期待のネット新技術
1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年9月15日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
光ファイバーで200/400Gbpsを実現する「P802.3bs」
さて、再び光Ethernet規格の話に戻ろう。「IEEE 802.3bm-2015」ではレーンあたり25Gbpsの100G Ethernetの策定がほぼ完了。さらにこれを1レーン単位にばらした「25GBASE-R」が「IEEE 802.3by-2016」として標準化され、その後継(?)として1レーンあたり50Gbpsに高速化し、「50GBASE-R/100GBASE-R2/200GBASE-R4」としたものについて、「IEEE 802.3cd-2018」としての標準化が完了している。また「25GBASE-LR/ER」に関しては「IEEE 802.3cc-2017」として標準化された。
こうした規格策定と並行し、より高速な規格に関しても作業がスタートしていた。こちらでもちょっと触れているが、今回はその「P802.3bs」の話を。
P802.3bsの正式名称は"IEEE P802.3bs 200Gb/s and 400Gb/s Ethernet Task Force"であり、200Gbpsおよび400Gbpsの標準化を行うグループである。その目的は以下のように明快で、200/400Gbpsを既存の光ファイバーで実現し、SMFで500m/2km/10km、MMFでも100mの到達距離を可能にしようというものだ。この話を始める前に、少し当時の業界の話をしたいと思う。
こちらの回でも触れたが、Ethernet Allianceは定期的にロードマップを出している。2014年のものでは比較的楽観的だったものの、Ethernetの伸びはLog(対数)グラフになるとしており、2016~2017年に400Gbpsで、2020年でも800Gbpsあたりとしていた。
1世代で10倍速は頭打ち、1Tbitは時期尚早で当面400G Ethernetへ注力
これまでEthernetは、1Mbps→10Mbps→100Mbps→1Gbps→10Gbpsと、1世代進むごとに10倍速を実現してきていた。ただ、10Gbps→100Gbpsはかなり難航し、まず10Gbps×10、次いで25Gbps×4、50Gbps×2ときて、やっと最近(非公式ではあるが)100Gbps×1が実現可能な範疇に入ってきた程度である。
要するに、「10倍ゲームはもう無理」と業界も理解して、もう少し現実的なところに着地点を探し求めた結果が、スピードダウンの要因である。
実際、2012年7月に開催されたIEEE 802.3 Industry Connections Higher Speed Ethernet Consensus Ad HocのMeetingにおいて、そもそも100Gbpsもまだ問題が残っているとした上で、1Tbit Ethernetのビット単価は100Gまでと比べて間違いなく上がるし、仮に25Gをベースにしても40対の信号を通す必要があるとする。
仮に「100GBASE-LR4」をベースとした場合、何もしなければ40本のレーンが必要になる。だが、そこでPAM-4を使えば20本、PAM-16を使えば10本で構築できるわけなので、「代替案」としては有望という判断である。さらに強烈なのは、位相と振幅の両方で変調を掛けるという以下の方式だ。要するに携帯電話や無線LANで利用されている仕組みである。
ただ、位相変調を100Gbpsの速度で処理できるようにするには、当時のCMOS技術では厳しく、昨今の7nmや5nmであっても、果たして追いつくかどうかという問題があり、これはこれで難しいと見られた。
そして結論として、1Tbit Ethernetはまだ時期尚早で、とりあえず400G Ethernetへ注力するのがベターというのが、このときの結論である。
ちなみに、このIndustry Connections Higher Speed Ethernet Consensus Ad Hoc Meetingは、2012年7月~2013年2月までに5回のミーティングが開かれ、最終的な結論は「400Gbpsで行く」となった。これを受けるかたちで、Ethernet Allianceもロードマップを1Tbitから400Gbpsへと引き下げた格好だ。
1レーンあたり速度は50Gbps、「P802.3bs」は400Gbpsがターゲットに
