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50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

50GのPAM-4が8対で最大400Gbpsの「400G-BD4.2」、400G BiDi MSAが規格策定

 前回も触れたが、引き続き400G BiDi MSAのサイトにはつながらないが、Specificationが入手できたので、もう少し紹介を続けたい。ちなみに、そのSpecificationはわずか10ページという非常にシンプルなもので、その特徴には以下のようなものが挙げられる。

非常に高レベルな模式図。2つの波長があり、上のグループは送信にλ2、受信にλ1を、下のグループは送信にλ1、受信にλ2をそれぞれ使う。出典は"400G BiDi Technical Specification, Revision 1.0"
  • 変調方式はPAM-4で50G(つまり信号の速度そのものは25GT/sec)
  • 8対の光ファイバーそれぞれで送受信を多重化。50G×8で400Gの双方向(上図)
  • 送受信波長は844~863nmと、900~918nmの2種類を利用(下図)
  • 到達距離はOM3で0.5~70m、OM4で0.5~100m、OM5で0.5~150m
  • 名称は「400G-BD4.2」
2本で1対となる2対で100Gの例の模式図。出典は"400G BiDi MSA Frequently Asked Questions (FAQ)"

 具体的には、8対のレーンが以下のように設定されている。

送信波長受信波長
L0~L3844~863nm900~918nm
L4~L7900~918nm844~863nm

 やや分かりにくいが、400G BiDiではMPOコネクタが以下の図のようになっている。中央の4レーン分は未使用で、左右に4レーンずつ合計8レーンになるのだが、L0~L3はλ1、L4~L7はλ2のグループに属する。最初の模式図は、下の図の左端と右端の2レーンを取り出してまとめて示したものなのだが、実際には最初の模式図の構造が、全部で4対並ぶ格好になるわけだ。

この図は「Tx1とRx2をWDMで多重化し、TR1を利用して送受信を行う」という意味で、TR2以降も同様だ。出典は"400G BiDi Technical Specification, Revision 1.0"

 続けて細かく見ていこう。以下左の図は送信側のパラメーターだが、Average Launch Powerは最大でも4dBm、最小との差を示すダイナミックレンジは10.5dBほどで、それほど大きな値とは言えない。

 ほかのパラメーターにも、それほど突飛なものは特に見当たらない。以下右の図が受信側となるが、Average Receive Powerは-8.5~4dBmで、ダイナミックレンジは12.5dBほどになるが、これもあまり珍しくないというか、達成への難易度はそう高くない。

強いて言えば、脚注に“テスト方法はIEEE P802.3cd/D3.4 Clause 138.8に準ずる”とあり、Draft 3.4版のIEEE P802.3cd(しかもこれは50GBASE-SR/100GBASE-SR2/200GBASE-SR4の規格)に丸投げしているあたり、MSAとしては後々IEEEに吸収されることを前提に、放り出したとしか考えられない。出典は"400G BiDi Technical Specification, Revision 1.0"のTable 2-2
こちらもあちこちの項目がIEEE P802.3cd/D3.4 Clause 138.8に投げっぱなしだ。出典は"400G BiDi Technical Specification, Revision 1.0"のTable 2-2

PAM-4×8構成の消費電力と、先端プロセス採用による高コストが課題に

 気になるのは、PAM-4 Encode/Decodeを組み込むことと、WDMを利用することでMUX/DeMuxが8対並ぶことだ。前者は主に消費電力、後者は主に価格の観点から、上昇の可能性がある。もっとも、λ1とλ2で波長が比較的離れていることと、2波長だけの混合/分離なので、本格的なWDM(特にDWDM)向けに比べると、コストは相対的に安いとは思う。

 むしろ問題は、PAM-4を8ch分並べたときに消費電力がどのくらいになるか?という点が気になるが、実はSpecificationには、このあたりに関して言及がなく、モジュールのForm Factor(つまりQSFP-DD、もしくはOSFP)の規定に従うとしている。

 こちらの記事で紹介した「QSFP-DD」だと、モジュールへ供給できるのは1.5/3.5/7/8/10/12/14Wと>14Wの8通り、こちらの記事で紹介した「OSFP」だと6/8/10/12Wと>12Wの5通りのクラスがそれぞれ策定されている。

 だが、QSFP-DDのClass 8やOSFPのClass 5は、組み合わせるスイッチ側が対応していなければ意味がないわけで、現実問題としてQSFP-DDで14W以下、OSFPで12W以下に抑えることが必須となる。ターゲットとしては12W以下、ということは送受信の合計で1波長あたり1.5Wということになる。

 これは結構厳しい数字ではないかと思う。もっとも2018年といえば、もうとっくにFinFETプロセスが広く利用され、TSMCの7nmプロセスも視野に入っていた時期だから、こうしたプロセスを使えば不可能というわけではなかった。ただ、こうした先端のプロセスを採用すると、やはり最終的にはコストへ跳ね返ってくることになりそうではある。

 余談ながら、Broadcomが2018年11月に、7nm 400G PAM-4 PHYのIPの提供を始めたとのリリースを出しているが、16nmプロセス(TSMCのN16+であろう)を利用すれば12Wほどになるモジュールの消費電力が、7nmプロセス(同じくTSMCのN7を想定していると思われる)であれば8W未満で収まるとする。

 Broadcomが想定するのは100G×4で、400G-BD4.2の50G×8の場合は、また話が変わってくるが、それでも50G×8にすると消費電力が倍になるわけでもないので、PHYの製造プロセスを7nm前提とすれば、400G-BD4.2を実現するのは不可能ではなかったと思われる。

400G-BD4.2対応モジュールは全くなし、IEEE仕様では50G×8と100G×4が混在

 それはともかく、Specificationこそ2018年9月に定まった400G-BD4.2であるが、これに対応したトランシーバーモジュールそのものは、現時点でも全くない、というのが正直なところだ。

 Founding Memberの1社であるCiscoの光トランシーバーモジュールのウェブページを見ても、400G-BD4.2に対応したモジュールは全く見当たらない。

 デモンストレーションですら、2019年9月に開催された「ECOC 2019」において、Finisar(現II-VI)は自社ブースで次世代400Gトランシーバーの展示を行ったが、この時点ですら、展示されたのは400G-BD4.2ではなく、まだ標準化が終わっていなかった(次に説明する)「400GBASE-SR4.2」のトランシーバーだった。

 なんというか、400G BiDi MSAの目的はこれでモジュールを作って流通させることではなく、P802.3cm Task Forceの中で「先にMSAでの標準化が終わった」という実績を作り、仕様策定を有利に進めようという腹だったのではないか?という気すらしてくる。

 ということで前回も書いた通り、400G BiDi MSAというかたちで先行されはしたものの、2018年からIEEEも"P802.3cm 400 Gb/s over Multimode Fiber Task Force"を結成し、仕様策定を進めた。

誤解を招きそうだが、「400GBASE-SR4.2」(≒400G-BD4.2)は、ここでは100G×4の分類となる。出典は"IEEE P802.3cm 400 Gb/s over Multimode Fiber Task Force Adopted Objectives"

 もっとも、Task Forceの中は400G BiDi MSAの人間だけではなく、それもあって仕様の一本化は難しかった。その結果、Objectiveを見ると、50G×8と100G×4の2種類が混在することとなったわけだ。

 これは要するに、WDMを使って送受信を1本の光ファイバーで多重化する(この場合MMFは合計8本で伝達できる)か、WDMを使わずに送受信で別の光ファイバーを利用する(この場合MMFは送受信で合計16本必要になる)かの違いだ。

 面白いのは、Task Forceの初回ミーティングにおいて、50G×8ペア(400GBASE-SR8)のbaseline proposalをFinisarのJonathan King氏が提出し、その後の投票で賛成多数を得ている一方で、そのKing氏が同様に初回ミーティングで"400G-SWDM4.2 choices"というプレゼンテーションを行っていることだ。

OM3(左)とOM4(右)でのEMB(Effective Modal Bandwidth)の比較。880nmに比べると910nmは0.7dBほど劣る

 そのプレゼンテーションは、まだBaseline proposalに至る前の「状況説明」とでも言うべき内容ながら、以下を紹介している。

  • 850nmと880nmの2波長を使ったWDMは、光ファイバーの減衰が少ないという観点でいい選択。910nmはやや落ちる(右)
  • 波長の混在に関しては、送受信を混在するBiDi方式と、送信側と受信側で別々のファイバーを割り当てるCoDi(Co-Directional)型の2種類が考えられる(以下左)
  • Link Budget Marginの確保という観点では850nmと880nmを混在させるのが無難。またコスト最小という観点ではCoDi型の方がやや下がる(以下右)
400G-BD4.2が上のBiDi型。一方CoDiは送信側と受信側の分離により、信号のクロストークを削減できるとしている
この時点ではまだBaseline proposalとはなっておらず、あくまで参加者の意見を聞くための叩き台という扱い。出典は"400G-SWDM4.2 choices"

 その後の400GBASE-SR4.2についての投票結果を見ると、以下のように甲乙つけ難いものだった。

  • CoDi賛成が21人、BiDi賛成が22人
  • CoDiサポート反対が3人、BiDiサポート反対が3人、さらに情報が欲しいが18人

 また、送受信の波長に関しては、880nmの反対が8人、910nmの反対が3人、さらに情報が欲しいが12人となり、さらなる詳細へと話が進まなければ仕様が決まらない、と言えるような結果となった。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/