期待のネット新技術
低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年5月12日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
光ファイバーベースの1Gbps Ethernet、軽量化が必須の車載向けに新たな需要
データセンターあるいはオフィスなどの用途向けとしては、前々回に紹介した1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-BXと、前回紹介した1000BASE-LX10/1000BASE-BX10でほぼ終わりなのだが、意外なところで光ファイバーベースの1Gbps Ethernetの需要が2010年ごろから立ち上がり始めた。それは車載向けである。
昨今の車載向け電子機器の進化には、ものすごいものがあることは、ご存じの方もいるだろう。ADAS(Advanced Driver Assistance Systems:先進運転支援システム)と呼ばれる仕組みは、カメラやミリ波レーダー、LiDAR(Light Detection and Ranging:光学式物体検出/測距)といった、さまざまなセンサーで目的の進路や周囲の車や障害物、道路標識や信号などを検知した上で、ステアリングやアクセル/ブレーキ制御のみならず、カーブなどにおけるトラクションコントロールやサスペンション制御など、かつては機械式あるいは電気式で行っていた自車の運転制御を、全てデジタル制御に置き換えていく壮大な試みだ。
まだ完全な自律走行には遠いものの、ある程度の運転支援は現実的になっている。この手の話は僚紙「Car Watch」の領域なので深入りするつもりはないが、結果として車内には大量の電子機器が搭載されることとなった。
もちろん電子機器が1カ所にまとまっていればここで議論する必要は特にないのだが、実際には車のあちこちに、さまざまなな電子機器やセンサーが分散することになった。当たり前の話だが、センサーは車の全周囲(単に前方だけでなく側面や後方の検出も必須)を監視する必要があるから、必然的にそこら中に分散することになる。
従って、こうした機器を全て「ハーネス」と呼ばれる銅配線で接続しまくっていたわけだが、この配線の総重量は高級車だと数十kgにもなる(配線全体だと100kg近くに達することもあるらしい)という状況になってきた。
そうでなくても自動車メーカーは、燃費改善のためにボディを少しでも軽くするべく、肉抜きをしたり、材質に軽量鉄板あるいはアルミニウムを使う、といった取り組みをしてるわけで、この配線の重量を減らせないか、という話は当然出てくることになる。特にカメラ向けに同軸ケーブルを山ほど引き回すのを何とかしたい、というニーズが強かった。
Broadcom独自の車載カメラ接続用規格、100Mbpsの「IEEE 802.3bw-2015」として標準化
そして、もう1つあったニーズが、車内のエンターテインメント向けである。海外(主に米国)のSUVの場合、前席のヘッドレスト裏やルーフ中央に、やや大きめの液晶モニターが設置してあるケースが非常に多い。
これは例えば、運転席と助手席に両親が座り、後部座席では子どもが退屈凌ぎにDVDを鑑賞しながらドライブする、ということが可能なパターンだ。国内でもそうしたニーズはそれなりにある、と聞いたことがある。
そうなると、コンソールに埋め込まれたDVDプレーヤーから、後部座席のモニターへ映像を配信する必要がある。これを従来の同軸ケーブルベースで行うと、映像のフレームレートが足りなくなる。さらに、液晶モニターそのものがSDからフルHDにシフトし始めていて、その先にはさらなる高解像度化が予測されていたし、当然ながら重量増も避けたいわけだ。
そこでまず、カメラの接続用として、Broadcomが独自規格として発表したのが「BroadR-Reach」と呼ばれるものだ。これは100MbpsのEthernetなのだが、100BASE-TXとは異なり、1対のツイストペアで接続できるという規格だ。
これを普及させるため、同社は「OPEN(One-Pair Ether-Net) Alliance SIG」という非営利の業界団体を設立。単なる独自規格だったBroadR-ReachをIEEEの標準規格にすべく健闘する。
最終的にこの努力は実り、まず「1TPCE(1 Twisted Pair 100 Mb/s Ethernet) Study Group」が発足。これが2014年に「IEEE P802.3bw Task Force」となり、最終的に「IEEE 802.3bw-2015」として標準化された。
