期待のネット新技術
50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年2月16日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
50GのPAM-4が8対で最大400Gbpsの「400G-BD4.2」、400G BiDi MSAが規格策定
前回も触れたが、引き続き400G BiDi MSAのサイトにはつながらないが、Specificationが入手できたので、もう少し紹介を続けたい。ちなみに、そのSpecificationはわずか10ページという非常にシンプルなもので、その特徴には以下のようなものが挙げられる。
- 変調方式はPAM-4で50G(つまり信号の速度そのものは25GT/sec)
- 8対の光ファイバーそれぞれで送受信を多重化。50G×8で400Gの双方向(上図)
- 送受信波長は844~863nmと、900~918nmの2種類を利用(下図)
- 到達距離はOM3で0.5~70m、OM4で0.5~100m、OM5で0.5~150m
- 名称は「400G-BD4.2」
具体的には、8対のレーンが以下のように設定されている。
送信波長 | 受信波長 | |
L0~L3 | 844~863nm | 900~918nm |
L4~L7 | 900~918nm | 844~863nm |
やや分かりにくいが、400G BiDiではMPOコネクタが以下の図のようになっている。中央の4レーン分は未使用で、左右に4レーンずつ合計8レーンになるのだが、L0~L3はλ1、L4~L7はλ2のグループに属する。最初の模式図は、下の図の左端と右端の2レーンを取り出してまとめて示したものなのだが、実際には最初の模式図の構造が、全部で4対並ぶ格好になるわけだ。
続けて細かく見ていこう。以下左の図は送信側のパラメーターだが、Average Launch Powerは最大でも4dBm、最小との差を示すダイナミックレンジは10.5dBほどで、それほど大きな値とは言えない。
ほかのパラメーターにも、それほど突飛なものは特に見当たらない。以下右の図が受信側となるが、Average Receive Powerは-8.5~4dBmで、ダイナミックレンジは12.5dBほどになるが、これもあまり珍しくないというか、達成への難易度はそう高くない。
PAM-4×8構成の消費電力と、先端プロセス採用による高コストが課題に
気になるのは、PAM-4 Encode/Decodeを組み込むことと、WDMを利用することでMUX/DeMuxが8対並ぶことだ。前者は主に消費電力、後者は主に価格の観点から、上昇の可能性がある。もっとも、λ1とλ2で波長が比較的離れていることと、2波長だけの混合/分離なので、本格的なWDM(特にDWDM)向けに比べると、コストは相対的に安いとは思う。
むしろ問題は、PAM-4を8ch分並べたときに消費電力がどのくらいになるか?という点が気になるが、実はSpecificationには、このあたりに関して言及がなく、モジュールのForm Factor(つまりQSFP-DD、もしくはOSFP)の規定に従うとしている。
こちらの記事で紹介した「QSFP-DD」だと、モジュールへ供給できるのは1.5/3.5/7/8/10/12/14Wと>14Wの8通り、こちらの記事で紹介した「OSFP」だと6/8/10/12Wと>12Wの5通りのクラスがそれぞれ策定されている。
だが、QSFP-DDのClass 8やOSFPのClass 5は、組み合わせるスイッチ側が対応していなければ意味がないわけで、現実問題としてQSFP-DDで14W以下、OSFPで12W以下に抑えることが必須となる。ターゲットとしては12W以下、ということは送受信の合計で1波長あたり1.5Wということになる。
これは結構厳しい数字ではないかと思う。もっとも2018年といえば、もうとっくにFinFETプロセスが広く利用され、TSMCの7nmプロセスも視野に入っていた時期だから、こうしたプロセスを使えば不可能というわけではなかった。ただ、こうした先端のプロセスを採用すると、やはり最終的にはコストへ跳ね返ってくることになりそうではある。
余談ながら、Broadcomが2018年11月に、7nm 400G PAM-4 PHYのIPの提供を始めたとのリリースを出しているが、16nmプロセス(TSMCのN16+であろう)を利用すれば12Wほどになるモジュールの消費電力が、7nmプロセス(同じくTSMCのN7を想定していると思われる)であれば8W未満で収まるとする。
Broadcomが想定するのは100G×4で、400G-BD4.2の50G×8の場合は、また話が変わってくるが、それでも50G×8にすると消費電力が倍になるわけでもないので、PHYの製造プロセスを7nm前提とすれば、400G-BD4.2を実現するのは不可能ではなかったと思われる。
400G-BD4.2対応モジュールは全くなし、IEEE仕様では50G×8と100G×4が混在
それはともかく、Specificationこそ2018年9月に定まった400G-BD4.2であるが、これに対応したトランシーバーモジュールそのものは、現時点でも全くない、というのが正直なところだ。
Founding Memberの1社であるCiscoの光トランシーバーモジュールのウェブページを見ても、400G-BD4.2に対応したモジュールは全く見当たらない。
デモンストレーションですら、2019年9月に開催された「ECOC 2019」において、Finisar(現II-VI)は自社ブースで次世代400Gトランシーバーの展示を行ったが、この時点ですら、展示されたのは400G-BD4.2ではなく、まだ標準化が終わっていなかった(次に説明する)「400GBASE-SR4.2」のトランシーバーだった。
なんというか、400G BiDi MSAの目的はこれでモジュールを作って流通させることではなく、P802.3cm Task Forceの中で「先にMSAでの標準化が終わった」という実績を作り、仕様策定を有利に進めようという腹だったのではないか?という気すらしてくる。
ということで前回も書いた通り、400G BiDi MSAというかたちで先行されはしたものの、2018年からIEEEも"P802.3cm 400 Gb/s over Multimode Fiber Task Force"を結成し、仕様策定を進めた。
もっとも、Task Forceの中は400G BiDi MSAの人間だけではなく、それもあって仕様の一本化は難しかった。その結果、Objectiveを見ると、50G×8と100G×4の2種類が混在することとなったわけだ。
これは要するに、WDMを使って送受信を1本の光ファイバーで多重化する(この場合MMFは合計8本で伝達できる)か、WDMを使わずに送受信で別の光ファイバーを利用する(この場合MMFは送受信で合計16本必要になる)かの違いだ。
面白いのは、Task Forceの初回ミーティングにおいて、50G×8ペア(400GBASE-SR8)のbaseline proposalをFinisarのJonathan King氏が提出し、その後の投票で賛成多数を得ている一方で、そのKing氏が同様に初回ミーティングで"400G-SWDM4.2 choices"というプレゼンテーションを行っていることだ。
そのプレゼンテーションは、まだBaseline proposalに至る前の「状況説明」とでも言うべき内容ながら、以下を紹介している。
- 850nmと880nmの2波長を使ったWDMは、光ファイバーの減衰が少ないという観点でいい選択。910nmはやや落ちる(右)
- 波長の混在に関しては、送受信を混在するBiDi方式と、送信側と受信側で別々のファイバーを割り当てるCoDi(Co-Directional)型の2種類が考えられる(以下左)
- Link Budget Marginの確保という観点では850nmと880nmを混在させるのが無難。またコスト最小という観点ではCoDi型の方がやや下がる(以下右)
その後の400GBASE-SR4.2についての投票結果を見ると、以下のように甲乙つけ難いものだった。
- CoDi賛成が21人、BiDi賛成が22人
- CoDiサポート反対が3人、BiDiサポート反対が3人、さらに情報が欲しいが18人
また、送受信の波長に関しては、880nmの反対が8人、910nmの反対が3人、さらに情報が欲しいが12人となり、さらなる詳細へと話が進まなければ仕様が決まらない、と言えるような結果となった。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
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- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
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