期待のネット新技術

ケーブル変えずに5倍速! CAT5が使える「2.5G/5GBASE-T」、消費電力も低減

【10GBASE-T、ついに普及?】(第10回)

 1000BASE-Tの10倍速、という高速な有線LAN規格「10GBASE-T」が、いよいよ身近になりつつある。

 LANカードは既に100ドル以下のモデル2万円台のモデルが登場、ハブについても8ポート8万円の製品が国内で発売済み。10GBASE-T標準搭載のiMac Proも12月に発売されるなど、価格・製品バリエーションの両方で徐々に環境が整ってきた。

 長らく望まれてきた10GBASE-Tの低価格化だが、技術的には1000BASE-Tから変更された点も多く、設定や活用上のノウハウも新たなものが必要になる。そこで、規格の詳細や現状、そしてその活用方法を、大原雄介氏に執筆していただいた。今回のテーマは「10GBASE-Tの派生規格である2.5/5GBASE-Tについて」。今後、集中連載として、毎週火・木曜日に掲載していく。(編集部)

 ここまでの話は10GBASE-Tを中心に行ってきたが、実はその間にも派生型が生まれてきている。

 10GBASE-T普及の遅々とした状況に、2015年後半あたりから新しい動きが2つ出てきた。1つはアクセス回線向けで、10GBASE-Tの普及(と省電力化)を待ってはいられないが、だからといって1000BASE-Tでは遅すぎるという用途に向けたものだ。今回はこれを簡単にご紹介したい。

IEEE 802.11acの登場で顕在化したアクセス回線向けのニーズ

 これはIEEE 802.11acの登場で顕在化した。IEEE 802.11acの場合、当初のwave1に関して言えば、最大構成のピーク性能は1.3Gbps、実効性能は700Mbps程度だから、IEEE 802.11ac wave1のアクセスポイントはとりあえず1000BASE-Tを搭載しておけば間に合った。ところがwave2の場合、8×8 MIMO構成だと理論上のピーク性能は6.9Gbpsにも達する。実効性能はせいぜいが3Gbps程度にしかならないが、それでも1000BASE-Tではまるで足りない。

 ではここに10GBASE-Tを入れるか? というと、2015年~2016年の段階の見積もりでは価格が200ドル以上跳ね上がり、しかも発熱が大きいため、アクセスポイント本体の温度が急上昇することになる。コンシューマー向けの場合、そもそも10GBASE-Tのスイッチを自宅に置いているようなケースはまだ想定できないから無用の長物だし、エンタープライズ向けの場合には、この温度上昇により連続稼動時の安定性を損なうことになりかねない。

 それもあり、エンタープライズ向けには1000BASE-Tを2ポート搭載した製品もある(例えばwave2に対応したパナソニックの法人向けWi-Fiアクセスポイント「EA-7HW03AP1」)。これでリンクアグリゲーション(LAG)を掛ければ2Gbpsの帯域が確保できるから、だいぶマシというわけだ。

IEEE 802.11ac wave2とLAGに対応したパナソニックの法人向けWi-Fiアクセスポイント「EA-7HW03AP1」

 ただ、そもそもエンタープライズ向けは、配線をどうやって減らすのかを一生懸命に頑張っている世界でもある。PoE(Power over Ethernet)はその一例で、これを利用することで電源とEthernetを1本で賄えるから敷設コストを下げられる、という議論をしている最中に、「帯域が足りないので配線増やします」というのは、ポイントリリーフとしては許されても長期的には許されない。

2.5GBASE-Tと5GBASE-Tの業界標準をNBASE-T Allianceが策定

 こうした状況は、IEEE 802.11acの議論をしているときに既に見えていた話で、もう少し現実的な方法を提案すべく2014年10月に立ち上ったのが「NBASE-T Alliance」という業界団体である。創立メンバーはCisco、Aquantia、Freescale、Xilinxの4社で、現在はこれにIntelとMarvellを加えた6社がPromoterとなり、ほかにContributors12社、Adopter28社が加盟している。

 このNBASE-T Allianceが、2.5Gbpsと5Gbpsの2つのEthernet規格をまず業界標準として策定するとともに、これをIEEEに標準化規格として提案する。最終的にこれは「IEEE 802.3bz」として2016年9月に標準化され、正式に2.5GBASE-Tおよび5GBASE-Tが立ち上がった。

IEEE 802.3bz-2016の表紙

 この2.5GBASE-Tと5GBASE-T、どちらもベースは10GBASE-Tである。要するに、10GBASE-Tと同じくLDPCを利用することで、高効率なデータ転送を可能にするものだ。異なるのはクロックレートで、10GBASE-Tは200MHzだったが、2.5GBASE-Tは50MHz、5GBASE-Tは100MHzにそれぞれ信号速度を落としている。

 これによって何が得られるかというと、コントローラーの消費電力削減である。第2回で書いた通り、LDPCでは200MHzのレートでやって来る信号に対してLDPCのデコードを行うべく、猛烈な勢いで内部処理を回している。信号速度が2分の1ないし4分の1になると、同じレイテンシーであれば内部のLDPCの速度を2分の1ないし4分の1に下げられるため、大幅に消費電力を低減できる。

 逆に、消費電力が一定でよければ、1μsを切るレイテンシーも夢ではない。レイテンシーをLDPCのデコードに要する2分の1ないし4分の1の時間に減らせる計算になるからだ。しかし実際には、レイテンシーは一定にして、消費電力を削減する方向に業界は動いた。また、信号速度が落ちる分エラー訂正にもゆとりがあり、LDPCだけで十分訂正できるため、10GBASE-Tで利用しているCRC-8ベースのエラー検出が、2.5G/5GBASE-Tでは省略されている。

CAT5eケーブルで100m伝送、2.5G/5GBASE-Tコントローラーはアクセスポイント向けに

 こうした簡略化と速度低下の結果、10GBASE-TではCAT6a以上のケーブルが必要だったのに対し、2.5G/5GBASE-TではCAT5eケーブルを利用して100mまでの伝送が可能となった。また標準ではないが、短距離なら既存のCAT5ケーブルがそのままでも利用可能とあって、エンタープライズ向けに普及が始まりつつある。

 もっとも当面は、拡張カードの形でのリリースはほとんどなく、主にIEEE 802.11ac wave2のアクセスポイント向けにコントローラーとしてリリースされている状況だ。ただ、基本的には単に動作周波数を下げただけで同じスキームなので、既存の10GBASE-Tのコントローラーやスイッチでも2.5GBASE-T/5GBASE-Tへの対応は容易であり、実際、既に対応製品もリリースされている。一般ユーザー向けにどこまで普及するか現状ではやや不明確だが、エンタープライズ向けには着実に増えていくと思われる。

 今回は、10GBASE-Tの派生規格である2.5/5GBASE-Tについて解説しました。次回11月21日更新分では、40Gbpsを実現する25GBASE-Tと40GBASE-Tについて解説します。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/