期待のネット新技術

最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

100G-FRを4つ並べた最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」、2018年9月に標準化

 前回の最後で少しだけ触れた「400G-FR4」の到達距離は2m~2kmで、その意味では「100G-FR」の延長にある。強いて言えば、WDMを利用する関係でMux/Demuxを通ることによる減衰を考慮する必要があるくらいだ。

 以下は100G-FR/LRと400G-FR4のtransmit characteristicsを比較したものだが、レーンあたりの最大出力は100G-FRが4dBmなのに対し、400G-FR4は3.5dBmとむしろ下がっているのが分かる。これは、4対の光源を駆動する必要があり、モジュールの電力供給枠を確保するには出力を下げざるを得ないところから来ていると思われる。

左が「100G-FR/LR」、右が「400G-FR4」。出典は"100G-FR and 100G-LR Technical Specs rev2.0D"と"400G-FR4 Technical Spec D2p0"

 実際の出力は、100G-FRが-2.4~4dBm、つまり6.4dBの幅なのに対し、400G-FR4は-3.3~3.5dBmで6.8dBmと、若干ダイナミックレンジが広げられている。だが、大きな違いはこれ(と前回も少し触れた波長が4つとなること)程度しかない。

 同様に、receive characteristicsを見ても、そもそも送信側でやや出力を絞った上で、Mux/Demuxを経由する関係で信号出力が減衰していることを前提として、Average receive powerの最小値が-7.3dBmまで下がっているのが特徴と言えば特徴だろう。ダイナミックレンジで言えば、100G-FRが-6.4~4.5dBmで10.9dBm、一方の400G-FR4が-7.3~3.5dBmで10.8dBmと、ほとんど変わらない。

こちらも左が100G-FR/LR、右が400G-FR4。出典は"100G-FR and 100G-LR Technical Specs rev2.0D"と"400G-FR4 Technical Spec D2p0"

 Mux/Demuxは言わばアッテネーターのようなもので、信号のバラつきそのものは距離で決まるから、ダイナミックレンジそのものは11dB弱あれば十分という話。ただ、全体に1dBmほど低くなっていて、これがMux/Demuxによる減衰分ということだろう。ほかのパラメーターはおおむね同等で、基本は100G-FRを4つ並べたという以上の話ではない。

 そんなわけで前回も書いた通り、400G-FR4はかなり早い(2018年9月)タイミングに標準化が完了しており、10月に100G Lambda MSA(Multisource Agreement)からプレスリリースも出ている。

 その翌日である10月9日には、Ciscoが公式ブログで100G Lambda MSAをを取り上げており、その結びの文章で「向こう12カ月以内にこの(100G-FR/LR/400G-FR4)モジュールがベンダーから出荷されると思う」としている。

 実際、現時点ではQSFP-DDの400G-FR4モジュールが複数のベンダーから出荷され、広く利用されている。2kmという到達距離ではあるが、SMFが1対で済むので、既存の配線を有効利用しやすいという面もあるのだろう。100G-FRからのアップグレードというシナリオもあり得るので、より高速な規格が登場するまでは、広く利用され続けることになると思われる。

到達距離10kmの長距離版「400G-LR4-10」

 この400G-FRの長距離版が「400G-LR4-10」である。こちらは2020年9月にRevision 1.0がリリースされたばかりだ。2年余りかかった事情は、前回紹介した「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」とおそらく同じではないかと思う。

 400G-LR4-10は2m~10kmの到達距離をカバーする規格であり、その意味では100G-LRを4本並べた「だけ」のはずだ。その構造は「400G-FR4-10」と同じで、到達距離が純粋に最大10kmへ延びただけである。

「400G-FR4」のブロックダイアグラム。出典は"400G-FR4 Technical Spec D2p0"のFigure 1-1
「400G-LR4-10」も構造そのものは全く変わらない。出典は"400G-LR4-10 Technical Spec rev1.0"

 利用する波長も以下であり、400G-FR4と同じものだ。

波長(nm)
L01271(1264.5~1277.5)
L11291(1284.5~1297.5)
L21311(1304.5~1317.5)
L31331(1324.5~1337.5)

 そこで「400G-FR4」と「400G-LR4-10」のtransmit characteristicsを比較してみると、レーンあたりのLaunch Powerが-2.7~5.1dBmと、400G-FR4の-3.3~3.5dBmからかなり強化されており、ダイナミックレンジそのものも6.8dBから7.8dBへ、1dB分増えている。その結果、全レーンを通じたTotal average launch powerも9.3dBmから11.1dBmまで増えているのは当然かもしれない。

Table 2-3同士の比較。やはり10kmになると伝達が厳しいためか、Outer Optical Modulation Amplitudeに追加項目が設けられ、TDECQ-TECQの絶対値の規定も追加されている。出典は"400G-FR4 Technical Spec D2p0"と"400G-LR4-10 Technical Spec rev1.0"

