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1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

光ファイバーで200/400Gbpsを実現する「P802.3bs」

 さて、再び光Ethernet規格の話に戻ろう。「IEEE 802.3bm-2015」ではレーンあたり25Gbpsの100G Ethernetの策定がほぼ完了。さらにこれを1レーン単位にばらした「25GBASE-R」が「IEEE 802.3by-2016」として標準化され、その後継(?)として1レーンあたり50Gbpsに高速化し、「50GBASE-R/100GBASE-R2/200GBASE-R4」としたものについて、「IEEE 802.3cd-2018」としての標準化が完了している。また「25GBASE-LR/ER」に関しては「IEEE 802.3cc-2017」として標準化された。

 こうした規格策定と並行し、より高速な規格に関しても作業がスタートしていた。こちらでもちょっと触れているが、今回はその「P802.3bs」の話を。

 P802.3bsの正式名称は"IEEE P802.3bs 200Gb/s and 400Gb/s Ethernet Task Force"であり、200Gbpsおよび400Gbpsの標準化を行うグループである。その目的は以下のように明快で、200/400Gbpsを既存の光ファイバーで実現し、SMFで500m/2km/10km、MMFでも100mの到達距離を可能にしようというものだ。この話を始める前に、少し当時の業界の話をしたいと思う。

なぜか200GでMMF接続が入っていない。出典はP802.3bsのObjective

 こちらの回でも触れたが、Ethernet Allianceは定期的にロードマップを出している。2014年のものでは比較的楽観的だったものの、Ethernetの伸びはLog(対数)グラフになるとしており、2016~2017年に400Gbpsで、2020年でも800Gbpsあたりとしていた。

この後に多数の派生規格を生む状況が予想できない2014年の段階でのロードマップ。出典は"Ethernet Alliance Technology Roadmap"

1世代で10倍速は頭打ち、1Tbitは時期尚早で当面400G Ethernetへ注力

 これまでEthernetは、1Mbps→10Mbps→100Mbps→1Gbps→10Gbpsと、1世代進むごとに10倍速を実現してきていた。ただ、10Gbps→100Gbpsはかなり難航し、まず10Gbps×10、次いで25Gbps×4、50Gbps×2ときて、やっと最近(非公式ではあるが)100Gbps×1が実現可能な範疇に入ってきた程度である。

 要するに、「10倍ゲームはもう無理」と業界も理解して、もう少し現実的なところに着地点を探し求めた結果が、スピードダウンの要因である。

 実際、2012年7月に開催されたIEEE 802.3 Industry Connections Higher Speed Ethernet Consensus Ad HocのMeetingにおいて、そもそも100Gbpsもまだ問題が残っているとした上で、1Tbit Ethernetのビット単価は100Gまでと比べて間違いなく上がるし、仮に25Gをベースにしても40対の信号を通す必要があるとする。

これはまだ2012年の話なので、100Gが十分成熟した技術となっていないのは致し方ない(25Gbpsの光源やトランシーバーが安定して製造可能になったのは2014年頃からと記憶している)
こちらも2012年だから無茶なのであり、同じことを今やれば、100Gbps×10の構成が可能だ。ビット単価は100G Ethernetとほぼ同等になる

 仮に「100GBASE-LR4」をベースとした場合、何もしなければ40本のレーンが必要になる。だが、そこでPAM-4を使えば20本、PAM-16を使えば10本で構築できるわけなので、「代替案」としては有望という判断である。さらに強烈なのは、位相と振幅の両方で変調を掛けるという以下の方式だ。要するに携帯電話や無線LANで利用されている仕組みである。

実際にはPAM-4ですらヒーコラ言いながら実装していたわけで、PAM-16は猛烈に厳しい(というか、まぁ無理)だっただろう
携帯電話やWi-Fiでは、利用周波数帯はともかく、信号そのものは数十MHz~のオーダーで、Ethernetとは速度が2~3桁違うだけに、これはこれで技術的に難易度が相当高そうだ
「1Tbit/sは、向こう3~4年は『遠すぎた橋』(念のために書いておけば、マーケット・ガーデン作戦を描いた1977年公開の映画作品)状態である」。振り返れば3~4年どころではなかったが。ここまでの出典は"Thoughts on the practicality of Terabit Ethernet"

 ただ、位相変調を100Gbpsの速度で処理できるようにするには、当時のCMOS技術では厳しく、昨今の7nmや5nmであっても、果たして追いつくかどうかという問題があり、これはこれで難しいと見られた。

 そして結論として、1Tbit Ethernetはまだ時期尚早で、とりあえず400G Ethernetへ注力するのがベターというのが、このときの結論である。

 ちなみに、このIndustry Connections Higher Speed Ethernet Consensus Ad Hoc Meetingは、2012年7月~2013年2月までに5回のミーティングが開かれ、最終的な結論は「400Gbpsで行く」となった。これを受けるかたちで、Ethernet Allianceもロードマップを1Tbitから400Gbpsへと引き下げた格好だ。

1レーンあたり速度は50Gbps、「P802.3bs」は400Gbpsがターゲットに

昔のロードマップだと10Tbpsあたりまで記載されていたのだが、今のロードマップでは到達する時期は明示されていない。少なくとも2030年以前にはなさそうだ。出典はEthernet Alliance 2020 Roadmap

 そのEthernet Allianceにおける2020年のロードマップが右だ。現時点では、1レーンあたりの速度はまだ50Gbpsで、これが100Gになるのが2021年あたり、Quadで400G、Octal以上を使えば2025年あたりには、1Tbit/sに到達するのではないかとの見通しとなっている。

 ということで、話をP802.3bsに戻そう。最初のミーティングは2014年5月に開催されたが、既にIEEEの中では次のステップとして明確になっていたので、ターゲットは当然400Gbpsということになった。ちなみに、最初のミーティングの際に出た「現実的に可能な400G Ethernetの構成」というのが、以下のようになっている。

一番右は、Extenderをはさむかたちでの実装となる。出典は"A 400GbE Architectural Option"
  • CDXS(Extender sublayer)
    xMIIを拡張したもので、400GのRawデータストリームのインターフェース。実際には、ここにFECやCodecを追加する必要がある
  • CDXI-n(Extender Interface)
    2つのCDXS間のインターフェース。最後の-nはレーン数を示す
  • CDAUI-n(PMA Interface)
    CAUIの400Gbps版

 ちなみに10/100Gbpsでは、PCSで64B66B Codingが利用されていたが、この時点ではまだ400GbpsのCoding手法は未定だ。また10/10G0bpsでFECが必要な場合はPCSとPMAの間にFEC層が入る格好になっていたが、400Gbpsでは「FECが不要な組み合わせは存在しない」という見通しなのか、標準でPCSが入ることとなった。

FECの方式についても、まだ当然決まっていない。CDAUI-16ではおそらくFECが必要ないというのは、25Gbps×16を想定しているためだろう

 これを利用すると、例えば16レーンの場合は右のようになる見通しだ。とはいえ、FECをどうするかはこの後検討されることになるし、EEE(Energy Efficient Ethernet)をどう実装するかもこの時点ではまだ未定だった。

 さて、ここからP802.3bs Task Forceは積極的に仕様策定に取り組むことになったが、Draft 1.0がリリースされたのは2015年9月、続くDraft 2.0のリリースは2016年7月のことだった。Draft 1.0と2.0の間も10カ月とやや長めではあるのだが、それよりも2014年5月の最初のミーティングからDraft 1.0のリリースまで1年2カ月を要したことは、少し異例というか、仕様策定が難航したことが伺える。

 実際Draft 1.0が出る直前である2015年7月で報告された採決結果を見てみると、12の議題の大半は明確に結果が出ているのだが、例えば「Straw Pall #9」(8x50G PAM4 WDMのサポート)は賛成43・反対37・棄権20だったほか、「Straw Pall #11」(4x100G PAM4 WDMのサポート)も賛成36・反対37・棄権31のように、なかなか微妙な案件もあった。

 もちろん、こんな具合に揉めることも珍しくないのだが、たいていの場合は、揉める≒技術的に難易度が高い規格だったり、あるいは既に複数の技術が存在し、各々が自陣営の優位性をアピールしてお互いに譲らない、という話だったりするので、標準化に要する時間が長くかかりやすい傾向はあると思う。

 P802.3bsはこのうち前者のパターンで、PAM4の採用は(IEEEとしては)これが最初ということもあり、いろいろ難航したのだと思われる。そして最終的にIEEE 802.3bs-2017で策定されたのは以下の7つの規格だ。それぞれについては次回以降にもう少し説明していきたい。

規格データ転送方式レーンあたり帯域ファイバー到達距離
200GBASE-DR426.5625G PAM450Gbps×4SMF×4対500m以上
200GBASE-FR426.5625G PAM450Gbps×4SMF×1対(WDMを利用)2km以上
200GBASE-LR426.5625G PAM450Gbps×4SMF×1対(WDMを利用)10km以上
400GBASE-SR1626.5625G NRZ25Gbps×16MFM×16対100m以上
400GBASE-DR453.125G PAM4100Gbps×4SMF×4対によるPSM4500m以上
400GBASE-FR826.5625G PAM450Gbps×8SMF×1対(WDMを利用)2km以上
400GBASE-LR826.5625G PAM450Gbps×8SMF×1対(WDMを利用)10km以上

※PSM4(Parallel Single Mode 4-lane)

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/