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40Gbpsの「QSFP+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

QSFPを10倍の引き上げた10Gbps×4の「QSFP+」、「SFF-8436」として標準化

 前回も掲載した以下の表のように、「SFP28」の次にあたる規格が「QSFP+」である。もともとは4Gbpsに対応した「QSFP(Quad SFP)」という規格が、2006年11月に「SFF-8438」としてリリースされていた。

規格名速度
SFP2825Gbps
QSFP+40Gbps
SFP5650Gbps
SFP-DD100Gbps
QSFP28100Gbps

 4GbpsというのはEthernetの仕様にはないのだが、これはFiberChannelの2GFC/4GFC、加えてInfiniBand 4xが主な用途である。要するに、4つ分のSFPを1つのモジュールにまとめた格好であり、信号線を見ると1Gbpsの信号4対分が38ピンのコネクタに収められている。

QSFPのピン配置。38ピンとなり、ここにTX/RXともに1~4ピンが並んでいることが分かる。出典はSFF-8438のFigure2
モジュール形状のレンダリング画像例。SFPに比べてやや横長になった。出典はSFF-8438のFigure6

 このコネクタを収めるため、QSFPでは右のように少しだけ横幅が大きくなった。SFPの45×13.7×8.6mmから、QSFPでは52.4×18.35×8.5へと大型化している。ちなみに前回挙げた規格で言えば、SFP28/SFP56/SFP-DDはSFP/SFP+と、QSFP+/QSFP28/QSFP-DDはQSFPと同じ寸法となっている。

 話を戻すと、このQSFPの信号速度を10倍の10Gbpsに引き上げたのがQSFP+となる。こちらは「SFF-8436」として標準化が行われた。このSFF-8436、実はChange Historyが3.5からスタートしていて1.0がリリースされた日付が不明なのだが、2009年11月16日にMolexからこんなリリースが出ているあたり、恐らくこの当時に1.0がリリースされたのではないかと思う。

最初に見た時には「蓋?」とか思ってしまった。出典はSFF-8436のFigure6

 こちらは40/10/1GbEのほかに、FiberChannelの10/8/4/2GFC、InfiniBand SDR/DDR/QDRの4x/2x/1xで利用できるということで、それなりに広範に利用された。ちなみにSFF-8436では、右のようなかたちでモジュールが定義されている。

 この蓋はグリップで、要するにモジュールを機器から引っこ抜く際に、何かグリップがあった方が便利(というか、なければ大変)ということのようだ。グリップそのものはSFF-8436の仕様には含まれておらず、金属あるいはエラストマー製で、これを付加した状態でモジュールがEMI及び熱設計的に仕様を満たしていれば何でもいい、となっている。

 実際には、例えば、FSのCisco互換QSFP+モジュールのように、樹脂製で指を掛けて引っ張りやすい形状のグリップが利用されるのが一般的である。

QSFP28を倍速化した最大50Gbpsの「SFP56」、56Gbps×2で最大112Gbpsの「SFP-DD」

 次が「SFP56」である。実はこれはSNIAで標準化された規格ではない。これまでに説明していない50G Ethernet(最終的にはIEEE 802.3cd-2018として標準化された)へ向け、QSFP28の信号速度を2倍となる50Gbpsへと引き上げた独自仕様である。

 ただ、この50Gbpsという速度が中途半端だったのと、後述する「SFP-DD」が出てきたこともあって、あまり使われていないようだ。Broadcomの「Tomahawk 3」というスイッチチップがこれに対応しているため、モジュールも存在はするものの、あまり広く使われているとは言えない。

 さてその「SFP-DD」について。DDはDouble Densityの意味であり、要するに倍密度を表すものだ。2017年7月に結成されたSFP-DD MSAのメンバーは、Alibaba、Broadcom、Brocade、Cisco、Dell EMC、Finisar、Hewlett Packard Enterprise、Huawei、Intel、Juniper Networks、Lumentum、Mellanox Technologies、Molex、TE Connectivityと、結構な企業が名前を連ねている。

 このSFP-DD MSAの目的は名前の通り、SFPと同サイズのモジュールで2レーンの信号線を扱えるようにすることだった。ピン配置は以下の通りで、TD/RDとTD1/RD1の2対の信号が用意されていることが分かる。

2ピンほどReservedとはなっているが、ほぼ40ピン全てを使い切っていることが分かる。出典はSFP-DD Hardware Specification Rev 3.0のFigure 3

 ちなみに、SFP-DDのモジュールサイズは、微妙な違いはあるものの、ほぼSFPと同じだ。このモジュール後端のコネクタを前後2列に配置することで、40ピンの信号を通している。

モジュール後端にパッドを構築し、これを上下から挟むかたち。レセプタクルの方は、10×4列でピンが出ている。出典はSFP-DD Hardware Specification Rev 3.0のFigure 14