そのEthernet Allianceにおける2020年のロードマップが右だ。現時点では、1レーンあたりの速度はまだ50Gbpsで、これが100Gになるのが2021年あたり、Quadで400G、Octal以上を使えば2025年あたりには、1Tbit/sに到達するのではないかとの見通しとなっている。
ということで、話をP802.3bsに戻そう。最初のミーティングは2014年5月に開催されたが、既にIEEEの中では次のステップとして明確になっていたので、ターゲットは当然400Gbpsということになった。ちなみに、最初のミーティングの際に出た「現実的に可能な400G Ethernetの構成」というのが、以下のようになっている。
- CDXS(Extender sublayer)
xMIIを拡張したもので、400GのRawデータストリームのインターフェース。実際には、ここにFECやCodecを追加する必要がある - CDXI-n(Extender Interface)
2つのCDXS間のインターフェース。最後の-nはレーン数を示す - CDAUI-n(PMA Interface)
CAUIの400Gbps版
ちなみに10/100Gbpsでは、PCSで64B66B Codingが利用されていたが、この時点ではまだ400GbpsのCoding手法は未定だ。また10/10G0bpsでFECが必要な場合はPCSとPMAの間にFEC層が入る格好になっていたが、400Gbpsでは「FECが不要な組み合わせは存在しない」という見通しなのか、標準でPCSが入ることとなった。
これを利用すると、例えば16レーンの場合は右のようになる見通しだ。とはいえ、FECをどうするかはこの後検討されることになるし、EEE(Energy Efficient Ethernet)をどう実装するかもこの時点ではまだ未定だった。
さて、ここからP802.3bs Task Forceは積極的に仕様策定に取り組むことになったが、Draft 1.0がリリースされたのは2015年9月、続くDraft 2.0のリリースは2016年7月のことだった。Draft 1.0と2.0の間も10カ月とやや長めではあるのだが、それよりも2014年5月の最初のミーティングからDraft 1.0のリリースまで1年2カ月を要したことは、少し異例というか、仕様策定が難航したことが伺える。
実際Draft 1.0が出る直前である2015年7月で報告された採決結果を見てみると、12の議題の大半は明確に結果が出ているのだが、例えば「Straw Pall #9」(8x50G PAM4 WDMのサポート)は賛成43・反対37・棄権20だったほか、「Straw Pall #11」(4x100G PAM4 WDMのサポート)も賛成36・反対37・棄権31のように、なかなか微妙な案件もあった。
もちろん、こんな具合に揉めることも珍しくないのだが、たいていの場合は、揉める≒技術的に難易度が高い規格だったり、あるいは既に複数の技術が存在し、各々が自陣営の優位性をアピールしてお互いに譲らない、という話だったりするので、標準化に要する時間が長くかかりやすい傾向はあると思う。
P802.3bsはこのうち前者のパターンで、PAM4の採用は(IEEEとしては)これが最初ということもあり、いろいろ難航したのだと思われる。そして最終的にIEEE 802.3bs-2017で策定されたのは以下の7つの規格だ。それぞれについては次回以降にもう少し説明していきたい。
規格 | データ転送方式 | レーンあたり帯域 | ファイバー | 到達距離 |
200GBASE-DR4 | 26.5625G PAM4 | 50Gbps×4 | SMF×4対 | 500m以上 |
200GBASE-FR4 | 26.5625G PAM4 | 50Gbps×4 | SMF×1対(WDMを利用) | 2km以上 |
200GBASE-LR4 | 26.5625G PAM4 | 50Gbps×4 | SMF×1対(WDMを利用) | 10km以上 |
400GBASE-SR16 | 26.5625G NRZ | 25Gbps×16 | MFM×16対 | 100m以上 |
400GBASE-DR4 | 53.125G PAM4 | 100Gbps×4 | SMF×4対によるPSM4 | 500m以上 |
400GBASE-FR8 | 26.5625G PAM4 | 50Gbps×8 | SMF×1対(WDMを利用) | 2km以上 |
400GBASE-LR8 | 26.5625G PAM4 | 50Gbps×8 | SMF×1対(WDMを利用) | 10km以上 |
※PSM4(Parallel Single Mode 4-lane)
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