期待のネット新技術
10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年5月19日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
「IEEE 802.3u」で定義された100Mbps転送の「MII」
1Gbps Ethernetについては、前回までで終わりとなるが、次の10Gbpsへ話を進める前に、少し「MII」の話を紹介しておきたい。
MII、正式にはMedia Independent Interfaceであるが、これが実は100Mbps Ethernetの「IEEE 802.3u」で定義された。10MbpsまでのEthernetは、データリンク層と物理層の間が「AUI(Attachment Unit Interface)」と呼ばれるインターフェースで接続される構造(以下左)となっていた。このAUIは、左のように6本の信号線と電源(12V)から構成される方式で、主に「10BASE5」をターゲットにしたものだ。
10BASE5の場合、物理層というかトランシーバーはケーブルに直結されており、これとネットワークカードの間をAUIケーブルでつなぐ、という形態になっていたため、下の画像ののようなケーブルが必要だった。
10BASE2や10BASE-Tでは、外部にケーブルを引っ張り出さなくても、初期の製品を除けばネットワークカード上へトランシーバーの実装が可能だったため、AUIケーブルを使うケースは極めてまれだった(10BASE2はともかく、10BASE-TでAUIを利用した製品は見たことがない)。もっとも、物理的にはAUIは見えないものの、10BASE5や10BASE-Tの内部では引き続きAUIが利用されていたようだ。
さて、100BASE-Xでは、複数の物理メディアをサポートするという方向性が見えてきた。本連載「光Ethernetの歴史と発展」の第3回でも説明した通り、IEEE 802.3uで100BASE-FXと100BASE-TX、「IEEE 802.3ah」で100BASE-LX10と100BASE-BX10が標準化された。
ただ、いずれも100Mbpsの双方向通信という観点では同じながら、物理層では全く互換性がない。そこで、物理層だけを切り離し、間に標準的なインターフェースを挟み込むことで、上位層は変えずに複数の規格に対応できるようにしたい、というニーズが生まれた。
要するに、100BASE-TXと100BASE-FX(と、後から追加された100BASE-LX10/1000BASE-BX10)では、データリンク層から上は全く同一で、物理層だけが異なっている。なので、データリンク層から上をまとめたネットワークコントローラーに物理層だけを外付けで追加するかたちにすれば、製品の柔軟性が増すと判断されたわけだ。
この結果として登場したのが、MIIである。要するに物理層に対するインターフェースであり、エンコードやエラー訂正など、その物理層特有のものを全てMIIの配下にまとめてしまうことで、構成を柔軟にすることが可能となった。
そのインターフェースは、左図の赤枠部に示すような構成になっている。信号線だけで16本、実際には更に+5VラインとMDIO(Management Data Input/Output)という信号ラインもあり、GNDを抜きにしても20本の信号線が必要となる。これもあって、MII用のコネクタは40ピンのものが定義された。
実際にはこのコネクタを使うケースはまれで、通常は右のように基板の上にMACとPHYのチップが別々に実装され、間を配線で繋ぐようになっていた。そうした限りで言えば、配線が20本近いことはそれほど問題とはならなかった。
光ファイバー用途で高いニーズがあった「SFP」と光モジュール
ただ、特に光ファイバーを利用する用途向けでは、「SFP(Small Form-factor Pluggable)」と呼ばれる光トランシーバーを利用したい、というニーズが強かった。もともと光Ethernet登場前の時代から、光に関してはネットワークカードに直接実装するのではなく、光/電気変換モジュールのかたちで提供されてきており、光Ethernetでもこれを踏襲するというニーズがあった。結果、光Ethernetについては、以下の図のような構成が一般的となった。
この光モジュールの仕様は、旧SFF(Small Form Factor)Committeeで、現在は「SNIA(Storage Networking Industry Association)」が規定する「INF-8074i」のSFP(Small Formfactor Pluggable) Transceiverが利用されることになった。その形状は、例えばFSの扱う100BASE-FXモジュールが実際の製品での例となる。
サイズは全長45mm、幅13.7mm、高さ8.6mmという非常にコンパクトなもので、通常のPCIやPCI Expressのカードでも、その気になれば2本装着も可能という程度のもの。これを利用し、光Ethernetカードそのものは共通化して装着するモジュールを入れ替えることで、100BASE-FX/LX10/BX10を切り替えられるようになった。
50MHzのクロック、8本の信号線で100Mbpsの通信を可能にした「RMMI」
問題は、このINF-8074iでは信号ピンが20本しか使えないことだ。このため、MIIの信号をそのまま通すのは、不可能ではないが少し無理がある。
そこで、MIIの信号を減らす「RMMI(Reduced MII)」という仕様が策定された。ちなみにMIIそのものは、100Mbps以外に10Mbps(10BASE-T)にも対応している。
これは、100BASE-TXが10BASE-Tとの後方互換性を維持する関係で必須なわけだが、RMIIがこれに対応しているかどうかは不明(というか、仕様には10Mbpsの転送に関する記載はなく、おそらく未対応)であるが、こんな使い方をされることはないだろうから、事実上差し障りはないと思われる。
この仕様は、3Com、AMD、Bay Networks、Broadcom、National Semiconductor、Texas Instrumentsの6社によって1997年に結成されたRMII Consortiumという団体から、1998年に「RMMI Specification」として発表された。
2倍の信号ピンと5倍の速度で1Gbpsを実現する「GMII」
ということで、1Gbpsでも当然MIIに相当するものが規定されており、「GMII(Gigabit MII)」と呼ばれる。転送速度は10倍速とはなったが、信号をそのまま10倍速にするのは無茶だと思ったのか、データ幅を8bitへ拡張している。つまり、信号速度5倍×データ幅2倍で、10倍の転送速度という計算だ。
これに合わせ、「RGMII」もまた策定されることになった。Reduced GMIIの略称であるが、こちらも同様に信号ピンを2倍(上り下り各4bit)、速度を5倍にしている。
厳密に言えば、RMIIの場合は50MHzのクロック信号の立ち上がりエッジのみをトリガーにして50MHz×2bit=100Mbpsなのに対し、GMIIでは立ち上がりと立ち下がりの両方でデータを送る方式(俗にいうDDR:Double Data Rate)を採用することで、Reference Clockそのものは125MHzながら、125MHz×4bit×2=1000Mbpsを実現している。
1000Mbpsを8b/10bエンコードでシリアル転送するCisco独自規格「SGMII」
さて、このあたりまでは業界標準の技術となるが、非業界標準のものとして、「SGMII(Serial GMII)」と呼ばれるものも存在する。
Cisco独自の規格だが、CiscoではSGMII対応モジュールを多く出荷しており、これに対応するかたちで、さまざまななベンダーがSGMII対応を打ち出した結果、事実上の業界標準となっている規格だ。1000Mbpsを8b/10bエンコードでシリアル転送する規格で、信号速度は1.25Gbps、バス幅は1bit(Differencialなのでピン数は2本)となる。
RMII/RGMIIと異なり、こちらは既存のMII/GMIIの置き換えというかたちになるわけだが、第4回でも触れたように、もともとは1000BASE-Xが内部的には8B10Bエンコードを使った1.25Gbpsを扱っているので、それをそのまま外部に出しただけとも考えられ、むしろ余分な手間が省けてちょうどいい(GMII向けに変換するオーバーヘッドが省ける)という点も、普及した要因かもしれない。
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