期待のネット新技術

低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

光ファイバーベースの1Gbps Ethernet、軽量化が必須の車載向けに新たな需要

 データセンターあるいはオフィスなどの用途向けとしては、前々回に紹介した1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-BXと、前回紹介した1000BASE-LX10/1000BASE-BX10でほぼ終わりなのだが、意外なところで光ファイバーベースの1Gbps Ethernetの需要が2010年ごろから立ち上がり始めた。それは車載向けである。

 昨今の車載向け電子機器の進化には、ものすごいものがあることは、ご存じの方もいるだろう。ADAS(Advanced Driver Assistance Systems:先進運転支援システム)と呼ばれる仕組みは、カメラやミリ波レーダー、LiDAR(Light Detection and Ranging:光学式物体検出/測距)といった、さまざまなセンサーで目的の進路や周囲の車や障害物、道路標識や信号などを検知した上で、ステアリングやアクセル/ブレーキ制御のみならず、カーブなどにおけるトラクションコントロールやサスペンション制御など、かつては機械式あるいは電気式で行っていた自車の運転制御を、全てデジタル制御に置き換えていく壮大な試みだ。

 まだ完全な自律走行には遠いものの、ある程度の運転支援は現実的になっている。この手の話は僚紙「Car Watch」の領域なので深入りするつもりはないが、結果として車内には大量の電子機器が搭載されることとなった。

 もちろん電子機器が1カ所にまとまっていればここで議論する必要は特にないのだが、実際には車のあちこちに、さまざまなな電子機器やセンサーが分散することになった。当たり前の話だが、センサーは車の全周囲(単に前方だけでなく側面や後方の検出も必須)を監視する必要があるから、必然的にそこら中に分散することになる。

 従って、こうした機器を全て「ハーネス」と呼ばれる銅配線で接続しまくっていたわけだが、この配線の総重量は高級車だと数十kgにもなる(配線全体だと100kg近くに達することもあるらしい)という状況になってきた。

 そうでなくても自動車メーカーは、燃費改善のためにボディを少しでも軽くするべく、肉抜きをしたり、材質に軽量鉄板あるいはアルミニウムを使う、といった取り組みをしてるわけで、この配線の重量を減らせないか、という話は当然出てくることになる。特にカメラ向けに同軸ケーブルを山ほど引き回すのを何とかしたい、というニーズが強かった。

Broadcom独自の車載カメラ接続用規格、100Mbpsの「IEEE 802.3bw-2015」として標準化

 そして、もう1つあったニーズが、車内のエンターテインメント向けである。海外(主に米国)のSUVの場合、前席のヘッドレスト裏やルーフ中央に、やや大きめの液晶モニターが設置してあるケースが非常に多い。

 これは例えば、運転席と助手席に両親が座り、後部座席では子どもが退屈凌ぎにDVDを鑑賞しながらドライブする、ということが可能なパターンだ。国内でもそうしたニーズはそれなりにある、と聞いたことがある。

 そうなると、コンソールに埋め込まれたDVDプレーヤーから、後部座席のモニターへ映像を配信する必要がある。これを従来の同軸ケーブルベースで行うと、映像のフレームレートが足りなくなる。さらに、液晶モニターそのものがSDからフルHDにシフトし始めていて、その先にはさらなる高解像度化が予測されていたし、当然ながら重量増も避けたいわけだ。

 そこでまず、カメラの接続用として、Broadcomが独自規格として発表したのが「BroadR-Reach」と呼ばれるものだ。これは100MbpsのEthernetなのだが、100BASE-TXとは異なり、1対のツイストペアで接続できるという規格だ。

 これを普及させるため、同社は「OPEN(One-Pair Ether-Net) Alliance SIG」という非営利の業界団体を設立。単なる独自規格だったBroadR-ReachをIEEEの標準規格にすべく健闘する。

 最終的にこの努力は実り、まず「1TPCE(1 Twisted Pair 100 Mb/s Ethernet) Study Group」が発足。これが2014年に「IEEE P802.3bw Task Force」となり、最終的に「IEEE 802.3bw-2015」として標準化された。

 これと並行、というかむしろこれに先行して、同じく車載向けに1Gbpsの転送速度を持つEthernetについても、2012年に「RTPGE(Reduced Twisted Pair Gigabit Ethernet) Study Group」が結成。同年「IEEE P802.3bp Task Force」に昇格する。こちらは最終的に2016年9月に「IEEE 802.3bp-2016」として標準化が完了した。