これと並行、というかむしろこれに先行して、同じく車載向けに1Gbpsの転送速度を持つEthernetについても、2012年に「RTPGE(Reduced Twisted Pair Gigabit Ethernet) Study Group」が結成。同年「IEEE P802.3bp Task Force」に昇格する。こちらは最終的に2016年9月に「IEEE 802.3bp-2016」として標準化が完了した。
なぜ100Mbpsの方が2年も後にスタートしたのか(ただ番号の付け方で言えば、bpの方がbwより先なので、1Gbpsの作業が先行したのは間違いない)というあたりについてはよく分からないのだが、最終的に標準化が完了したのは、まず100Mbps、次いで1Gbpsの順なので、間違っていないと言えば間違ってはいない。
「1000BASE-T1」ベースの車載向け光ファイバー規格「GEPOF」
さて、IEEE 802.3bwにしてもIEEE 802.3bpにしても、基本は1対のより対線(ツイストペア)であり、到達距離はUTP(Unshielded Twisted Pair)で15m、STP(Shielded Twisted Pair)で40mとなっていた。あとは速度が100Mbpsか1Gbpsかというだけだ。
これに加え、PoE(Power on Ethernet)を提供する「IEEE 802.3bu」や、Interspersing Express Traffic(割込有線転送)をサポートした「IEEE 802.3br」なども追加で標準化作業が行われたが、これとは別に、車載用に光ファイバーを持ち込みたい、というニーズもあった。
STPにしてもUTPにしても、ツイストペアを利用することで、ある程度ノイズ耐性はあるが、限界がある。また、電気的な絶縁が必要な場合には対応が難しい。そこで、1000BASE-T1をベースにしつつ、光ファイバーを利用できないか? というのが開発動機である。
これはまず「GEPOF(Gigabit Ethernet Plastic Optical Fiber) Study Group」として発足したグループの中で検討され、2014年に「IEEE P802.3bv Task Force」としての仕様策定作業に入った。
このGEPOFは、自動車用だけのものではない。基本的には「低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する」というもので、このために以下のような直径1mm(コア980μm、クラッド1000μm)のプラスチック光ファイバーを利用するというものだ。
もちろん、こちらの記事の通りマルチモードのSI型なので、到達距離はあまり期待できないが、コストは大幅に安くなる。ただ、GEPOFはこの時点で、自動車だけではなくコンシューマー向けでの利用も想定されていた。ただ、このGEPOFが自動車向けとして有用なことは、早くから認識されていた。
ここでポイントになるのが、この当時すでにMOST Cooperationが、光ファイバーを利用した「MOST BUS」という車載向けのネットワークを展開しており、この光ファイバーのインフラをそのまま流用することを目論んでいたことだ。
面白いのは、この自動車向けの展開については「JasPar(Japan Automotive Software Platform and Architecture)」の協力がずいぶんあったようだ。この当時のタイムラインでは、2019年の標準化を目指すというものとなっていた。実際には、2017年2月に「IEEE 802.3bv-2017」として標準化が完了した。
【お詫びと訂正 8月25日 18:53】
記事初出時、IEEE 802.3bv-2017の標準化に関する記述に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
正:実際には2017年2月に「IEEE 802.3bv-2017」として標準化が完了した。
誤:2017年に「IEEE 802.3bv-2017」として標準化が完了するはずだったが、以後も実は標準化が不成立のままだ。もともとIEEE 802.3bvでは、以下の3種類が定義されていた。このうち車載向けの1000BASE-RHCは「P802.3ch」として、現在も標準化作業が実施中である。
- 1000BASE-RHA(家庭向け)
- 1000BASE-RHB(産業用途向け)
- 1000BASE-RHC(車載向け)
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