブルと同じ扱いである。

CAT6Aは500MHz、CAT7はGG45/TERAコネクタ採用で600MHzに対応

 このCAT6eをさらに拡張したのが、Augmented CAT6(CAT6A)である。4対の撚り対線+スペーサーをアルミのシールドで覆う構造はCAT6eと同じだが、撚り対線が変更されて500MHzまでの信号周波数に対応した。また外皮が不等断面形状になり、特に複数のCAT6Aケーブルを並べた際のケーブル間の信号干渉(これをエイリアンクロストークと呼ぶ)を減らす効果がある。ただ、このCAT6Aも、外側のアルミシールドは実際にはアースされていないためシールド効果が不十分で、一定の条件下では10GBASE-Tで利用できない可能性が指摘された。これもあって、後にはCAT6Aのケーブルを利用したSTPも登場している。

 さて、これらに続いて登場した本命が、Category 7(CAT7)である。このあたりから、もはやUnshieldのままでは高速化は不可能と判断され、完全に配線をシールド化したSTPに切り替わった。CAT7の場合、4つの撚り対線はそれぞれ個別にシールドされ、さらに全体を網線シールドで覆う構造になっている。

 図で確認すれば、要するにどんどんケーブルが太く、高価になる方向に進化していったわけだ。もっとも、それでも10GBASE-CX4のように4対×2の同軸ケーブルを使うよりは安価、という見通しだった。しかし、実際に価格が下がったのはつい最近のことである。

 眼で見た違いは(ケーブルの太さとか折り曲げにくさを除くと)コネクタ部にある。CAT6Aまでは伝統的に「RJ45」というコネクタが利用されてきた。これはプラスチック製で、内部に8つの端子が用意されているだけのものである。これに対し、CAT7では「GG45」ないし「TERA」コネクタが用いられる。

 GG45は、コネクタ構造そのものはRJ45と後方互換性があるが、コネクタ全体をメタルシールドで覆う形になっている。これにより、コネクタのシールド部を通してケーブルのシールドがグランドに接続されることになり、シールド性能が大幅に向上した。

 一方のTERAは、ヨーロッパでよく利用されているもの。Siemonという会社が開発したもので、そのまま標準化された。撚り対線の信号周波数の対応が600MHzまでに向上しており、これを利用することで、10GBASE-Tで100mまでの通信が可能になる。余談だが、このGG45あるいはTERAコネクタとCAT6Aケーブルを組み合わせたのが、CAT6AのSTPということになる。

GG45のプラグとレセプタクル。出典は小野寺智広氏(丸紅アクセスソリューションズ(株))のJAGON28事後資料「とある通信工のつぶやき」(https://www.janog.gr.jp/meeting/janog28/doc/janog28-toarutsushin-ver1.0-after.pdf)。

CAT7Aは1000MHzながら25/40GBASE-T非対応、2000MHzのCAT8で対応へ

 ついでに余談を一つ。最近はAugmented Category 7A(CAT7A)およびCategory 8(CAT8)ケーブルも普及を始めている。これらはいずれも、25/40GBASE-Tという、10GBASE-Tの次の規格向けのものである。CAT7Aは、1000MHzの信号周波数を目標に制定されたものの、これでは25GBASE-Tでも十分ではないということで、結局10GBASE-Tのみのサポートになっている。一方CAT8は、当初1600MHz以上として策定が始まり、最終的には2000MHzになったものだ。25GBASE-Tおよび40GBASE-Tは、このCAT8ケーブルで最大30mまでの距離で利用可能とされる。

 さて、CAT7A/8の仕様上の構造そのものは、CAT7のままなのだが、2016年1月に開催されたCES(Consumer Electronics Show)において、WireWorld Technologyが斬新なCAT8ケーブルを発表した。もっとも同社は、オーディオ向けケーブルを手がけている会社なので、本当にこれを25GBASE-Tや40GBASE-Tで使えるのかどうかは不明(同社もオーディオ向けの話しかしていない)だし、そもそもTIAの定めた標準規格「ANSI/TIA-568-C.2-1 specifications for Category 8 cabling systems」に合致したケーブル特性を実現できているのかどうかも謎である。このあたりがクリアになるまでは、とりあえずこれはオーディオ用ケーブルとして使うのが無難な気がする。

 というわけで長くなったが、変調方式・エラー訂正・ケーブルと、すべての面で大幅な拡張というか新技術を導入するという前提の下で、やっと10GBASE-Tの標準化が完了したわけである。

 今回は、標準化された10GBASE-Tの試用に採用された要素技術の詳細について解説しました。次回10月26日更新分では、仕様が策定されて以降の10GBASE-T普及の状況と問題点について解説していきます。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/