期待のネット新技術
拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年4月28日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
拠点間接続が前提の「1000BASE-LX」、動作温度が問題に
「IEEE 802.3z」で「1000BASE-SX/LX/CX」が、続いて標準化された「IEEE 802.3ab」で「1000BASE-T」がそれぞれ規定されたが、これで終わりではなかった。まず最初に立ち上がったのが、"Ethernet in the First Mile"(EFM) Task Forceである。文字通りに読めば「1マイル(約1.6km)向けEthernet」となるが、要するに拠点間接続などでの利用を前提としたEthernetである。
このEFM、元々は2000年10月にBroadcomのHoward M. Frazier氏が"Ethernet in the Last Mile"という「CFI(Call of interest)」を表明したことに端を発する。この場合のCFIは、「新しい標準化案についてその意義について説明し、検討開始の是非を問うための会合」であり、これは2000年11月に開催された。この結果として、「検討に値する」と判断したIEEEが立ち上げたのが、EFM Task Forceとなる。
このTask ForceのPARの目的は以下で、主要な目的は距離でなく、温度である。
一般的な産業用機器であれば、-40~85℃が一般的な動作温度範囲(家庭用PCなどはもっと狭いが、産業用のシングルボードコンピューターなどはこれを満たすものがある)となるが、光Ethernetでもこの温度範囲をサポートするように定義しよう、というのが提案の一番大きなパートだ。なぜこんなものが大きなパートになるかというと、実はIEEE 802.3zには、動作温度範囲の定義がなかったためだ。
これは特に、1000BASE-LXで顕著に問題となったらしい。1000BASE-LXの場合は、到達距離を稼ぐため高出力のレーザー光源を利用するが、そうなると光源からの発熱がかなり大きくなる。もちろん冷却装置があれば問題はないが、ないものが一般的なので、温度は当然それなりに上がり、それによって特性が変わってしまう、という現象に見舞われることになった。
具体的には、短時間だと特に問題なく通信できていても、長時間運用になると通信速度が落ちていったりエラー率が増えたり、最悪の場合には通信できなくなる(そしてしばらくすると温度が下がるのでまた復活する)といった、厄介な状況に見舞われた模様だ。そこで動作温度範囲をきちんとSpecificationへ盛り込もうというのが、EFM Task Forceの目的である。
10kmの到達距離を目指した6つの規格
上の図でも言及されているように、「では10kmは?」という話も当然あったのだが、既に2002年の時点で、10kmの到達距離を持つ独自規格のGigabit Ethernetが複数存在していた。ここから到達距離10kmのニーズがあり、逆に言えば5kmでは足りないとした上で、こうした独自規格と互換性を持ちつつ、温度範囲をきちんと定めた規格を標準化すべき、という目的も示された。
ただし、1000BASE-LXと独自規格の間には若干の差があった。だがここで、「独自規格に合わせよう」というアプローチだったことは興味深い。
ちなみに、ここまでの3枚のスライドは、EFM Task Forceの目的の一面でしかない。そのTask Forceの最初のドラフトには、以下の6つが含まれることになった。
- PMD for 1000BASE-LX extended temperature range
- PMD for 1000BASE-X, ≧ 10km over シングルモードファイバー1本
- PMD for 100BASE-X, ≧ 10km over シングルモードファイバー1本
- PMD for 100BASE-X, ≧ 10km over シングルモードファイバー2本
- PMD for PON, ≧ 10km 1000Mbps, シングルモードファイバー, ≧ 1:16
- PMD for PON, ≧ 20km, 1000Mbps, シングルモードファイバー, ≧ 1:16
この6つのうち「PMD for PON」に関しては、かつてこちらの記事で触れた「1000BASE-PX」だ。「PMD(Physical Medium Dependent)」は物理層の中の媒体依存副層のことである。残り4つのうち3つはSMFを使う規格で、その中の2つは100Mbpsであり、こちらの記事でも触れた「100BASE-LX10/BX10」だ。
残る1つは、「1000BASE-LX」ベースながら1本のSMFによって通信を可能にする規格で、その仕組みは前々回にも掲載した以下の図の通りだ。何というか、FEMにLast One Mileを混ぜてまとめて作業を行った、というかたちと見えなくもないが、最終的にこれは「IEEE 802.3ah-2004」として標準化が完了している。
機器間の状態を監視する「OAM」などが「IEEE 802.3ah-2004」へ追加
余談になるが、IEEE 802.3ah-2004には、ほかにもさまざまなものが追加されている。こちらの記事でも少し触れたが、銅配線ベースの「10PASS-TS」(10Mbps/750m)と「2BASE-TL」(2Mbps/2700m)がPMDで定義されているほか、「OAM(Operations, Administration, and Maintenance)」と呼ばれる管理機能も追加されている。
このOAMに関しては、ほかに「IEEE 802.1ag」(Connectivity Fault Management)という標準規格があり、こちらは隣接“していない”Ethernet機器間の状態を監視して、障害時には冗長経路に迂回させたり、上位層に通知したりする機能を持つものだ。
だが、IEEE 802.3ahのOAMは、隣接“する”Ethernet機器間の状態を監視し、障害時に冗長回線に切り替えたり上位層にレポートしたり、といった機能を持つ。
いわば、Ethernet機器同士はIEEE 802.3ahで、ネットワーク全体はIEEE 802.1agで管理するようなイメージだろうか。この目的のために「OAMフレーム」と呼ばれる管理用フレームが定義されており、これを利用して以下のような機能が提供される。
- Remote Failure Indication
一定間隔毎にOAMフレームを機器間で交換することで、リモート機器の障害を通知する機能 - Remote Loopback
OAMフレームをループバックモードで送信することで、通信回線の正常性や品質を確認する機能 - Link Monitoring
通信回線の品質を常時確認し、品質低下を検出したら上位層に通知する機能
ほかにも、初期状態で隣接する機器同士がお互いを認識する「Discovery」といった処理もここに含まれる。
「1000BASE-X」に「1000BASE-LX10」と「1000BASE-BX10」が2004年に追加
ただ、これらは余談であり、本題に戻ると、2004年には1000BASE-Xへ「1000BASE-LX10」と「1000BASE-BX10」が新たに追加されることになった。このそれぞれのパラメータをまとめたのが以下である。
1000BASE-LX10は、引き続きシングルモードとマルチモード両方のファイバーが利用可能だが、マルチモードファイバーでは550mまでとなるのは1000BASE-LXと同じだ。10kmの到達距離はシングルモードファイバーのみで実現している。
また、光源には1310nmを推奨とされ、1000BASE-LXより、さらにピンポイントに絞ったものになった。この1000BASE-LX10をベースに、1310nmと1490nmの2つの光源を利用してファイバー1本での通信を可能にしたのが1000BASE-BX10であり、当然ながらシングルモードファイバーのみのサポートとなっている。
さて、これで1000BASE-Xは終わりか?というと、実はまだまだあったりする。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー