期待のネット新技術

拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

拠点間接続が前提の「1000BASE-LX」、動作温度が問題に

 「IEEE 802.3z」で「1000BASE-SX/LX/CX」が、続いて標準化された「IEEE 802.3ab」で「1000BASE-T」がそれぞれ規定されたが、これで終わりではなかった。まず最初に立ち上がったのが、"Ethernet in the First Mile"(EFM) Task Forceである。文字通りに読めば「1マイル(約1.6km)向けEthernet」となるが、要するに拠点間接続などでの利用を前提としたEthernetである。

 このEFM、元々は2000年10月にBroadcomのHoward M. Frazier氏が"Ethernet in the Last Mile"という「CFI(Call of interest)」を表明したことに端を発する。この場合のCFIは、「新しい標準化案についてその意義について説明し、検討開始の是非を問うための会合」であり、これは2000年11月に開催された。この結果として、「検討に値する」と判断したIEEEが立ち上げたのが、EFM Task Forceとなる。

 このTask ForceのPARの目的は以下で、主要な目的は距離でなく、温度である。

5kmの到達距離ですら問題があるわけで、10kmとなればさらに問題が激化すると予測されるから、それに向けて温度範囲をきちんと定めよう、という話でもある。出典はIgnis OpticsのSteve Joiner氏による"Gigabit Ethernet Extended Temperature 10 km Dual Fiber Proposal for Baseline Text"

 一般的な産業用機器であれば、-40~85℃が一般的な動作温度範囲(家庭用PCなどはもっと狭いが、産業用のシングルボードコンピューターなどはこれを満たすものがある)となるが、光Ethernetでもこの温度範囲をサポートするように定義しよう、というのが提案の一番大きなパートだ。なぜこんなものが大きなパートになるかというと、実はIEEE 802.3zには、動作温度範囲の定義がなかったためだ。

 これは特に、1000BASE-LXで顕著に問題となったらしい。1000BASE-LXの場合は、到達距離を稼ぐため高出力のレーザー光源を利用するが、そうなると光源からの発熱がかなり大きくなる。もちろん冷却装置があれば問題はないが、ないものが一般的なので、温度は当然それなりに上がり、それによって特性が変わってしまう、という現象に見舞われることになった。

 具体的には、短時間だと特に問題なく通信できていても、長時間運用になると通信速度が落ちていったりエラー率が増えたり、最悪の場合には通信できなくなる(そしてしばらくすると温度が下がるのでまた復活する)といった、厄介な状況に見舞われた模様だ。そこで動作温度範囲をきちんとSpecificationへ盛り込もうというのが、EFM Task Forceの目的である。

10kmの到達距離を目指した6つの規格

 上の図でも言及されているように、「では10kmは?」という話も当然あったのだが、既に2002年の時点で、10kmの到達距離を持つ独自規格のGigabit Ethernetが複数存在していた。ここから到達距離10kmのニーズがあり、逆に言えば5kmでは足りないとした上で、こうした独自規格と互換性を持ちつつ、温度範囲をきちんと定めた規格を標準化すべき、という目的も示された。

 ただし、1000BASE-LXと独自規格の間には若干の差があった。だがここで、「独自規格に合わせよう」というアプローチだったことは興味深い。

「5つ目で数えるのをやめた」
既に実現している独自規格のソリューションをベースにする、とはっきり明言しているのはいっそ潔い

 ちなみに、ここまでの3枚のスライドは、EFM Task Forceの目的の一面でしかない。そのTask Forceの最初のドラフトには、以下の6つが含まれることになった。

  • PMD for 1000BASE-LX extended temperature range
  • PMD for 1000BASE-X, ≧ 10km over シングルモードファイバー1本
  • PMD for 100BASE-X, ≧ 10km over シングルモードファイバー1本
  • PMD for 100BASE-X, ≧ 10km over シングルモードファイバー2本
  • PMD for PON, ≧ 10km 1000Mbps, シングルモードファイバー, ≧ 1:16
  • PMD for PON, ≧ 20km, 1000Mbps, シングルモードファイバー, ≧ 1:16

 この6つのうち「PMD for PON」に関しては、かつてこちらの記事で触れた「1000BASE-PX」だ。「PMD(Physical Medium Dependent)」は物理層の中の媒体依存副層のことである。残り4つのうち3つはSMFを使う規格で、その中の2つは100Mbpsであり、こちらの記事でも触れた「100BASE-LX10/BX10」だ。

 残る1つは、「1000BASE-LX」ベースながら1本のSMFによって通信を可能にする規格で、その仕組みは前々回にも掲載した以下の図の通りだ。何というか、FEMにLast One Mileを混ぜてまとめて作業を行った、というかたちと見えなくもないが、最終的にこれは「IEEE 802.3ah-2004」として標準化が完了している。

機器間の状態を監視する「OAM」などが「IEEE 802.3ah-2004」へ追加

 余談になるが、IEEE 802.3ah-2004には、ほかにもさまざまなものが追加されている。こちらの記事でも少し触れたが、銅配線ベースの「10PASS-TS」(10Mbps/750m)と「2BASE-TL」(2Mbps/2700m)がPMDで定義されているほか、「OAM(Operations, Administration, and Maintenance)」と呼ばれる管理機能も追加されている。

 このOAMに関しては、ほかに「IEEE 802.1ag」(Connectivity Fault Management)という標準規格があり、こちらは隣接“していない”Ethernet機器間の状態を監視して、障害時には冗長経路に迂回させたり、上位層に通知したりする機能を持つものだ。

 だが、IEEE 802.3ahのOAMは、隣接“する”Ethernet機器間の状態を監視し、障害時に冗長回線に切り替えたり上位層にレポートしたり、といった機能を持つ。

 いわば、Ethernet機器同士はIEEE 802.3ahで、ネットワーク全体はIEEE 802.1agで管理するようなイメージだろうか。この目的のために「OAMフレーム」と呼ばれる管理用フレームが定義されており、これを利用して以下のような機能が提供される。

  • Remote Failure Indication
    一定間隔毎にOAMフレームを機器間で交換することで、リモート機器の障害を通知する機能
  • Remote Loopback
    OAMフレームをループバックモードで送信することで、通信回線の正常性や品質を確認する機能
  • Link Monitoring
    通信回線の品質を常時確認し、品質低下を検出したら上位層に通知する機能

 ほかにも、初期状態で隣接する機器同士がお互いを認識する「Discovery」といった処理もここに含まれる。

「1000BASE-X」に「1000BASE-LX10」と「1000BASE-BX10」が2004年に追加

 ただ、これらは余談であり、本題に戻ると、2004年には1000BASE-Xへ「1000BASE-LX10」と「1000BASE-BX10」が新たに追加されることになった。このそれぞれのパラメータをまとめたのが以下である。

「1000BASE-BX10-D」はダウンストリーム、「10000BASE-BX10-U」はアップストリームの意味。出典は「IEEE 802.3ah-2004」のTable 59-1からの抜粋

 1000BASE-LX10は、引き続きシングルモードとマルチモード両方のファイバーが利用可能だが、マルチモードファイバーでは550mまでとなるのは1000BASE-LXと同じだ。10kmの到達距離はシングルモードファイバーのみで実現している。

 また、光源には1310nmを推奨とされ、1000BASE-LXより、さらにピンポイントに絞ったものになった。この1000BASE-LX10をベースに、1310nmと1490nmの2つの光源を利用してファイバー1本での通信を可能にしたのが1000BASE-BX10であり、当然ながらシングルモードファイバーのみのサポートとなっている。

 さて、これで1000BASE-Xは終わりか?というと、実はまだまだあったりする。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/