 受信側はさらに強化されている。Average receive powerは400G-FR4が-7.3~3.5dBmの10.8dBなのに対し、400G-LR4-10では-9~5.1dBmの14.1dBmまで広げられている。特にAverage receive powerの最小値が-9dBmまで下げられているのが特徴で、それだけ減衰が激しいことを想定しているのだろう。

 ただ、この-9dBm(0.126mW)は、「100G-LR1-20」の-10dBm(0.1mW)にかなり近い値で、400G-FR4の-7.3dBm(0.186mW)に比べ、感度を50%ほど引き上げないといけないことになる。

送信側の出力が上がっているためか、Damage thresholdは4.5dBmから6.1dBmへ引き上げられているのがちょっと面白い。全体的に減衰が多いことを考慮し、パラメーターがシビアになっている感じだ。出典は"400G-FR4 Technical Spec D2p0"と"400G-LR4-10 Technical Spec rev1.0"

 おそらくは、100G-LR1-20や「100G-ER1-30」「100G-ER1-40」向けに開発してきた高感度の受光素子の実用化の目途が立った(MSAに所属する少なくとも1社以上が供給を確約した)からこその標準化規定であり、それゆえに標準化もこの受光素子の目途が立つまで遅れることになったのだと思われる。

台湾Optechの「OPDY-S10-13-CBE

 逆に言えば、それ以外にあまり妙なところはない。受光素子の量産が始まれば、モジュールの供給も本格化していくのだろう。既に400G-LR4-10向けにモジュールの供給も始まっているが、現時点ではまだかなり高価だ。例えば台湾Optechの「OPDY-S10-13-CBE」は4600ドル程度。FSの「QSFPDD-LR4-400G」で3999ドルと、このあたりが底値であろう。

 もっともモジュール単価で言えば、同じく到達距離10kmで400Gをサポートする400GBASE-LR8モジュール「QSFPDD-LR8-400G」は9999ドルなので、これと比べればずっと安価とも言える。

FSの400GBASE-LR4 QSFP-DD PAM4モジュール「QSFPDD-LR4-400G
FSの400GBASE-LR8 QSFP-DD PAM4モジュール「QSFPDD-LR8-400G

100G Lambda MSAの仕様を下敷きにIEEEの標準化を目指す「400GBASE-LR6」

 ちょっと余談になるが、400G-LR4-10のプレスリリースの中に"The MSA believes that the 10 km reach specification will be fully interoperable with the 6 km version being developed by another industry standards group."なる文言が入っているのは面白い。これは何かというと、IEEE P802.3cu Task Forceで標準化作業が進行中の「400GBASE-LR6」のことである。

 P802.3cu Task Forceの目的は、100Gと400Gを1本のSMFで接続する規格として、「100GBASE-FR」と「100GBASE-LR」が最大100Gbpsで2ないし10km、「400GBASE-FR4」と「400GBASE-LR4」が最大400Gbpsで2ないし6kmの到達距離を狙うものだった。

 このうち400GBASE-LR4は当初6kmのみがターゲットだったが、後から10kmも追加されている。変調方式はPAM-4で、100Gは1波長、400Gは4波長をWDMで送るというもの。つまり、100G Lambda MSAが検討している方式の後追いだ。

 「後追い」というのは、Task Forceの結成が2019年5月、標準化完了予定時期が2021年11月になっているからで、もう明らかに100G Lambda MSAの仕様を下敷きにIEEEの標準化を目指していると考えるべきだろう。実際、Task Forceのメンバーはかなり100G Lambda MSAのメンバー企業と重なっている。

 さて、このようにP802.3cuはまだ審議中だが、400GBASE-LR4に関しては、到達距離6kmと10kmの2つが候補となっている。この話が出たのは2019年9月のミーティングであるが、MSAと異なって広く業界のコンセンサスを取るIEEEとしては、高感度の受光素子に頼るのは厳しかったようで、10kmを実現するためにはCQDMではなくDWDMにして波長のバラつきを抑える必要がある、と判断したようだ。

結果、10km版は「400G-LR4-10」と互換性がなくなってしまった。出典は"Maximum distance for 400GBASE-LR4"。

 先のプレスリリースの文言は、このDWDMを利用する10km版とは互換性がないが、もともと400G-LR4-10の仕様をほぼそのまま引き継いだ6km版の400GBASE-LR4、つまり400GBASE-LR4-6とは相互互換性が確保できそう、という話なのだ。ただこうなると、果たしてIEEEの標準化が終わったとして、400GBASE-LR4-10がどの程度使われるのかは、やや疑問ではある。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/