 なぜ100Mbpsの方が2年も後にスタートしたのか(ただ番号の付け方で言えば、bpの方がbwより先なので、1Gbpsの作業が先行したのは間違いない)というあたりについてはよく分からないのだが、最終的に標準化が完了したのは、まず100Mbps、次いで1Gbpsの順なので、間違っていないと言えば間違ってはいない。

「1000BASE-T1」ベースの車載向け光ファイバー規格「GEPOF」

 さて、IEEE 802.3bwにしてもIEEE 802.3bpにしても、基本は1対のより対線(ツイストペア)であり、到達距離はUTP(Unshielded Twisted Pair)で15m、STP(Shielded Twisted Pair)で40mとなっていた。あとは速度が100Mbpsか1Gbpsかというだけだ。

 これに加え、PoE(Power on Ethernet)を提供する「IEEE 802.3bu」や、Interspersing Express Traffic(割込有線転送)をサポートした「IEEE 802.3br」なども追加で標準化作業が行われたが、これとは別に、車載用に光ファイバーを持ち込みたい、というニーズもあった。

 STPにしてもUTPにしても、ツイストペアを利用することで、ある程度ノイズ耐性はあるが、限界がある。また、電気的な絶縁が必要な場合には対応が難しい。そこで、1000BASE-T1をベースにしつつ、光ファイバーを利用できないか? というのが開発動機である。

 これはまず「GEPOF(Gigabit Ethernet Plastic Optical Fiber) Study Group」として発足したグループの中で検討され、2014年に「IEEE P802.3bv Task Force」としての仕様策定作業に入った。

 このGEPOFは、自動車用だけのものではない。基本的には「低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する」というもので、このために以下のような直径1mm(コア980μm、クラッド1000μm)のプラスチック光ファイバーを利用するというものだ。

直径1mmなので、肉眼でもかなりはっきりと光が見えるのが分かる。ちなみに1000BASE-X同様に2本のファイバーで双方向通信を実現しており、1000BASE-BXのようにハーフミラーを入れると高価になるので避けられた模様だ

 もちろん、こちらの記事の通りマルチモードのSI型なので、到達距離はあまり期待できないが、コストは大幅に安くなる。ただ、GEPOFはこの時点で、自動車だけではなくコンシューマー向けでの利用も想定されていた。ただ、このGEPOFが自動車向けとして有用なことは、早くから認識されていた。

左下のウォールユニットで、光ファイバーの端子が並んでいるのが分かる。本記事スライドの出典は全て2014年11月のIEEE 802 plenary sessionにおける"Tutorial:Gigabit Ethernet Over Plastc Optcal Fiber (GEPOF)"(PDF)というセッション資料だ
昨今だと、EVのバッテリーやモーターユニット周りには、まさに電気的な絶縁が必要だし、高い磁場に起因して発生する誘導電流を防ぐ厳重なシールドが必要で、そのコストは馬鹿にならない。それが光ファイバーであれば、温度特性にだけ気を付ければいいため、信頼性確保のためのコストが大幅に下がるわけだ

 ここでポイントになるのが、この当時すでにMOST Cooperationが、光ファイバーを利用した「MOST BUS」という車載向けのネットワークを展開しており、この光ファイバーのインフラをそのまま流用することを目論んでいたことだ。

 面白いのは、この自動車向けの展開については「JasPar(Japan Automotive Software Platform and Architecture)」の協力がずいぶんあったようだ。この当時のタイムラインでは、2019年の標準化を目指すというものとなっている。実際には、2017年に「IEEE 802.3bv-2017」として標準化が完了するはずだったが、以後も実は標準化が不成立のままだ。

自動車業界の人ならJasParと言えば話が通じるだろうが、ネットワーク業界ではおそらく馴染みがないだろう。ということで、スライドを丸々1枚割いてJasParの説明をしているところがちょっと面白い
「O-GEAR」とはOptical Gigabit Ethernet for Automotive aRchitectureの略。2019年までに標準化を完了させ、2020年からは量産、これが2021年には路上を走るというタイムラインが示された

 もともとIEEE 802.3bvでは、以下の3種類が定義されていた。このうち車載向けの1000BASE-RHCは「P802.3ch」として、現在も標準化作業が実施中である。

  • 1000BASE-RHA(家庭向け)
  • 1000BASE-RHB(産業用途向け)
  • 1000BASE-RHC(車載向け)

 一方、1000BASE-RHA/RHBに関しては、そもそもニーズがない(1000BASE-Tで十分)ということからか、標準化作業が放棄され、現在はもっと高速(10Gbps~400Gbps)なものの標準化案に置き換えられている。P802.3chについても、1Gbpsだけでなく2.5/5/10Gbpsまでがターゲットになっている格好だ。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/