期待のネット新技術
アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年10月13日 12:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
IEEEで審議中の光ファイバー関連規格
IEEEでの標準化が終わっている規格に関しては、前回までで、ほぼ網羅し終わったと思う。ただし、IEEEでは現在審議中の規格がまだまだある。光ファイバー関連で言えば、以下のものだ。
- IEEE P802.3cp
1本(1対ではない)のSMFを使い、10/25/50Gbpsの双方向通信で10/20/40kmの到達距離が目標 - IEEE P802.3cs
2.5および10Gbps(ダウンストリームは10Gbpsのみ)の双方向通信で、ODN経由で1:64の分配と40km以上の到達距離が目標。また16以上の波長を利用可能に - IEEE P802.3ct
「400GBASE-ZR」。DWDMを利用し、400Gbpsで80kmの到達距離を実現 - IEEE P802.3cu
「100GBASE-FR/LR」と「400GBASE-FR4/LR4」。1・4対のSMFで、レーンあたり100Gbps、到達距離はFRが2km、LRが6または10km - IEEE P802.3cw
「P802.3ct」(400GBASE-ZR)をベースにパラメーター類を変更した別規格。利用する光の周波数帯域をP802.3ctの100GHzまたは75GHzから、75GHzだけに抑えた - IEEE P802.3db
100/200/400Gbpsを1・2・4対のMMFで接続する構成。最大で50m以上の到達距離を実現
ちなみにそれ以外では、以下の各規格と、「IEEE P802.3cr」(IEEE 802.3auで定義されたPoE:Power over Ethernetに絡む絶縁に関してのメンテナンス)と、そのPoEのメンテナンスである「IEEE P802.3cv」がある程度だ。
- IEEE P802.3ck
100/200/400Gbpsの銅配線イーサネット。ちなみに2軸のケーブルを使い、2m以上の到達距離が目標 - IEEE 802.3cx
「PTP(Precision Time Protocol)」のタイムスタンプ精度を向上 - IEEE P802.3cy
車載向けに25/50/100Gbpsを実現する規格。自動車向けケーブルを利用して、11m以上の到達距離を実現 - IEEE P802.3cz
車載向けに2.5/5/10/25/50Gbpsを実現する規格。50Gbpsの場合は最低15m、それ以外は最低40mの到達距離を実現。ケーブルは2・4対の自動車向けケーブル - IEEE P802.3da
最大16ポイントまでのマルチドロップをサポートし、10Mbpsで50m以上到達可能な規格。電源供給との混載も考慮。
アクセス回線向けで最大10Gbpsの「IEEE P802.3cp」と最大25Gbpsの「IEEE P802.3cs」
審議中の企画のうち、IEEE P802.3cpとIEEE P802.3csは、2017年~2018年掲載の【アクセス回線10Gbpsへの道】で触れたアクセス回線向けの規格だ。余談であるが第9回『なんと最大100Gbpsのアクセス回線? IEEE「100G-EPON」が2020年に標準化、次世代PON「FOAS」の具体化はまだ先』で触れた100G-EPONこと「IEEE P802.3ca」は、2020年6月に「IEEE 802.3ca-2020」として無事標準化が完了している。結局、最終的にはObjective自身が100Gbpsを放棄して、以下2つの規格が策定されただけである。
- 25Gbps Downstream/10 or 25Gbps Upstream(25G-EPON)
- 50Gbps Downstream/10 or 25 or 50Gbps Upstream(50G-EPON)
IEEE P802.3csは、このIEEE 802.3caを補うような位置付けにあり、より低価格に提供できる(その分速度が下がる)規格となっている。とはいえ、最大では10Gbpsを実現できるので、GE-PONを安価にグレードアップするといった用途では引き合いが多そうだ。
このIEEE 802.3csは現在、Draft 1.1まで規格化が進展しており、2021年1月のDraft 2.0、同5月のDraft 3.0を経て、同9月の標準化成立を目指している。
一方のIEEE P802.3cpは、加入者向けというより、PONを使った基地局向けというイメージである。つまり【アクセス回線10Gbpsへの道】の第8回『25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局のバックボーン向けに』で紹介したNG-PON2の後継というか、NG-PON2+の競合規格といった意味合いになる。
一般加入者向けではない、というのはスプリッターを利用してマルチユーザーによる同時アクセスを念頭に置いたものではなく、「P2MP(Point-to-Multi Point)」の接続を想定しているからだ。
このIEEE P802.3cpであるが、以下のようにハーフミラーを利用して送信と受信を1本のファイバーに通す方式を想定しており、25Gの場合はアップストリームが1270nm、ダウンストリームが1310nm(どちらもバンド幅は20nm)となっていた。こちらは現在Draft 2.1まで標準化作業が進んでおり、2020年11月のDraft 3.0を経て、2021年6月の標準化成立を目指している。
データセンター向けに高帯域を低コストで提供する「400ZR」を採用した「IEEE P802.3ct」
これらも光イーサネットの一種ではあるのだが、アクセス回線向けということで脇におくとして、そのほかの規格を順に紹介していこう。まずはIEEE P802.3ctである。
IEEE P802.3ctの元々のアイデアになったのは、OIFの「400ZR」である。OIFの正式名称はOptical Internetworking Forumで、1998年に立ち上げられた非営利の業界団体だ。『50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」』でも少しだけ名前が出てきたが、2006年にはNPF(Network Processing Forum)と合併していて、メンバー企業は現在100社以上。Principal Membersだけでも40社に上る。
そのOIFが最初に策定したのは、スイッチなどで基板上に通す信号に関する規定である「CEI(Common Electrical I/O)」で、3.125/6/11/25~28Gbpsの各信号に関する電気的な特性を定めている。
のちにこれを高速化した「CEI-56G」(28GのPAM-4)や「CEI-112G」(56GのPAM-4で、現在もまだ策定作業中)なども追加されている。
2000年に入ってからは、これに加え「SPI(System Packet Interface)」と呼ばれる光ファイバーを利用したパケットや、「SFI(SerDes Framer Interface)」と呼ばれる、SPIを利用する際に必要になるSerDesの規定なども行っており、現在も活発に活動している。
このOIFが、2019年にデモを実施したのが400ZRという規格だ。これはデータセンター向けに低コストで高い帯域を提供するためのもの、という位置付けである。
その代わり「到達距離は短くていい」(Short Reach)というものだが、このShort Reachの意味が"80km or more"となっているのは、そもそもOIFの場合は120kmの到達距離が標準で、これを160kmまで伸ばすことを検討していたため。80kmというのは、相対的にShort Reachとなるわけだ。
ただし2020年6月、InphiとNeoPhotonicsは共同で、400ZRを利用する120kmの距離での通信のデモを実施しているので、80kmというのは、本当に最低限の到達距離ということになる。
この400ZRの技術的なポイントは、「DWDM(Dense WDM:高密度波長分割多重)」とコヒーレント伝送を採用する点にある。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー