期待のネット新技術
40Gbpsの「QSFP+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年8月4日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
QSFPを10倍の引き上げた10Gbps×4の「QSFP+」、「SFF-8436」として標準化
前回も掲載した以下の表のように、「SFP28」の次にあたる規格が「QSFP+」である。もともとは4Gbpsに対応した「QSFP(Quad SFP)」という規格が、2006年11月に「SFF-8438」としてリリースされていた。
規格名 | 速度 |
SFP28 | 25Gbps |
QSFP+ | 40Gbps |
SFP56 | 50Gbps |
SFP-DD | 100Gbps |
QSFP28 | 100Gbps |
4GbpsというのはEthernetの仕様にはないのだが、これはFiberChannelの2GFC/4GFC、加えてInfiniBand 4xが主な用途である。要するに、4つ分のSFPを1つのモジュールにまとめた格好であり、信号線を見ると1Gbpsの信号4対分が38ピンのコネクタに収められている。
このコネクタを収めるため、QSFPでは右のように少しだけ横幅が大きくなった。SFPの45×13.7×8.6mmから、QSFPでは52.4×18.35×8.5へと大型化している。ちなみに前回挙げた規格で言えば、SFP28/SFP56/SFP-DDはSFP/SFP+と、QSFP+/QSFP28/QSFP-DDはQSFPと同じ寸法となっている。
話を戻すと、このQSFPの信号速度を10倍の10Gbpsに引き上げたのがQSFP+となる。こちらは「SFF-8436」として標準化が行われた。このSFF-8436、実はChange Historyが3.5からスタートしていて1.0がリリースされた日付が不明なのだが、2009年11月16日にMolexからこんなリリースが出ているあたり、恐らくこの当時に1.0がリリースされたのではないかと思う。
こちらは40/10/1GbEのほかに、FiberChannelの10/8/4/2GFC、InfiniBand SDR/DDR/QDRの4x/2x/1xで利用できるということで、それなりに広範に利用された。ちなみにSFF-8436では、右のようなかたちでモジュールが定義されている。
この蓋はグリップで、要するにモジュールを機器から引っこ抜く際に、何かグリップがあった方が便利(というか、なければ大変)ということのようだ。グリップそのものはSFF-8436の仕様には含まれておらず、金属あるいはエラストマー製で、これを付加した状態でモジュールがEMI及び熱設計的に仕様を満たしていれば何でもいい、となっている。
実際には、例えば、FSのCisco互換QSFP+モジュールのように、樹脂製で指を掛けて引っ張りやすい形状のグリップが利用されるのが一般的である。
QSFP28を倍速化した最大50Gbpsの「SFP56」、56Gbps×2で最大112Gbpsの「SFP-DD」
次が「SFP56」である。実はこれはSNIAで標準化された規格ではない。これまでに説明していない50G Ethernet(最終的にはIEEE 802.3cd-2018として標準化された)へ向け、QSFP28の信号速度を2倍となる50Gbpsへと引き上げた独自仕様である。
ただ、この50Gbpsという速度が中途半端だったのと、後述する「SFP-DD」が出てきたこともあって、あまり使われていないようだ。Broadcomの「Tomahawk 3」というスイッチチップがこれに対応しているため、モジュールも存在はするものの、あまり広く使われているとは言えない。
さてその「SFP-DD」について。DDはDouble Densityの意味であり、要するに倍密度を表すものだ。2017年7月に結成されたSFP-DD MSAのメンバーは、Alibaba、Broadcom、Brocade、Cisco、Dell EMC、Finisar、Hewlett Packard Enterprise、Huawei、Intel、Juniper Networks、Lumentum、Mellanox Technologies、Molex、TE Connectivityと、結構な企業が名前を連ねている。
このSFP-DD MSAの目的は名前の通り、SFPと同サイズのモジュールで2レーンの信号線を扱えるようにすることだった。ピン配置は以下の通りで、TD/RDとTD1/RD1の2対の信号が用意されていることが分かる。
ちなみに、SFP-DDのモジュールサイズは、微妙な違いはあるものの、ほぼSFPと同じだ。このモジュール後端のコネクタを前後2列に配置することで、40ピンの信号を通している。
