期待のネット新技術
400GbEはFacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年8月31日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
Facebookデータセンター内の配線は500m以内が大半ながら14%は2kmの到達距離が必要
BER周りのプレゼンテーションを紹介した前回に続き、IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet Study Group」の2021年5月のミーティングの内容について見ていこう。
BER周りと比べ、Optical周りに関するプレゼンテーションが少なかったのは、3月のミーティングにおけるOptical関係の提案で、ある程度話が付いたとみなされた(というか、3月の提案内容を精査しないとその先には進めず、これはStudy Groupの範疇を超えると判断された?)ようだ。
それもあって5月のミーティングでは、Opticalを実装するための方法論というよりは、もう少し広い範囲から見た話がいくつか示された。
まず、FacebookのRob Stone氏らによる"On the Broad Market Potential of the 800 Gb/s 4 wavelength 2km on Single Mode Fiber Objective"は、実質スライド5枚と簡単なものだが、そこに興味深い話が出てきていた。
Facebookが自社で抱えるデータセンター(DC)は、Sustainability Impact Mapでも参照できるが、現時点で世界に17拠点が置かれ、各DC内の構成は以下右のようになっている。
とにかく、1つのDCが複数の建物に分かれ、それぞれの間はかなりの距離になる。そして、そこで使われているSMFの距離をまとめたのが右で、別の書き方をすると以下のような比率となる。つまり、大半は500m以内である一方で、2kmほどの到達距離を必要とするケースが14%ほどあるわけだ。
- 500m未満 79%
- 500m以上~1000m未満 2%
- 1000m以上~2000m未満 14%
- 2000m以上~3000m未満 4%
FacebookやMicrosoftのDC事業者にはIEEEの標準化作業は遅いとの不満が先んじて標準化したMSAをIEEEがフォローアップするのが暗黙の前提に
さて、FacebookではDC内の配線コストを最小限に抑えるため、以下をベースとしているという。
- 単一のSingle Optical PMDを利用
- 現在は混在している「200G-FR4-OCP」と「400G-FR4-OCP」を「800G-FR4-OCP」へ移行
(いずれもIEEEの同種規格の派生規格で、到達距離は最大3km。DCの環境に合わせて波長を変更)
その上で、以下の要望を示した。これは、Study Groupの議論が深まる中で、実際に利用しているユーザーのリクエストを示した格好だ。
- 非IEEE標準のFR4仕様は既に広く利用されている(何しろ自分たちが使っている!)
- モジュールの標準化は重要
- できれば3kmの到達距離を考慮して欲しい
似た話は、MicrosoftのBrad Booth氏による"Future DC Network Considerations"でも寄せられた。Microsoftは現在、400Gを400ZRで実装しようとしており、この先は800Gをパスして400G×2という構成を考えているそうだ。そしてこれは、ほかのDC事業者でも似た傾向、ということが、まず示されていた。
次の話はスイッチだ。以下はInphiが以前に示したスライドを下敷きにしたものだが、Core-Aggregation-ToRという3層構造のスイッチになっている。ただ、これはあくまで論理的な話で、実際はサーバーの数が増えると、TORはともかくAggregationのステージが1段では済まなくなる可能性が高い。
例えばラックが120本あり、ところがスイッチが32ポートしかないような場合、一番台数が少ないのは図1の構成となるが、これだとLayer 1とLayer 2の間の帯域が細すぎることになり、ここがボトルネックとなる。
そこで、もう少しバランスを考えると図2のような3段構成となり、スイッチの台数も9台にまで増えることになる(これでバランスが取れているか、は使い方次第。Layer 3は例えば16ラック程度に抑え、Layer 1⇔Layer 2の間もx8ではなくx4などとした方がいいのかもしれないが、そもそも32ポートスイッチという時点でいろいろと破綻しているので、その点に突っ込むつもりはないため、ご容赦いただきたい)。
要するに、スイッチのポート数(Radix)が足りないことが最大の要因であり、しかも多段構成にすると、それだけレイテンシーも増え、消費電力も増えるので、いいことは何もない。
このあたりからも、業界では大容量のスイッチを使う方向へとシフトしているが、Microsoftでは512ポートの採用を考慮しているそうだ。ポート数が多ければ多段構成にする必要性が大きく減るから、スイッチ単体のコストや消費電力は増えても、トータルでは安くなるし、もちろんレイテンシーも減る。
そんなわけで、より高速、より多数のRadixを持ったスイッチの採用を志向するMicrosoftに代表されるデータセンター事業者にとって、IEEEの標準化作業は遅いという不満は当然あるわけで、それが理由でMSAが乱立することとなる。
実際にFacebookは200G-FR4-OCPや400G-FR4-OCPを使い、Microsoftは400ZRを使っているわけだが、MSAはしばしばIEEE 802.3に準拠する形で標準化が行われているため、当初はIEEEに先んじてMSAとして標準化されても、あとからIEEEが速度や採用技術(FECや変調方式など)でフォローアップしてくることを暗黙の前提にしている。
Beyond 400G Study Groupは、800GbEと同時に1.6Tの標準化も行うべきと主張
以上を前提に、800GbEの標準化を狙っている現在のBeyond 400G Study Groupでは、それといっしょに1.6Tの標準化も行うべきだ、との主張を行っている。
要するに、800Gの標準化が見えてから1.6Tの標準化に向かうのは時間が掛かりすぎるので、800Gとともに1.6Tの検討も進めることで、少しでも標準化時期を早めたい、という要望である。
この後「1.6Tの標準化を行わない理由はない」旨をとうとうと述べつつ、Study Groupの検討をPHYに絞り、MACは後送りにすることを主張している。
特に、3段目の"Even if PHY technology exists, next Ethernet speed gated by process"(もしPHYの技術が確立しているのであれば、次世代Ethernetの速度は製造プロセスで決まる)というのは、確かに現状では事実である。
『200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?』でも示した以下の行ではないが、現状主流の7nm世代では200Gベースの800G(や1.6T)の実現は難しい。
ただ、2021年あたりから本格的に生産が始まった(まずはスマートフォン用SoC向けだが、BroadcomとかMarvellは既にデータセンター向け製品の製造を始めている)5nm世代なら200Gベースの規格は現実的であり、この仕様が標準化に向かう時期には3nmとか2nm世代のプロセスが現実になっていることを考えると、これらのプロセスを使えば800G/1.6T製品の製造はかなり容易になるだろう。
そんなわけで、この意見にも一応見るべきものはある。ということで、Recommendationとして以下の2つが挙げられている。
- 将来のMACレートにも対応すべき
- MACパラメータは"≧800G"のようにすべき
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー