期待のネット新技術
「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割、「IEEE P802.3cw」で策定へ
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年10月27日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
「IEEE P802.3ct」は「400ZR」をベースに仕様を策定
ということで話を戻すと、OIFから「400ZR」のプロトコルが寄贈されたことを受け、これをベースに仕様策定が進められたのが「IEEE P802.3ct」である。
最初は細かいスペックまで400ZRそのままだったが、2019年2月21日に行われたAd Hoc Meetingの結果、パラメーターが若干見直されることとなった。
基本的な構成は以下で、100GHz間隔で48波長という点も400ZRと同じだ。ちなみに、75GHz間隔で64波長という構成も、引き続きオプション扱いで残されている。
400ZRから見直されたのは、いくつかの細かなパラメーターだ。Black Link Channel Characteristics(以下左)で「TBD」となっているパラメーターは新規に追加されたもので、逆に400ZRにあったPre FEC BER Maxの1.25×10^-2が削除されている。Tx Optical Specs I(以下右)にはSpectral Excursionが追加された。
Tx Optical Specs II(以下左)ではError Vector Magnitudeが追加された一方、いくつかのパラメーターが落ちている。また、Rx Optical Specs(以下右)ではパラメーターが2つほど追加され、CD Tolerance(min)も1600ps/nm→2000ps/nmへ変更されている。
コヒーレント光を利用する「DP-16QAM」で、極あたりの信号レートは59.84375Gbaud、400Gbpsを1レーンで実現
あらためてIEEE P802.3ctの基本的な方式をみると、「C-band」を利用し、変調方式は「DP-16QAM(Dual Polarization 16 Quadrature Amplitude Modulation)」で、信号レートは極あたり59.84375Gbaud。トータルでは400Gbpsを1レーンで実現するというものだ。
このDP-16QAMは、前回説明したコヒーレント光を利用した方式だ。コヒーレント光では、光に位相変調を掛けるという話は前回説明した通りだ。
DP-16QAMは、値が16段階(振幅で16段階の値を区別する)となる2つの極を持った方式だ。この極とは、要するに位相の異なる2つの波と考えればいい。
分かりやすく言えば、垂直偏波(信号が垂直方向に変位する)と水平偏波(同じく水平方向への変位)を重ね合わせた場合、2つが完全に直交していれば、互いに干渉しない。そこで、水平方向へ16段階に変位する波と、垂直方向へ16段階に変位する波(この波を送り出す/受け取るのがそれぞれの「極」と思えばいい)を重ね合わせるかたちで信号を送り出す。
受け取る方は、これを垂直成分と水平成分に分けた上で、それぞれの振幅を測定することで、極ごとに4bitの値が取れる。垂直と水平、2つの極を合わせると、1回の受信で8bitを送信できるわけだ。
信号速度は59.84375Gbaudとやや高めだが、これは、256b/257bエンコードの後でCRC-32を付加し、119b/128bのSD-FECを掛け、さらにPad(119bit×6)を追加して、という具合に、さまざまな付加があるためだ。データレートそのものは、50Gbaud×8bit=400Gbpsとなる。このあたりの仕組みは、ほぼ400ZRのものをそのまま持ち込んだかたちだ。
「400GBASE-ZR」拠点間接続が目的の「400ZR」を採用「100GBASE-ZR」は「G.698.2」をリファレンスに100Gを実現
そんなわけで、もともと400ZRでは1波長で400Gbpsの通信が可能だ。前回も掲載した以下の図で言えば、一番上がそれにあたる。ではDWDMの必要は?というと、図の中段と下段がこれにあたる。
1本の光ファイバーを利用して、複数(最大48レーン:75GHz間隔なら64レーン)の400ZRを通せることになる。もともと400ZRは拠点間接続を目的としており、利用する光ファイバーの本数は少ないほどコストが下げられるので、中段または下段のようにMUX/DEMUXを挟むだけで、最大19.2Tbps/25.6Tbpsのリンクを1本の光ファイバーで構築できることになる。
このMux/Demuxを挟むことで多重化できる特徴は残したまま、IEEE P802.3ctは少し違う方向へ展開を始めた。400ZRは、もともと400Gbpsの実装のみに限って仕様を策定していた。100Gbpsに関しては、2009年にやはりDWDMを利用した100Gの規格が策定済みで、特に困っていなかったという面があるのだろう。
だが、IEEE P802.3ctに関しては2019年1月、米国カリフォルニア州のロング・ビーチで行われたミーティングで、以下のような結果が出ている。
その結果、IEEE P802.3ctは100Gと400Gの両方を手掛けることとなった。つまり100GBASE-ZRと400GBASE-ZRだ。100GBASE-ZRの方はITUの「G.698.2」をリファレンスにする方向となった。これは、25GbaudでDP-DQPSK(2極でそれぞれ2bit)を利用することで、25Gbaud×4bit=100Gbpsを実現する規格だ。
2019年9月のミーティングでDraft 1.0がリリースされたが、この中身はおおむね予定した通りで、以下左のように100GBASE-ZRと400GBASE-ZRが規定されることになった。そのネットワーク構成が以下の右だ。「既にあるものをそのまま使う」という安定志向による決断か、「新規に仕様をスクラッチから定める時間も予算もない」のかは不明だが、1つの標準規格にまとめる意味があるのか?と思う程全く異なる仕様になっているのは、ちょっと珍しい。
もっとも、100GBASE-ZRはG.698.2として、400GBASE-ZRは400ZRとして、既にそれぞれ市場へ製品が出ている規格であって、これとかけ離れた仕様にしてしまうと、互換性が全くなくなってしまう。これをTask Forceとしても避けたかったのだろう。Straw poll #4にあるように、あくまでもG.698.2をベースにした100Gの規格を策定するのが目的だったからだ。
IEEE P802.3ctは100GBASE-ZRのみに、400GBASE-ZRは新設の「IEEE P802.3cw」へ移管
ちなみに主な仕様に関してはDraft 1.0でほぼ固まっているが、400GBASE-ZRのPMDについては新規に策定の必要あり、とされている。実は400ZRに関して、PMD(Physical Medium Dependent)の仕様は明確になっていない。
もちろんスタックとしては、400ZR PHYの一部としてPMDの定義(Photonic Interfaceという説明だけ)はあるが、その仕様がSpecificationには含まれていない。それでいいのかという疑問はあるが、OIFはあくまで業界標準であり、400ZR PHYを提供するベンダー同士が相互接続性を確保できていれば、PMDの定義は現実問題として不要ということだろう。ただ、IEEEの方ではそうはいかず、追加が必要となったわけだ。
IEEE 802.3-2018に対する追加や変更は、ほかにもいくつかあるが、これでおおむねオントラックになったかたちだ。
さて、ここでさらに動きがあった。以下は9月開催のミーティングに際して作成された資料で、100GBASE-ZRと400GBASE-ZRがまとめて扱われているが、この2つを1つの規格として扱うのはやはり無理ではないか? という話題は当然出たそうだ。結果、この2つは別々に扱われることになった。
これを受け、IEEE P802.3ctは100GBASE-ZRのみを扱い、400GBASE-ZRは新しく立ち上げられた「IEEE P802.3cw」へと移管されることになった。これを受けてP802.3ct Task Groupの名称は"100 Gb/s over DWDM systems Task Force"となり、Objectiveも100Gbpsのみが対象となった。
その一方、P802.3cw Task Groupは400Gbpsのみを扱うことになった。ただ、P802.3cw Task Groupの方は、それまでP802.3ct Task Groupで行ってきた400GBASE-ZR向けの作業をそのまま引き継いだので、無理なく作業が進んでいる。
2020年に入ると、ご存じの通りCOVID-19の影響を受け、物理的なミーティングが消滅。P802.3ct Task Forceも、イタリア・ジェノバで開催された2020年1月のミーティングが最後で、その後は全て電話会議となっている。
とはいえ、同5月にはDraft 2.0がリリースされており、同11月の電話会議に合わせてDraft 3.0がリリースされる予定だ。最後のTechnical Changeは9月の時点で締め切っており、Working Groupでの投票も完了済みだ。
今後はLMSC(LAN/MAN Standards Committee)での投票に移る予定で、スケジュール通りに進めば、2021年9月には標準化が完了するとみられている。一方、P802.3cw Task Forceの方は、2020年4月に正式にTask Forceそのものが結成されており、11月にはDraft 1.0がリリース予定だ。2021年5月にDraft 2.0、11月にDraft 3.0がリリースされ、2022年6月に標準化完了の予定となっている。
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