ちなみにSFP-DDの信号速度は、14Gbpsと28Gbpsの2つに対応している。前者へのニーズがどの程度あるのかは不明だが、当初から考慮されていたのは、1レーンあたり25GbpsのNRZ信号、もしくは56GbpsのPAM-4信号を通すことだった。
NRZなら25Gbps×2で、ちょうど50G Ethernetにマッチするし、NRZなら100G Ethernetが利用できる。14Gbpsはこの半分となるので、12.5Gbps×2のNRZで25G Ethernet、14Gbps×2のPAM-4で50G Ethernetといった使い方を考慮したのかもしれない。
ただ、こうした使い方をしたモジュールを筆者は見たことがない。ちなみに時期の面から言えば、SFP-DDの登場はSFP56やQSFP28などからずっと後となるので、その意味では100G Ethernetに使われているとはいえ、IEEE 802.3bmに使われたケースはあまりない。
28Gbps×4で最大112Gbpsの「QSFP28」、QSFP+と異なるのは電気的特性のみ
ということで、ようやく「QSFP28」にたどり着いた。現時点で一番使われている100G EthernetのモジュールがこのQSFP28である。先に記した通りQSFP+の延長で、QSFP+の10Gbps×4に対し、QSFP28の名前が表すように、28Gbps×4で112Gbpsを通す規格だ。ただ、100G Ethernetの場合は、もちろん25Gbps×4として使われることになる。
このQSFP28は2014年9月、「SFF-8665」として標準化された。もっとも、SFF-8665は規格全体の取りまとめといった位置付けであり、モジュール、コネクタ、ケージ、電気特性、管理機構などについて、SFF-8636~SFF-8683の7つの仕様に分散して定義されている。
元となる規格に、「IBTA EDR(InfiniBand EDR)」と並んで「IEEE 802.3bj」が挙げられているのは、そもそも25Gbps×4の構成は、「100GBASE-KR4」や「100GBASE-CR4」などを規定したIEEE 802.3bjの方が早かったためだ。ただ、「100GBASE-SR4」も結局25Gbps×4の構成となるため、同じ枠組みで利用できる、ということになっている。
QSFP28のモジュール形状はQSFP+と全く同一で、異なるのは電気的特性のみとなる。そもそも「SFF-8679」は以下のように、ITU-T G.957やフレームリレー、InfiniBand/FiberChannel/SAS/Ethernetなど、非常に多数の規格に対応している。ただし、データの送受信については、基本的に最大4対で行うかたちとなる。
QSFP28のモジュールは何しろ52.4×18.35×8.5mmというサイズなので、それほど複雑なことはできない。内部にGearbox回路を入れ、例えば4:10/10:4の信号変換を行うなどは、QSFP28では考慮されていない。
実際、SFF-8679 Figure 3-1の「APPLICATION REFERENCE MODEL」でも、モジュールの中で送信側はCTLE、受信側はバッファが入っている程度で、あまり複雑なことはできず、すること自体も想定されていない。
Power Classは1~8まで定義されており、Class 1~7は1.5Wから0.5W刻みで5Wまでとなっている。Class 8だけ別扱いで10Wまで利用できるが、これはホスト側がHigh Power Modeを許可する場合に限られる。
Vccピンは全部で3つ(Vcc1/VccTx/VccRx)であり、電圧は3.3VなのでClass 7だとピンあたり500mAで許容範囲だが、Class 8では1Aに達する。このため気を付けないと過熱の原因になりかねないから、特別扱いするのも当然だろう。逆に言えば、通常は5Wの範囲内で処理をまかなう必要があって、こうした観点からも、信号変換など複雑なものを盛り込むのは難しいと言える。
SFF-8679 Figure 3のTable 3-1を見ると、200GbEまでがQSFP28のターゲットになっている。これは、25Gbps NRZ×4では100GbEになるが。ここで28Gbps PAM-4にするとレーンあたり50Gbps、合計で200Gbpsの帯域が実現可能となるためだ。
それもあって200GbEでも、このQSFP28モジュールが利用できるという話だ。ただ実際は、こういう無茶な使い方をするモジュールは見かけず、ほぼ100G Ethernet向けというかたちとなっている。
【お詫びと訂正 8月5日 11:53】
記事初出時、一部の規格名の表記に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
誤:QSPF+
正:QSFP+
誤:QSFP56
正:QSFP28
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