 ちなみにSFP-DDの信号速度は、14Gbpsと28Gbpsの2つに対応している。前者へのニーズがどの程度あるのかは不明だが、当初から考慮されていたのは、1レーンあたり25GbpsのNRZ信号、もしくは56GbpsのPAM-4信号を通すことだった。

 NRZなら25Gbps×2で、ちょうど50G Ethernetにマッチするし、NRZなら100G Ethernetが利用できる。14Gbpsはこの半分となるので、12.5Gbps×2のNRZで25G Ethernet、14Gbps×2のPAM-4で50G Ethernetといった使い方を考慮したのかもしれない。

 ただ、こうした使い方をしたモジュールを筆者は見たことがない。ちなみに時期の面から言えば、SFP-DDの登場はSFP56やQSFP28などからずっと後となるので、その意味では100G Ethernetに使われているとはいえ、IEEE 802.3bmに使われたケースはあまりない。

28Gbps×4で最大112Gbpsの「QSFP28」、QSFP+と異なるのは電気的特性のみ

 ということで、ようやく「QSFP28」にたどり着いた。現時点で一番使われている100G EthernetのモジュールがこのQSFP28である。先に記した通りQSFP+の延長で、QSFP+の10Gbps×4に対し、QSFP28の名前が表すように、28Gbps×4で112Gbpsを通す規格だ。ただ、100G Ethernetの場合は、もちろん25Gbps×4として使われることになる。

 このQSFP28は2014年9月、「SFF-8665」として標準化された。もっとも、SFF-8665は規格全体の取りまとめといった位置付けであり、モジュール、コネクタ、ケージ、電気特性、管理機構などについて、SFF-8636~SFF-8683の7つの仕様に分散して定義されている。

SFFの場合、番号が大きいほど新しいとは限らないのがまた難しいところ。例えば、先に挙げたQSFP(SFF-8438)よりも後から出てきたQSFP+(SFF-8436)の方が番号が小さかったりする。出典はSFF-8665のFigure 3-1

 元となる規格に、「IBTA EDR(InfiniBand EDR)」と並んで「IEEE 802.3bj」が挙げられているのは、そもそも25Gbps×4の構成は、「100GBASE-KR4」や「100GBASE-CR4」などを規定したIEEE 802.3bjの方が早かったためだ。ただ、「100GBASE-SR4」も結局25Gbps×4の構成となるため、同じ枠組みで利用できる、ということになっている。

 QSFP28のモジュール形状はQSFP+と全く同一で、異なるのは電気的特性のみとなる。そもそも「SFF-8679」は以下のように、ITU-T G.957やフレームリレー、InfiniBand/FiberChannel/SAS/Ethernetなど、非常に多数の規格に対応している。ただし、データの送受信については、基本的に最大4対で行うかたちとなる。

出展はSFF-8679のFigure 3

 QSFP28のモジュールは何しろ52.4×18.35×8.5mmというサイズなので、それほど複雑なことはできない。内部にGearbox回路を入れ、例えば4:10/10:4の信号変換を行うなどは、QSFP28では考慮されていない。

 実際、SFF-8679 Figure 3-1の「APPLICATION REFERENCE MODEL」でも、モジュールの中で送信側はCTLE、受信側はバッファが入っている程度で、あまり複雑なことはできず、すること自体も想定されていない。

 Power Classは1~8まで定義されており、Class 1~7は1.5Wから0.5W刻みで5Wまでとなっている。Class 8だけ別扱いで10Wまで利用できるが、これはホスト側がHigh Power Modeを許可する場合に限られる。

 Vccピンは全部で3つ(Vcc1/VccTx/VccRx)であり、電圧は3.3VなのでClass 7だとピンあたり500mAで許容範囲だが、Class 8では1Aに達する。このため気を付けないと過熱の原因になりかねないから、特別扱いするのも当然だろう。逆に言えば、通常は5Wの範囲内で処理をまかなう必要があって、こうした観点からも、信号変換など複雑なものを盛り込むのは難しいと言える。

 SFF-8679 Figure 3のTable 3-1を見ると、200GbEまでがQSFP28のターゲットになっている。これは、25Gbps NRZ×4では100GbEになるが。ここで28Gbps PAM-4にするとレーンあたり50Gbps、合計で200Gbpsの帯域が実現可能となるためだ。

 それもあって200GbEでも、このQSFP28モジュールが利用できるという話だ。ただ実際は、こういう無茶な使い方をするモジュールは見かけず、ほぼ100G Ethernet向けというかたちとなっている。

【お詫びと訂正 8月5日 11:53】
 記事初出時、一部の規格名の表記に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

 誤:QSPF+
 正:QSFP+

 誤:QSFP56
 正:QSFP28

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/