期待のネット新技術
53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbpsを実現する「400GBASE-DR4」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年10月6日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」
前回、主要な規格については説明したが、1つ残ったのが「400GBASE-DR4」である。
53.125Gの「PAM-4」を4対束ねる「PSM4(Parallel Single Mode 4-lane)」というアイデアについては、「P802.3bs Task Force」の最初のミーティングの段階で、既に以下のような議論が出ていた。
シミュレーション結果は、4dBのLink Budgetがあるという、比較的前向きなものだった。ここで「200GBASE-FR4」などのようにWDMを利用せず、4対のSMFを並べようというのは、4×100GのLeaf & Spineの構成を取る場合も考慮してのことのようだ。少なくともこの時点では、56G PAM-4の実現はそれほど困難ではない、という見通しだった。
ちなみに、ここではDMTを利用した場合の試算も行われていた。結論として、ほとんどのポイントでDMTの方がコストは高くつき、消費電力ではPAM-4比で2.5倍になると試算された。DMTの方が優れていると判断されたのは帯域幅(PAM-4の方が帯域そのものは広めに必要になる)だけで、あとは全てPAM-4の方が優れていると判断されたようだ。かくしてDMTは落ち、PAM-4の採用が決定された模様だ。
既に存在する「100G PSM-4」のファイバーで400Gbpsを実現する「400GBASE-DR4」が「P802.3bs」に採用
もっとも、当初は比較的楽観視されていた56GのPAM-4であるが、実際にはいろいろと大変だったようだ。関係しそうなものをピックアップしていけば、2014年11月のミーティングでは、後に「IEEE 802.3cu」として標準化が行われる「400GBASE-FR4」の提案があったが、これはP802.3bs Task Forceでは最終的に採択されなかった。
その次の2015年1月のミーティングで、初めて400GBASE-DR4に繋がる"400G-PSM4: A Proposal for the 500m Objective using 100 Gbps per Lane Signaling"という提案が出てくる。
この提案の動機を見ると、既に存在する100G PSM-4のファイバーを再利用して400Gを通すことができる、というものだった。また、コストおよび消費電力を現在の100G並みに抑えられるという目的もあったようだ。
当初の提案では1297~1323nmの波長を利用したPSM-4(つまり4対が同じ波長で送信する)で、レーンあたりの信号レートは51.5625Gbps、生のBERは2.1×10^-5、FECによる修正後のBERは1.0×10^-15程度を見込んでおり、Loss Budgetは最大で3dB、送信側のAverage Launch Powerは-2.7~3.5dBm、受信側のAverage Received Powerは-5.7~3.5dBmとされていた。
この提案は、このミーティングだけでは判断できなかったようで、2015年3月に同じ提案者であるLuxteraのBrian Welch氏による"A Review of 400G-PSM4"という発表がなされた。この中では、BERは十分目標を達成でき、ほかと比べてモジュールの消費電力は低く、コストもずっと抑えられるため、マーケット的からも有望と説明されている。
その次の2015年5月のミーティングでは、再び"400G-PSM4: A Proposal for the 500m Objective using 100 Gbps per Lane Signaling"の提案がなされる。基本的には1月の提案と同じなのだが、細かいパラメーター(例えばLink Parameterではmax TDPにおけるAllocation for penaltiesや、min DTPにおけるPower marginの値が変更になっている)を修正しただけのものだ。
この提案は賛成52、反対25、棄権27で採択されることになり、ここでようやく400GBASE-DR4がP802.3bsの1規格として採用されることになった。
細かいパラメーター変更などが重なり、「400GBASE-DR4」の標準化は難航
もっともこの後も、細かいパラメーターがほぼ毎回変更となっている。2015年7月には細かいパラメータがもう一度修正され、2015年9月には、やはりBrian Welch氏による"400GBASE-DR4 TP2 Observations"で、実際の波形の測定結果が示されている。
このあたりから、議論は定例ミーティングではなく、「SMF Ad Hoc」と呼ばれる、必要に応じて開催される不定期ミーティングで行われるようになった。まず2015年12月15日の電話会議では、CiscoのMarco Mazzini氏が"400GBASE-DR4 PMD Considerations for TX OMA reduction"という発表を行い、送信出力を若干下げるという提案を行っている。
続いて2016年2月2日には、CienaのPete Anslow氏が"SMF TBDs"という発表を行い、この中でDraft 1.0~1.2で示された400GBASE-DR4のパラメーターの中で問題のある部分を提示。そのうちいくつかは、2月16日のもので反映された。
これでおおよそ終息かと思ったら、2016年8月30日の電話会議における、FinisarのJonathan King氏による"400GBASE-DR4 link budget discussion"という発表で、「もう少し送信出力と受信感度を上げるべし」という提案がなされた。
さらに、もうDraft 3.0が出ている時期であり、機能追加と技術的な変更の期限は過ぎているタイミングとなっていた2017年4月25日の電話会議で、MellanoxのDazeng Feng氏より、200GBASE-DR4と400GBASE-DR4の消光比(Extinction Ratio:光源に信号電流を流した場合と流さない場合の光出力の比率)に3.5dBのサポートを追加するという提案が行われており、これはその次の2017年5月15日の電話会議でも再び議論された。
この電話会議では、加えて400GBASE-DR4のTDECQというイコライザを利用した場合の計算方法についての修正も入っている。というわけで、400GBASE-DR4の標準化には、かなり最後まで苦労した様子が伺える。56G PAM-4というのはこれが最初だったので、致し方ない部分もあるのだろう。
最終的に標準化された規格では、400GBASE-DR4は以下とされ、到達距離は2~500mとなった。もちろん、ファイバーそのものはSMFである。MDIのレセプタクルは12本のものの、左右それぞれで4本ずつを使う構成だ。
- Signaling rate, each lane 53.125±100ppm(GBd)
- Lane wavelength 1304.5nm~1317.5nm
- Average launch power, each lane -2.9dBm~4dBm
余談ながら、400GBASE-DR4のモジュールについても触れておこう。光ファイバーの方は100Gbps×4であるが、モジュールの方は電気信号の面で100Gbpsを1レーンに通すのはまだ難しく、結局50G×8という構成となってしまう。そうするとOSFPやCDFPが利用されるわけだが、実際の製品を見てみると「QSFP-DD」を利用する400GBASE-DR4モジュールがかなり多い。
QSFP-DDについては、『25Gbps×8の「200GBASE-R」で「CFP8」「QSFP-DD」「OSFP」「CDFP」のモジュール規格が乱立』で紹介したように、400Gの場合は25G PAM-4×8という構成なので、モジュール内では以下のような構成にならざるを得ない。
- 25G PAM-4 Modem⇔8:4 GearBox⇔50G PAM-4 Modem
これで15Wの枠に収まるのか? という心配をしたくなるところだが、実際に製品が出ているあたり、うまく収まったとしか思えない。この構成をワンチップで実現するASICを起こして利用しているのかもしれない。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
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